※この作品はR-18です。

Fate/espoir sort   作:ニコール

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愛と薔薇

あの後カナエと俺は、ホテルの重厚な扉を背にして外に出た。

外の空気は少し穏やかで、陽射しが心地よ包み込む。

カナエはポケットからバイクのキーを取り出し、エンジンをかけると、エンジン音が駐車場に響いた。

 

「さぁ、行こうか」

「どこに行くんだ?」

 

俺は後ろに乗りながらカナエに尋ねる。

 

「君は日本は初めてだろ?まずは、ドライブがてら観光に行こうと思って」

 

 カナエは楽しげに答えながらバイクに跨り、滑るようにバイクを走らせた。

俺の心も高揚感で満たされていき、彼女の後ろで彼女の存在を感じながら、街の景色が流れていくのを楽しんだ。

 

「いくら聖杯で知識をある程度知っていても、実際に見るのでは違う」

 

俺は周囲を見渡しながら言った。

 

「百聞は一見に如かず、日本は四季折々の風景が見られて、もっと楽しめれるよ」

 

カナエは笑顔で返し、バイクを巧みに操り、繁華街を抜けていく。

ネオンの光がちらちらと目に飛び込んできて、まるで夢の中にいるような錯覚を覚える。

道の両側には、様々なショップや飲食店が立ち並び、観光客や地元の人々で賑わっていた。

 

カナエは信号待ちしながら、奥のほうに指を指した。

 

「次は、あそこに行ってみよう」

 

カナエが指さす先には、隅田川に架かる美しい橋が見え、さらにその奥の鉄塔に目がいった。

 

「確かに、あそこの鉄塔からの眺めは最高だろうな」

「スカイツリーのこと?」

「スカイツリー?」

「日本で一番高いタワーで、今じゃ東京のシンボルだよ…行ってみる?」

 

カナエはバイクを加速させたが、何かに気付いて橋の手前で一度停車した。

 

「おぉ!」

「この時期だからね」

 

墨田川の桜が満開に咲き誇り、淡いピンクの花びらが風に揺れて舞い上がる。

その姿はまるで春の妖精たちが舞踏会を開いているかのようだ。

川面には、桜の影が映り込み、青空とともに美しいコントラストを生み出し、水面は穏やかで、太陽の光を受けてキラキラと輝き、まるで宝石のように煌めいている。

快晴の空は澄み渡り、雲一つない青が広がり、そんな天気のおかげで、川沿いは人々で賑わっていた。

家族連れや友人同士が楽しそうに笑い合い、桜の下にはシートを広げてお弁当を食べる姿が見受けられる。

子供たちの歓声が響き渡り、時折、花びらが風に乗って舞い降りると、思わず手を伸ばしてキャッチしようとする。

周囲には、屋台の香ばしい匂いが漂い、焼きそばやたこ焼きの香りが食欲をそそる。

人々の笑い声や会話が交じり合い、まるで春の祭りのような活気に満ちている。

桜の花が散るたびに、周りの人たちがその美しさに見とれている姿が見られる。

まさに、春の訪れを祝うかのような、心温まる光景が広がっていた。

 

「いい天気なおかげで桜が美しく映えている、正しく祭りみたいなものだな」

「日本の四季の一つ、私も初めてみた時は感動したよ」

 

カナエは笑みを浮かべた。

その後、橋を渡りきり、スカイツリーへと向かう。

 

 10分もしないうちに目的地の駐輪場に到着した。

エンジンを切り、ヘルメットを脱ぐと、心地よい風が彼女の髪をなびかせた。

周囲には他のバイクや自転車が並んでいて、駐輪場は観光客で活気に満ちていた。

 

俺ら2人は、駐輪場をでて、東京のシンボルであるスカイツリーのふもとに立っていた。

遠くから見た時もそうだが、高くそびえるその姿は、まるで空に触れるかのように美しく、周囲の景色を一望できる場所へと誘っている。

 

「これはまるで、俺がかつて征服した要塞のようだ」

「でも、HAHA!ここには敵はいないよ。私たちはただ、上を目指すだけ」

 

カナエは微笑みながら返した。

 

受付でカナエはチケットを購入し、やっとのことでエレベーターに乗り込み、急速に最上階を目指し上昇する。

エレベーターの透明な壁越しに、東京の街がどんどん小さくなっていく様子を見ながら壮大さに息を呑んだ。

 

「こんなに高い場所から見る景色は、下から見るよりも違った美しさがある」

「この先、聖杯戦争が活発になれば、この綺麗な景色を観ることは暫く出来ないからね」

 

 エレベーターから降りて、カナエと並んで歩く今その瞬間、周囲の喧騒はまるで遠くの音楽のように感じられた。

硝子から入る太陽の光が彼女の笑顔を浴びた花のように輝かせ、心の奥深くに温かさをもたらした。

 

「…この瞬間が永遠に続けばいいのに」

「ん?なんか言った?」

「いやなんでも」

 

 今回の聖杯戦争の激しい戦いで、もし勝利を手に入れ、現世に受肉できたなら、争いから解放され、カナエの傍で静かな日常を送ることができるのだろう。

彼女が笑うたび、その声は心に響き、まるで自分の存在を確認しているかのように思えた。

ずっと一緒にいたいと彼女に対して願う気持ちが、胸の奥で大きく膨らんでいくのが分かる。

 

「さてそろそろ帰るか」

「どうした?まだいてもいいと思おうが」

 

俺が声をかけると、カナエは一瞬ニヤリと笑い、次の瞬間、ちょいちょいと俺の耳元まで近づいてきた。

その仕草は、まるで誰かに聞かれないように秘密を打ち明けるかのようだった。

 

「いても良いが、ちょっと厄介な輩が紛れてる」

 

カナエは小声で囁く。

彼女の声は、緊張感を含んでいたが、どこか少し楽しそうな表情をした。

 

「血の気の多い奴らだ…こんな一般人の中で殺気を立たせてるとは…笑わせる」

 

まるでカナエの周囲の空気が、一変したかのように感じ、俺は瞬間に背筋に冷たいものが走る。

周囲を確認すれば、微かに漂う魔力と、まるで生き物のように動く殺気を感じた。

人混みの中で、何かがこちらを狙っており、ナエの言葉が真実であることを、俺はすぐに理解した。

 

「どうする?」

「なぁーに、慌てることはないさ、魔術師はできるだけ大事にしない事が鉄則、こんな人混みの中で仕掛けるやつは、余っ程の馬鹿だ。まぁ、流石に一般人を巻き込むのは行けないからね、人が居ない場所に移そうか。アーチャー、君は何時でも戦えるようにしといて」

「oui maître」

 

視線を周囲に移すと、影の中に潜む存在がちらちらと見え隠れしている。

人混みの隙間からチラホラ、冷たい光が反射する。

まるで、目に見えない敵が俺たちを観察しているかのようだった。心臓が高鳴り、緊張が体中に広がる。

しかし、カナエはそれをも恐れることはなく、平然としながらその場を離れ、スカイツリーを出ることにした。

 

「maître、どれくらいの数がいる?」

 

周囲に悟られように小声でカナエに尋ねた。

 

「少なくとも三人。魔力の感じからして、かなり手強い相手……いや」

 

カナエ表情は一瞬硬くなり、しかしすぐに冷静さを取り戻し答えた。

 

「一人だけ化け物がいる」

「化け物?」

「あとの2人は何とかなるが…気を抜くと危ない…本気でいくよ」

 

カナエの言葉には、戦う覚悟が込められていた。

俺は深呼吸し、心を落ち着ける。

 

「ならばmaîtreならどうする?」

「私なら、奴らを見つけて先手を打つ」

「同感だ」

 

 

カナエは目に鋭い決意を宿しながらヘルメットを被り、バイクにまたがった。

人気のない道を選び、バイクを疾走させる。

 

後ろからは、同じように誰かがついてきているのがわかる。

カナエの横にまとわりつく殺気と強い魔力――これはただの追跡ではない。

カナエもそれを観察しているのだろう。

 

 廃ビルに入ると、カナエはバイクを止めた。

カナエはヘルメットを外し、周囲に目を向ける。彼女はすでに敵の存在を感じているようだ。

 

「いい加減隠れてないで出てきなよ、こっちまで殺気飛ばしてバレてるんだよ」

「これは、お初にお目にかかります。砂鉄の狼……いや、カナエ・ルーヴ嬢」

 

暗闇から姿を現した男は不気味な笑みを浮かべながら、カナエの名前を呼んだ。

その男は神父の恰好をしているが、神父に似合わず物凄い殺気が立っているのが分かる。

 

「その恰好、聖堂教会の人か?」

 

カナエは眉をひそめ、警戒しながら男をを睨みつけた。

聖堂教会――魔術師にとって一番会いたくない上、敵に回れば、ただの敵では済まされない相手だ。

 

 「ええ、私は灰禅枢(はいぜんかなめ)と言います、以後お見知りおきを」

 「まさか、魔術…人間離れした存在を排斥、聖杯の監視者でもある聖堂教会も、聖杯戦争に参加してるとは、私を殺しにきたか?」

「ふふ、さすがは冠位の魔術師、察しがいいですね。ええ、私はあなたを殺しに来ました」

 

男は一歩前に踏み出しながら、喋り続けた。

 

「この聖杯戦争で冠位の魔術師は四人参加しているが、その中であなたが一番厄介なんですよ」

「まぁ、大体は予想はつくが…」

 

カナエは少し唇を嚙むように口元を歪めた。

目の前の男が、聖杯戦争に参加してるだけでただの聖職者でないことは明白だ。

 

「ええ、そういうことです。神代から続くフェンリルの心臓、今この世界で唯一の黒魔術、それを操る貴女は既に人間を・・・・」

 

ドォン!

 

男の言葉を言いきる前に、カナエはすでに手を動かし、砂鉄を動かしていた。

 

「その手の話は、もう聞き飽きたんだよ」

「ふふふ…、いいですね…その鋭い眼光、誰にも負けるわけにはいかないその顔。破壊してやりたい」

 

男は不敵な笑みを見せた、次の瞬間、暗闇から一斉にクナイが飛んできた。

 

 「maître!!」

 

俺は瞬時に実体化し、大砲を召喚しながら、カナエを庇うように前に出た。

重厚な砲身が光を反射し、周囲の緊張感を一層増幅させる。

クナイが飛来する中、俺はその大砲を構え、迫りくるクナイを一発、また一発と防ぎ続けた。

 

「無事か?maître」

「私なら大丈夫だ、君は?」

 

カナエの声が不安そうに響く。

彼女の目には心配が浮かんでいるが、俺はその視線を受け止め、微笑みを返す。

 

「大丈夫だ心配ない」

 

 安堵するのもつかの間だった。

 

「その大砲、アーチャーと御見受けする」

 

青年とは少し幼い声がし、枢の背後から一人の男が現れた。

彼は和風の装束を纏い、まるで忍者のような姿勢で立っている。

赤い髪、前髪で上半分覆われているが、冷静さが伺え、鋭い目つきが周囲を警戒している。

 

「そういう、闇討ちするお前はアサシンか?」

「いかにも、貴殿の動きからして、かなりの手練れとみた、その首貰い受ける!」

 

俺の言葉に、男はクナイを持ち替えて、俺に一気に詰め攻めってきった。

 

二人のやり取りを見ていたカナエは、少し不服そうな表情を浮かべているが、深呼吸を一つして心を落ち着けた。

 

「あーやっぱり、さっきの一撃で仕留めるのは難しいか」

 

彼女の声には、どこか悔しさが滲んでいる。

 

「はは、そんな残念そうにしないでください。夜は長いですから、ゆっくりと楽しみましょうか!」

 

短剣を袖口からだしながら、枢は軽やかな口調で返すが、その表情は相も変わらず殺意にあふれてる。

 

枢が静かに足を踏み出し、カナエを睨みつけていた彼の目、一瞬鋭い光を宿し、次の瞬間にはカナエとの距離が一気に縮まった。

 

「速い――!」

 

カナエが反応するよりも早く、枢の動きはほぼ瞬時に移動したような速さだった。

それも、ほんの一瞬だ。

カナエはその殺意を観察し、瞬時に砂鉄を操り防御の姿勢を取った。

彼女の周囲から、砂鉄が彼女を守るように集まり、黒い壁を作っている。

枢の短剣の切っ先が砂鉄の防御壁に遭遇した瞬間、その黒い壁が枢を返す。

カナエの砂鉄は、枢を力任せに弾き飛ばしたのだ。

 

「フェンリルの心臓を守る絶対防御、剝がしたくなる!」

 

短剣とカナエの砂鉄と激しくぶつかり合う瞬間、金属音が響き渡り、短剣の刃が砂鉄の粒子に触れるたび、まるで小さな爆発のように火花が散り、暗闇の中で一瞬の閃光を放つ。

砂鉄は黒い霧のように舞い上がり、短剣の鋭さと相まって、まるで流星群が夜空を駆け抜けるかのような美しさを見せる。

火花が飛び散るたびに、周囲の影が揺らぎ、まるで戦いの舞台が生きているかのように感じられた。

 

カナエは集中した表情で砂鉄を操り、その力を最大限に引き出している。

彼女の手の動きに合わせて、砂鉄は形を変え、敵の攻撃を受け止めたり、反撃の準備を整えたりする。

短剣と砂鉄の激しい衝突は、まるで二つの力が互いに引き寄せ合い、壮絶な戦いを繰り広げていた。

 

一方、俺たちの方は。

 

「まだまだぁ!」

「・・・・・」

 

俺の大砲がアサシンのクナイと激しくぶつかり、金属音が響き渡る。

衝撃が走り、火花が散り、周囲の暗闇を一瞬照らし出した。

大砲の重厚な砲身が振動し、反響する音が耳に残るも、アサシンはその攻撃を止めることなく、次々とクナイを繰り出してくる。

アサシンの動きはまるで影のように素早く、まったく隙がなく、彼の腕には並々ならぬ力が込められ、まるで一瞬の隙を突こうとするかのような緊張感が漂っていた。

 

「アーチャーにしては結構俊敏に動けるんだな」

「そりゃ、好いたmaîtreの前で不格好な姿はみせられないさ」

 

アサシンの素早さと圧力に押され、俺は後ろに押し戻され、互いの力で地面が揺れ、足元が不安定になる。

アサシンの目は鋭く、冷静さを失わずに次の攻撃を狙っており、彼の動きは流れるようで、まるで舞踏のように美しく、その中には確かな殺意が宿っている。

俺は態勢を立て直し、大砲をしっかりと構え、反撃のタイミングを計る。

アサシンの攻撃が続く中、火花が散るたびに、俺の心臓も高鳴り、戦いの熱が体中を駆け巡るが、次の瞬間。

 

バッシュ!!

 

肉が鋭い刃物に切られる音が、静寂を破って響き渡る。

その音は、まるで空気を裂くような鋭さで、耳に刺さり、音の方向を向けば目の前に広がったのは、信じられない光景だった。

 

「maître!!」

 

 ガッ!

 

「くっ!」

 

アサシンを力強く、何とか押しのけたが間に合わず、カナエの首が、血しぶきと共に宙を舞い、ゆっくりと地面へと落ちる。

 

枢の短剣が、カナエの首を切り裂いたのだ。

 

すぐに彼女のそばへ駆け寄ると、彼女の表情は普段と変わらなく、その目はまだ生き生きと輝き、鮮血が噴き出し、周囲を赤く染め上げた。

サーヴァントがマスターを失えばどうなるかは理解しているが、そんなことよりも俺は目の前の男に対して、今までにない感情が溢れてきた。

 

「冠位っていっても、所詮…実戦での実力不足。あなたは力で認められたのではない、あなたの中にある心臓のおかげで認められた哀れな女!!この神聖なる破壊(セイクリッド)は、あなたの力を封じる為に特別に用意したもの、貴女の砂鉄の力を徐々に無力化する魔道具」

 

枢は厭らしく笑いながら俺に近づいてくる。

 

「さて、君はマスターを失いました。サーヴァントがマスターを失えばどうなるか理解してるでしょう?」

「だからなんだ」

「そこで提案です、君は十分に強いです。どうです?私のサーヴァントになりませんか?」

 

枢は、まるで何も問題がないかのように、余裕の表情を浮かべていた。

枢の目は冷たく、口元の微笑みが偽りだと分かる。

 

しかしその姿は、まるで全てを見透かしているかのように感じられた。

しかし、枢の安易な提案は、俺の心には何の響かず、今の俺には、この男に対しての憎悪が身体中を埋め尽くしていた。

 

「fermez-la…、俺は今お前の話に興味がない、死にたくなけりゃそこをどきな」

「なら、交渉決裂だな。やれ、アサシン」

「はい、マスター」

 

アサシンが俺の首を狙い、鋭いクナイを振り下ろす瞬間、その場の空気が一変した。

突如として異様な赤黒い光が、アサシンの邪魔をしたのだ。

 

「なんだ!!」

「こ、これは…?」

 

たちまち、その赤黒い光はカナエの首と身体を包み込んだ。

それはまるで薔薇の蕾のような形をし、次の瞬間、切られたはずのカナエが、まるで闇の中から呼び覚まされたかのように復活した。

 

「まさか、そんな有り得るか!!首を落としたんだぞ!!」

 

赤黒い光が薔薇の花びらの様に散り、月明かりに照らされながらも、彼女の黒い髪が風になびき、金色の瞳が獲物を狩る狼そのものだった。

枢はその光景を受け入れ難いのか、冷静さが崩れ、厭らしい笑みが消え去り、目の前の状況が予想外の展開を迎えた事に、枢の表情は揺らぎ、彼の目が不安に揺れた。

 

「ねぇ、君枢って言ったけ?君、私が今まで何回殺されたか知ってる?」

「な、なにを急に」

「15回…君と同じ聖堂教会に殺られたんだよ、あれ?まさか聞かされてない?」

「なっ…」

「それもそうだよね、あの聖職者ならこの事も隠してるだろうし」

「何をごちゃごちゃと、宝具解放してもかまわない、やれアサシン!」 

 

枢の声が響き渡り、アサシンは一瞬でカナエに向かって駆け出した。

アサシンの動きはみるみる早くなり、まるで影分身かのようにアサシンが増え、カナエと俺を素早く取り囲む。

 

「アーチャー」

「maître…大丈夫なのか?」

「私は大丈夫だよ、君は戦えるかい?」

 

アサシンの攻撃が迫る中、彼女は俺の前に立ち、彼女の瞳は俺を捉えた。

その瞳は一人の女性の瞳ではなく、それはマスターとして、いや、それはもう相手を喰い殺すかのような瞳だ。

そんなカナエの問いに、俺は身体中から溢れ出した憎悪が一瞬にして消え去り、再び彼女の前に素早く立った。

 

「もちろんだぜ!maître!」

 

俺は、今この状況で冷静さを保ちながら、大砲を構え直した。

足元はしっかりと地面を捉え、脚が崩れることなく、力強く踏み込むんだ。

大砲は自身の意志に応えるかのように、金属の表面が微かに輝き、瞬時に形を変えていく。

砲身が伸び、回転し、暗闇の中、アサシンの影が素早く動くが、アサシンに照準を外すことなく合わせた。

 

「宝具解放をしろアーチャー!!」

「させるか!!不滅の混沌旅団(イモータル・カオス・ブリゲイド)!!」

 

 心の中で決意を固める。俺の手は確かな感触を持ち、胸の高鳴りに引き金にかかる指先が震えた。

大砲の内部で火薬が静かに燃え上がり、圧力が高まるにつれて、周囲の空気が緊張感に包まれていく。

まるで時間が止まったかのような瞬間、砲口が虹色のように輝きだし、全てが一つの焦点に収束していく。

 

「撃て!!」

「虹よ、虹よ!今、可能性の橋を掛けろ!空を往け!|凱旋を高らかに告げる《アルク・ドゥ・トリオンフ・ドゥ・レトワール》!!」

 

カナエの声が響き渡り、俺はこの戦いを勝つ為に渾身一発を放った。

 

「なっ!そんな!?」

 

虹の光がアサシンの影分身を打ち消し、宝具を受けたアサシンが地面に倒れ、明らかに霊基が破壊されており、今でも消えそうになっていた。

それを見た枢はこの状況に言葉が出ず、カナエの恐ろしさに表情が血が引いたような表情をした。

 

「さて、この世の中にはこんな言葉がある。目には目を歯には歯を」

「な、何を言って」

「君は、私の首を切り裂いた…この意味、君なら分かるだろ?」

「や、やめろ…」

 

カナエが砂鉄で刀を作り出し、枢の首に刀の刃を当て、一気に切り落とそうとした瞬間。

 

「やめろカナエ!!」

 

咄嗟にカナエの手首を横から止めていた。

 

「何故止めるんだい」

「コイツはもう、戦意喪失してる。これ以上はしなくてもいいだろ」

「…………分かった」

 

 カナエの刀は枢の首に触れることはなかった。

彼女は俺の手を振り払い、枢を置いてその場を後にした。

 

カナエと俺は会話なく、無言でひたすらバイクを走らせ、気付けば邸に着き、バイクをガレージに直した。

薄暗いガレージの中、静寂が俺とカナエを包み込んでいた。

 

 「どうした?そんな真剣な顔をして」

 

カナエは先程の表情とは違い、軽く微笑みながら問いかけた。

 

 「なぁ、maîtreは聖杯戦争で何を望む?」

 

カナエは俺の問いに、視線を床に落としながら、心の奥に秘めた思いを吐露しようとしていた。

 

 「…私は聖杯戦争に勝って、お父さんを生き返らせたい」

 「…それは人を殺してもか?」

 

俺は、カナエの真剣な表情を見つめ、彼女の心の内を読み取ろうとする。

カナエは、心の中で何かを決意したかのように深呼吸をした。

 

「あぁ、私の願望の為なら人をも殺す」

 

その瞳には強い意志が宿っていた。

俺は少し考え込み、彼女の期待に応えようとしたが、言葉が見つからなくて、別の感情で自身の心に重いものがのしかかる。

カナエの言葉には、悲しみと切望が交じり合い、過去の苦しみを抱え苦しんでいるようにも見えた。

 

「駄目だ」

「さっきもそうだったが、何故君が止める」

 

ナポレオンは彼女の言葉に心を痛め、慎重に口を開く。

 

「カナエ、お前にはこれ以上人を殺してほしくはない」

「私の願望の邪魔をする奴を殺すのに、君が止める必要はない!」

「必要とか不必要とかじゃない、好いた女が目の前で人を殺すのを止めるのは当たり前だろ!」

 

俺の問いかけに、カナエは一瞬硬直した。

 

「俺を助けた時の瞳はどうした?あれはただ、俺を守ろうとした瞳だったぞ、今の自分の顔を鏡で見てみろ、お前のその復讐の表情で、その苦しみの感情で、聖杯戦争に勝って、お前の願望が叶えたとして、生き返った父親が喜ぶか?」

「………」

 

カナエはバイクのサイドミラーに映る自身の表情をみて、自身の心の中で、復讐と葛藤、揺れ動く感情が渦巻いているのが伝わってきた。

 

「じゃ、どうすればいい…この復讐心とこの苦しみをどこにぶつければいい!!」

「……はぁ、俺がいるだろ」

「何を馬鹿な……」

「馬鹿ではない、お前なら知ってるだろ?俺は他でもない不可能を可能にする男だ。お前の願望も全て叶えてやる。だから、カナエ、お前は1人じゃない。なんなら、俺はお前のサーヴァントなんだぜ?相棒」

「……」

 

カナエは涙を溢れ頬を伝うも、静かに頷き、目を閉じて思いを巡らせる。

それはまるで復讐など、何も囚われることなく、カナエとしての感情が溢れ出ていた。

 

「ありがとう、ナポレオン。そうだね、君はあのフランスの英雄…。私はそのマスター…ナポレオン、この聖杯戦争は絶望に勝つぞ」

 

カナエは力強く答えた。

その言葉には、彼女の決意が込められ、彼女の目は、希望と覚悟で燃えていた。

 

俺はそんなカナエの手を優しく握りしめた。

 

「ちょ、な、ナポレオン!?」

「1度しか言わない…聞いてくれ」

「な、なに急に」

 

この先、恐らく今日以上の戦いが起こりえる。

互いに戦いに身を投じる仲、死ぬつもりはさらさらないが、今この瞬間にカナエに伝えないといけないと思ってしまった。

 

「俺はこの聖杯戦争に勝ったら、受肉しお前と結婚したい。それが、聖杯に掛ける俺の願望だ」

「なっ!?//」

「お前が俺の事、どう思ってるかは分からない。だが、お前は佳い女だ。お前の気持ちを俺に振り向かせたいくらいに、俺はお前の事が好きだ」

「ちょ…まっ…」

 

急な俺の言葉にカナエはみるみると、熟したトマトの様に赤くなり、恥ずかしさからか、口をパクパクしている。

 

「で?お前の気持ちは?」

「わ、私?……私は……その……」

 

カナエはモジモジするも、一呼吸置いて、俺の方をちゃんと見つめ答えた。

 

「……私も君のことが好きだ」

 

カナエは俺に向かって微笑み、少し手を強く握りしめた。

 

「それにだ、私、君と一緒ならどんな困難も乗り越えられる気がする」

 

カナエの言葉に胸が熱くなり、彼女の目をじっと見つめ返した。

 

「俺もだ。お前と共にいる限り、どんな運命が待ち受けていても、絶対にお前に勝利をもたらそう。そして、共に生きていこう」

 

カナエの手の温もりが心に響き、互いの絆が深まった。

お互いに、聖杯戦争に挑む決意を新たにし、運命の歯車が回り始めるのを感じていた。

そして聖杯戦争は、ただの勝利を目指すものではなく、互いの思いを支え合うためのものでもあった。

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