※この作品はR-18です。

Fate/espoir sort   作:ニコール

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機械の心を持つ旅列車 2

カナエと一緒に乗った機械の心を持つ旅列車(タクシディカルディアス)。

魔術協会は魔術による技術の発展の為、機械の心を持つ旅列車には、余っ程の事がない限り、協会による関与は許されていない。

筈だった…。

 

「おや、見た事がある姿があるなと思えば…。君だったか、カナエ・ジーヴ」

 

一つの女性の声が、カナエを呼んだ。

 

「げっ…蒼崎橙子」

 

蒼崎橙子と呼ばれた女は、まるで夕焼けのような赤寄りの橙色の髪を持っていた。

その髪は、柔らかな光を受けて、まるで燃えるように輝いている。

彼女の顔立ちは整っており、特に大きな縁が太い眼鏡が印象的で、知的な雰囲気を醸し出していた。

眼鏡の奥に隠れた青い瞳は、深い思索を秘めたような色合いで、俺も引き込まれそうになったが、カナエがそれを止めた。

 

「おいこら、橙子。私の大事な従者に魔眼を使おうとするな」

「はは、相変わらずお前は気が強い。でも、お前のそうゆう所も嫌いではないよ。さて、隣の席いいかな?」

 

彼女が身にまとった橙色のコートは、シャンデリアの光によって色を際立た。

コートのデザインはシンプルながらも洗練されており、彼女のスタイルを一層引き立てており、彼女の存在感は一層強まる。

橙子はバーテンダーに注文し、カナエの隣の席に座った。

 

「それにしても従者としてコイツを乗せてるとは、お前も中々面白い事をするな」

「仕方ないだろ、今はアレの最中だ。安易には言えんよ」

「それもそうだな」

 

橙子の立ち居振る舞いには、自信と落ち着きが漂っていた。

彼女の姿は、まるで大人の女性の余裕を感じさせ、周囲の視線を惹きつけてやまない。

どこか神秘的でありながら、認めた奴しか許さない。

まさに人々を魅了する存在だった。

 

「で、事務所に引きこもりがちな君が何故この列車に?」

「本来、私はこの列車には乗らないのだが。ちょっと、近所のパチンコ屋がね改装中で、煙草代と事務所の従業員の金を稼がないといけなくなった」

「てことは、今回は君の作品がでるのか。冠位の人形師が、まともに働かないで何をやってるのやら」

「それはお前も同じだろう?黒の技術師」

 

黒。

それはカナエが魔術協会から与えられた称号だ。

彼女は技術師としても魔術協会には名を馳せらており、技術師の間で彼女の2つ名『黒の砂鉄使い(ブラックアイアン)』を知らない奴は居ないらしい。

 

「生憎、私は君と違い月1の依頼でも生活には困らない依頼料が入る。それにだ、私は今回のオークションには出品はしない」

「そうか、私はお前の作品は結構気に入ってるんだがね。君が出品するなら落としたかったんだが」

 

橙子は少し残念そうにし、運んできたバーテンダーからウィスキーを受け取った。

 

「そんなお前の今回の目当ては?」

「今回の目玉。神代に生まれたアーテイファクト、賢者の歯車(ワインズギア)」

「完全なる永久機関が作れる歯車。今回、私が出品者じゃなければ欲しい物だな」

 

オークション会場は、緊張感と期待感が入り混じる独特の雰囲気に包まれていた。

照明が柔らかく灯る中、橙子が欲しいと言った、一つのアイテム「賢者の歯車(ワインズギア)」と呼ばれる、アーティファクトをここに居る参加者全員が欲しているのを、カナエは察していた。

だが、カナエは周りの欲に怯える様子はなく、周囲の様子を伺っていながら、橙子との会話を続けた。

 

名を馳せらせている二人の技術の匠が、ウィスキーのグラスを傾けながら静かに会話を交わしている姿が参加者の目に入った。

二人の間には、ただならぬ緊張感が漂い、周りの参加者たちはその様子にざわめき立つ。

誰もが彼女らの言葉を盗み聞きしたいと思いながらも、同時にその神秘的な存在感に圧倒されていた。

 

ガララッ…。

 

彼女らの会話を切るかのように、突然奥の扉が静かに開き、駅員の制服を着た男が姿を現した。

男の登場は、まるで静寂をもたらすかのように、会場のざわめきを一瞬で鎮めた。

男は赤い瞳で、人間にしては肌白く、無表情表情。

男は参加者たちに向かって一礼し、オークションの進行を告げる。

彼の声は低く、落ち着き、車内を声で響き渡らせた。

 

「皆様、今回のオークションに参加して頂き心より感謝を申し上げます。例年通り主催者に代わり、このゾルディアが今回のオークションの進行をさせて頂きます。さて、今回のオークション日程は、1日目は作品のお披露目。2日目は材料のお披露目。3日目の朝にはイギリスにて燃料の補給し、夜に作品オークションをします。4日目の夜に材料のオークションをし、5日目の朝に日本に着く予定になっております。勿論、参加者様達には、退屈させぬ様に最高のおもてなしをするおつもりですが、中にはルールを守らない野蛮な参加者様がいる時もあります。その時は、こちらで対処しますので、ご報告をよろしくお願い致します。それでは、良いお旅を」

 

男は再び一礼をしフロントを後にしたら、1人の女が入ってきた。

 

「それでは、参加者様全員の招待状の確認をしますので、招待状を机にだし、見えるようにしてください」

 

女は素早くテキパキと招待状を確認し回れば、あっという間に確認は終わった。

 

「さて、カナエ。私はそろそろ部屋に行くとするよ」

「はいはい」

「そうだ、時計塔の旧友として警告するが、この列車に聖杯戦争の参加者が居る」

「言われなくても、既に感知はしている。流石にこの列車の中で仕掛けてくる馬鹿ではないだろう?」

「それはどうかな?必ずしも騒ぎ立つような仕掛けが全てではい。お前は時計塔の頃から、案外抜けてるところがあるからな」

「…分かった…警告ありがとう。気を付けるよ」

 

橙子の言葉にカナエは少し険しい表情をし、橙子はその場を後にした。

 

「maître、あの女と仲良いんだな」

「仲が良いというか、あいつとは同じ作る者として、腐れ縁みたいなものだよ」

 

カナエが語るには、蒼崎橙子は時計塔からの旧友。

彼女たちは同じ学科に所属していたこともあり、何故か橙子に懐かれたという。

カナエの話によれば、当時の橙子は技術者というよりも、むしろ研究者のような雰囲気を持っていた。

彼女は昔から周りの生徒や先生からは「変わり者」と呼ばれることが多く、周囲の人々とは一線を画す存在だった。

 

橙子の事を「自分が好いている奴じゃなきゃ、他人に興味を示さなかった」とカナエは言った。

その言葉には、橙子の独特な性格が色濃く反映されている。

彼女は特定の人間に対してだけ心を開くような、人物だったのだろう。

そして、最終的には『お前の身体を人形にしたい』とカナエに告げるほど、彼女のお気に入りになったらしい。

 

「さて、私らも部屋に行こうか」

 

カナエが微笑みながら言えば、その声はどこか期待が混じっている。

俺は頷き、受付カウンターへ向かう。

カウンターで鍵を受け取り、フロントを後にした。

 

廊下を進むと、部屋の扉が見えてきた。

扉を開けると、目の前に広がる光景に息を呑む。

部屋は落ち着いた色調でまとめられ、壁には古びた書棚が並び、さまざまな本がぎっしりと詰まっている。車窓から差し込む柔らかな光が、部屋全体を優しく包み込んでいた。

 

「スイートルームなのもあって、中々良い部屋だ」

 

カナエは荷物を整理し終え、クローゼットにしまった後、リラックスした表情でソファに腰を下ろした。

彼女の目は賢者の歯車に思いを馳せるかのように輝いており、まるで玩具を楽しみに待ってる子どもの様子だった。

 

「maître」

 

その様子のカナエが可愛いくて、興味本位でカナエを呼びかけた。

 

「なに?」

 

カナエは我に返り、呼び掛けに応じた。

 

「賢者の歯車を使って何を作るだ?」

「足だよ」

 

カナエは答え、セカンドバッグから大きな筒を取り出し、筒の中から紙を取り出した。

それを机に広げると、そこには詳細に義足の設計図が描かれていた。

 

「足?足って…人のか?」

 

机に広げられた設計図は、白い紙の上に精緻な線で描かれていた。

義足の各部分が詳細に示されており、関節の動きや構造が明確に表現されている。

上部には、足首の可動域を示す矢印が描かれ、その周囲には動力源等の配置が細かく記されていた。

義足の外装には、ルーン文字が描かれており、普通の義足では無い事がひと目で分かり、各部品の寸法や材料の種類、組み立て手順も丁寧に書き込まれ、魔術工学的な計算式や注釈が所々に見受けられた。

 

「そう、あぁ。それも、魔術師専用の義足だよ」

 

カナエは頷き、彼女の声や目は、技術者としての情熱に燃えていた。

 

だが、一つだけ疑問があった。

カナエには義足は必要ない、ましては大金はたいてまで作る義足。

不思議に思い、再び彼女に聞いてみた。

 

「だが、maîtreは義足は必要ないだろ?依頼か?」

「いや、依頼ではないよ。昨日会った、黒江を覚えてるかい?」

「あー、あのお嬢さんか。もちろん覚えてるが、あのお嬢さんと関係あるのか?」

「実は、あの子、両足義足なんだよ。今は普通の医療用の義足を使ってはいるが、聖杯戦争に参加するなら、普通の義足だと、戦闘になれば壊れかねない。この聖杯戦争に勝つには、この義足とあの子の魔術が必要だ」

「……」

 

俺は一瞬沈黙し、設計図をじっと見つめ、彼女の思考が巡る音が聞こえてくるようだ。

カナエにとっては妹分な黒江をサポートしたいのが伝わってくる。

 

カナエは、目を輝かせながら自信満々に話を続けた。

「それでだ、今回狙ってる賢者の歯車は、その義足の動力に使う。賢者の歯車は一つでもあれば、強力な攻撃じゃなきゃ、永久に壊れない義足ができる。」

 

俺は少し考え込んだ。

 

「しかし、義足は両足で一つだ。もう片方はどうする?」

 

カナエは微笑みながら、まるでその質問が予想外だったかのように答えた。

 

「そこは、私が完全再現させる」

 

その言葉には、彼女の魔術師としての誇りが感じられた。

完全再現。

魔術や神器を模倣することができ魔術の中でも、特に難易度が高い技術だ。

完全再現を成し遂げられる魔術師はごく一部で、その中でもカナエは際立っていた。

彼女は唯一、オリジナルに九〇%近くまで近づけることができるのだ。

それは単なる才能だけではなく、長年の努力と技術の賜物であることを俺は知っていた。

 

「それで、あのお嬢ちゃんに、義足をプレゼントするのか?」

 

俺は興味津々で尋ねれば、カナエは頷きながら、目を輝かせた。

 

「まぁ、誕生日が近いからね。丁度いいんだよ」

 

その言葉には、彼女の優しさと、特別な贈り物をすることへの期待が込められていた。

彼女の心の中にある思いが、まるで温かい光のように感じられた。

 

「さて、そろそろ作品がお披露目される頃だ。アーチャー、君はどうする?私と見に行く?それとも、ここにいるかい?」

「俺も一緒に行く」

 

俺はカナエと一緒に部屋を後にし、廊下を歩き出した。

薄暗い照明が二人の影を長く伸ばし、静かな足音だけが響く。

カナエは少し前を歩き、俺はカナエの背後を守るように歩く。

会場に近づくにつれ、周囲の雰囲気が変わっていく。華やかな装飾が施された壁、色とりどりの花が飾られたテーブル、そして遠くから聞こえる笑い声や話し声。

 

「結構賑わってるな」

「今回は橙子が出品してるからね、アイツのオートマタは、護身用やらなんやらで高値で売れる」

 

会場の扉が目の前に迫り、俺たちは立ち止まった。

中から漏れ出る明るい光と音が、まるで俺たちを呼び寄せているようだった。

カナエは深呼吸をし、扉をゆっくり開け、俺もそれに続く様に入っていった。

 

会場はまるで夢の中に迷い込んだかのような、きらびやかさに満ちていた。

天井からは色とりどりのシャンデリアが吊り下げられ、柔らかな光が周囲を包み込んでいる。

壁には豪華なタペストリーが掛かり、魔術師たちの力を感じさせる精巧なデザインが施されていた。

 

中央には、魔術師達が作り上げたオートマタが展示されている。

その姿は、まるで生きているかのようなデザインで、観客の視線を引きつけてやまない。

金色に輝く装飾や、細部までこだわったデザインは、まさに魔術作品だ。

オートマタは様々な形なのがあり、人型、動物等。

中にはどちらとも言えない形、見る者によっては夢のような感覚を与える。

 

各作品の周りには、作品を欲する人々が集まり、目を輝かせている。

彼らの表情には期待と興奮が溢れ、熱心にオートマタの動きを眺めたり、互いに感想を語り合ったりしている。

会場の雰囲気はまさに祭典そのもので、訪れる者すべてがその魅力に引き込まれていた。

 

そんな一角に、一際目立つオートマタがある。

実際の人間の様な作りをしており、オートマタ特有の関節がなく、オートマタだと言わなければ分からないくらい、人間をという存在を追求した作品だ。

 

「人間そのものな作品だな」

「橙子の作品だよ」

「あの美人さんが作ったのか」

「あぁ、見てもわかる。アイツ以外で、ここまで人間と変わらないモノを作れる奴はいない。それにだ、アイツが何故冠位人形師と呼ばれているのか、この作品の中全てに入っている」

 

カナエは橙子の作品を見て、少しだけ悔しそうな表情を浮かべた。

同じ創作者としての感情ならば、当然の反応だ。

しかし、カナエが橙子の『自分と何一つ変わらない人形』を目にした瞬間に、橙子には人形に関しては叶わないと悟ったようだった。

 

「人形にはアイツには負けるけど、魔道具なら負けないさ」

 

カナエは橙橙子の技術が自分の限界を超えていることを認識しつつも、自分が得意とするものをカナエは知っていたからだ。

 

そんなやり取りをしていると、背後から男の声が呼びかけてきた。

 

「おー!まさかこんな所で、お見えになられるとは。黒の技術士ルーヴ嬢」

 

突然の訪問者に振り返ると、そこには体格や身長が俺と同じくらいの男が立っていた。

黒のスーツがよく似合い、銀髪で見た目はやや中年寄りだ。

彼の風貌はどこか落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

 

「…すみません、あなたは?」

 

カナエは男のことを知らず、申し訳なさそうに尋ねた。

 

「これは失礼。私は、ヨゼフ・カルマーニュと申します」

 

彼は名乗った。

その声には自信があり、どこか威厳を感じさせるものがあった。

 

「カナエ・ルーヴです。こちらは弟子のレオです」

 

カナエが続けると、ヨゼフは興味深そうに視線をこちらに向けた。

 

「噂は聞いております、あの黒の技術士が弟子をとったと…」

 

ヨゼフは言った。

彼の言葉には、カナエに対する興味が色濃く表れていた。

カナエはその言葉に、緊張する様子を見せず、平常心を保っていた。

 

「私の弟子はまだ未熟ですが、これから成長していく予定です」

 

彼女は毅然とした態度で応じた。

 

ヨゼフは微笑みながらも、どこか鋭い視線を俺に向けていた。

その視線は、疑念を抱く様で、俺はその場の空気が少し重くなるのを感じた。

だが、ヨゼフはそれを壊すかのように、一瞬にして目付きを変えた。

 

「それにしても、噂通りの美しさですなぁ、ルーヴ嬢」

 

カナエの全身を目で追うヨゼフ。

その様子は品定めするかのようで、見ていて気持ちが悪い。

 

「はは、お世辞が上手なんですね」

「お世辞なんかないさ、私は美しいと思ったものには、嘘はつかないさ」

「なるほど、正直者なのですね。…さて、ヨゼフ殿。私は少し、友人に呼ばれたので、これにて」

 

ヨゼフはニヤつきながらも、自慢げに話すのを、カナエは気持ち悪く思ったのか、その場を去りたくて、話を切り上げた。

 

部屋にもどり、カナエがベッドに倒れ込んだ時、部屋の空気が一瞬で重く変わった。

彼女は明らかに疲れていたが、それ以上に何かに苛立っていた。

 

「maître、大丈夫か?」

 

俺が心配して声をかけると、カナエはベッドの上で苦しげにのたうち回る。

 

「あーーーーー、大丈夫。でもあのヨゼフって男、マジで気持ち悪かった。頭の中から消し去りたいくらい!」

 

彼女は、嫌悪感を抑えきれない様子で枕を顔に押し付け、何度もゴロゴロと転がる。その様子に苦笑しながらも、少し安心して見守っていた。

 

だが、その瞬間、何かがおかしいと感じた。

 

カナエの動きが、突然止まったのだ。

まるで時間が凍りついたかのように、ピタリと静止する。

彼女は枕を抱えたまま、動かない。

微妙に乱れていた呼吸の音すらも、静まり返ってしまった。

 

「maître?」

 

俺は声をかけたが、返事がない。

 

「maître!?」

 

少し動揺しながら再度呼び掛けるが、やはり無反応。

まるで彼女がどこか別の世界に引きずり込まれたかのようだ。

 

俺が彼女に駆け寄ろうと一歩を踏み出したその瞬間―。

 

部屋全体が暗くなった。

 

まるで世界から光が奪われたかのように、辺りが不気味な闇に包まれ、濃い煙が床から立ち昇り始める。

煙は瞬く間に広がり、視界を奪い、カナエの姿が霞んでいく。

 

「なっ!?」

 

俺は声を出したが、その先が言葉にならず、目の前にいたはずのカナエが、煙の中へ消え去ったのだ。

 

「そこまでです」

 

冷たい声が闇の中から響いた。

 

視界の端に、ゆらりとした影が現れる。

暗闇の中から姿を現したのは、妖艶な雰囲気を纏った女。

ファンタジーの世界に出てくる踊り子のような装束を身に纏い、その軽やかな動きが闇に揺らめいている。まるで、俺を挑発するかのように、男を誘う視線を向けてくる。

 

「煙と暗闇…お嬢さん。アンタの仕業か?」

 

俺は冷静を装い、彼女に問いかけた。

 

女は、わざとらしく長い溜息をつきながら、肩をすくめた。

 

「ふぅ…そうだとしたら、どうするんですか?」

 

その気怠げな態度が、ますます俺を苛立たせる。

 

「そうでも、そうじゃなくても、俺のmaîtreを返してもらうぞ」

 

俺は力強く言い放った。

 

だが、女は鼻で笑いながら首を横に振る。

 

「それは出来ないな。」

「何…?」

 

俺がさらに食い下がろうとしたその時、背後から不気味な気配が迫ってきた。

暗闇の中から、もう一人の人影が浮かび上がる。

以上までの魔力に、冷や汗が背中を流れる。

だが見覚えのある姿――あの、男だ。

 

「お前は…ヨゼフ!」

 

声に嫌悪がにじむ。

ヨゼフは、ゆっくりとした足取りで闇の中から現れ、その両手にはカナエを抱きかかえていた。

 

「やはり、お前がサーヴァントだったか。安心しろ、お前のマスターは幻術に掛かっている。今は楽しい夢を見ている。それにだ、彼女は俺が美味しく味わい、愛でてやる」

 

ヨゼフ不気味な表情を浮かべ、冷たい声で告げた。

その言葉に、俺の血が逆流するような感覚が襲った。

 

「maîtreから、その手をどけろ」

 

ヨゼフは、さらに嘲笑を浮かべながら言葉を続ける。

 

「闇を現すような美しい黒髪、人形のような柔らかく、陶器のような白い肌。あの日、晩餐会で見かけた時から、私は彼女の虜でね。彼女を手に入れるのに、二十年掛かった」

 

ヨゼフはカナエを人形を抱きしめる様に抱きかかえ、左手でカナエの頬を撫で、親指で唇をなぞった。

その時、俺の中で何かが切れた。

カナエを守らなければならないという強い思いが、全身に力を漲らせる。

俺は一歩前に出て、ヨゼフを睨みつけた。

 

「maîtreを返せ」

 

俺の声には、怒りと覚悟が込められていた。

闇の中で、緊張が高まり、ヨゼフの嘲りの笑みが消え、互いの視線が交錯する。

戦いの予感が、辺りの空気をピリピリと緊張させた。

 

「面白い。マスターを奪われたサーヴァントが、この固有結界の中で、どこまで戦えるか見物だな」

 

ヨゼフの声が響くと同時に、闇がさらに濃くなり、俺たちを包み込むようにして、戦いの舞台が整った。

 

心臓が激しく打ち鳴る中、俺は戦闘態勢に入った。

ヨゼフを打ち倒し、必ずカナエを取り戻す――その決意だけが、俺の心を燃え上がらせていた。

 

「やれキャスター」

「はいマスター。それでは、今宵も面白いお話をしましょうか」

 

女が微笑を浮かべながら、胸元から一本の杖をゆっくりと取り出した。

その杖は、まるで古代の遺物のように不気味な存在感を放っている。

杖には複雑な装飾が施されており、巻物がその先端付近に巻きついていた。

薄い布地のような巻物は、光に透けるように薄暗い光を放っている。

 

女はその巻物を静かに広げ、軽く指先で撫でるようにして、何かを唱え始めた。言葉は耳慣れない。英語でも中国語でもなく、どこか古代の呪文のような、不気味な響きが混ざり合っている。

 

「千夜一夜物語(アルフ・ライラ・ワ・ライラ)」

 

低く抑えた声で、女はその呪文を続けている。

その瞬間、辺りは魔力に包まれていき、女の声に合わせて、杖の巻物がまるで生き物のように波打ち、周囲の闇を光で照らすように、輝き始めた。

 

「させるか!!」

 

俺は一瞬の隙を突き、全力で大砲を構え、キャスターに狙いを定めた。

その時、俺の全身が戦闘の本能で満たされた。

 

ドン!!

 

轟音が響き、火薬の匂いが一瞬、空気を焦がした。

大砲から放たれた砲弾は、空を切り裂き、真っ直ぐに女へと向かっていく。

弾丸は高速で飛び、瞬時にキャスターに到達するはずだった。

 

だが――

 

ガンッ!!

 

俺の目の前で砲弾が止まった。

衝撃で空気が振動し、砲弾が何か見えない壁にぶつかったかのように、まったく前に進めない。

目の前には、青い何かが立ちはだかっていた。

 

その青い何かは、下半身はなく、上半身は人の様。

その青い何かに砲弾が触れた瞬間、青い壁が波紋を描くように広がり、衝撃を吸収するかのように弾き返している。

砲弾はまるで重力を失ったかのように、音もなくその場に落ち、無力化された。

 

「なんだと……!?」

 

俺は息を呑んだ。完全に予想外の防御だ。

 

女は杖を片手に持ったまま、余裕の表情を崩さない。

彼女の唇は不敵な笑みを浮かべ、まるで俺の攻撃を見透かしていたかのように、微動だにしない。

 

「安心してください。お話はまだありますよ」

 

女は艶やかな声で言うと、杖をさらに高く掲げた。

 

「こういうのはどうでしょうか?」

 

女は杖を掲げると、魔力の波動が広がり、空間をねじ曲げるような力を放ち始めた。

次々と彼女の足元から黒い影が立ち上がり、その影は形を取り始める。

やがて、姿を現したのは――小さなターバンを巻いた使い魔たちだった。

 

使い魔たちは、まるで砂漠の戦士を模したような姿をし、身長はわずか1メートルほどだが、その目には狡猾さと闘志が宿っていた。

それぞれが異なる武器を手に持ち、鋭い刃物や小さな短剣、さらには槍や鎖を握っている。

彼らは不気味な笑みを浮かべながら、無言で俺を取り囲むように動き出した。

 

「面倒な連中だな……」

 

俺は目を細め、瞬時に彼らの武器の特性を見極める。

さらに、女の呪文が高まり、空間に再び青い光が集まり始める。

次に現れたのは、あの青い精霊だ。その姿は人間のようだが、全身が透明で青白い光を放っており、まるで霧で形作られたような不確かな輪郭を持っている。

その精霊は浮遊しながら、静かに俺を見つめ、その目には冷たい光が宿っている。

 

さて、この状況……恐らくこの固有結界が、女の宝具なのだろう。

じゃなきゃ、この異様な光景と召喚された使い魔たちが生まれない。

それにだ、俺は彼女の正体に気づき始めていた。

 

「おい、お嬢さん」

 

俺は彼女に向かって声をかけた。

まだ結界の中ではあったが、頭の中に浮かんだ疑念が、使い魔の姿形で確信へと変わる。

 

「アンタ、もしかして……シェヘラザードだろ?『千夜一夜物語』の語り手」

 

女はその言葉に反応して、少し驚いたような表情を浮かべた。

だが、すぐに彼女は柔らかな微笑に変わり、その瞳に挑発的な輝きを宿した。

 

「ふふ……さすがですね。やはりその大砲と服装からして、あなたはフランスの英雄。ナポレオンでしょう?」

 

俺は彼女の言葉を無言で彼女を睨み返す。

 

彼女がシェヘラザード――伝説の物語を語り続け、死を免れた女性だと知った今、彼女の戦略が少しずつ見えてきた。

物語で生き延びる者――それは戦いにおいても、自らの語りと結界によって敵を惑わせ、永遠に戦いを引き延ばす戦術だ。

 

「やっぱりな……アンタの正体が分かれば、やり方も見えてくる」

 

俺は笑みを浮かべたが、すぐに目の前の状況を冷静に分析する。

 

「そう簡単に、やり方が見えても困ります。こちらとて死にたくはないので」

 

使い魔たちは、各々が異なる戦い方をするだろう。

小柄だが、油断すれば致命的な攻撃を繰り出してくるに違いない。

そして、あの青い精霊――あれが最も厄介だ。

あの物語通りならば、あの青い精霊は、魔法のランプの精霊。

だとすれば、単純な攻撃が通じる相手ではない。

 

シェヘラザードは余裕たっぷりに俺を見つめながら、杖を振る。

 

「私の語る物語の中で、あなたはどんな結末を迎えるのでしょう」

 

そう言うと、使い魔たちが一斉に攻撃を仕掛けてきた。

 

「来たか!」

 

俺は咄嗟に後退し、周囲の状況を確認する。

 

使い魔たちの中には槍を持った者が突進し、鋭い刃が俺の腹を狙って一直線に飛び込んできた。

俺はその動きを見極め、紙一重でかわすが、その瞬間、背後から短剣を持った別の使い魔が飛びかかってくる。

 

「こいつら、連携してやがる!」

 

俺は瞬時に反応し、大砲を振りかざして後ろの使い魔を叩き潰した。

 

しかし、背後から忍び寄っていた青い精霊が、突然俺の肩をガシッと掴んだ。

まるで霧が凝縮されたようなその手は、冷たいにもかかわらず異常な力強さを持っていた。

握りつぶされるような圧力が、俺の体を締め上げる。

 

「くっ……!」

 

俺は瞬時に反応したが、精霊の力は俺の予想を遥かに超えていた。

 

その青い霊体は無言で、ただ冷たく冷酷に俺を見つめている。

その姿は不確かでありながら、掴まれた瞬間に感じるその力は驚異的だった。

霧のような体が俺にまとわりつき、冷たい魔力が流れ込んでくるような感覚が背中から広がっていく。

骨の奥まで伝わる膨大な魔力が全身に蔓延していくのがわかる。

 

精霊の手はゆっくりと、確実に、俺の体を締め付け始めた。

まるで蛇が獲物を絞め殺すように、その圧力が徐々に増していく。

 

ミシミシ……!

 

俺の身体が、ついに耐えきれなくなって悲鳴を上げ始め、胸や肩から響く骨のきしむ音が、空気に溶け込むように広がる。

見た目とは違い、鋼鉄のような力が、俺の骨を軋ませ、まるで一瞬後には粉々に砕け散るかのような痛みが走る。

 

「ぐっ……!!」

 

俺は必死に歯を食いしばり、青い精霊の手を引き剥がそうと試みたが、まるで実体がないかのようにすり抜ける。

霧のように曖昧なその腕は、掴み所がない。それなのに、締め付ける力だけは確かなものだった。

 

視界がぼやけ始め、俺の息が詰まりそうになる。精霊の力が、ここまでとは恐ろしい。

だが、カナエを助ける為、ここは何としてでも、抜け出さないといけない。

 

「まだだ……ここで負けてたまるかぁ!」

 

俺の心の奥底で、抵抗する意思が燃え上がる。

こんな所で殺られたら、カナエがあのクソ男に渡ったっしまう。

愛する女を守る為ならば、限界を超えるしかない!

策を頭で練るも、俺の意識が遠のきかけたその時、頭に閃くようにある考えが浮かんだ。

 

俺は、手に持った大砲の砲身を反転させた。

通常の戦法ではないが、今は何でも試すしかない。

 

「これでどうだ!」

 

青い精霊が俺を押し潰そうとしているその隙に、大砲の口を真下、つまり俺の足元へ向ける。

あまりに近距離すぎるが、今は構わない。俺は引き金を引いた。

 

ドンッ!!

 

爆発音が轟き、火薬の匂いが一瞬で立ち込めた。大砲の反動で俺自身も吹き飛ばされ、精霊の締め付けから強引に脱出し、まるで空中で弾き飛ばされたように、俺は数メートル先まで転がり、床に激しく叩きつけられた。

全身に鈍い痛みが走るが、今はそれに構っている暇はない。

 

「はぁ……はぁ……」

 

俺は息を荒げながら立ち上がる。青い精霊は爆発の衝撃で後退したものの、その霊体はまだ形を保っている。ダメージは与えたが、決定打にはなっていない。

 

だが、時間は稼げた。

 

「まだ終わってない!」

 

俺は再び武器を構え、次の手を考えながら、目の前の精霊と対峙する。

 

「しぶとい男だ」

「愛する女を取り返すならば、負けられない」

 

脚をしっかりと踏み込めば、大砲は変形した。

俺は青い精霊の動きを見極めながら、大砲を構える。

精霊が近づくと同時に、狙いを定め、魔力を大砲に移し、大砲の引き金を引いた。

今度こそ、ただの物理攻撃ではなく、俺の魔力を込めた一撃だった。

 

ドォォン!!

 

轟音と共に、虹色の光が青い精霊の中心を貫いた。

光が散るようにして精霊の形が崩れ、空中で消えていく。

精霊を倒したかのか、他の使い魔達も消えていった。

「そ、そんな…」

 

シェヘラザードは自分の切り札が失い、膝から崩れ落ちた。

俺は彼女に近づき、彼女に大砲の砲身を向けた。

 

「さて、お嬢ちゃん。アンタの切り札は消えた。どうする?このまま退いてくれたら、俺はアンタには攻撃はしない。もし、退かないならば、アンタに風穴が空くぜ」

 

シェヘラザードは呼吸を乱しながら、冷静さを保とうとしていたが、内心では焦りと恐怖が表情に滲み出ていた。

 

「わ、私は……」

 

彼女の頼みの綱は、目の前で粉々に砕けたかのように、もう何も残されていない。しかし、後退するわけにはいかない。

俺は彼女の動揺を見逃さず、さらに追い詰めるように、少しだけ身を乗り出した。

俺の指が引き金にかかり、銃口がわずかに揺れた。

まるでそれが警告であるかのように、冷たい鋼鉄の感触が彼女に突きつけた。

 

「嫌。死にたくない」

「駄目だろ、シェヘラザード。君はあの魔法のランプの精を使えるサーヴァント。ランプの願いは3回だったか?」

「いや、ま、マスター!」

 

シェヘラザードは、冷静さを取り戻そうと、深く息を吸い込み、ヨゼフに呼び掛けた。

彼女は震えていたが、ヨゼフは無視し、彼女の前で、手の甲の令呪をみせた。

 

「そ、そんな…わ、私は」

「令呪をもって命ずる…」

 

ヨゼフは冷静に、力強く言葉を紡ぐ。

 

「シェヘラザード、奴を殺せ」

「いやぁぁ!!」

 

突如、空気が重く変化した。

それもその筈だ、ヨゼフは令呪によって、シェヘラザードに服従させたのだから。

 

そんな、シェヘラザードを服従させた令呪。

聖杯から選ばれたマスターに与えられる、自らのサーヴァントに対する3つの絶対命令権。

聖杯に選ばれた証ともいわれており、サーヴァントを統べるべく与えられる聖痕。

その一画一画が膨大な魔力を秘めた魔術の結晶であり、マスターの魔術回路と接続されることで命令権として機能。

言わば絶対的切り札みたいなものだ。

 

「最悪だな」

 

最悪な状況だ。

令呪によってシェヘラザードはかなりの魔力を得ている。

今の奴に適う方法は、カナエが俺に令呪を使う。

しかし、カナエの幻術を解かないと無理だ。

 

「このまま、殺すのも興がない。そうだ」

 

ビリビリ!

 

「お前の目の前で犯すのも悪くはない」

 

ヨゼフはカナエの衣服を力強く引き裂き、下着を捲り上げ、顕になった胸を揉み始めた。

その手は厭らしく、カナエの胸を穢していく。

 

俺が迷っている間に、ヨゼフの手が徐々にカナエの身体を這い、下に滑りかけたその瞬間――。

 

「そこまでだ」

 

「!?」

 

まるで時間が止まったかのような一瞬の出来事だった。

女の冷ややかな声が響いた瞬間、ヨゼフの胸に、まるで石ころを押し込んだような小さな穴が空いた。

衝撃と共にヨゼフの手はカナエから離れ、その場に崩れるように倒れそうになったのを、燈子が受け止めた。

 

「ガハッ……お、お前は……」

 

ヨゼフは吐血しながら、動揺した表情で周囲を見回す。

彼が振り返った先に立っていたのは――蒼崎橙子だった。

彼女は先ほどとは違い、眼鏡を外した状態で、冷たい視線を向けている。

その瞳には容赦のない冷酷さが宿っていた。

 

「カナエの部屋から、強力な魔力を感じて来てみれば……随分と楽しんでいたようだな、カルマーニュ伯」

 

橙子は冷たく言い放ちながら、一歩前に進む。その存在感は圧倒的で、場の空気を一瞬で支配していた。

 

「蒼崎橙子……!」

 

ヨゼフはその名前を苦々しく呟き、苦しげに息を吐いた。カナエを守る俺も、橙子の出現に驚きを隠せない。

 

「なんで…アンタが」

「やぁ、カナエの従者。いや、サーヴァントか。無事だったようだな」

 

橙子は俺に軽く目をやり、笑みを浮かべたが、その笑顔にはいつもの余裕とは異なる、鋭さがあった。

 

「まさか、あの固有結界を破壊したのか?」

 

俺は混乱しながら問いかけたが、橙子は軽く肩をすくめるだけだった。

 

「破壊? そんな面倒なことはしないさ。発動者を止めれば、結界は一時的に消えるものだよ」

 

「発動者を……止める……?」

 

その言葉を聞いて、ようやく気づいた。

先ほどから、シェヘラザードの魔力が完全に感じられなくなっている。

俺は視線を横にやると、そこには3つのオートマタが絡みつくようにシェヘラザードを拘束していた。

通常のサーヴァントならば、オートマタ程度は簡単に破壊できるはずだ。

しかし、橙子のオートマタには特別な術がかかっているらしく、その強烈な魔力が漂っていた。

 

「彼女なら、私が拘束させてもらったよ。ま、これ以上騒ぎを起こされると面倒だからね。この列車が壊れたら、私の収入に響くからさ」

 

橙子は軽く笑いながら、無造作に話を続けるが、その背後には圧倒的な威圧感が漂っている。

 

「さて……カルマーニュ伯。お前は、私の"大切なパーツ"に手を出した。覚悟はできているんだろうな?」

 

橙子の声が低く響く。

次の瞬間、彼女の背後から黒い影が現れ、それはまるで獣のような形を取り始めた。

黒く、禍々しいオーラを纏った巨大な獣の手が現れ、その爪がキラリと光を放つ。

 

「な、なにを……お、お前……ぐぁぁぁぁぁ!!」

 

ヨゼフは言葉を発する間もなく、黒い獣の手が彼に襲いかかった。

爪が瞬時にヨゼフの身体に食い込み、まるで紙のように引き裂いた。

血飛沫が宙を舞い、ヨゼフの苦悶の叫びが結界の中に響き渡る。

黒い手が彼の身体を容赦なく押しつぶし、まるでおもちゃのように扱っている。

 

「お前は、私の"作品"に手を出した。それがどういう意味か、今、思い知れ」

 

橙子は冷酷な表情を崩さず、ヨゼフが苦しむ様子をじっと見つめていた。

黒い獣の手はさらに強く、ヨゼフの身体を締め上げ、まるで獲物を仕留めるかのように力を込めている。

 

「がぁ……は……!」

 

ヨゼフの瞳が徐々に虚ろになり、その命が尽きかけた瞬間、黒い手が彼を地面に叩きつけた。結界内が揺れ、ヨゼフの身体は無残に転がり、動かなくなった。

 

マスターが失ったのか、令呪の効力が失い、シェヘラザードの結界が解けた。

 

「ふむ、解けたのは良いが…この状態だと厄介だな。こいつを食べていいぞ」

 

燈子の一言で、使い魔がヨゼフの亡骸を貪り始めた。

 

バキボキ

 

骨と肉が簡単に、砕かれ嚙みちぎられる音が生々しい。

 

「さて、カナエは無事に取り戻した。奴の幻術は、既に解かれているはずだ。このまま寝かせとけば、じきに覚めるはずだ」

「.....感謝しかない。ありがとう」

「そうだな…礼はカナエが起きてからにしてくれ。こいつには後でたっぷりと、ご褒美もらうとしようか。」

 

燈子は少し、悪戯を考えるような表情をした。

 

「覚めたら、伝えとく」

「さて、私はそこで気絶している、サーヴァントを連れて出るとしよう。後は、初々しい二人でごゆっくり」

 

気絶するシェヘラザードを連れて部屋をあとにした。

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