転生したら寄生生物なんですけど!? というかち×ぽなんですけど! 作:真喜屋五木路
『さっきまで水分不足で困っていたと思ったら、今度は逆に水分過多で困るとはなぁ』
休憩がてら水分補給をしてから再び歩くこと数時間、今までしっかり乾いた岩肌だった床が泥濘へと変わっていた。
一面に広がった、くるぶしまで沈みこむ泥が足を奪い、一歩進めるのもやっと。唯一幸いなのは魔物もこの環境を嫌ってか、ここに入ってからまだ出会ってないことぐらいだろうか。
そんな中をシアとリズは足を取られながらも何とか進んでいた。
「……そんなこと言って、お前は何もしてないだろうが」
リズから呆れたようにそう言われたムサシは言い返そうかと考えたが、足がない以上間違ってはいない。
それに考えたところでこの泥濘が固まる訳でもなし、スキル的にも役に立てないこの状況では、下手に波風立てて自分に矛先が向かうのはごめんだった。
「リズ、そんなにムサシ様にきつく当たる必要はないでしょう。先ほど助けて貰ったばかりですし、今は私たちが頑張るときですよ」
『そうだぞ、ほら頑張れ頑張れ』
尤も、味方がいれば話は別である。ムサシが今現在寄生しているシアの言葉に同調すると、リズも主の言うことに反論する訳にもいかず、悔しそうに言葉を呑み込んだ。
「くっ……分かりました」
内心勝ったと思うムサシだったが、リズがこちらに当たるのも分からないでもない。
彼女は底なし沼などがあったら危険だからと、この泥濘地帯に入ったときからずっと先行して、地面を確認しながら進んでいるのだ。そろそろ疲れもたまってきている筈である。
まあ半分くらいは、今までのムサシの行動に対する恨みつらみもあるだろうが。
注意力も下がっているだろうし、そろそろ休憩を入れた方がいいとは先ほどから二人の様子を見守っているムサシも思ってはいる。
(けど、進めど進めど一面泥濘が続いてるからなぁ……)
流石にこの泥濘に腰を下ろすという訳にもいくまい。
そんな風に三人とも言葉少なになってひたすらに進んでいると、突然壁が狭まり、身体を横にしないと進めないような隘路になっている場所が現れた。
少し覗き込んでみるが、その先にあるのは深い闇だけ。
『本当にこれ、道あってんのか?』
「……ああ、方向は間違ってない」
リズがポケットから取り出した懐中時計のようなものを開いて答える。方位磁針みたいなものなのだろう。
「ダンジョンの構造が変化するのはままある話だからな」
『そういうもんか』
こちらの世界について碌に知識がないムサシとしては、そういうものだと言われれば納得するしかない。
「それなら、ここを通るしかないですね」
そう言いながら、シアが隘路の角に手をついてその奥を覗き込んだ時だった。
『何か来るッ、そこから離れろシア!』
嫌な予感と共に隘路の奥から突風が吹きつけ、ムサシが警鐘を発する。
シアも素早くそこから距離を取ろうとするが、泥濘に足を取られたせいか後ろに体を引くのが僅かに遅れた。
その隙に隘路から飛び出した『それ』が、シアの手に絡みつく。
「っ――!?」
その正体がぬらぬらとした緑の触手だとシアとムサシが理解した瞬間、遅れてきた他の触手が一気にシアの胴体を拘束するように巻きついた。
「あぐっ……!」
「姫様っ!?」
リズがすぐさまその戒めを解こうと手を伸ばす。が、その手が辿り着く前に、シアの身体は触手の出てきた隘路の中へ引きずり込まれ始める。
「リズっ!」
「姫様ぁッ!」
出てきた時と同じく、触手はかなりの速度でシアを引っ張りこみ、リズの声が闇の向こうへと引き延ばされていく。
そのまま碌に抵抗も出来ず、真っ暗な中を右へ左へと時折曲がりながら引き回され、方向感覚を失いそうになりながら細い通路の奥へ運ばれていき、
「――ぁぐっ!」
シアは乱暴に薄暗い空間へと放り出された。
『大丈夫かシア!?』
「はい……大丈夫です。地面が柔らかくて助かりました」
体と左手は触手に巻きつかれたままで受け身などは取れなかったシアだが、床がマットのように柔らかかったお陰か、かすり傷一つない。
『そうか、それなら良かった……』
彼女が無事なことに安堵して声音を緩めたムサシだったが、すぐに再びその声に緊張を帯びさせた。
『……いや、待て。何でこんなに地面が柔らかいんだ?』
シアの体を介して感じる床の感触は、これまで歩いてきた岩肌や泥濘のような無機質な物とは明らかに違う。
適度な弾力と、生々しく湿り気を帯びた表面、そしてどこかほんのり温かいそれはまるで――
『――生きてる?』
「え……ッ!?」
ムサシの言葉に驚き交じりの疑問を呈そうとしたシアだが、それより先に答えが動いた。
巻きつかれたままの左手が突如上に向かって引っ張られ、シアは成すすべなく中空へ吊り上げられてしまう。
「これはっ……もしかして、マンイーター!?」
『ああクソッ! 全然知らないけど名前だけで絶対碌な魔物じゃないって分かるんだが!?』
そう叫ぶムサシの予想とは少し違うものの、『人喰い』の名を与えられたこの魔物は、文字通り人間や他の生物を主食とする危険な魔物の一体であった。
シアも、名前と捕まらないように気をつけろとしか聞いたことはないものの、そう言われる程度には危険なのだということは重々理解している。
故に素早く戒めを解こうと背中に背負っていた剣へ、何とか空いていた右手を伸ばして。
――が、胴体を縛る触手にしっかりと大剣も固定されてしまっていて、抜くことはおろか、刃を浮かせて纏わりついている触手を切ることもできない。
「それならっ――!」
剣が無理ならと、焦ったシアは右手を上に伸ばして左手に纏わりつく蔓を引きちぎろうとして、
『いや待て、それはマズい!』
「えっ? あ……っ!?」
ムサシが止めるのも間に合わず、右手で蔓を掴んだ瞬間、それを狙っていたかのように更なる蔓が上から降ってきて、あっという間に彼女は両手を頭の上で拘束されてしまう。
晒された罪人のように、両手を縛られて吊るされるシア。彼女にはもう体を捻るか足をバタつかせて抵抗まがいのことをすることしかできなかった。
「っ、ごめんなさい、ムサシ様……不注意に触ってしまって……!」
『謝るのはいい! それより今はこれをどうにかする方法を――』
そうムサシも言いはするものの、具体的に何をすればいいかなど、引きずり込まれた時から展開が早すぎて碌に思いつかない。
そんなただただ焦りだけが蓄積していく二人を更に焦らせるように、シアの両手を拘束している触手から、ぬとっ……と粘性の液体が彼女の頭へ落ちてきた。
「ひうっ⁉ 冷たっ……⁈」
拘束へと意識が向いていたところへ、予想外の方向からの刺激を加えられ、シアの口から変な声が出る。
彼女の頭に落ちた粘液は、ゆっくりと頭頂部から髪全体を包むように広がっていく。だが、両手を拘束されたシアはその不快感に口の端を歪めながらも、それを払い落とすことができない。
そうするうちに、粘液は糸状になって彼女の顔へまで降ってきた。
シアは鼻と目の間に滝を作って垂れ落ちていく、生暖かい粘液の不快感に目を眇め、それと同時、強烈な匂いが彼女の鼻を衝いた。
「っ!? 甘い、匂い……?」
ぬとりとしたその感触から、魔物の涎や最近知ったばかりの精液みたいな生臭い匂いを予想していたシアだったが、実際に粘液から漂ってきたのは甘ったるい香りだった。
まるで採りたての蜂蜜のような、或いは花束を煮詰めて凝縮したかのような、甘すぎるほどに甘ったるい香り。
ここしばらくずっと、洞窟の湿った空気の香りしか嗅いでこなかった為、王城の中庭を思い出し気を緩ませかけた彼女だったが、すぐに身体を襲う違和感に気付いた。
「ぁっ……なに、これ……身体が……あつ、い……?」
粘液が通った部分の皮膚が、ぴりぴりと痺れるように熱を帯びていく。
その熱はじわじわと全身を浸すように広がり、痺れもまたあっといいうまに全身の神経へと広がる。
そこで遅ればせながら、全身を襲うこれが痺れではないとシアは気付いた。
「やっ……からだ、敏感に……なってる?」
神経の先が開いているとでもいえばいいのだろうか。普段意識しなければ気が付かないような感覚、例えば服が擦れたとか、汗が浮かんだとか、それくらいの些細な感覚が、異様なまでの精彩さを伴って生々しく頭へと送られているのだ。
未だ止まらない粘液によりどんどん鋭敏になっていく感覚とは対照的に、頭の中は段々とぼんやりして靄がかかったようになり始めていて、ますます与えられる感覚以外に集中できなくなりつつあった。
そんな彼女の変化に、寄生しているムサシは忌々し気に吐き捨てる。
(くそっ……どう考えてもマズいヤツだろこれ!?)
『マンイーター』などという字面から、分かりやすく牙などでガブリ、というのを想像していたのだが、先ほどから反応なくぼうっとしているシアの様子を見るに、麻痺させてそのまま消化液で……というタイプなのかもしれない。
暗闇に慣れてきたシアの視界に映る小部屋の壁も、何だか生物的にうねった血管のようなものが何本も走っていて、ここが既に生物の内部だということが嫌というほど意識させられた。幸いにも彼の本体にはまだ粘液が到達していない為か、未だ冷静に考えられているが、この様子だと猶予はあと幾許もないだろう。
(くっそ、生きたまま消化なんて絶対御免だぞ俺は! シア! おいシア! しっかりしろ!』
(むさし……さま?)
ぼんやりとしたものではあったが反応を返すシアに対し、ムサシは少しだけ安堵しながらも、強い声で呼びかけ続ける。
『意識をはっきりさせろ! このままじゃお前、溶かされるぞ!』
(でも……からだ、あつくて……ぼーっとして……なんだか、きもち、よくて……)
『それは分かってる! けど何とか拘束解いて逃げ出さなきゃマズいんだよ! 今なら粘液がかかって滑るはずだし、手捻ったら抜け出せないか!?』
(やってみ……ます……――!?)
と、言われるがままにシアが拘束された手をくっ、と捩じった瞬間、雷が落ちたかのような衝撃が彼女の腕から全身を貫いた。
「んああぁぁああぁぁッ!」
『んほおぉおぉぉおぉぉ!?』
鼻にかかった絶叫をあげるシアと、言葉を伝える為強く感覚を共有していたせいで巻き添えを喰らうムサシ。
『――ま、待て、何だ今の!?』
若干意識が飛びかけたのを何とか耐えたムサシだったが、今度はシアがそれに答えることはなかった。
「んぁ……っ♡ はぁ、はぁ、はぁ……っ♡」
代わりに彼女の口からは、粘液と同じように甘ったるく、荒い吐息が漏れるだけ。
その様子から、ムサシも漸く先ほど腕から走り抜けた衝撃の正体が、快感だったということに気付いた。
ただ、あまりに強すぎる快感だったためにそう認識できなかっただけだと。
理解した瞬間、嫌な予想が彼の頭に浮かぶ。
迷っている暇はない。スキルツリーを即座に開いて念話のレベルを最大にするや否や、ムサシは大声で叫ぶように『念話』を発動させた。
『くっ――リズ! リズー!』
(! おいムサシ、お前か!? 今どこにいる!)
レベルを最大にした恩恵で、位置が分からなくてもなんとか通じるらしい。
ムサシは藁をも掴む心地で訊ねる。
『暗闇の中引き込まれたから分からん! それより訊きたいんだが、マンイーターって知ってるか?』
(くそッ! あの蔦、やっぱりマンイーターだったか! シア様は無事だろうな!)
『今のところはな! それよりまさかとは思うんだが、マンイーターの『喰う』ってもしかして……いや、そんなことはないと思うんだが……性的にって意味じゃないよな?』
そう言いつつも、言っててあまりにバカバカしいと途中でトーンダウンしてしまうムサシ。
そんな彼に対して苛ついたようにリズが叫ぶ。
(今更そんなこと訊くまでもないだろ!? マンイーターが喰らうのは人間の精気だ!)
『あ、ああ……そうだよ――』
(確かによく誤解されるが、人間を犯すのはその為の手段でしかない!)
『……は?』
(だからボクが行くまで、姫様と姫様の純潔は守れよムサシ!)
『…………』
(――冗談じゃねえぇぇぇぇっ! いや異世界だし触手とかいるかなー、ってなんとなく思ってはいたよ! いたけどさぁ!?)
最悪な予想が当たったことに、一人絶叫するムサシ。
ということは、この粘液はやはり媚薬とかそういう類のものなのだろう。
ムサシも一介のオタクとして、触手モノというジャンルの存在は知っていたし、女の子が抵抗むなしく拘束されてぬるぬるにされ、快楽攻めにされるというシチュエーションに興奮するものがない訳ではない。が――
(けど、ち×ぽが触手責めとかそういう趣味は持ち合わせてねえんだよぉおぉぉぉ!)
ご視聴ありがとうございます。もし良いと思って頂けたなら、なんらか反応を頂けると(作者が個人的に)嬉しいです。