転生したら寄生生物なんですけど!? というかち×ぽなんですけど! 作:真喜屋五木路
それから暫くして、再び二人と一匹は以前と同様に薄暗いダンジョンを警戒しながら進んでいた。
だが、先行するリズとその後に続くシアの距離は以前より僅かに開いていて。どことなく気まずい空気が二人の間に漂っている。
唆されたとはいえ、自分が暴走してしまったのを思い出して苦々しい顔のリズ。女としての初体験と絶頂を経験して以降、頬を染めてどこか伏し目がちなシア。そして――
『いやー、本当にシアの膣内は最高だった……なぁ、リズ?』
「……あれは姫様の媚薬を鎮める為にしただけだ」
『そんなこと言って、途中からは俺が入り込む間もないぐらい愉しんでたじゃないか』
「違っ……! あれは、その時の空気に合わせたというか……自分の意思ではないというか……」
『またまたー……それに、シアだって良かっただろ?』
「それは……」
――寄生蟲はそんな気まずい空気などお構いなしに、二人へとセクハラを仕掛けまくっていた。
『はぁ……まったく、今更ぐだぐだ考えたって、とっくにやることやっちまったんだから……おっ? 思い出したら何か滾ってきた……ッ』
「……って、おいムサシ! お前また勝手に大きくするなぁ……っ♡」
あの後リズに寄生したままだったムサシの本体、もといち×ぽが半勃ちに膨らみ、彼女は前かがみになって足を止める。
『そんなこと言われたってしょうがないだろ。興奮したらおっきくなる、コレ自然の節理アルね』
「なんだその口調は……! んっ……♡ いいから兎に角これを鎮めろ……っ」
『お。ということは漸くリズもヤる気になったか? それなら早速シアともう一回……』
「バカ! そういう意味じゃない! 変なことを考えて興奮するのを止めろと言ってるんだ!」
『変なこと、ねぇ……あ、そうだリズ知ってるか? どうやら寄生してると”念話”を使わなくても寄生している相手が大体何を考えているかなんとなく分かるんだが――おぅッ!?』
リズというよりシアに向けて伝えるような口調のムサシだったが、突如本体を強く握られ、痛み交じりの快感が全身を走った。
握ったのは勿論リズである。
「んんっ♡ よ、余計なことを言ってる暇があったら、とっととこれを小さくしろぉ……っ」
当然感覚が共有されているためリズにもその快感は伝わっているのだが、余程シアに考えていたことがバレたくないのか、疼くような快感に耐えながらも手に込める力を緩めることはない。
徐々に痛みの比重が増していく万力責め。先に音を上げたのはムサシだった。
『あだだだだッ!? ちょっと待て落ち着けリズぅ!? そんな握りしめたらたら駄目だって! EDになっちゃう! や、このままじゃその前に壊死するぅ!?』
「ちょ、ちょっとリズ落ち着いて下さい! ムサシ様が苦しそうにしていますし、リズだって……!」
「姫様……止めないでください……ッ! そうだ……最初からこうしてれば姫様にあんなことをしてしまうことも……!」
『おい待て、変な覚悟を極めるな! あででででっ!? マジで落ち着けリズ、悪かった! 悪かったから! つーか、俺がいなかったらどちらにしろシアはマンイーターにヤられてたから!』
「そ、そうです! ですからムサシ様を責めないでください」
「……っ、それは……そう、ですが」
リズもそれは分かっているのか、手から力を抜く。
漸く解放されて(呼吸器はないけど気持ち的に)肩で呼吸する寄生蟲をさておき、シアは俯きがちになった従者の肩に手を伸ばした。
「……それに、リズ。あなた自身のこともです」
「っ……! ですが……」
図星だった従者は、歯噛みして視線を逸らす。
「先ほども言いましたけど、リズは私のお願いを聞いて助けてくれようとしただけですから、ね?」
「ですが……途中ボクが我を忘れて、守らなきゃいけない筈の姫様を傷付けるような真似をしてしまったのは事実ですから」
ここまでの間にも何度か繰り返されたその言葉に、シアは悲し気に眉根を寄せた。
『……はぁ、シアだって何度もこう言ってるんだし、ちょっと頑なすぎやしないか?』
落ち着いたムサシがそう言い添えても、リズは考えを変える気がないのか黙ったまま。
再び気まずい空気が漂いかけたその時、薄暗闇の向こうから小さく金属質な音が聞こえた。
三人の意識がそちらに向き、次に聞こえたのは叫ぶような”声”。
小さくて聞き取れないものの、それが魔獣の慟哭などとは違う、意味を持つ言葉であることは明らかだった。
そして、その声には切羽詰まったような響きが含まれていて。
『これ、もしかして誰か他の奴が戦ってるのか?』
「……行ってみましょう。いいですか、リズ?」
「分かりました、姫様」
――――――
音が洞窟に反響したくぐもったものから、段々と明瞭なものに変わる。それに伴い、声と共に聞こえてくるのが甲高い金属音と、下卑た笑い声のようなものだと分かり始めた頃。
駆け足で先行していたリズが、曲がり角になっている岩壁に突如背を張り付かせ、顔だけその先に出して様子を窺った。
寄生しているムサシにも、リズの視界を介して複数人の男女が剣や弓、杖などを手にし、背中合わせに円陣を組んでいるのが見える。そしてその周囲を取り囲む、二、三十を優に越える小柄な薄汚れた緑色の肌を持つ人型に対峙しているのも。
後を追ってきたシアが声を潜めて尋ねる。
「リズ、様子はどうですか?」
「……人間、恐らくは冒険者のグループかと。数は男五人に女一人。ゴブリンの群れと戦闘しているようですが――」
ギィィン! ――と、金属同士が擦れる不快な高音に、思わずリズは獣耳を捻って、眉をしかめた。
互いに様子を窺っていたゴブリンの一体が冒険者とやらに突撃し、互いの武器がぶつかった音らしい。
再びリズが角の先に目をやると、刃の欠けたボロボロの斧を振るったままの格好でよろめくゴブリンに、冒険者の青年がショートソードを返す刃で叩き込む所だった。
「ギげッ……!」
絶命の悲鳴を上げて、肩の斬り口から赤黒い血を噴き出す人型。
「ぐッ――!」
一方、剣を振るった冒険者の青年も無傷とはいかなかった。先ほどの突撃に合わせて投擲されたのか、空き缶を潰したみたいに不格好なナイフが上腕へと突き刺さっている。
よく見れば腕や顔には他にも紅い線が何本か走っており、優勢とは言い難い様子だ。
彼はすぐさまナイフを引き抜き、獲物を構えなおしながらも、荒い息交じりに叫んだ。
「ちッ――アミラ! 回復を!」
「はい! 『ファースト・エイド』!」
応えたのは円陣の中央辺りに立っていた、白地へ銀刺繍の服に木製の長杖を持った少女。
彼女がその杖を掲げ、男の身体がうっすらと淡い光を帯びる。
先ほど刃物が刺さった場所から血が止まる――ものの、それ以上の目に見える変化はない。
「くそッ、これじゃ足りない! もっと上位の回復スキルは使えないのか!?」
「ご、ごめんなさい! もうマナが残っていなくて……!」
「くッ! まだ浅層だってのに、なんだよこの群れの数は……!」
戦闘では傍観することしかできないムサシから見ても、冒険者達が窮地に陥っているのは明白だった。
直接見ていないシアにも、先のやり取りだけでそれは伝わったらしい。
「……押されているんですね。助けに行きます。手伝ってください、リズ」
躊躇うことなく背中の大剣を抜いて外套のフードを被り、今すぐにでも飛び出せるよう低く構えるシア。
そんな主に従者は口を開きかけたものの、すぐに唇を引き結んで首肯し、ポケットからスカーフを取り出すと主同様に頭を覆った。執事服というよりメイド服とか割烹着とかと合いそうな感じなのが惜しい。
そんな戦闘態勢を整えるような二人に慌てたのは、てっきりリズがシアを止めると思っていたムサシである。
『え? いやおい、向こうは六人で苦戦してるんだぞ? こっちは二人なのに助けるなんて……』
だが、シアは時間が惜しいとばかりに僅かな笑みで応じただけで。
「大丈夫です、ムサシ様。では……いきますッ!」
『ちょっ――!?』
寄生蟲がそれ以上何か言うより先に、シアの小柄な体が角の先へと飛び出した。
勿論、当然のようにリズもその後に続く。
「――!? 誰だッ!」
不意の乱入者に、冒険者とゴブリンの視線が一挙に二人へと集まる。
ただ一体。シアから最も近くにいて、振り向く間もなく首を撥ね飛ばされたゴブリンを除いて。
「援護します! そちらは陣形を崩さず内側からゴブリンを削ってください!」
「味方だ……! 助かった! いいか皆、ここが堪えどころだッ!」
――おおッ!
気勢を上げて武器を構えなおす冒険者たち。
対して、包囲していたのから一転、挟撃される形となったゴブリンたちには動揺が走る。
ギィギャアというしわがれた蝙蝠みたいなざわめきが群れに広がり、中にはどちらへ対峙すればいいのか、冒険者とシア達を交互に見比べる個体までいる。
「ギッ!? ギギャッ!」
指揮官だろうか、群れの中央辺りで大袈裟な身振りと共に叫んでいるゴブリンもいるが、既に統率は崩れ、各々が勝手にそれぞれ脅威と見なした相手に突っ込んでいた。
勿論そこに連携などは存在せず、三々五々と冒険者に向かって突撃したゴブリンたちは、矢や火球、剣戟によって一体づつ返り討ちにあっていく。
だが、彼らはそれでもまだ善戦したと言っていいのかもしれない。
シアとリズに向かってしまったゴブリン達は最早哀れなほどだった。
「――やッ!」
シアの大剣一振りにつき、数体纏めてゴブリンの体が二等分される。
「しッ! はぁッ!」
リズの拳が当たったゴブリンは宙に放物線を描き、蹴り飛ばされたものは数メートル離れた壁に激突して血をぶちまける。
まるで綿埃を掃くようにゴブリンを蹴散らしていくその様は、戦闘というより殲滅。
三国志時代や戦国時代で無双するゲームよりも酷いワンサイドゲームであった。
『う、うわぁ……』
目の前に広がるのは、血のペンキがぶちまけられ、子ども大の遺体が転がる大惨事。
ムサシは二人を止めようとしたことも忘れ、若干引き気味にその様子を傍観する。
否、リズに寄生している以上ゴブリンを殴る生々しい感覚や、蹴った際に吐き出されるゴブリンの生暖かい吐息などまで直に感じられてしまっていた。
『……これじゃまるでスプラッター映画の殺人鬼側だろ。グロのつく八禁は求めてないんだよ……ってか、なんかマジで気持ち悪くなってきた……』
(⁉ お、おい、吐くなよ! お前が吐いたらペニスから何か漏らすんだろ! そんなのボクが戦いながら漏らしたみたいになるじゃんか!)
『……助かった。なんかそう考えるとちょっと興奮してマシになったわ』
(くぅ……! なんかそれはそれでイヤなんだが……ッ!)
ムサシと下らないやり取りをしながらも、リズの動きが鈍ることはない。というか、どこか余裕すら感じるような気がする。
「ギギィ……! ゲギャッ! ギギャッ!」
あっという間にゴブリンが数の優位を削られていく中、ついに数匹のゴブリンが逃走を開始した。
「姫様、追撃は?」
「……いえ、今は人間たちの身の安全が優先です」
「畏まりました」
といっても、まだ戦っているゴブリンの数も残り僅か。
結局、二人の加勢からものの十分しないうちにゴブリンたちは一掃された。
本日も2話投稿となります。19~20時台にもう1話上げるので、そちらも宜しくお願いします。