転生したら寄生生物なんですけど!? というかち×ぽなんですけど! 作:真喜屋五木路
(……あー。でだ、そろそろ現状を説明して欲しいんだが?)
シアが射精の余韻から覚めた頃を見計らって、武蔵は彼女に声を掛けた。
といっても、彼自身つい先ほどまで容赦なくたたき込まれる快感に意識半ばの状態であり、射精後の賢者タイムで漸く自分を取り戻したばかりだ。
(あ……えっと……?)
シアは先ほどの声がまた戻ってきたことに困惑しながらも、何となく自分の股間に生えた肉の棒がこの声の主ではないかと察する。
(あなたは、コレ……なんですよね?)
先ほどまでと違い、くたびれたように垂れ下がった肉棒を撫でかけ、再び先ほどのぞわりとした感覚が湧き上がり、慌てて彼女は手を離した。
(うッ……一応勃起してなければまだマシか。どうやらそうらしいな、お前には元々ち×ぽ生えてた訳じゃなさそうだしな?)
(ち×ぽ……?)
(お前の股間に生えてるそれだよ。……まさか、マジで知らないのか?)
首を傾げるシアの様子はどう見ても素の反応で、あまりの性知識のなさに思わず武蔵は絶句した。
(えぇ……どんだけだよ……)
確かに彼女の発育だけ見ると幼いのではないかとも思えるが、言葉遣いや雰囲気から少なくとも中学生以上の年齢はありそうなのだが。
一方、頭の中の声がそんな事も知らないのかというように黙ってしまったことに焦った彼女は、従者へと訊ねる。
「リズ、リズはこれが何なのか知ってるんですか?」
「え、えーと……」
未だ自らの手に残る、主の生暖かさの余韻を感じていたリズだったが、その言葉にはっと視線を上げた。
「そういえば先ほど、私が『てこき』をするように頼んだ時も、理解していたようですし、知っているんですよね?」
「いや、それはその……」
勘のいい姫様を誤魔化しきれないことを悟った従者は、顔を真っ赤にしながらゆっくりと口を開く。
「ペ、ペニス……というものではないかと……」
「ペニス? ち×ぽではないのですか?」
「っ?! 姫様、どこでそんな呼び方を――!?」
「つまり、ペニスでありち×ぽでもある訳ですね?」
純真無垢だと思っていた主の口から飛び出た、淫猥な男性器の呼称に従者は絶句する。
(……お前、マジで知らなかったのか)
呆れたような武蔵の声に、シアは軽く頭を下げる。
「私の無知でご迷惑をかけてすいません、ち×ぽ様」
「ち、ち×ぽ様!?」
武蔵の声が聞こえていないリズが、唐突に男性器に様付けし始めたシアにリズが悲痛な叫びを上げる。
「ああ、姫様……姫様がおかしく……。そうですよね、こんな状況ですから……ですがこのリズ、例えどうなろうとも姫様のおそばに……っ!」
「? 何を言ってるんですかリズ、私の都合で召喚した方なんですから、敬意を持って呼ぶのは当然でしょう?」
「召喚……ということは……ま、まさかそんなものが窮地を救う『導き手』なんですか……? というかペニ――それと話ができるんですか!?」
リズが驚愕に絶句するが、驚いたのは彼女だけではない。
(――ん? おい待て、今召喚って言ったか?)
「そうです、ち×ぽ様」
(……とりあえず、そのち×ぽ様っていうのは止めてくれ)
可愛らしい声で、ち×ぽち×ぽ連呼されるのは予想以上に理性へ効くというのもあったが、それ以上に自分がち×ぽ呼ばわりされるのは何とも言えない気分になるのでやめて欲しい武蔵だった。
「では、何とお呼びすれば?」
(一応、名前は暮古武蔵と言うんだが……好きに呼んでくれればいい)
「個人名持ちだったのですか、失礼しましたムサシ様。ということは、上位魔族の方という事でしょうか?」
(個人名? 魔族? いや、普通の人間……だったはずなんだが)
今度はシアの方が驚く番だった。
「え? この姿で……ですか……?」
(いや違う違う! 昨日までは間違いなく人間だったんだよ、それが目が覚めたらこんなことになってたんだって)
シアは頭に疑問符を浮かべているが、それも無理からぬことだろう。当の武蔵でさえ、自分のことでなければ『朝起きたらち×ぽになってた』なんて、正気を疑わずにはいられない。
しかし自分の身に起きた事である以上事実であることに変わりはなく――かといってなんと説明したものかと武蔵が考えあぐねていると、執事服の少女が横から口を挟んだ。
「聞こえた範囲のことからの予想になるのですが、召喚された際に転生した、という可能性があるのではないかと」
「そんなことがあるのですか?」
「確か……実例は少ないですが、過去にも召喚対象の魂だけが召喚されて、別の生き物に宿ったという話があったような……」
(!? 待て待て待て! だとすると何だ? 俺は死んでこのち×ぽになったと!? ――って、声が出せないから伝わらないのか。この身体の……えっと、名前は?)
「そうでした、まだ名乗っていませんでしたね、私はシェリア・エステル・バーシュホート、長いのでシアとお呼びください。それから彼女は私の従者でリズという名前です」
(了解。それじゃあシア、リズとの通訳を頼めるか?)
シアが頷いてリズにムサシの言葉を伝えると、彼女は少し言い辛そうに眉根を寄せる。
「残念ですが、ボクもはっきりと知っている訳ではありませんので。そもそも実例といっても、半ば伝説や伝承みたいなものなので。ただ……一般論として魂が失われた肉体が長期間生存するというのは難しいのではないかと……」
(マジか……)
突然宣告された自分の死に、ムサシは愕然とする。
「そんな……!? すいません、ムサシ様……私が召喚してしまったばかりに……ごめんなさい……!」
シアの悲痛さすら感じさせる申し訳なさそうな謝罪も、呆然とするムサシにはどこか遠くの出来事のように思われた。
(もう、あの漫画のオチもゲームのエンディングも見れないのか……)
そう意識すると、最近は惰性で追っていた作品ですらもっと真剣に読んでおけば良かったと思ってしまう。ましてや、ハマっていたものについては猶更だ。
けれど、逆に言えば心残りというべきものはそれぐらいなんだな、と武蔵は自嘲気味に小さく嗤う。
どうしてもやらなければならないことも、待たせている誰かもいない。
借り家で孤独死だからもしかしたら大家に迷惑はかけるかもしれないが……まあ預金から現状修復費は充分出せるだろうしそれで勘弁して貰いたい。
改めて元の世界に対する遺恨というべきものが殆どないと気付いた上で、改めて眼前の異世界へと意識を向ける。
俯きがちになったシアを心配そうに見つめるリズの頭。
先ほどは突然の状況に気付かなかったが、彼女の頭には黒いショートヘアーの間から、ぴょこぴょこと三角の毛玉が飛び出していた。
一見寝癖にも見えるそれはだが、先ほどからリズの感情に合わせて、反応豊かに動いているし、今なお時折周囲を警戒するように後ろへ前へと動いている。
どう考えてもナマの獣耳……もといケモミミだった。
先ほどシアが魔族だの召喚だの言っていたことも併せれば、ここが地球ではないと考える方が自然だろう。
異世界かつ、身体は死んでいる。とすれば、地球へと帰ることは難しいに違いない。
それに元々、漫画やゲームを始めたのもクソみたいな現実からの逃避がきっかけで。
寂寥感が霧散するのに時間はさして必要なかった。
目の前にいるリズのような所謂獣人娘が、それも凛とした美少女がいる世界への異世界転生。
持て余した時間を過ごすうちにオタクへと堕ちていたムサシの中では既に、エルフや天使なんかといった種族がいるんじゃないだろうかという欲望が湧き上がっていた。
(もしそうなら……ぐへへ)
「? どうされましたか、ムサシ様?」
(おっと、ちょっと考えごとをしてただけだ)
「……何でしょうか、耳がぞわっとした気がするのですが」
種族的なものなのだろうか、感のいいリズには要注意だなと考えつつ。だが一番の問題が残ったままなことをムサシは思い出す。
(……そもそもなんだが、今の俺はこのち×ぽってことなんだろ? でもさっきの話だと、ち×ぽが単体で生きてるってことになっておかしくないか?)
「えっ? ち×ぽとは種族名ではないのですか?」
聞いてるこっちがちょっと怖くなるくらい性知識がないシアに、流石のムサシも少し引く。
(ま、まあ通常は体に付いてるものというか、生えてるものというか……)
「私にもリズにもありませんでしたけど、そういうものなのですね……てっきり、魔吸蟲のようにくっついているのかと……」
ムサシには当然魔吸蟲、という名前に聞き覚えはない。だが、名前からして寄生虫みたいな何かなんだろうな、そんなものと一緒にされるのは流石に……と苦言を呈そうとした時だった。
「それだ! それですよ姫様! 思い出しました、こいつが何なのか!」
先ほどから難しい顔でち×ぽを凝視していたリズが、大声とともに人差し指を突きつける。
「こいつ、寄生蟲です!」
「寄生、蟲……? 魔吸蟲のようなものでしょうか?」
(おいおい、なんだそのまんまな名前は)
突っ込みを入れるムサシと、まだ分かっていない様子のシア。そんな二人に対して、リズは先ほどまでと違った、嫌悪感すら混じった剣呑な視線をムサシに向けた。
「……魔吸蟲なんかとは比べ物にならないくらい質の悪い魔物です。魔吸蟲もくっついて魔力を吸い取る危険な生物ですが、こいつに至っては全て……それこそ魔力も、体力も、経験値まで吸い取る危険な生物です」
あれ、何か風向きが……何だか嫌な予感がし始めるムサシ。
「で、でも……ムサシ様を召喚した『導き手のタリスマン』は、お父様が私たちを助ける為に用意してくれたものですし、そんな害しかない存在が召喚されるわけが……そうです! きっとその分何かすごい力を持ってるんですよね……?」
(……お、おう。そうだよな? わざわざ異世界まで召喚されたんだ、特殊な能力の一つくらい――)
「――そして何より許しがたいのは、それだけ色々奪っておきながら、こいつ自体は戦うことも動くこともせず、繁殖行為以外何もしないということです」
嫌悪というよりも、軽蔑。ムサシを見下ろすリズの目は下手な刃物よりも鋭く、冷たい。
「…………」
今までムサシに敬意を払っていたシアも、何もかける言葉が思いつかないらしい。何ともいえない面持ちで、自らに寄生した彼を見下ろす。
だが、何より衝撃を受けたのは当の本人に他ならなかった。
(何だよ、何だよそれ……! そんなの異世界に来たのにあんまりだろおぉぉぉぉ!?)
折角の異世界転生に夢が広がりかけていたところだったのに、何も出来ないなど、そんなのあんまりだった。
仮に特殊な能力なんぞなくとも人間の姿のままだったら、まだ異種族美少女を探す旅に出るなんて希望もあったかもしれない。
だが、リズの説明からしてこの身体では自力で動くことすら碌にできそうもなかった。これからどうするか、ムサシが途方に暮れかけたところで――
「――と言う訳で姫様、さっさとこいつ切り落としちゃいまいましょう」
(!? いや待て待て待て待て待て待て待て!)
リズが懐から銀色に光るナイフを取り出し、未来へ向きかけた意識が強制的に引き戻される。明日以前に今がヤバい。
「リ、リズ?」
「姫様、怖いとは思いますが逃げないでください。さっきも言ったよう、そいつは姫様にくっついてる間、魔力や体力を吸う害虫です。早く始末しなければ」
思わず一歩下がったシアを追うように、ギラリとナイフを煌めかせて、二歩分リズが距離を詰める。
(いやー! やだー! 死にたくない、死にたくなーい!)
「そ、そうなのかも知れませんけど、ムサシ様は私の勝手で召喚してしまったんです。なのに、殺してしまうというのは余りに残酷ではありませんか?」
(そ、そうだそうだー! 召喚したんだから最後まで責任持てー! ペットの飼い捨てはんたーい!)
「……姫様がお優しいのは存じてますが、現状ボクらにも余裕がある訳ではありませんから」
そう言ってリズはがしっ、と肉棒を空いた片手で捕まえる。
「……っ!」
(うッ――!)
「大丈夫です。寄生された所近くで切り落とせば、そのままくっついていられなくなって分離しますので。姫様を傷つけることはありません」
肉茎へと近づくナイフはゆっくりと、だが躊躇はない。
このままだと冗談抜きで死ぬ。
極限状況にムサシの思考は全力で駆け巡り――そして閃いた。
(! シア、リズに聞いてくれ! ち×ぽにも感覚があるんだけどこのまま切り落としたらマズくないかって!)
「え、あ、はい! リズ、やっぱりちょっと待ってください!」
主の言葉である以上無視することもできず。訝しげな表情で動きを止めたリズだったが、シアの話を聞いた瞬間に顔色を変えた。
「ま、まさか姫様……こいつと話せるだけでなく、感覚まで共有させられてるんですか!?」
「はい……先ほどリズに触られた時も、不思議な感覚がして……」
「そんな話聞いたことも……だけどさっきのシア様の反応は……いやそもそも魔物がここまで高度な思考ができること自体……」
思わず考え込む従者に対して、ムサシの声を代弁してシアが続ける。
「ムサシ様によると、動けはしなくとも考えることは出来るし、知識で助けることはできるかもしれない、と」