転生したら寄生生物なんですけど!? というかち×ぽなんですけど! 作:真喜屋五木路
「言われた通り捕まえたが……こいつでいいのか?」
数分後、背負っていた神官の少女をシアに預けて身軽さを取り戻したリズは、近くを飛び跳ねていたウサギ型の魔物を捕まえていた。
『ああ、そいつでいい。というか、こいつ近くで見ると結構ゴツい顔してるんだな』
「そうか? ボクは愛嬌がある顔だとおもうが。まあグラベル・ラビットは大人しい魔物とはいえ、追い詰められたら硬化したこの額で思いっきり突撃してくるからな」
リズと向かい合うように抱き上げられたウサギ型の魔物は、額がひびの入った石をくっつけたように飛び出しており、ムサシはフランケンシュタインを想像してしまう。
『……まあいいか、そのまま逃げないように地面に下ろしてくれないか』
「これでいいか?」
しゃがんで地面に下ろしたウサギを上から押さえつけるリズ。
『ああ、後はいいって言うまで絶対離すなよ』
近くにいる小型の魔物を捕まえて欲しいとしか聞かされていなかったリズは、ムサシにどうするつもりだと訊ねようとして、そこで股への違和感に背筋をぶるりと震わせた。
「っ、この感覚は……まさか」
ついこの間経験したばかりの股からずるりと何かが抜けていくような感覚。
何とも言い難く気持ち悪い感触に、危うく魔物から手を離しそうになったリズが慌てて力を入れなおしていると、案の定ズボンの裾からぼとりとち×ぽが落ちてきた。
「ムサシ、頼むからそれをするなら先に言ってくれ。いきなりやられると鳥肌が……いや、多分言われてても気持ち悪いと思うが」
『おっとすまん。次からは一声かけるようにする』
そう言いながら尺取り虫みたくうにうにと蠢くち×ぽ。
(……落ち着いた状態で見ると滅茶苦茶気持ち悪いな)
その様子を眺めながらそんなことを思っていたリズだったが、すぐにそれがまだマシな光景だということを思い知ることになった。
『よっと』
気楽な掛け声とともにウサギ型魔物の近くを這っていた寄生虫が、その口内に飛び込んだのだ。
ぷぃーっ⁉ とウサギ型魔物も突然の事態に悲鳴じみた鳴き声を上げる。
「ちょっ……⁉ ムサシ、おまっ……何して……っ!!」
リズの驚きの声など意に介した風もなく、寄生虫はそのまま哀れにも鳴き声を上げるウサギの口内をぐねぐねと蹂躙する。
傍から見ているリズには、愛嬌のある小動物が触手に襲われているようにしか見えない。
しかも自分もウサギ型魔物が逃げられないようにして、この惨状に加担してしまっているのだ。
リズがそんな罪悪感にいっそ逃がしてしまうか葛藤しているうちに、ウサギの抵抗も虚しく寄生虫全体がウサギの中に潜り込んでいき――
『――よし、いけるな。リズ、手離していいぞ』
バタバタと抵抗していたウサギ型魔物が大人しくなると同時、ムサシの『念話』が聞こえてくる。
リズもそれでムサシがウサギに寄生したかったんだろうということは分かったが、それにしても。
「……ムサシ、お前どんどんヤバい生き物になってないか……? そんな物理的手段で寄生する寄生蟲とか聞いたことがないんだが」
手を離すと同時、全力で顔を引いて距離を離すリズ。勿論精神的にも絶賛ドン引きである。
『ああ、ちょっとゴブリンに寄生するとき、『寄生』のレベルを上げたついでにできるようになったから、一度試しておきたくてな』
「……絶対その方法、姫様やボクに使うなよ! いいか、絶対だからな!?」
『……それは使えっていうフリか?』
「違う! 何でそうなる!?」
『や、俺がいたところではそう言われたらむしろやらないといけない的なのがあったからさ』
冗談交じりなムサシの返しに、リズは獣耳の先の毛まで逆立てて拳を握りこんだ。
「やっぱり姫様の為にもここで始末しておいた方が……」
『わー! 待て待て、冗談だって! 今はまだ仲間みたいなもんなんだから勘弁してくれ』
「全くお前は……」
呆れたように溜息をつきつつも、漸くムサシといつも通りな会話ができたことにリズは安堵しかけて。だが、彼の発言に引っかかりを覚える。
「……”今はまだ”っていうことは、やっぱりこのダンジョンを出たらそこで分かれるつもりなのか?」
『……ああ、まあな』
再び沈黙が二人の間に降りる。
『さっきも少し話したが、シアが進もうとしてるのは茨の道だ。それが分かって付き合えるほど俺はお人好しじゃないからな。……リズも止める気はないんだろ』
「……ああ、ボクは姫様が向かう先に添うだけだ」
シアの想いを知っているリズにはそれ以外の選択肢はなかった。ムサシもそのことは分かった上で一応言ってみただけなのだろう。
『だろうな』
軽く笑うようにそう答えて、それからムサシは寄生したウサギの体でダンジョンの外方向へと飛び跳ね始めた。
『ま、俺も想定してたのとは違うが、短時間なら独立で生存できるようにもなったし、あんまり別れ際に迷惑をかけるつもりはないさ。んじゃ、ちょっと見てくるからシアと待っててくれ』
「……分かったよ」
――――――
「――という訳で、やはりムサシはこのダンジョンを出たらそこで分かれるつもりのようです」
「なるほど、ムサシ様はそのようなことを……」
シアの元に戻ったリズがムサシとのやり取りを伝えると、シアは少し寂し気に目を細めた。
「……やはり姫様も、寂しいとお思いに?」
「リズこそ”姫様も”なんて言うということは、寂しいんですか? 最初はあんなに警戒してたのに」
「いえまあ、確かに最初は驚きましたし、とんでもないしロクでもない奴だと……いやそれは今も変わりませんけれど」
主に悪戯っぽく質問を質問で返され、少し慌てながら答えていた従者はそこで一呼吸置いて、微笑む。
「ただ、根っからの悪い奴ではなさそうなのは確かなので」
「そうですね、先ほどの話を聞くに私が人間を助けるのに反対していたのも、やはり私達を案じてというのが主な理由のようですし」
「まあ、そのために姫様をゴブリンに襲わせたのは許せませんけど」
「私はもう気にしていないから、リズが怒ることはないんですよ? 確かにあれがムサシ様によるものだと分かるまでは怖かったですが、こうして思い出してみるとムサシ様も必死にゴブリンの真似をしていたのだなと少し可笑しくすらありますし」
くすくすと笑う主に、度量が深いと感心するべきか、性的なことについてもう少し教えた方がいいのか……と、葛藤するリズ。
「しかし、何にせよ姫様がそう仰られるのであれば……ムサシが帰ってきたらもう一度ついて来るつもりはないか説得してみましょうか?」
「……いえ、ムサシ様は召喚してからここに来るまで十二分に助けて貰いました。それに、確かに私が行こうとしているのは平坦な道でもありません。本人にそのつもりがないのに、これ以上付き合わせる訳にもいきませんから」
口角は上げているものの、遠くを見るように寂しそうな目をするシアに、リズは主ももう別れを覚悟しているのだろうと理解した。
「……そうですね」
『何だ二人してしんみりして、景気の悪い話でもしてたか?』
話に丁度区切りがついたとこにムサシが戻ってきて、リズは慌てて両手を振る。
「いや、大した事じゃないさ。ただここを出たらどうしたものかな、と少しな」
『あー、まぁここから出ても追われてることに変わりはないんだしな……』
都合よく解釈したムサシは、寄生したウサギの姿で人間臭く、うんうんと頷いてから話し始めた。
『ただ、朗報と言えるかは微妙なところだが、一応出口の外に魔族はいなかったぞ』
「本当ですか?」
『ああ。まあ魔族がどんな感じかは分からないが、少なくとも人の姿したのはいなかったな。大体ここら辺にいる魔物みたいなのばっかりだ』
「そうか、それなら一先ずは安心か。助かる、ムサシ」
「ええ、ありがとうございますムサシ様」
笑みを浮かべて礼を口にする二人に対し、ムサシは気まずげに首を捻って視線を逸らす。
『いや、元は俺が勝手に警戒してただけだからな……礼を言われる資格はないというか、むしろ変に不安を煽って悪かったな』
「いえ、確かに私も出口に到着したことで気が緩んでしまっていたのは事実ですから」
「それに結局は杞憂だったんだろ? ならそれに越したことはないんだ、気にするなよ」
『……まあ二人がそう言うなら、そういうことにさせてもらうか。よし、それじゃあさっさと外に出ようぜ』
フォローされたのが照れ臭かったのか、二人の先に立って出口に向かって跳ねていくムサシ。
「あ、おい! ……まったく、そんな急がなくてもいいだろうに」
「ふふ、もしかしたら案外ムサシ様も外に出れることで舞い上がっているのかも知れませんね」
その後をシア、そして神官の少女を背負いなおしたリズも追って出口へ向かい――
――ダンジョンを出た瞬間、視界が開け、二人の頭上に久しぶりの青空が広がる。
時刻は昼頃のようで、太陽の光が木々の葉に当たってキラキラと翡翠色に輝いていた。
薄暗いダンジョンから漸く脱出できたことを、目を細めて実感するシアとリズ。
そのことを感じさせるのは視界だけでない。
周囲の森からは小鳥のさえずる声が聞こえ、頬を撫でる風もさらりとしていて、そしてむっとするほど甘ったるい香りが鼻孔に広がる。
「……何だ、この匂いは」
「この匂い、どこかで嗅いだような……?」
新緑に包まれた森の中で、明らかにそれだけ異質な匂い。
何かがおかしい。そう思い至ったのと、シアたちを取り囲むように木立の影から大柄な体躯の人影が現れたのはほぼ同時であった。
現れたのは浅黒い肌に、脚も腕も胴も太く、でっぷりとした体型に上等な揃いの鎧を着込んだ文字通りの重戦士。
ただし、その鎧に乗った顔は人とは似ても似つかない豚のもので、彼らが人族ではないのは明らかだった。
「なッ、ダークオークだと⁉ 何で魔族が……⁈」
ムサシはさっき人影などないと言っていたはず。にも関わらず突如現れ、完全に自分たちを包囲したダークオークたちに、シアもリズも動揺を隠せない。
その間に二人を囲んでいたダークオークたちの一角が割れ、そこから一際大きな豚面が現れた。
他のダークオークと違い、鎧ではなくやたらと高そうなタキシードと金縁のモノクルを身に着けたその魔族は、そんな服装と不釣り合いないやらしい笑みをにたりと浮かべて、わざとらしい程うやうやしくシアにお辞儀をする。
「ブヒッ! お久しぶりでございます、シェシア姫。そのようなお顔をなされて……それでこそ直々にお迎えに上がった甲斐があるというものです」
「あなたは、ランドレース大公爵……。六魔族のあなたが、なぜここに……」
「……ッ! おい、どういうことだムサシ! 外に魔族はいないって……」
主の言葉で漸く正気を取り戻した従者がそう喰ってかかろうとするも、気付けばウサギ型魔物の姿はどこにもなく、答える『念話』の声もない。
代わりに、リズの耳元で声が囁かれた。
「悪いな、シア、リズ。だけど言ったろ? ダンジョンを出たら別行動だって」
そう言って、リズに背負われていた女神官――否、彼女に寄生したムサシは薄い笑みを浮かべた。
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