転生したら寄生生物なんですけど!? というかち×ぽなんですけど! 作:真喜屋五木路
「しッ――はッ!」
シアは豚騎士が振り下ろした斧槍を、頭上で斜めに構えた大剣で受け流し、入れ違いに袈裟懸けの一閃を放つ。
しかしオークも近衛騎士というだけはあってか、その攻撃を予想していたように半歩下がって盾を素早く構え――金属の削れる不快な削岩音が、ビリビリと木々の葉を震わせる。
「くっ、浅い……!」
「ブヒッ、甘いナ!」
柄を握りなおして衝撃の余波を逃すシアの背後では、リズがまた別のオークと対峙していてた。
「どうしたどうしタ! やはり所詮はその程度か、変異種ッ!」
リズの素早い動きに対応する為か、斧槍は地面に刺して腰の手斧を抜いたオークは、見た目にそぐわぬ軽快な足さばきと共に乱撃を繰り出す。
「――ッ、『ロックスキン』!」
リズはスキルにより自分の体を硬化するが、それでもオークの体重が乗った斬撃を正面から受ければ良くて骨折、悪くて両断。斧の側面へ打撃を与え、軌道を逸らして防御するしかない。
一応防戦一方と言う訳でもなく、攻撃の隙間を狙って鎧越しに打撃を浴びせてもいるのだが、
「おっ……と、何ダ? 今のが攻撃カ?」
「ちッ……ダメか……!」
元々リズはシアを護るため防御系のスキルを中心に取っていることもあり、重厚な金属鎧と厚いオークの皮下脂肪に衝撃を完全に殺されてしまっていた。
二人とも巧みに攻撃をいなし、しかし有効打にも欠け――互いに攻めあぐねる形での拮抗した戦闘を演じているように一見すれば見える。
だが実際にはそうでない。
リズは目の前に立つ豚騎士から焦点を外さないよう、周囲に意識を向けた。二人を囲むオーク達はまるで観劇でもするかのように、にやつく笑みを浮かべて戦いの趨勢を見守っている。
(くそッ、本当に戦うのではなくいたぶってるつもりか……!)
そう、一対一で同格なのだ。本当に二人を倒したいだけなら、周囲を囲むオーク達全員でかかれば勝負は一瞬でつくだろう。
にも拘らずオーク達の中には武器から手を離し、腕組みをしている者までいて、全員で戦おうという意思はまるでなさそうだった。
リズはギリリと奥歯を噛む。遊ばれているのは分かっているが、だからといってそれを指摘し、ならばと本当に全員で来られたら終わりである。悔しさは苦さとなって喉を落ちる。
(ボクにもう少し力があれば、姫様が有効打を放つまでの時間を稼げるのに……!)
主の大剣から繰り出される一撃が例えスキルに依らなくとも有効なのは、一体倒せたことからも間違いない。
その代わり多少なりとも隙が大きいことに違いはなく、本来ならリズがその隙をカバーする役割を引き受けていた。
今も可能ならば主の援護に向かおうとしていたリズであったが――
「――ほら、何をぼーっとしてル!?」
「ぐッ――!」
斧が肩口を狙って下から跳ね上げられ、リズは問答無用で目の前の対処に引き戻される。
二人の連携は完全に分断され、戦闘の支配権はオーク達が握っているのが現実だった。
何とかしなければ消耗させられるだけ。二人の焦りが大きくなり始めたところで、がさりと近くの茂みが震える。
「「――――っ!」」
二人は新手を警戒して反射的に意識をそちらに向け、現れたのが先程少女を追っていたオークであること、そしてその肩に力なく四肢を垂らした神官の少女が担がれているのが目に入った。
背を上に担がれているので顔は見えないが、慣性に従って揺れるだけの手足を見るに、意識があるとは思えない。
無論ランドレースも、ポケットから取り出したスキットルの酒を煽る手を止め、戻ってきたオークへにたりと白い牙を見せつける。
「ブヒヒ、早かったな。もう壊れたか?」
「いえ、それが寄生蟲に寄生されてたからか知りませんが、まだ壊れとりませン」
「ほぅ?」
「その癖穴っぽこは小っさいまんまでして、これがどうしてなかなカ……」
と、そこで戻ってきたダークオークは、顔を怒りに歪めるシアとリズをちらりと一瞥して昏い笑みを口に浮かべた。
「……そこで恐れながら、自分一人で壊すまで使うより他の者にも使わせた方がいいと愚考しましテ」
その視線の意味を分からないランドレースではない。
「ブヒヒッ、面白い余興を考えるではないか。よし、では今戦ってる二人はこちらに来い」
その言葉に二人と対峙していたオーク達はにたりとした顔で距離をとる。
「待ちなさいッ!」
当然シアは行かせるものかとばかりに前進しようとするが、入れ替わる様にすぐさま別の豚騎士が構える斧槍が行く手を遮った。
「おっト、姫様をここから出す訳にはいかねぇんデ」
「――くっ」
仮にもランドレースの親衛隊ということだろう。オーク達はいつの間にか包囲の輪を縮め人数が欠けてできた隙を埋めていて、強行突破もできそうにはない。
包囲の輪の中で唇を噛むシアの目の前で、さっきまで戦っていたオークが悠々と神官の少女を受け取って担ぐ。
「ブヒヒッ、どんな気分ですかなシェシア姫? もし姫があやつを倒せていれば少しはあのメスも休めていたでしょうになぁ?」
露骨なランドレースによる煽り。
だが煽りと分かって尚、シアは大剣を握る手に力を籠めて一歩踏み込む。
「はぁああぁああぁぁ――ッ! 『スラッシュ』!」
大剣が銀の帯となって天からオークの頭に叩きつけられ――
ギイイィィィ……ン、と鐘を鶴嘴で力任せにぶっ叩いたような音と共に、間一髪間に合った大楯を押し返す。
「むゥ――ッ!?」
想定以上の衝撃にオークの腕がブルブルと戦慄き、出っ張った鼻っ面ギリギリまで大楯が押し返された。
が、あと一歩という所で力は拮抗し、とうとう大楯に大剣を押し返される。
「ふウ……危ねえ危ねエ。危うく死んじまうとこだっタ」
「これでも、まだ足りない……っ」
大楯には中心線が深く刻まれたが、オークは無傷。
これ以上のスキルを使うには今のシアには準備時間が――つまりリズの援護が必要で。
「ごめんなさいリズ、無茶を言います。何とかこちらの援護をお願いします」
「了解しました姫様……ただし少し時間を頂きたく」
従者は当たり前のように承諾して、目の前のオークを睨みつけた。
そんな二人の様子を、ランドレースはスキットルから酒を煽りながら小声で嗤う。
「ブヒヒッ、やはりやる気を出してくれた方が見ごたえがありますな。……それに、その方が回りも早くなるでしょうしね」
先ほどまでより攻撃的に、激しく戦う二人にはもう、相変わらず漂う甘ったるい香りを気にする余裕などなかった。
――――――
茂みの奥に消えたオークが戻ってくるのを見るのはもう何回目だろう。
「ちっ、やっぱり頑丈っても人族は人族だナ。流石にもうケツ穴もガバガバで時間がかかっちまっタ」
戻ってきたオークは、シアとリズへ聞こかせるようにわざとらしい大声でそう口にする。
「はッ、はッ、はッ…………」
だが、もはや二人ともそれに答えることも眉を顰めることもできる状態ではなく、ただ荒い息をつくだけで精一杯だった。
シアの握る大剣の先は隠しきれない疲労を拾ってカタカタと震えているし、リズもファイティングポーズを構え続けることができず、拳が下に下がってしまっている。
最早半ば気持ちだけで立っている状態の二人に、ランドレースが現実を突きつけた。
「ブヒヒッ……どうやらこれで一周したようです。結局、一人も倒すことはできませんでしたなぁ」
「――っ!?」
そう言われて、二人は漸くその事実を認識する。種族の異なる二人には豚騎士の顔の区別がつきづらかったというのもあるが、それ以上に疲労で認識力が下がっていたのだ。
「恐らくもうあの人族も寄生蟲も駄目でしょうな」
神官の少女はもう暫く戻ってきていないし、ムサシの『念話』も途絶えたままで。そんなことはないと思おうとするシアだったが、ランドレースのその言葉はじわじわと心に染み込み、心を絶望に染めていく。
そしてとうとう、かくん――と、気持ちだけで立っていたシアの脚から不意に力が抜け、たたらを踏むことすらできず地面に膝をついてしまった。
(ダメ……っ! ここで、倒れる……訳にはッ!)
自分を叱咤激励し、地面に刺さった大剣を杖代わりに立ち上がろうと力を入れるものの。一度崩れてしまった脚は膝が笑ってしまっているし、何度も大楯という鉄の塊と全力で打ち合ったせいか手の感覚はおぼろげで。
(動いて……っ、動きなさいっ、動けっ……! 動けッ!)
どれだけ心中で慟哭しても、身体は他人のもののように全く言うことを聞いてくれなかった。
連戦による疲労――だけではない。
戦闘中から感じていた違和感。その正体に、身体が動かなくなって漸くシアは気付く。
(動かない、のに……! 何でこんなに感覚だけ敏感に……)
体表を流れ落ちる汗、地面についた膝を刺す小石、そして握り慣れたはずの大剣の柄の凹凸……全ての感覚が奇妙なまでに生々しく、脳へと直接突き刺さる様に送られてくる。
まるで全身の神経の先が開ききっているかのようなまでの鋭敏さ。
そしてもう一つ、それらの感触と同時に覚えのある感覚がシアを襲っていた。
(なに、これ……気持ち、いい……?)
意識をした瞬間、動かないはずの全身がぞわりと粟立つように戦慄く。
「――~ッ♡」
そんな風に望まぬ快感を必死に押し殺そうとするシアの様子に、ランドレースは大きな鼻でも隠せない程大きく口をニヤリと歪めた。
「ぶひひッ、思っていたより時間はかかりましたが、効いてきたようですな」
「なにッ……を……っ♡」
「分かりませんか? ああ……、未通娘のシェシア様には難しかったですかな。催淫香ですよ、我ら秘伝のね」
「さい、いん……?」
「そうですな……姫様にも分かるように言うなら、マンイーターの粘液を加工して作った、メスを我々の使いやすいようにさせるためのものですよ」
催淫の意味は分からなくとも、マンイーターの名前でシアもこれがどういうものなのかを理解する。そして、それがどれだけの効果を発揮するかはシア自身が一番覚えていた。
下腹の奥から、沸き立つような疼きが全身を熱く、切なく痺れさせる。
(駄目、立た……ないと……っ)
そう思っても、蔦のようにしつこく這い上がってくる快感が身体を縛り付けていて。動けないままただただ吐息だけが熱くなっていく。
それでも尚、催淫香に意思だけで抵抗を続けるシアの背後で、どさりと何か倒れる音がした。
「り、ず……?」
息に纏わりつく熱を噛み殺し、首だけで後ろを振り返るシアの視界に、地面に頽れるリズの後姿が映る。
主と同じように荒い息をなんとか吐き出す従者は、地面に投げ出され脚から耳先までを小さく戦慄かせ、倒れそうな上体をなんとか両手で支えるのがやっとという様子で。
「すい……ませ……姫、さま……っ」
半ば朦朧としたような途切れ途切れの言葉からは、自分と同様に疼きと熱を抑え込んでいるだろうことが容易に予想がつく。
否、もしかしたら一度経験して耐性がある自分以上のものと戦っているのかもしれない。
なんにせよ、シアだけでなくリズも最早まともに動ける状態ではないのは明らかで。
状況は最悪だった。
そんな二人の様子を確認し、ランドレースは豚鼻に深い皺が浮かぶほどの笑みを浮かべ、シアの元へとゆったりと歩き始める。
「さて、これでそろそろ姫様も身に沁みてお分かりになったでしょう。メスが抵抗したところで無駄だということが」
「……っ」
そしてシアの前で屈みこむと、顔に息が吹きかかるほど鼻っ柱を近付けた。
香水なのか妙に清涼感のある鼻息がシアの頬を撫で、ぞわりとそこから熱が広がる。
(こんな、ことで……っ♡)
目の前にいるのが父の仇だというのに、それすら受け入れようと疼きを増す下腹に力を籠めて震えるシア。
いうことを聞かない身体が憎い――だが。
(今なら……この距離なら……!)
そう、ランドレースの顔が近くにあるということは、大剣の間近にその首があるということに他ならない。
ランドレースが他のダークオークより強いとしても、鎧を着ている訳でも、大楯を持っている訳でもなく、弱点である首は無防備に晒されている。
ならばそこに一太刀加えることができれば――。
微かな、だが絶望的な中に差し込んだ一筋の希望に、シアの両手の震えが一瞬止まった。
「……っ、はああぁあぁあぁぁッ!」
魂の叫びと共にザンッ、と地面に突き刺さった大剣が小石を跳ね上げ宙を舞い、ランドレースの首へと吸い込まれる。
――が。
「……ぶひっ、ぶひひひひッ! 驚いた……いえ、驚きましたぞシェシア姫。まさか催淫香に侵されながらこれほどの力を残していたとは」
ランドレースが笑った瞬間、首に喰い込んだはずの刃がぶよん、と押し返され、今度こそ全ての力を使い切ったシアの手から大剣が零れ落ちる。
「ぁ……?」
ガラン、と転がる大剣の隣に倒れるシアには、何が起こったのか分からなかった。
「残念でしたな。もしや鎧をつけていないからと思ったのやもしれませんが、私にとってはスキルすら使用していないただの剣戟などそよ風も同じ。六魔族が一人『鋼鉄のランドレース』に鎧など不要なのですよ」
立ち上がったランドレースは、顔を上げる力も残っていないシアを見下し、髪の毛を整えるように斬られた首筋を撫でる。
そこには一筋の血どころか、痣すら残っていない。
「そん……な……」
「魔王の娘とはいえ、流石に私の渾名までは知らなかったようですな。しかし焦りましたぞ、もし今のがシェシア姫でなく魔王様の一撃であれば、流石の私も死んでいたでしょうからな」
それはランドレースによる覆しようのない絶対的な勝利宣言で、シアには今度こそそれを黙って聞く以外にできることなどなかった。
「……ですが結果としてできなかったとはいえ、夫を傷つけようとする家畜、もとい嫁というのは許されませんな。罰を与えませんと」
そう言うとランドレースはシアの手首を捕まえると、操り人形のように無理矢理立たせて後ろを向かせる。
それだけでもシアの身体には手首から電流を流されたように快感が走り抜け、甘い吐息が口から零れた。
「あッ……♡ んんッ♡ なに、を……」
自分の身体が恐ろしい程鋭敏になっていることを改めて思い知らされ、これから何をされるのかという不安と、何をされても感じてしまうのだろうという恐怖がシアの頭を過る。
が、悪辣なランドレースの罰はシアの想像を軽く飛び越えてきた。
「ぶひひっ、安心してください。罰といってもシェシア姫は嫁ですからな、そこまで酷いことはしませんよ。シェシア姫には、ね」
シアにそう言って、ランドレースはダークオーク達に視線を移す。
「お前たち、そこで転がっている変異種を徹底的に犯しつくしなさい」
「な……っ!?」
シアは一瞬絶句したものの、オーク達がにやつきながらリズに向かって近づいて来るのを見て、必死に言葉を紡ぐ。
「ッ……罰なら、私が……!」
「おやおやシェシア姫、罰を本人が選ぶなど、そのようなこと許されるはずがないでしょう?」
「でも、リズは……かんけい、なぃ……」
「ぶひひっ、だからこそですよ。これだけ催淫香を嗅いでなお動けるほど精神力を持っている姫にとっては、自分へ何かされるよりこちらの方がよっぽど罰になるでしょうからな」
「そん、な……っ」
シアの顔から急速に血の気が引いて、媚毒で火照っているはずの頬が氷のように冷たく感じた。
もうシアにはリズが逃げてくれるのを祈るしかなかい。
だが、リズも催淫香に蝕まれて身体は微塵も言うことを聞かず、小さく戦慄きながら肩で息をすることしかできなくて。
――もう二人にこれ以上打てる手はなかった。
そのことを理解して絶望しきったシアの表情を見て、ランドレースは決着がついたことを確信し、満足そうに豚騎士たちに念押しする。
「ああ、言うまでもないですが遠慮はいりませんよ、壊すのが目的ですからな」
その言葉に、リズの目の前まで近づいていたオークがニヤリと嗤って答える。
「ええ、分かってます。遠慮なんかするつもりはありませんよ」
そしてオークはそのまま手を伸ばし――
――リズの後ろに立つランドレースの手首を掴んだ。