転生したら寄生生物なんですけど!? というかち×ぽなんですけど! 作:真喜屋五木路
「む……? 何のつもり……ッ!?」
想定外な部下の行動にランドレースが一瞬困惑したその隙をついて、背後に近づいていた別のオークがランドレースの拘束を外してシアを奪い取った。
「貴様……! 自分が何してるのか分かってるのかッ!」
状況の理解が追い付き困惑が怒りに変わる。腕を振り掴んできていたオークの手を振りほどき、ランドレースが吼えた。が、手を振り払われたオークはその怒りを真正面から受けながら、対照的に不敵な笑みを浮かべた。
「分かってるさ。嫁の意味すらろくに解ってない空っぽ頭に、ブタに真珠って言葉を教えてやろうと思ってな」
「なんだとッ!」
露骨な挑発、だがそれが自分の部下によるものとあっては、ランドレースも一笑に伏すことはできない。首筋に血管が浮かび、ブチリとシャツの首ボタンが悲鳴を上げてはじけ飛んだ。
そんなランドレースの様子を後ろ目に、シアを助け出したオークはにやりと笑う。
「おー怖い怖い。……悪いなシア、騙すことになってしまって」
その馴れ馴れしい話し方にシアは一瞬呆気にとられたものの、自分にこんな口調で話す相手など一人しか知らない。
「もしかして……ムサシ、様?」
「おう、というかこの状況で俺以外がこんな行動してたらヤバいだろ」
隣に視線を向ければ、リズも同様に別のオークが抱きかかえてランドレースから距離を取っている。
それだけでなく、二人を囲んでいるオーク達も手にした武器をランドレースに向けていた。
シアを抱きかかえたダークオークは、口角の片方をニッとあげて不敵にランドレースを肩越しに見遣る。
「――まあ、折角演技とはいえ寝返って従うっていったのに、その場で即座に切り捨てるような奴だ。普段の言動で部下から恨まれててもおかしくはないかもな?」
その発言で、ランドレースもこの事態を引き起こしている相手が誰なのか理解する。
「クソッ⁉ 馬鹿な……! 寄生蟲如き下等な魔物に、魔族へと昇格した我が一族が……それも最も精強な近衛騎士が寄生され、その上支配までされるなど……ッ!?」
纏わりついてくる元部下を振り払おうとするランドレースだが、シアとリズを抱えた二体以外のオークが軒並みしがみついてきて、まともに行動がとれない。
そんな姿を見下ろすように立ち上がったムサシは、悠々と種明かしをする。
「普通はそうなのかもな、俺も詳しくはないが本来寄生蟲は弱い魔物とかに寄生するんだろ? だったら強い魔物を倒すこともできないし、碌に経験値もレベルも溜まらない。……そう、寄生蟲をわざわざ寄生させて、しかも経験値まで融通してくれるお人好しがいない限りな」
「なッ……!? 一体どこのバカがそのような……まさかッ?!」
ランドレースの驚愕に見開かれた眼がシアを捉える。
「ああ、あんたが思ってる通りさ。お陰で魔族相手にも効くレベルまで寄生スキルと支配スキルを上げられたってわけだ。まあ支配の方はスキルポイントギリギリで、群体には簡単な命令ができる程度だけどな」
「この……ッ、寄生蟲風情が……! 我が配下を支配したばかりか、我が嫁まで汚しおって、ふざけるなッ!」
ランドレースは表情を驚きから怒りに変えて、シアを抱くムサシの方に詰め寄ろうとする。だが、豚騎士達のスクラムに阻まれて前へ進めない。
その様子に勝負は決まったものと、ムサシは不敵な笑みを浮かべて言い放つ。
「おいおい、既に嫁扱いとか気が早すぎるんじゃないか? というかお前みたいな後ろで指示してるだけの、顔から体までぶよぶよの豚なんかがシアを嫁にしようだなんて、思い上がりもいいところだろ」
今までの意趣返しも込められた煽りに、ランドレースの動きがピタリと止まった。
「……こちらが丁寧に振舞ってやれば調子にのりよって……もういい、行儀のいい振りはおしまいだッ!」
「なんだ、もしかして豚らしく四足歩行でも――」
と、ムサシが軽口で更に煽ろうとした瞬間、ランドレースの着ていたタキシードが内側から風船のように膨れ上がり、バリリリッ! と弾け飛んだ。その様はまるで某世紀末で一子相伝の暗殺拳を伝承した者の如く。
勿論、服の下から現れたのも同じように血管がビキビキと浮いた筋骨隆々の肉体で。
「――は?」
先ほどまでランドレースを背丈が高いだけで、豚のように脂肪だらけのだらしない肉体だと思い込んでいたムサシはその変貌ぶりに絶句する。
だが、そもそも豚の体脂肪率は家畜化されたものでも十五パーセント以下。野生化したものだと十パーセント以下という筋肉の塊なのである。
ましてや、魔族化した上でその長を務めるランドレースがたるんだ肉体な訳がなかった。
「がぁッ!」
本気を出したランドレースは吼えると共に、今まで彼を押しとどめていたオーク達ごと前進を開始する。オーク達は未だランドレースにしがみつくようにして動きを止めようとしているが、それすら意に介さないとばかりに引きずられていた。
「ちょっ……!? 何で一対十で動けるんだよ!」
完全に勝負が決まっていたと思っていたムサシは慌てて手の空いているオーク達を突撃させる――が。
ギィィン、とオーク達が振り下ろした斧槍が四方からランドレースの頭部に直撃するも、まるで岩でも殴ったかのような音を立てて弾かれる。
「ふん、寄生蟲如きに支配されよって一族の面汚しがッ!」
どころか、逆に丸太のような腕の一薙ぎでオーク達の手から武器が弾き飛ばされ宙を舞う。
「くそッ、やっぱダメか!」
シアの剣が効かなかった時点で予想していたムサシは、オーク達に武器を捨てさせランドレースに取りつかせる。が、僅かに速度は下がったものの前進は止まらない。
「お前ら、邪魔だッ!」
しかも痺れを切らしたランドレースは纏わりつくオーク達を一人ずつ宙に放り飛ばし始めて、時間稼ぎにも限界があるだろうことは想像に難くなかった。
「仕方ない、この間に少しでも逃げるしか……!」
可能ならここで追手の一人を倒せればと思っていたムサシだが、そんなことを言ってられる状態ではなさそうだ。
だがムサシが背中を向けて逃げようとした瞬間、シアが腕の中から滑り降りた。
「おいシア! お前何やって――!?」
「ここで、ランドレースを倒します……!」
シアはそう言いながら地面に落ちた大剣を掴んで、ふらつきつつも構える。
「そんな状態で何言ってるんだ!? 親父さんの仇なのは分かるが、今は逃げてチャンスを伺った方がいいだろ!」
そう反論するムサシだったが、戦うつもりなのはシアだけではなかった。
「はぁっ……ランドレースは、執念深いことで有名だ。逃げても絶対に追って来る……ならここで戦った方がマシだ」
「くっ、リズまで……」
いつの間にかオークの腕から降りていたリズも、震える拳を握りこんでランドレースを睨みつけている。
「って言ってもシアの攻撃だって効かなかっただろ、勝算はあるのかよ」
「――私が使える中で一番強いスキルなら、ランドレースが相手でも倒せるはずです。だから、その間時間稼ぎをお願いします」
「畏まりました……っ!」
そう言って剣を構えたまま目を閉じて集中するシアと、ランドレースに向かって走り出すリズ。
一瞬無理にでも二人を抱きかかえて逃げようかと逡巡したムサシだったが、確かに逃げてる所を別々に背後から襲われるより、少しでも足止めできている今戦う方が勝算があるだろうと覚悟を決める。
「あー、くそ……分かった! 信じるからな、シア!」
そして自身もランドレースの方に突っ込みながら、森の中に向かって叫んだ。
「って訳だ! 協力する気があるなら、少しでも二人を回復させてやってくれ、アミラ!」
その声に応じて木の陰から神官の少女が姿を現す。
「わ、わかりました! リズさんから行きます! ”ヒール”! ”フィジカル・エンハンス”!」
少女が手を突き出しながら唱えると、リズの身体から疲労が和らぎ再び力を帯びる。
「お前は、意識が戻ったのか? それに、どうして魔族のボクに回復スキルを……」
思わぬ味方に驚くリズに、隣を走るムサシが説明する。
「二人が助けた後から念話で少しずつ話しかけてたんだよ。詳しくは省くが、少なくともシアとリズには味方してくれるだろうさ!」
「まさか、あの子を助けた後あまり喋らなかったのは……?」
「今はそれより、ランドレースの方に集中するぞ!」
さり気なくはぐらかしたムサシはランドレースに取りつき、巨体が前進するのを押し返し始めた。
「寄生蟲が! お前から潰してやる!」
「やらせるかッ!」
ランドレースは怒りを剥き出しにムサシに手を伸ばそうとするも、その腕をリズが横から蹴り上げて狙いをずらす。
「従者風情が、邪魔をするなぁッ!」
邪魔されたことでランドレースの敵意がリズに向くが、それ自体が彼女の狙いであった。
リズを捉えようとランドレースが腕を振り回すが、速度に勝るリズはそれを機敏に回避する。
「このッ、ちょこまかとッ!」
「おっと、こっちのことも忘れないでくれよ!」
そうしてランドレースの意識が逸れた時を狙って、ムサシを中心にオーク達が押し返し、とうとう僅かにランドレースが後退した。
「糞がッ――」
如何にランドレースといえど流石に二十を超えるオークにしがみつかれ、振り払おうとする手をリズに妨害されてはどうしようもなかった。
「ふざけるな、六魔族の私がッ! 弱小種と寄生蟲如きに……ッ!」
唯一自由に動かせる口でそう呪詛を吐くランドレースに対し、正面から押し返していたムサシが顔を上げてニヤリと口端を持ち上げる。
「おいおい、俺達だけに構って主役のことを忘れてないか?」
「はッ、シェシア姫が魔王の娘と言えど所詮は人間との混ざりもの、そんな牝一匹に負ける訳が――」
しかしランドレースのそんな余裕めかした言葉は、オーク達の向こうに立つシアが視界に入った瞬間途切れてしまう。
目を閉じて大剣を構えるシア、その身体をうっすらと光が帯びている。
魔力が溢れた際に見られる発光現象。
その輝きの強さ、魔力の密度は先代魔王の纏っていたそれにも匹敵する程で――ランドレースの頬を冷たい汗が伝う。
「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な……ッ! どうして人間との混ざりものが魔王に匹敵するほどの魔力をッ――!?」
シェシアをただ自分の血に箔をつけるためだけのもの、としか見ていなかったランドレースにとって完全に想定外の事態であった。
僅かな逡巡の後、前進から一転慌てて逃げようとするランドレースだが、それに気付いたムサシの支配するオーク達もすぐさま引き留めにかかる。
「おっと、行かせるかよ!」
「くそッ、離せ!」
「逃げようとしてるってことは、喰らったらヤバいんだろ? いけるぞ、シア!」
ムサシが叫ぶのとシアが目を開くのは同時だった。
「俺のことは構わず思いっきりやれ!」
シアは小さく頷き、ランドレースを睨みつける。
「『ロイヤル――」
魔力の光がシアの身体から天に向かって振り上げられた大剣へと流れ込み、眩いほどに白く輝いて――刹那、上段から残光を引きながら袈裟懸けに振り下ろされた。
「――ストレート・スラッシュ』!」
シアの叫びと共に振り下ろした大剣から巨大な白い光刃が放たれる。
切り裂かれた風が悲鳴を上げ、巻き込まれた木々が砕かれながら折り飛ばされ、にも関わらず勢いを増すかのような魔力の刃に、ランドレースは目を見開く。
「六魔族たる俺が、こんな、こんなッ――!?」
言い終わる前に光刃が纏わりつくオーク達諸共ランドレースを貫き、ランドレースの上半身がずるりと崩れ落ちた。
明日で一気に完結まで投稿するのでよろしくお願いします(多分4話)