転生したら寄生生物なんですけど!? というかち×ぽなんですけど! 作:真喜屋五木路
リズは苦虫を噛みつぶしたような顔で暫く考え、心底嫌そうに口を開いた。
「では一応確認しますが……そいつ、ムサシとやらはどういうスキルを持ってるんですか」
(スキル? ……TOEICとか柔道何段とかそういう……のではないよな、勿論)
「といっく……ジュウドウ……? というのは分かりませんが、スキルとは種族の特性や神々の加護、技術の研鑽で身に着ける能力のことです。自分の内側に意識を集中すると分かりませんか?」
(んな曖昧な…………って、あー、もしかして木みたいになってるやつか?)
半信半疑で試してみたムサシの意識に、文字の刻まれた木のようなものが思い浮かぶ。
「そうです、それはスキルツリーと呼ばれ、はっきりと見える部分が既に習得したスキルです」
言われてみれば、はっきりと見える部分は木というより切り株くらいなもので、途中で大きく二股に分かれた場所辺りから上の枝は、細かなディテールが透けて見える。
(ほーん……それじゃあぼやけたところのは?)
「そこは『可能性の枝』といわれ、経験値を消費することで新たに習得することが出来るスキルですね」
(はぁー……成程ゲームとかのスキルツリーって主人公たちにはこんな風に見えてたのか)
自分の体ながら、寄生するだけの癖にやたらスキルが多いなと思いつつスキルツリーを眺めていたムサシだったが、その視線がある一点で止まる。
そこにあったのは『魔人化』という名前のスキル。
(一つ聞きたいんだが『魔人化』ってどういうスキルなんだ? )
「『魔人化』は魔族や魔物にとっての進化ともいわれるスキルで、種族の枠を大きく超えた力を使えるようになると聞いたことがあります」
(種族の枠を超えた、ということは例えばヒト型になったりもできるのか?)
「直接見たことがあるわけではないですが、魔人化してヒト型になったスライムやブラッドベアの伝説がありますし、恐らくは。……もしかしてムサシ様は『魔人化』が使えるんですか?」
(期待させて悪いが、可能性の枝の先に見えるってだけだ。今はできない)
明るいシアの言葉で少し瞳に希望が戻っていたリズが、それを伝え聞いて再び項垂れる。
「……くッ、なんでよりによってこんな奴が召喚されてしまったんだ……。それより、今使えるスキルを早く教えろ」
(まあそんな慌てるなって)
ムサシは改めて、今まで可能な限り見ないようにしていた習得済みのスキルに意識を向けた。
寄生(LV.1経口感染)、吸収(LV.3体力、魔力、獲得経験値吸収)、繁殖(LV.MAX発情化、絶倫化)
……以上である。
ムサシから伝えられた二人の間に、先ほどよりも重苦しい空気が漂った。
「……姫様、やっぱりこいつここで切り落としましょう。大丈夫です、所詮こいつは姫様の体とは違うのですし、痛くないよう一瞬で切り落としますから」
「で、でも、少し経験値があれば『念話』なんてスキルも取れるらしいですよ?」
「言葉を介さず話せる『念話』は確かに便利でしょうね。話し相手が寄生蟲でさえなければ」
「他には、『群体化』なんてスキルもあるそうです! 増やした自分を全部自分の意志で動かせるとか」
「寄生する以外何もできない奴が増えた所で役立たずには変わらないでしょう」
「一押しは『支配』だそうですよ、LVによる制限はありますけど、寄生した相手の行動を操れるんだとか」
「姫様にそんな危険なものが寄生しているなんて、やはり今すぐにでも切り落とさなければなりませんね」
「それなら、『独立生存』スキルというものもあるんだそうです! 寄生してなくても、暫くは生存してしかも自力で動けるんだとか」
「そんなもの取られたら益々危険になりますね、やはり今すぐに始末しなければ」
シアの助けを借りて役に立つアピールをするムサシだが、執事服の従者はそれらを悉く一言で切り捨てる。
そしてとうとう切れるカードがなくなってしまったところで、リズが冷酷に言い放った。
「ムサシ、と言ったな。確かにお前をこんな形で召喚してしまったのは申し訳なく思う。だが、姫様にもボクにも余裕がないんだ。……恨むならボクを恨んでくれ。すまない」
許してくれとは言わないリズに、ムサシはこれ以上の説得は無駄だと悟る。
(……ああくそっ、まぁ元々死んでるように生きてるみたいなもんだったしな……しゃーないか)
碌な死に方はしないだろうと思っていたし……それがちょっと予想外の形で来ただけだ。
諦めて嘆息したムサシをだが、ぎゅっと小さな両手が握りしめた。
「んッ!」
「……姫様?」
股の肉棒を守る様に掴むシアに、リズが眉を寄せる。
「リズが私のことを考えてそう言ってくれているのは分かります。……ですが、やはり自分の都合で召喚したものを自分の都合で殺すなど、そのような筋の通らないことはできませんし、リズにもして欲しくありません」
「シア、様……」
怜悧に引き絞られていたリズの瞳が、苦し気に歪んだ。どんなに冷酷に振舞おうとしても主が主ならば従者も従者で。
「……そこまで姫様が言うのなら、ボクもその決断を支持します。ですが、目の前の状況は変わっていないのですから、それを何とかしなければボクたちもろとも、寄生していなければ生きれないそいつが死ぬのは変わりませんよ」
「分かっています」
覚悟の変わらない主の視線に、従者は諦めたようにナイフを懐の鞘へ戻した。
漸く空気が弛緩する。
(……なあ、何で助けてくれたんだ?)
二人のやり取りを聞いていたムサシはシアに訊ねる。
彼としてはもう、半ば生存を諦めていたのだが。
(俺がこういうのも何だが、正直役に立てるとは思わんぞ)
「それは関係ありません。あなたをこんな姿で召喚してしまったのは私なんですから。ムサシ様に私が恨まれることはあっても、その逆などあり得ません」
シアは申し訳なさそうにそう言い、肉棒となったムサシを撫でる。その手つきは嫌悪感などまるでなく、慈しむようですらあり。
先ほどまで生命の危機で縮こまっていた本体が弛緩するのを感じながら、彼はシアが責任感と優しさに満ちた少女であることを察した。
だからこそ、ムサシは思う――
――コイツお人よしだわ、と。
確かにこちらへ召喚したのはシアだし、寄生蟲なんていうこんなち×ぽにしか見えない魔物に転生させたのは向こうの責任だ。
だが、だからといってバカ正直にそんな責任背負う必要はないのである。
不幸な事故だったの一言で押し切り、こんな蟲さっさと殺してしまうのが……殺されそうになった側がいうことではないかも知れないが、賢いやり方というものだ。
だがそうしないというのなら――逆にこちらが利用させて貰うだけ。
そうだ世の中は結局『利用する奴と利用される奴しかいない』。
ムサシは元の世界の言葉を思い出して昏い自嘲を浮かべかけ――なんとかそれを押し殺し、神妙そうに話しかける。
(……そっか、ありがとうな、シア。けど、やっぱり自分の体がないってのは変な感じだな)
「そう……ですよね。寄生蟲になる前は人間だったということは、突然身体がなくなったみたいなものでしょうし……」
(ああ、そうだな……)
少し寂し気な雰囲気を作ったムサシに、シアは自分のことのように胸を苦し気に押さえた。
(……でももしかしたら、『魔人化』取ればヒト型になれるかもしれないんだっけ?)
「あくまでその可能性がある、というだけですけど……そうだ! それならお詫びと言ってはなんですが、ムサシ様が『魔人化』のスキルを取れるまで私の経験値をお分けします!」
「姫様!?」
その言葉を聞いたリズが驚いたような表情と共に振り返った。
「な、何言ってるんですか姫様! 生かしてやってるんですから、そんなことまでする必要はないでしょう!」
「ですが、ムサシ様は私のせいで体を失ったようなものなんですよ? その償いは必要でしょう?」
二人の言い合いを聞き流しつつ、ムサシはニヤリと心の内でほくそ笑む。
もうシアがお人よしというのに疑いはない。それどころか、こちらが誘導するまでもなく経験値を分けるなんて提案をしてくるほどの、超がつくお人よしだ。
起きた瞬間ち×ぽになってた時は絶望したものだが、希望が見えてきた。
これで何もせずとも、スキルを獲得し放題。『魔人化』を取る前に有用そうなスキルの分まで経験値を頂いてしまおう。
そして必要なスキルを集めてからヒト型になれば、これで実質強くて異世界転生である。
尤もいたずらに経験値を奪えばシアが弱体化しかねないので、獲得する分全部ではなく、ちょっとずつ頂くつもりだが。
何、焦ることはない。寄生しているのが筋肉モリモリマッチョマンのおっさんとかだったら一刻も早く離れたいところだが、幸いシアは姫様とか呼ばれてる美少女である。
シアに気付かれないよう密かにそんなことを考えていたムサシは、リズが押し切られるという形で二人の言い合いが一区切りついたのを見計らって、シアへと声をかけた。
(ところで、何か困ってたから俺を召喚したんじゃないのか? 確かに大したことはできないとは言ったが、知恵くらいなら貸せるかもしれないぞ)
瞬間シアは顔を綻ばせる。
「ムサシ様……ありがとうございます! ご迷惑をおかけしたのに、それでも助けてくれるんですね」
……元々その為に呼んだんだろうに、というか折角努力せずに経験値が頂ける状態になったんだから、こちらもシアに何かあったら困るのだ。そんな内心を悟られないよう、ムサシは自信なさげに振舞う。
(でも、助けになれるかは微妙だけどな……一先ずどういう状況なのか知りたいんだが)
「はい、えっと……リズ、ムサシ様に現状を伝えたいのですが、どこから話せばいいでしょうか?」
「…………はぁ、姫様に聞こえれば伝わるんでしたよね? ボクが代わりに説明します」
話を振られたリズは、主の命と寄生蟲への嫌悪感に暫し逡巡したものの、諦めたように溜息を吐いて説明を始めた。
リズが説明するところによれば現在地、この薄暗い洞窟はダンジョンと呼ばれる魔物の跋扈する迷宮で、二人はそこを踏破して出口に向かっている途中だったらしい。
だが、ここにたどり着くまでの道中でシアの武器が駄目になってしまい――
(――あいつが倒せなくて困っていると)
「はい」
シアがゴツゴツした岩肌の角から顔半分だけ出し、目を通してムサシも曲がり角の先を見る。
曲がり角の先には大きな空間が広がっており、その奥に一匹の狼が体を丸めて眠っていた。
隣に居るリズが解説を入れる。
「あれはヴァナルガンド。四足獣型の魔物で、俊敏な動きと鋭い爪と牙を使って攻撃してくる強力なヤツだ。しかも毛が真っ白だし、恐らく老年の、つまり経験値を貯め込んで更に強くなった個体だと思う」
ムサシとしては正直名前を聞いたところでピンと来ない。それでも、動物園で飼いならされた猛獣とは違う、野生の恐ろしさとでもいうべき重苦しい圧力のようなものを、狼が出しているのは分かった。
(……アイツを迂回するようなルートは?)
いきなり逃げることを提案するムサシに、シアは難しい顔で答える。
「道を探せば、ヴァナルガンド自体を避けることは出来ると思いますけど、あの部屋の奥にはいざという時の為に予備の武器が隠されているんです。武器が無くなった今、あれが手に入らないと他の魔物を倒せずに、進むことも退くこともできなくなります」
成程よく見れば、狼の後ろには石棺のようなものがある。
(……宝箱に装備ねぇ、なんでそんなものがあるって知ってるんだ?)
「それはここが――」
「姫様少しお待ちを。……悪いがムサシ、ボクはお前を信頼したわけじゃない。今はこれ以上教えられない」
(そうか、分かった。シアも無理に言う必要はない)
言うべきか言わざるべきか板挟みになってわたわたしているシアに一言かけつつも、ムサシは内心舌打ちをする。
どうして命の危険があるような所に姫様なんて呼ばれてるシアがいるのか。なんだか面倒そうな事情を感じないでもない――が、考えてみればどちらにしろ寄生しなくては生きていけない以上、暫くは二人と一蓮托生か、と考え直す。
(因みにシアは、武器があったらアイツを倒すことは出来るのか?)
「動きを数秒拘束してもらえるのなら、いけます」
(じゃあリズがアイツの注意を引いている間に、シアが剣を取りに行くんじゃ駄目なのか?)
「……それはリズ自身が提案しましたけど、それだとリズが攻撃に耐えられずに死んでしまう可能性が高いですから」
それでリズから隠れた所で自分を召喚したのか、とムサシが納得していると、リズが横一文字に結んでいた口をゆっくりと開いた。
「……ですがやはり、それしかないと思います。ボクなら暫くは耐えられますし、シア様が攻撃するまでの時間ならば確実に稼いで見せます」
「…………っ!」
覚悟の決まった目。その気迫に思わずシアもかける言葉を失う……いや、或いはそれしかもう手はないと考えた末に分かっているからか。
黙り込む二人の様子を伺いながら、ムサシは暫し考えを巡らせる。
――正直、確実に勝てる方法など思いつかない。だが、リズが覚悟を決めているというのならば。
(……試してもないし、確実な方法でもなんでもない。が、リズが助かる可能性を上げることなら出来るかもしれない)
「……本当ですかっ!?」
思わず声が大きくなりかけて、慌てて潜めなおすシア。
(ああ、ただ……繰り返すが確実な方法じゃない。……それに、俺自身もかなりでかいリスクを負うことになる方法だ)
ムサシはそこで勿体つけたように一度言葉を区切り、
(……だから、もしリズが無事で、俺も生き残ったら、一つお願いを聞いてくれないか?)
「勿論ですっ、それなら私、何でもしますから!」