転生したら寄生生物なんですけど!? というかち×ぽなんですけど! 作:真喜屋五木路
「あの、姫様……どうしても、飲まなければ駄目でしょうか……?」
「お願いリズ、私はリズに生きてて欲しいんです。その可能性を上げる為に……!」
「ですが……これはやはり……」
リズは改めて自らの手に乗ったものを見た。
そこにあるのは、先ほどシアを手コキした時に出てきた精液。
先ほどは敬愛するシアのものだと思っていたからそんなことなどなかったが、実際にはこの気持ち悪い寄生蟲から出てきたものだったと知って、否応なしに嫌悪感が湧き上がってしまう。
正直、こんなものを口にするくらいなら、死んだ方がマシな気すらする。だが――
リズがちらりとシアの顔を伺うと、彼女は心配そうな表情で、祈る様に手を組んでいる。断りたいが断れない状況に、従者は内心呻く。
(くぅ……っ、この寄生蟲、何でこんなおぞましいことを思いつくんだ……!)
二人とも助かるかもしれない方法がある、などとシアを介してのたまったムサシとかいうこの寄生蟲はだが、姫様を期待させておいてすぐに『作戦を実行に移す前に、俺がちゃんとシア以外に寄生できるか確認したい』などと言い出したのだ。
「……第一、本当に飲む必要があるのか?」
「『寄生』スキルのレベルを上げれば飲まなくてもいいようできるかも知れないが、私から経験値を吸ってヴァナルガンドを倒せなくなってしまったら困る……と」
真っ当な理由のようで、遠回しに『お前のせいで倒せなくなってもいいのか?』というようないやらしい答えに、リズは顔を顰めながらも覚悟を決めた。
「……少しでいいんだよな?」
「はい、むしろ残しておいてくれということです」
(ええい、これで少しでもシア様の傍にいれる時間が増えるなら……!)
鼻を近付けただけで既に独特の生臭い匂いがするというのに、口を僅かに開くと舌先までぴりつくような感触が纏わりつく。
「……ずじゅる……っ! ――こくっ」
それでも、リズは白濁粘液を一口すすい、這い上がる嫌悪感とともに飲み下した。
苦くて、しょっぱく、粘つくような感覚。それがいつまでも残ることに、話に聞いたことがある精液とはこんな感じだったのかと、リズは苦い顔で耐える。
粘液がねっとりと舌を撫で上げ、喉をゆっくりと下っていく感触が漸く薄れかけた所で、変化は起こった。
「っ……なん、だ……これは……?」
リズの股間、より正確に言うなら恥骨の少し上あたりだろうか、そこにむずむずとした何ともいい難い感覚が湧き上がり、次第に重さのある形に纏まっていく。
その奇妙な感覚はものの十数秒で収まった。だが何とも言えない違和感に、自然と自らの股に伸びていた手がズボンに到達したところで、リズは俯いて息をのんだ。
「っ――!!」
そこについていたのは、間違いなく男性器のそれだった。
『寄生できるか確認したい』と言われた時点で覚悟はしていたものの、改めて”それ”が自分に生えたことに、リズは顔を顰める。
だが、これで一応確認はできた筈だとリズは表情を整えて顔を上げた。
「……姫様、多分成功したんじゃないでしょうか?」
すると主の方も何か変化があったのだろう、自らの股をスカートの上から触っている。
「あ……? なくなって……? もしかして、もうリズの方に移動したんですか? ……リズ?」
「……っ! は、はい……!?」
自らの股間をまさぐる主の光景を呆然と眺めてしまっていたリズは、主が心配そうに見上げているのに気付いて、慌てて自らの股間を押さえて飛び上がった。
「リズ、どうかしましたか? もしかして、痛いのですか?」
「い、いえ……そういう訳ではないのですがっ……! ただ、ちょっと違和感が……」
「なるほど、確かに変な感じですよね」
疑うこともなく、あっさり得心したように頷く主に、リズの心が締め付けられ……つい先ほどまで柔らかくへたっていたはずの逸物が硬度を上げる。
本当は、シアを見ていると段々ペニスが硬くなってきた――などとは言えるはずもない。
(な、なんだこれは……っ!?)
幼いころから見慣れている筈のシアがいつもより可愛らしすぎて、押し倒したくなる。
毎日整えるのをお手伝いしていた腰まである長い金髪から、いい匂いがして鼻を埋めたい。
自分より一回り小さく、慎ましやかな女性らしさを押し込めた矮躯を抱きしめたい。
――主に悟られないように冷静を装いながら、従者は己の中に湧き上がる衝動を抑え込む。
悶々とした衝動を抑え込もうとシアから目を背けたところで、彼女の頭に聞きなれない声が響いた。
(……お? おー、やっと入れた。おーいリズっつったか? 聞こえるか?)
(!? お、オマエがムサシか! お前、ボクの体に何をした!?)
(はぁ? 何言ってんだいきなり……ってああ、なるほどねぇ……)
身体の異常がムサシのせいだと考えたリズ、突然彼女に喰ってかかられた彼は一瞬怪訝そうに答えたが、すぐに本体の様子から事態を察した。
(リズお前、シアに欲情してんのか)
(っ?! は、はぁっ……!?)
(いやだってそうだろうよ、シアのこと見てち×ぽ硬くなったんだろ? だから必至で見ないようにしてるってところか)
(ち、違うッ! ボクはシアの従者なんだから、そんな目で見たりする訳ないだろ!!)
寄生蟲の無遠慮な言葉を否定しようと、リズはシアへ視線を戻す――が。
「どうですかリズ、ムサシ様の言葉は聞こえましたか?」
「あ……は、ひゃいッ!?」
ずい、と心配そうに近づくシアの顔を見た瞬間、再び従者は顔を背けた。
言葉を紡ぐ桜色の唇が柔らかそうで、緑の目を囲む長い睫毛が涙に輝いて、血色のいい肌が健康的な少女の香りを漂わせて。
シアが魅力的なことは、誰よりも近くにいる自分が誰よりも分かっていたと思っていた。なのに、今の主はそんな自分から見てもかつてない程眩しく――振り切れた愛情が、汚してしまいたい、滅茶苦茶にしたいという破壊的な衝動となって湧き上がる。
(……おいムサシ! この感覚、絶対お前のせいだろ!)
(おいおい、いきなり人のせいにするのはどうかと思うぞリズ? 俺は何もしてない、そりゃお前の感情だ)
(ふざけるな! 姫様に対してこんな……こんなこと、ボクが思うはずない! さっきオマエが言ってた発情化のスキルだろ!)
(知らないぞ、そんなの。というか、ついさっきまでお前の身体の方に入ろうとあれやこれや意識を捏ね回していたからそんな余裕ないっての)
(――なっ!?)
(それに、これからヴァルなんとかと一戦やるんだろ? なのに態々お前を発情させるなんてことして、なんの得があるんだ?)
すっかりムサシのせいだと思い込んでいたリズだったが、彼の言い分は尤もであった。だが、そうだとすれば――
(――じゃ、じゃあなんで姫様を見ただけで……ぺ、ペ、ペニスがこんなことになってるんだよ!?)
(知らん。……ああ、もしかしたらアレかもしれないな。ち×ぽが生えたことで、雄としてシアを見てしまってるんじゃないか?)
(~……ッ!)
ムサシがぞんざいに言い放った可能性に、リズの顔が紅潮させて絶句する。
その様子に、ほう……と怪しくニヤつくムサシ。
手コキを殆ど躊躇せずに始めたから慣れているのかと思ったが、どうやら只の耳年増ってところか、この様子だと経験はなさそうである。
そんな内心をリズに悟られないよう、ムサシはニヤつきを押さえて話題を逸らす。
(兎も角、これで無事寄生できるってこと、それから新たに寄生した時点で前の体から寄生が解除されるってことが確かめられた訳だ。シアにも、無事俺の声が聞こえるようになったって伝えてくれないか?)
(……分かった)
確かにこの寄生蟲からしたらただ呼び出されただけなんだろうけど、それでもシア様の事を呼び捨てにしやがって、と若干納得いかないものを感じながら、リズはシアに無事(?)寄生されたことを伝える。
「良かった……では、これで本当にリズを……?」
(ああ、任せとけ――って、今度はシアに伝わんないのか、リズ頼んだ)
「……任せとけ、だそうです」
それを聞いてぱぁっと表情を綻ばせるシアに、リズの股間が熱くなる……と同時に、心臓が変な跳ね方をした。
安心したように自分の準備へととりかかる主を見ながら、リズは寄生虫へと声を掛ける。
(おい……おい、お前!)
(お前じゃ分からん。……うーん、やっぱ早めに『念話』を取らないと不便だな、必要な経験値も少ないし第一候補か)
(……おい寄生蟲、こう呼べば分かるか)
(……分かったよ。お前でいい)
(本当にお前の作戦通りにやれば、ヴァナルガンドを無事に倒せるんだよな?)
これからのことを考えて緊張している自分に対し、何ら気負った様子のないムサシを訝しむようにリズは尋ねる。
(ああ、任せとけ。俺もこんな姿になったとはいえ、一応死ぬのはごめんだからな。それよりお前こそ、作戦の概要は忘れてないよな?)
(バカにしてるのか? 作戦なんて言っても、結局ボクが突っ込んで囮になって、その間に姫様が剣を取りに行く――それだけだろ)
(まあざっくり言ってしまえばそうなんだが……頼んだこと、忘れるなよ? そうすればお前が死なないように最大限の努力は――)
(――別にボクのことはどうでもいい)
ムサシの言葉を途中で遮るリズの背中は、うっすらと汗ばんでいる。
その汗が、迫りくる自身の死を覚悟してのものだということは寄生しているムサシにもすぐに伝わった。
(本当に、お前の言う通りにすれば姫様は、本当にシア様は無事に生き残れるんだよな?)
従者として警戒するべき魔物についての教育を受けたリズは、現在三人の中で、最もヴァナルガンドの実力を理解していた。
確かにシアが剣を持ち、充分な時間があれば倒せるだろう。
だが、嵐を纏う狼とも評されるヴァナルガンドは疾い。主が剣のところまで辿りつくまでは何があろうと時間を稼ぐつもりだが、魔物も馬鹿ではない。シアがスキルを行使しようとすれば相手も警戒するだろうし、その時まで自分が囮になり続けれるかは微妙なところだ。
ムサシが召喚される以前にシアへこの案を提案した時、彼女が主を説き伏せれなかったのは、そこが不確定だったからというのもある。
逆にいえば、リズは既に自分が死んでしまうだろうことは覚悟していた――つもりだったのだが。いざ本当に今から格上の魔物へ立ち向かい、殺されにいく思うと、体が小さく震えてしまうのが現実だった。
だからせめて、例え違ったとしても、姫様だけは無事だと言われることで覚悟を決めようと、唇を噛むリズに対して、
(はぁー……リズ、お前カッコつけすぎ)
ムサシは呆れたように溜息をついた。
(なっ、お前!? ボクがどれだけ覚悟してると思ってるんだ!)
(いや、勝手に死ぬ覚悟なんて決められても困るんだが。お前が死んだら俺も死ぬ可能性があるんだから、マジで死に急ぐのはやめろよ?)
(んな……お前はヴァナルガンドの怖さが分かってないみたいだけど――)
(まあ知らんな、異世界の魔物の話なんて)
唖然とするリズに対して、ムサシは気負った風もなく、くくっと嗤う。
(でもまぁ、必要な点は確認し終えてるからな。魔物っても生物だろうし、多分大丈夫だって)
どこか愉しそうですらあるムサシの声を聞いているうち、段々リズの体からも余計な力が抜けてくる。
(あー……もういい。ただ、姫様の邪魔だけはするなよ)
(お前こそ、こっちが言った作戦は守れよ? そうすりゃ、百パーセント、とはいかないが多分なんとかする)
(……本当に、信じていいのか?)
(ま、可能な限りだが、誰も死ぬようなことにはしないつもりだ。……死ぬようなことには、な?)
再び怪しくニヤァ……っと嗤うような口ぶりに、先ほどとは別の意味で不吉なものを感じて、背中がぞわっと冷たくなるリズ。
だが、いつの間にか体の震えは止まっていた。
(分かった。お前のこと、信じるからな)