転生したら寄生生物なんですけど!? というかち×ぽなんですけど! 作:真喜屋五木路
『あっぶねぇぇぇ……!』
狼に寄生していたムサシは、先ほどまで寄生していた魔物が目の前で真っ二つに切り飛ばされるのを見て、恐怖に身を竦ませた。
大狼に向けて剣を構えるシアが、話していた時とはまるで別人の空気を纏っているのに嫌な予感を覚えた彼は、間一髪のところでリズに寄生しなおしていたのだ。
リズが狼の精液を飲んでくれていて助かった。
一方の従者は、再び自分の頭の中へ不愉快な男の声が戻ってきたことに、舌を打つ。
(……ちっ、ヴァナルガンドと一緒に消し飛ばされなかったのか)
『おい、それは酷くないか? 折角お前が殺されないようにしてやったんだから、感謝の言葉こそあれ、悪態をつかれるいわれはないんじゃねーか?』
(ふざけるな! ヴァナルガンドにボクのことを襲わせて、しかも……ぱ、パイズリまでさせて!)
『じゃあなんだ? 素直に狼の本能に任せてセックスでもさせてやればよかったってか? もしそうだったら、お前今頃腹突き破られててもおかしくないんだぞ?』
(そ、それは……そうかも知れないけど……でも、やっぱりあんな……)
『そりゃ俺だって、アレを嬉々として受け入れろとは思ってねーよ。けど、本来だったら殺されててもおかしくなかったのを、この程度で済ませたんだ。それくらいはリズも分かってるだろ』
(う、うぅ…………)
そこで黙ってしまうあたり、彼女も理解はしているのだろう。まだ心情的に納得できないだけで。
そう予想したムサシは、口調を少しばかり柔らかくする。
『俺だってもっといい方法があるなら、それを採用してたさ。けど、残念ながら寄生蟲の俺に今の時点で出来ることはあれくらいだったんだ……悪かったな』
(…………ボクこそ、すまなかった。折角ムサシはボクが生き残れるようにしてくれたんだよな。それから、ありがとう)
……改めてクソちょろいな。
あれ以外に手段がなかったのは事実だ。それでももう少し嫌悪感を向けられると思っていたムサシは、許すどころかお礼まで言ってくるリズに対して呆れつつも、ニヤリと内心嗤う。
――これなら、多少無茶な『お礼』でも通せそうだな、と。
「リズ、ムサシ様! 大丈夫ですか⁉」
ムサシが白紙の小切手に何を書き込むかと考えかけた所へシアが駆け寄ってくる。
「ええ、大丈夫です。シア様の方こそ、お怪我はありませんか?」
リズは自分の上に倒れてきたヴァナルガンドの死骸を横に退かして起き上がり、主へと応じた。
「私は平気です。それより、途中でリズが叫んでいるのが聞こえたので、何かあったのかなと心配で……」
「……それは、ヴァナルガンドをこちらに引きつけておく策の一つとしてですね……ほ、ほら! 服は少し破かれてしまいましたが、特に怪我をしているわけではありませんし」
純粋な主に対して「狼にパイズリされたからです」とは言えなかった為か、従者は平気なことをアピールするようにぐっ、と両手を握って見せる。
「……本当みたいですね、良かった……。ムサシ様も大丈夫なんですよね?」
「ええ、今は再びボクに付いています」
シアの無邪気な視線が自らの股間に向けられ、リズはさりげなく隠すように両手を身体の前で重ねた。
『おい、今シアに見られてちょっとドキっとしなかったか?』
(⁉ そ、そんなことしてない!)
『じゃあ何で隠すんだ? 俺はシアに直接無事を伝えられないんだから、本当なら姿を直接見せて安心させたいのを、ズボンの上からで妥協してるのに』
尤も、肉棒が本体のムサシには、リズが隠した理由は分かっている。自分の無事に安堵したシアの笑みと、彼女の視線にムラッときて半勃起してしまっているのだ。
(ちょ、直接って……! こんな状態のを、シアに見せられる訳ないだろ! 第一、今ヴァナルガンドを倒してボクにも経験値が入ったんだから、寄生してるお前にも入ってる筈だろ⁉ それで『念話』でも取ればいいじゃないか!)
『お、マジで?』
てっきりそんなアナウンスも、感覚みたいなものもないから、直接倒したシアにしか経験値が入ってないものと思っていたが、どうやらリズにも入っていたらしい。
早速スキルツリーを思い浮かべると、いくつかの枝が明滅している。
恐らくこれが、現在の経験値で取れるスキルなんだろう。
スキルを取る感覚を掴むためにも、早速『念話』のスキルへと意識を向けると、切り株みたいな幹から『念話』に向かう枝が、未収得のぼんやりしたものから明瞭なものへと変化した。
……体感としてはやっぱりなにも感じがないんだが。
『あー、あー、これでどうだ? シア、聞こえるか?』
半信半疑の状態で、シアに向かって呼びかけてみる。
「あ、はい! この声は、ムサシ様ですね。『念話』を習得されたということでしょうか?」
『おー、ちゃんと取れてるみたいだな』
疑問符を一瞬浮かべた後すぐに笑顔で応じてくれたシアに対し、リズは少し微妙な表情を浮かべていた。
『なんだ? 自分から提案しておいて不満そうだな、リズ?』
(……いや、不満という訳ではないけど。ボクに寄生させたままの方が、姫様に余計なこと吹き込まなくて良かったんじゃないかなと)
『ははは、今更か?』
(そこはそんなことしないって言って欲しかったんだが!)
「どうしました、リズ?」
「……いえ、何でもありません姫様」
ムサシは少し揶揄っただけでいい反応を見せてくれるリズを暫し堪能し、改めて二人に向かって本題を切り出すことにした。
『じゃあ、改めて俺はリズに怪我をさせることなくあの狼を倒せるよう手伝ったってことで――約束を守ってもらおうか、シア』
「ええ、勿論です」
「ちょっ、姫様!? おい、ムサシ、約束っていうのは何だ!」
『リズに寄生する前にシアと約束したんだよ、お前を無事に怪我させず切り抜けられたら、シアが何でもお願いを聞いてくれるって』
初めてその約束を聞いたリズは困惑しながらシアの顔を見、彼女が頷いたことでそれが本当なのだと理解した。
「くっ、ムサシ……少しオマエのこと、見直しかけてたのに……」
『いやいや、見放すのは結構だし、リズからしたらシアは無条件で仕えるべき主人なのかもしれないけど、俺からすれば勝手に呼び出した相手だからな。タダ働きは御免だ』
「それは、そうかも知れないが……」
『それに、何かを頼むってことは、その分何かを引き受けるってのが健全な関係だろ? それともリズは、シア様の為なら全世界が無条件に持ってるものを差し出すべきだと?』
「い、いやそんなことを言うつもりは…………」
「ムサシ様、あまりリズを責めないでください。私は、リズを助けて貰ったことを十分に感謝していますし、約束を違えるつもりもありませんから」
極端な例に口ごもってしまったリズに替わり、シアが一歩前に出て、リズの中にいるムサシを真っすぐに見つめた。
『いや、こっちも少し言い過ぎた。約束を守ってもらえるなら俺はそれでいい』
彼女の視線に、ムサシも自分が少しばかりムキになり過ぎたと冷静さを取り戻す。
「……ただ、先ほどは衝動的に何でもと言ってしまいましたが、今の私たちは大した物を持っていません。ですから、もしかしたら十分に応えられないかもしれないのですが」
ムサシの口調が落ち着いたことに少し安堵したようなシアだったが、目を申し訳なさそうに伏せてそう続けた。
だがむしろ、ムサシはその言葉を待っていたというように怪しくほくそ笑み。
『それは大丈夫だ、俺が欲しいものは物じゃない……シアの初体験だからな』
「なっ……ムサシ、オマエ!」
ムサシの言葉にいち早く反応したのはシアでなくリズ。先ほどまでムサシからの正論に言い負かされていたことなどなかったかのような勢いで、彼女はムサシに噛みついた。
「シアの、は……はじめてとか、そんなの無理に決まってるだろ!?」
『無理なことはないだろ。……いや、待て。もしかしてこの無知さで既に経験済みなのか!?』
「そんな訳あるかッ! シア様が、どこの馬の骨とも知れないヤツとヤるわけないだろ!?」
『なんだ……ガチで焦ったじゃねーか……。それなら無理ってことはないだろ』
「お前もどこの馬の骨以下だから無理だって言ってるんだよ! というかそもそも魔人ですらない、魔物じゃないか!」
リズはムサシのあまりな無礼さに掴みかかろうとし、相手が掴むわけにはいかないモノだと思い出して、もどかしそうに指をわきわきと動かす。
「リズ、あなたが私を思ってくれるのは嬉しいですが、これは約束ですから」
『ほらほら、姫様だってこう言ってるぞー』
「くっ……普段は姫様を呼び捨てしている癖に、こんな時だけ卑怯な……。ひ、姫様? 姫様はこの寄生蟲が要求していることの意味が分かってるんですか!?」
「いえ、言葉の意味は分かりません。ですが、リズがそこまで反対するということはとても大事なものなのでしょう?」
「そ、そうです! なのにこんな蟲如きに――」
「ですが、私たちはついさっきまで死ぬかも知れなかった。それをムサシ様に助けていただいたのです。『はじめて』とやらは死んでも価値があるものなのですか?」
「それ、は……」
リズは反論できず、言葉に詰まる。
確かにネクロフィリアのような、極めて特殊で倒錯的な性癖持ちには処女の死体というのも一興なのかも知れないが、ムサシとしてもそこまで変態的な趣味はない。
そういう意味では二人とも怪我もせずに生き残ってくれて万々歳である。
ムサシは未だ主と違って納得していないリズだけに『念話』を使用した。
『ま、そういうことだ。シア本人は納得してるし、それにリズだって悪い話じゃない筈だぞ?』
(どういうことだ……?)
『分からないか? 今、俺がシアの初めてを貰おうにも、俺一人じゃ頂けないって話だよ』
(っ……!? まさか……ボクにシア様の初めてを奪えと!?)
リズは思わず叫びそうになったのを呑み込んで、主に気づかれないよう必至に表情を取り繕う。
『ああ、そうだ』
(ふ、ふざけるのも……第一ッ、それのどこがボクにとって悪い話じゃないっていうんだ!)
『まさか気付かれてないと思ってんのか? リズ、お前シアのことが好きなんだろ?』
(??!?!!?)
「どうしました、リズ? 突然変な表情をしたりして?」
「い、いひぇっ……な、なんでみょありません!」
あまりに分かりやすく慌てふためくリズの様子に、ムサシは密かに笑う。
シアに肉棒が生えた時の反応といい、本来は姫様と呼ばなきゃいけないだろうところを、時折名前で呼んでしまっていたりと、端から見ていれば丸わかりなのだが、どうやら本人に自覚はなかったらしい。
『ま、リズが嫌だってんなら、そこら辺の魔物に寄生してもいいんだが……』
(い、いや待てそれは……!)
焦るリズだが、ムサシとしてもそんな気はない。さっきの狼みたいに魔物のサイズそのものだったら、リズ以上に小柄なシアでは間違いなくグロの意味でR-18不可避だ。
『だろ? だったらいいじゃねーか、約束を守って貰えて俺もハッピー、シアもお前なら無理することはないだろうしハッピー、リズもシアとヤれてハッピーでウィンウィンってヤツだ。勿論、シアにはお前の気持ちは伏せておくさ』
悪魔の契約を突きつけられたリズは思わず黙って考え込む。
確かにシアのことを主以上の存在と慕っているのは事実だ。だが、女同士で、従者と主、ましてやシアは姫様、決して結ばれることなどあり得ない。だからこそ今までは諦めて、只の従者でいられたというのに。
(確かに、この機会を逃せば姫様となんて、絶対にありえない……だが……っ!)
敬愛と情愛の狭間で従者が揺られること暫し、彼女は意を決してムサシに語り掛けた。
(やはりそれは受け入れられない)
『……む?』
(ムサシの言うことにも、一応筋が通っているのは認める。けれどやっぱり、『初めて』の意味すら分かってないシア様に、そんなことはさせられない)
予想以上に頑固な従者の態度に、ムサシも思わず考え込む。リズにもシアにもメリットがあると提示した上でこれでは、説得するのは難しいだろう、と。
ごねても無理そうだし仕方がない、妥協して何か他の条件でも――ムサシがそう思い直しかけたところで、緊張した面持ちのリズが口を開いた。
(……だから、ボクの初めてじゃダメだろうか?)
『ほう……なるほど』