高校を卒業したら、遠くの大学に行こう。
そしてもう2度と帰ってこない様にしよう。
でないと僕は駄目になる。
大学に行ったら、姉さんと同じくらい好きになれる女性に出会えるかもしれないよな。
そうすれば、今のこの苦しみは消えるはず。
……正直想像は出来ないけどな。
そんなことを考えながら家に帰っていた。
夕方だ。
通い慣れた通学路。
駅から家まで、知り尽くした道。
ビルだとか、民家だとか、店だとか。
……ん?
何だか違和感を感じた。
見慣れない脇道を見つけてしまったんだ。
ビルとビルの間なんだけど……
(こんな道、あったっけ?)
覚えがない。
……で。
何だか、確かめたくなったんだよ。
これが僕の運命を変えてしまうとも思わずに。
脇道を進むと、最初は狭かったんだけど。
すぐに開けて来て。
やがて、今どきあり得ないような店の前に出た。
その店には看板が掛かってて。
こう書かれていた。
『銭天堂』
……ぜにてんどう?
僕はこの店を知っていた。
国営放送のテレビでアニメをやってたからだ。
その内容は
食べると様々な特殊効果を
駄菓子を買って幸せになったり、反対に破滅してしまったりする話だ。
放送時間が短くて、すぐ終わるので勉強の合間に息抜きで見てたんだけど。
……何かの冗談か?
でもまあ、気にはなるよな。
見てるアニメとそっくりなものが実在したんだから。
一体、どんな人が経営してるんだろうか……?
僕は店に入ってみた。
中は良くできていた。
売ってる駄菓子も、何だかアニメで見た覚えがある。
スゲーな。
ここまで再現するなんて。
そんな風に僕が感心していたら。
「何かお探しですか? 幸運のお客様」
いきなり声を掛けられた。
それは女性の声で。
声の主の姿を確認したとき。
……僕は驚きで硬直してしまった。
それは和服の女性で。
和服の柄が銭形平次が投げる銭で、赤紫色。
髪は白くて結い上げてて。口紅を差している。
女性相手にこういうのはどうかと思うけど、けっこう太ってて。
正確な年齢が良く分からない。
ただ、老人では無かった。
……紅子じゃん!
そっくりだった。
銭天堂の店主で、店にやって来た客に小銭で駄菓子を売ってくれる謎の人物だ。
あまりにもそっくりで。
僕の中に、突拍子もない考えが生まれてしまったんだ。
……すなわち。
この店、本物の銭天堂なんじゃないのか? って。
ただのコスプレおばさんのレベルが高いヤツじゃ無いのかという、現実的ではあるが、低確率な可能性を選択せずに……!
銭天堂に来たら駄菓子を買わないと!