※この作品はR-18です。

悪魔に魅せられた乙女   作:翔田美琴

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第3話 地獄の悪魔達

 リリアが案内されたのは地獄と呼ばれる荒涼とした暗黒とマグマが支配する世界だった。煮えたぎる溶岩、圧迫感を感じる暗黒、見渡す限り不毛な世界、しかし目の前の金銀財宝で飾られた宮殿に思わず感嘆する。

 悪魔らしい虚飾と豪奢に飾り立てられた相応しい宮殿だった。黄金は地の底から抉り取られたもので加工され、せっせと堕天使達が宮殿の装飾に勤しんでいる。

 指揮を執るのは強欲の大罪の悪魔で知られるマモンという悪魔。マモンの下には次から次へと金銀財宝が運ばれてくる。そしてリリアが見たのは強欲の悪魔らしい一面だ。

 金銀財宝を神の愛よりも賛美するマモンの姿があった。不気味な瞳を爛々と欲望に輝かせ、そして部下たちに命じる。

 

「地上の金銀財宝を全て集めてくるのだ。そしてこのパンデモニウムを美しく飾り立てるのだ。いいな」

「はい。マモン様」

「美しい……全く持って美しい……。この銀の輝き、黄金の輝き! このパンデモニウムをもっと、美しく! 高貴な輝きで満たす!」

「相変わらずだな。マモン」

「サタン様! どうですか? このパンデモニウムの姿は? 今でも惚れ惚れするような宮殿ですが、もっと美しくしてみせますよ」

「任せる。私の領分ではないからね。こういう方面の話は。君こそ適任だよ」

 

 リリアは首を傾げる。今、彼のことをマモンという悪魔はサタンと呼んだ。聖書も宗教も全く興味のない自分ですらサタンの意味はわかる。魔王の呼び名ではないか、と。

 この人はこの地獄ではサタンと呼ばれているのかな……と彼女は考える。

 その当人は特段呼び名には拘る事もせずに淡々と地獄の君主としての職務に集中している。マモンは見慣れない若い女がそこにいるのを疑り深く観ている。生来から疑り深い性格かもしれない。

 ルシフェルはフォローに徹している。

 

「彼女は我々が探し求めていた女性かもしれないと思って連れて来たのだ。敵対する人間ではないよ」

「……まあ、そこはリヴァスの判断を私は信頼しますが、ね」

「リヴァス?」

「リヴァイアサンという名の海軍提督だよ。有名なのはタイダルウェーブという大津波の魔法だね」

 

 溶岩ばかりの世界に海軍があるのかと思うリリア。だが、なにも地上も天界も海と呼ばれる地形がある。海軍提督はそれら水上や水中の闘いに特化した提督だ。

 地獄でもそれなりに信頼は置かれている。しかも嫉妬の悪魔となれば文句の一つもない。

 万が一、彼の嫉妬を受ければ間違いなく酷い目に遭うのは明白だった。

 

「どうだい? いきなりの大物登場だよ。マモンと言えば欲望は我々悪魔ではナンバーワンと言える」

「見苦しいですね。私はああいう奴らが本当に嫌いなんです。殺してやりたいわ」

「ふふ……さすがは悪魔の妃となるべき女性だ。君は」

「私が妃……ですか。でも、なぜ?」

「おいおい話してあげるよ。さて中に入ろうか」

 

 パンデモニウムに入城するルシフェルとリリア。彼らを出迎えたのは美しい女性悪魔、アシュタロス、通称アシュタだった。彼女の両脇を囲うのは美少年の二人組。薄い絹の服を纏う細面の青年達だった。

 彼女は朗らかにルシフェルを出迎える。

 

「ルシフェル。お帰りなさい。待っていたわよー。とうとう見つけたのでしょう? 我々が探していた乙女が?」

「まあ、そう急ぐな、アシュタ。折を観てきちんと紹介するから」

「ほら、あなた達もルシフェル様にご挨拶なさい。あなた方の主人となるべき方よ?」

「よ、よろしくお願いします」

「ルシフェル様にお会い出来て光栄です….…」

「アシュタ、また囲う男達を増やしたのか?」

「この子達は美しいから殺すのは偲びなくてね。悪いかしら?」

「いや? 私は反対はしないが……」

 

 アシュタロスは確かに魅惑的な容貌の悪魔だった。漂う色気は百戦錬磨の色気だ。それはルシフェルにも同様のものを感じる。傍目から観ても二人がただならぬ関係ではない。夜は恐らくアシュタロスと過ごしているのだろうなとリリアは感じた。

 アシュタロスの方はルシフェルの後ろにてパンデモニウムの中を物珍しそうに観察しているこの子が例の乙女であろうと勘付いている。何せルシフェルの目的の一つがリリスと言う存在の確認でもあった。

 リリスとは人類初の女性とも最初の悪魔とも言われる存在自体が伝説上の女性である。最も人間が持つ魔性の魅力の部分という見解もある。

 若しくはその人物の天才的な才能であると言う意見もあり、定義が曖昧でもある部分だ。

 ルシフェルが探しているのは魔性の魅力の女性。それは将来的に自らの妻として娶る為でもある。神を倒したのちに妻として子をもうけて貰う為に。

 まだ彼女には伏せている様子ね……意味深な視線をルシフェルに送ると彼は頷いていた。

 

「ベルフェゴールは?」

「彼女? 相変わらず冷たい雰囲気ね。私に対しても冷笑的で、あの冷たさは真似はできないわー」

「さすがベルフェゴール、怠惰の悪魔と呼ばれるだけはある……」

「奥でベルゼブブとリヴァイアサンが待っているわ。ベリアルもよ」

「ルキフグスは?」

「金の勘定に忙しいから皇帝閣下にお任せしますと」

「偏屈な所はいつもの事だな」

「マモンが次々と金鉱を暴いているから忙しいって愚痴っていたわ」

「マモンはそれが仕事だ」

「じゃあ、後でね。ルシフェル」

 

 そして、パンデモニウムの奥へ歩いていくルシフェルとリリアは七大巨悪の悪魔が集まる王座の間へ入る。

 そこには、ベルゼブブとリヴァイアサン、ベリアルが集合していた。

 ちなみに彼らの姿は彼らの気の赴くままに、男女両方の性別はもちろんのこと、姿までも自由に変えられる。

 彼らの外見はそんな自由な気風が反映されていた。

 リリアの眼に映る彼らの姿はリリアが思っていた以上に、お洒落な背格好である。

 ベルゼブブは頭髪は鮮やかなオレンジ色に近い茶色の短髪に、悪魔らしい角が2本生えている。眼の色は黄金色で、中央は黒い瞳孔が闇のように拡がる。服装は割と身軽な雰囲気でありながらも、神々しさも感じさせる。

 リヴァイアサンは流石は地獄の海軍提督と呼ばれるだけはあり、海蛇が巻かれた左腕に、鮮やかな水色の軍服。水色の軍服は黄金の縁取りに漆黒の装飾、腰のベルトには拳銃と剣が下げられている。頭には水色の軍帽が。

 ベリアルは堕天使の中で取り分け美しいと言われており、真紅の服に漆黒のマント、頭髪も赤く、2本の角も生えている。眼の色は黄金色、目鼻立ちは何処か冷たさを感じさせる。

 リリアは3名の悪魔達の圧力を感じて、軽い悲鳴を上げかけた。

 だが、ルシフェルの不思議な包容力で高鳴る鼓動は落ち着いていく。

 3名の悪魔はそれぞれルシフェルに挨拶を交わす。

 

「ルシフェル様、遠征お疲れ様です」

「こちらも順調に戦力は集められております」

「で、目的は遂げられただろうな?」

「御苦労、ベルゼブブ、リヴァイアサン、ベリアル。彼女がその乙女だ」

 

 3名の悪魔はほーうと声を上げるとリリアを見つめた。

 一目では普通の女性だ。しかし、何処か毒は持っていそうだと感じた。彼女からは少し敵意も感じる。人間も憎いが、悪魔もそれなりに憎いという感じか。それか、己以外は全て憎いのかも知れない。

 そうして、一通りの地獄の君主としての職務を全うするルシフェルをリリアは部屋の片隅にて見つめていた。そんな時に、遅れてベルフェゴールが現れる。

 リリアが観たベルフェゴールは、とても気高い美しさを感じるが、アシュタロスよりもより冷たい空気を感じた。冷笑的な女性と聞いたが、確かに冷たい笑みを浮かべている。

 気高い金色のロングヘアー、眼は凍りつくような青い瞳、桃色の唇、雪白の肌。

 服装は露出が多めではあるが、下半身はパンツスタイル。不機嫌そうに腕を組み、気怠そうな空気を纏っている。

 

「ルシフェル、帰ってきていたのね。貴方の事だから戦果は聞くまでもなさそうね……」

「ベルフェゴール、最後に登場とはどういう了見だ?」

「うるさいわね。全く、だから男って奴は嫌いなのよ」

「リリアと同じことを言うね」

「リリア……? ああ、この子のことね。ふーん、いい眼をしているわね。男を侮蔑する眼……綺麗だわ」

「ど、どうも」

「そっけないのね」

「それはお前もだろう? ベルフェゴール」

「ふん……、じゃ、私は部屋に戻るわ。用があったら部屋に来てね?」

「ああ、ベルフェゴール、御苦労だった」

 

 こうしてリリアと七大巨悪の悪魔との顔合わせは終了する。

 そして、リリアのパンデモニウム暮らしがこの夜から始まる。

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