【2巻11/14発売!】ずっと好きだった幼馴染にフられて始まる淫らに一途なハーレム生活 作:花染彩葉@幼馴染ハーレム2巻発売中!
店内に入り2時間コースで受付を済ませる。
L字型のソファーと四角いテーブル、テレビが置かれただけのシンプルな個室をあてがわれた。俺と神崎さんは長い方の辺に、サキは短い方の辺に腰を下ろす。神崎さんが真ん中に陣取る形だ。
「――昔から思ってたんだけどさあ」
伝票やおしぼりなどが入ったカゴの中からマイクを取り出して、サキは懐かしむように口を開いた。
「マイクってチンポにそっくりだよねえ」
「あなた昔からそんなんだったんですか……」
呆れ果てるように嘆息する神崎さんだが、似てるか似てないかの二択なら個人的には肯定せざるを得なかった。
「でも似てるくなーい? ここが亀頭で、この出っぱってるところがカリで」
「そんなこと考えてるのはサキさんだけです」
「そうかなぁ。他にも同じこと考えてる人いると思うけどなあ」
「仮にいたとしても平然と口に出す人はいません」
ごもっともである。
「まっ、オスを求めるメスの本能ってやつね、筒状のモノにやけに目を惹かれるのは」
「主語が大きいです。サキさんの異常性を女性の総意みたいに語らないでください。メスって言い方も……」
「さあて、なに歌おっかなぁ!」
神崎さんの指摘を軽くスルーして、サキは上機嫌にタッチパネルを操作。それをじろりと一瞥すると、神崎さんはカゴの中からマイクを1本取り出した。
柄を握り締めたまま、影の落ちた表情で腕を振り上げる。サキに向かって今にも振り下ろさんとするので、慌ててストップをかけた。
「落ち着いて神崎さん! それお店のだから!」
「あっ……すみません、つい反射的に」
我に返るなり、神崎さんは腕を下ろして佇まいを整える。サキは何事もなかったかのように曲を選んでいる。
「カラオケなんて久しぶりだからな〜! あっ、自慢じゃないけど、私歌うのかなり得意なんだよ?」
「あなたの得手不得手に興味を抱くとでも? それに歌いに来たわけじゃありません、話し合いをするために個室を確保しただけです」
ばっさりと神崎さんに一刀両断され、サキはむすっと頬を膨らませた。
「ノリ悪ッ! 2時間もあるんだからちょっとぐらいいいじゃん!」
「駄目です。歌うにしても、せめて話が終わってから余った時間で――」
「ははーん、わかった! そんなこと言って神崎さん、人前で歌うの恥ずかしいんでしょ〜? それか死ぬほど音痴だったりして」
やっすい挑発だなぁ……。
こんな見え透いた手に神崎さんが引っかかるわけないだろう。そう思っていたのだが、
「――は?」
神崎さんらしからぬ、低い声が放たれる。幻聴だと思うが、ピキッと血管が切れた音さえ聞こえたような気がした。
「少なくとも、あなたよりは上手ですけど?」
「私の歌を聴いてもいないのに断言しちゃうところが、もう必死感丸出しっていうか」
あはは、とサキは悪びれもなく笑う。本当に悪意はないのだろうが、神崎さんはそうは捉えなかったらしい。
「――いいでしょう。そこまで言うなら勝負してあげます」
「おっ、いいね! そうこなくっちゃ!」
もしかして神崎さんって負けず嫌いだったりするんだろうか……?
普段の落ち着いた雰囲気からは想像し難い一面だった。サキとの交流で変な化学反応が起こって、混ぜるな危険的な事態に陥っているのかもしれないが。
「話はいいの? 神崎さん」
「決着はすぐにつきます。そう、30分もしないうちに。どちらが上か思い知らせてやるんです」
だから邪魔しないでくださいと、神崎さんは続ける。
神崎さんの歌を聞けるチャンスなんて滅多にないだろうし、本人がいいと言うなら水を差す理由はどこにもない。特等席でふたりの戦いを観戦するとしよう。
「審査員は峰川くんでいいですか?」
「ちょっ、それはひきょくない? 絶対神崎さんを贔屓するじゃん」
……まあ、たしかに。
「普通に採点機能でいいでしょ。3曲ずつ歌い合って合計点数が高い方が勝利! どう?」
「いいですよ、受けて立ちます。負けた方は勝った方の代金も支払うということで」
「おっけー!」
両者の間で契約が交わされる。神崎さんVSサキの歌唱力対決。戦いの幕が切って落とされた。
*
勝負が始まる前に、鑑賞料として飲み物を買ってくるようにサキから頼まれた。ここは飲食の持ち込みがOKの店で、ドリンクバーやフード類は扱っていない。
神崎さんが買ってきてくれたシュークリーム以外に飲食類は持参していないため、飲み物は備え付けの自販機で買うしかなかった。
なんだか体良く奢らされた感は否めないが……たかだか数百円、サキはともかく神崎さんの歌を聞けるのだから安いものだった。
自販機の前に到着し、神崎さんに緑茶を、サキにカルピスをご所望通り購入して、自分用に炭酸飲料を買って部屋に戻る。
「ありがとねー」
「ごちそうさまです」
ふたりにペットボトルを手渡して座り直す。選曲はすでに終わっていたらしく、俺が部屋に戻るなりふたりはマイクを握り締めた。
「それでは、まずは私から」
ピッという電子音と共に流れていた広告が消え、画面に曲名が表示される。知らない歌だ。そもそも音楽には疎いので、知っている曲の方が少ないのだが。
「あっ、この前やってた映画の主題歌じゃん! 神崎さん意外とミーハー!」
どうやら有名な曲らしい。サキの煽りに動じることもなく、神崎さんは静かにイントロに耳を傾けている。すぅっと息を吸い込み、静かに歌声を奏で始めた。
おお……!
と、思わず声が漏れそうになるほどの透き通った声。普段の神崎さんはちょっとダウナーな感じの声質なのだが、歌声は打って変わって澄んだ響きを伴っている。
バラード調の、しっとりした曲調に合わせるようにして、透明感のある声音が余韻を残しながら空気に溶け込んでいった。
「……ふぅ」
1曲目を歌い終え、神崎さんは小さく息を吐く。
気になる採点は――。
「92点! すごいよ神崎さん!」
カラオケには数えるほどしか来たことはないが、俺を含め一緒に行った友人の大半が80前半か良くて後半の点数だったはず。90超えの数字は見たことがない。
「いえいえ、それほどでも」
首を振って謙遜する神崎さんだが、満更でもないようで表情は明るい。
「なかなか上手いね。強気に出るだけのことはある」
「そんなこと言っていられるのも今のうちです。謝るなら今ですよ?」
「なんか怖いって。勝負は勝負だけど楽しまなくちゃ損だよ?」
神崎さんの素晴らしい歌を聞いてもサキは不敵な態度を崩さなかった。
「さあ、次は私の番! 行くよ〜!」
まるでステージ上のアイドルみたいに意気揚々と宣言する。その姿に少しだけ、ほんの少しだけ俺が恋をしたサキの面影を見たような気がした。
画面が次の曲に切り替わる。サキが選んだ曲は俺でも知っているアニメソングだった。アップテンポな曲調に乗って、サキの陽気な歌声が響く。
……上手いの一言しかなかった。
低音から高音まで幅広く歌いこなしているのもあるが、ビブラートや緩急といった技術的な面でもどんどん加点されていく。そのまま最後まで軽やかに歌い上げたサキは、やり切ったような顔でマイクを置いた。
「さあて、何点かな〜」
「…………」
あどけなく笑うサキと、至って真剣な様子で結果を待つ神崎さん。ふたりの視線が画面に集中する。結果は、
「96点! やったー!」
「そんな馬鹿な……」
喜びはしゃぐサキとは対照的に、愕然とした顔で神崎さんは項垂れる。膝元に置いた手が握り拳になっていた。
「私の歌が……変質者に劣る……?」
「ひっど! まあ、負け惜しみにしか聞こえないけど〜♪」
「くっ……!」
歯嚙みしながら勢い良く立ち上がった神崎さんは、人差し指をサキに突きつけた。
「まだ負けてません! 3曲歌って合計点数が高い方が勝利でしょう!? 十八番おはこで取った高得点で調子に乗らないでください!」
「うんうん、そうだね! 楽しくなってきた〜」
「絶対に吠え面かかせてやります……!」
プンプンになって座り直し、神崎さんは2曲目を送信。
歌唱後、画面に映ったのは91の数字だった。対して、サキの2曲目の点数は94。点差は広がるばかりだが、勝負は最後までわからない。
そして、それぞれ3曲目を歌い終えてついに勝敗が決することになる。神崎さんが90点を、サキがなんと98点を叩き出した。
「私の勝ち〜! あれれー、『あなたよりは上手ですけど?』だったっけぇ?」
「うぅぅぅぅぅぅ……ッ!」
テーブルに突っ伏す神崎さんを、覗き込むようにしてサキが煽る。屈辱からか、神崎さんはぶるぶると震えていた。
「マイクが壊れてたんです! 交換してもう1度! もう1回だけっ!」
「往生際が悪いなぁ。まっ、私は全然ウェルカムだけど!」
「くぅぅ……!」
悔しそうにする神崎さんを、サキは余裕たっぷりに嘲笑っていた。なんというか、微笑ましい光景である。
「私の歌がサキさんに劣るなど……機械の故障に違いないのです。今度こそしっかりとした判定を」
だとしたら神崎さんは、故障したマイクをサキに押しつけて不当に勝とうとしているわけだが……そんな単純なこともわからなくなるぐらい取り乱しているようだった。まあ、温かい目で見守ろうと思う。
マイクを交換して始まった再戦。フォーマットは変わらず3曲ずつ歌い合って合計点数を競い合う形だ。
結果は――。
神崎さんが91点、88点、85点。
サキが96点、98点、95点。
またしてもサキの勝利に終わった。しかも動揺のせいか、神崎さんの点数がどんどん下がっているのが面白い。笑っちゃいけないけども。
「はいまた私の勝ち―! どっちが上かはっきりしちゃったね~?」
「こんな……こんなはずでは……!」
神崎さんは座ったまま地団駄を踏んだ。しかし、急にハッと冷静になって、
「……峰川くん、ちょっと頬をつねってもらえますか」
と言い出した。可愛い現実逃避に苦笑いがこぼれる。
「いやいや、夢じゃないよ」
「じゃあ悪夢です。早く覚めたいのでお願いします」
そこまで言うなら仕方がない。頬を引っ張ってあげることにする。もちろん優しめに。
「うっ……いたいでひゅ……」
ぷにっとしていて触り心地がいい。すべすべもちもちの肌で癖になりそうだ。
「夢じゃなかったね」
「むぅぅ……どうして……」
俺の指から解放されたほっぺたをそっとさすり、神崎さんは不満そうに唇を尖らせる。
「神崎さんの歌も上手だったよ。声も凄い綺麗だったし」
「え。そ……、そうですかね?」
お、意外にも褒め殺しが効きそうな気配だ。もう一押しすれば機嫌を直してくれるかもしれない。
「お世辞じゃないよ。機械の判定では負けちゃったけど、俺はサキより神崎さんの歌の方が好きかな」
「ほーらやっぱり神崎さんを贔屓するー!」
サキの茶々が入るが構わず無視しておく。神崎さんは照れたように俯いてモジモジしていた。
「じゃあ、ご褒美をください」
「え?」
ご褒美? どういうことだ……?
まさか『でかちんぽを挿れてください』だなんて言い出したりしないだろうな。監視カメラ作動中の部屋で致すというのは色々とマズい。
サキじゃあるまいし、神崎さんに限ってそんなことはないと思うが……。
俺が戸惑っている間に、神崎さんはこちらに体を向けていた。
「撫でてください、頭を」
想像していたよりも何倍もまともな要求に肩透かしを食らう。その安堵を見透かされたのか、神崎さんに睨まれた。
「峰川くん、今すごく失礼なことを考えていたでしょう」
「ま、まさか!」
「私とそこの変人を一緒にしないでください。ときと場所を弁える分別は、私にはちゃんとあります」
「私にもあるけど?」
自分のことを言われていると理解して尚、サキは飄々としていた。これが勝者の余裕というやつか。
「とにかく撫でなさい」
謎の命令口調に気圧されつつも、黒髪ボブの頭に手を置く。撫で始めると、神崎さんの表情は溶けていった。
「……んふふ」
サキに勝ち誇ったような笑みを向ける神崎さん。
「あのさ、神崎さんってばなんか勘違いしてない? 私が好きなのはデカチンポだけで、別に峰くんのことが好きなわけじゃないからね。だから、それで嫉妬したりしないよ?」
いわゆるツンデレ的な発言ではなく、ただ純粋に思ったことを口にしているような声のトーンだ。
「そうですね。それは大変残念です」
それでも神崎さんは笑みを保っていた。ぴくっとサキの眉が動く。少し苛立ったように。
言葉の裏にどんな意図が隠されているのか……女同士の見えない戦いは、俺にはまるで理解できなかった。
「さて、充電完了です」
すっかり元気を取り戻した神崎さんは、俺の手からするりと抜けた。
「勝負にはなにかの間違いで負けてしまいましたが、ともあれ、本来の目的を果たすとしましょう。シュークリームでも食べながら」
テーブルの上に置かれたケーキ箱に視線が集中する。箱が開かれると、中にはシュークリームが6個入っていた。ひとり2個の計算である。
「上がカスタード、下が生クリームです」
二列に並んでいるシュークリームを指差して、神崎さんは味を説明した。
「わあ! 私も貰っていいの?」
「いいですよ。そのつもりで買ってきたので」
「やったー!」
先ほどの争いはどこへやら。
大袈裟に喜ぶサキを横目に、神崎さんはいの一番に手を伸ばした。包装越しにシュークリームを手に取り、はむっとかぶりつく。ひと口食べて頷くと、幸せそうに笑った。
俺もいただくとしよう。カスタードの方をひとつ取って口に運ぶ。ふわっとした軽い口溶けのあとに濃厚な甘みが広がっていく。
スイーツなんてコンビニでしか買わないから、本格的な店の味はとても美味しく感じられた。すぐに1個分を平らげてしまう。
「美味しいねこれ~!」
「そうでしょう? 私の一押しなんです。小さい頃、落ち込んでるときに姉さんが買ってきてくれて、それ以来たまに食べたくなるんです」
「へえ、結構前からあるお店なんだね。てか姉妹仲いい!」
「そんなことないですよ。普通です」
「ウチは一人っ子だから憧れるなぁ。私もお姉ちゃん欲しかった!」
「まあ、いたらいたで大変なんですけどね。私の姉は、あなたみたく頭がおかしいので」
「普通の友達みたいに話してたのに急に毒吐かれた!?」
ショックだったのか、サキはガーンと言わんばかりの顔で仰け反った。それを無視して2個目に手を伸ばしている辺り、神崎さんもなかなか肝が据わっている。
「そう、本当にどうしようもない姉なんです……」
神崎さんはどこか虚空を見つめるような眼差しになって、
「どこから話したものでしょうか……」
そう言って、訥々と語り始めた。