【2巻11/14発売!】ずっと好きだった幼馴染にフられて始まる淫らに一途なハーレム生活 作:花染彩葉@幼馴染ハーレム2巻発売中!
第17話『温泉旅行へ』
家族以外の人間と旅行に出かけた経験はない。遊ぶときはもっぱら地元、出かけても大型ショッピングモールがせいぜいなぐらいで、県を跨ぐ移動すら俺にとっては非日常に属する。
――高速道路を走る車内。流れていく青空を眺めながら、窓に反射した自分の顔が笑みを形作っていることに気づいた。
「いやぁ、温泉楽しみだね!」
後部座席で横並びに座っていたサキが、寄りかかるようにして俺の右肩をぶんぶん揺らす。気持ちは同じだったので「まあな」とだけ答えておく。
「しかも2泊3日の温泉街! 高かったんじゃないんですか?」
助手席と運転席の間に顎を乗せ、サキはお姉さんに話題を振った。
「そりゃもう。諭吉で野球のチーム組めちゃうぐらいには」
「はへぇ……お姉さん太っ腹ァ!」
「でっしょう! もっと私を褒めて!」
「よっ、女王様!」
「いえーい!」
ほとんど初対面のはずなのに、親友のように息ぴったりなふたりだ。ただ、額が額なだけに若干気後れするのは否めない。テンションが高いところに水を差すようで悪いが、俺はお姉さんに再確認した。
「本当に良かったんですか? 宿泊費に加えて車まで出してもらって」
「いいのいいの。大事な妹の頼みだもん、断れないよ」
「その大事な妹の彼氏に唾つけたのはどこの誰よ」
「エミったらまだそんなこと気にしてるの? 去年の話なんだからもう忘れてよ」
助手席に座っている神崎さんが、ふんっと窓の外に目をやる。ミラー越しに俺と視線が交わって、途端に目を背けられてしまった。
――事の発端は去年まで遡ることになる。
誘惑に負けてお姉さんと肉体関係を持ったツケは、クリスマスと年末の予定が白紙になるという形で俺にのしかかった。
「――罰として年内のデートはなしです。新年までしっかりと反省してください」
お姉さんの姦計に嵌まってしまった翌日の、大学での一幕。食堂で昼飯を食いながら、俺は予告通り神崎さんからみっちりお説教を喰らった。
「言っておきますけど、エッチも禁止ですからね。私だけではなく、姉さんやサキさんともです」
取り付く島もなく、それから冬季休暇が始まるまで口を利いてもらえず、俺の年末年始は散々なものになった。
メリークリスマスもあけましておめでとうも謝罪のメッセージもすべて既読無視。明確に避けられている、というか嫌われている節さえ感じた。
しかし、ひとつだけ救いもあって、
『エミからの伝言、「3日〜5日はみんなで旅行に行くので予定を空けといてください」だってさ~』
お姉さん越しに預かった神崎さんからのメッセージ。直接言ってくれればいいのにお姉さんを介する辺り、やっぱり怒ってはいるのだろうが、もし嫌われているなら旅行になど誘ってもらえるはずがない。
そうして今回の旅行が実現したわけだが――俺はこれを仲直りのチャンスと捉えている。駅で合流してからまだ一度も会話できていないが、せっかくの旅行なんだし一秒でも長く一緒に楽しめる時間を作りたい。
旅行が終わったらすぐに授業は再開されるし、2週間後にはテストも控えている。お互いピリピリするだろうし、忙しくもなるだろうから、この冬季休暇最後の3日間でなんとしても仲直りを果たさねば。
手始めに、座席の隙間から前に座る神崎さんに話しかけてみる。
「温泉楽しみだね」
「――――」
返事はない。無表情のまま、窓際に頬杖をついて外を眺めている。話しかけるな、と言わんばかりに。
涙が出そうになった。
「神崎さん……」
いかんいかん、くじけるな俺。悪いのは俺なんだからこれぐらいの仕打ちは受けて当然。試練だと思って受け止めろ。
「喧嘩するほど仲がいいってね~」
「ね~」
外野で繰り広げられる呑気なやり取り。頼むから今回だけは邪魔しないでもらいたかった。
途中にあったパーキングエリアで休憩を挟み、軽い昼食を済ませてから再び出発。地元から車を走らせること2時間ほどで最寄りのインターに到着した。料金所を抜けると数分もしないうちに山道に差しかかり、曲がりくねった道をぐるんぐるんと登っていく。
ここに来るまでの間、何度か神崎さんへの接触を試みてみたものの、結果は相変わらずの無反応だった。
サキやお姉さんとは話しているのに、俺とはちっとも喋ってくれない。それを見かねたお姉さんが「いい加減にしなよ」と神崎さんを窘めにかかったが、「元凶は黙ってて」の一言で返り討ちに遭っていた。仲直りへの道のりはまだまだ続きそうだった。
しかし、目的地への距離は次第に縮まっていく。やがてトンネルを抜けると開けた場所に出た。
眼下に広がるのは山間に栄えた街並み。年季の入った建物が軒を連ね、街を割るようにして大きな川が流れている。所々に湯けむりが上っており、まさしく温泉街といった様相を呈していた。
「わあ! 超エモーい!」
景色が見えるのは俺が座っている方の窓からで、外を見ようとサキが身を乗り出すものだから空間が圧迫されて手狭になる。
「誰かと旅行なんて久しぶりだから舞い上がっちゃうなあ」
「――近くないですかね」
「おっと。ごめんごめん」
ミラーに映っていたのか、神崎さんが俺たちの距離感を指摘する。サキは俺とのスペースを空けた。
「さあ、もうすぐ到着だよー!」
お姉さんの陽気な声と共に、車は坂道を下っていった。
*
宿となる旅館は温泉街の奥まったところに位置していた。広大な敷地を誇る純和風の老舗旅館で、年季を感じさせる木造建築が厳かに俺たちを迎え入れる。専用の駐車場は7割ほど埋まっており、店の盛況具合が窺えた。
駐車場に停めたら車から降りて、凝り固まった体を解すように空に向かって伸びをする。大きく息を吸い込んで、新鮮な空気を体内に取り込んだ。
温泉の匂いがする、と言いたいところだが至って普通の空気。まあこんなものかと納得しながら車の後ろに移動して、トランクから2日分の荷物が入った鞄をそれぞれの面々が取り出す。
神崎さんがボストンバッグを重たそうに持っていたので、俺は手を差し出した。
「もとっか?」
「…………」
今回は完全な無視ではなく、神崎さんは自分の手と俺の手を交互に見つめた。返事がないことに気まずさを感じつつも、俺は笑顔で口にした。
「少しぐらいポイント稼がせてよ」
ときには強引になることも必要じゃないかと思って、返事をもらう前に鞄を引き取る。
神崎さんがなにか言いたそうに口を小さく開けるが、結局、言葉が紡がれることはなく唇は引き結ばれてしまった。そんな神崎さんに微笑みかけながら、
「俺たちも行こ」
そう言って、玄関口に向かうお姉さんとサキのふたりを追いかける。