【2巻11/14発売!】ずっと好きだった幼馴染にフられて始まる淫らに一途なハーレム生活 作:花染彩葉@幼馴染ハーレム2巻発売中!
旅館を出て、白い息を吐きながら歩く。10分もしないうちに目当ての足湯は見えてきた。
駅前のバス停のような形で屋外に設置されており、横長の浴槽が、木の屋根の下に列を成して並んでいる。
タオルを持参すれば無料で入れるみたいだが、ど忘れしたので近くの店で購入する。靴と靴下を脱いでから木製のベンチに上がり、俺とお姉さんは向かい合うように腰を下ろした。
浴衣の裾を捲り、ぽちゃり、とお湯に足を入れる。
じんわりとした温もりが足の指間ごと包み込んでいく。
「くうぅぅッ! きもちいいぃ……」
お姉さんは後ろに手をついて、ぐったりと倒れ込んだ。
「寒いから余計に染みますね」
お姉さんを真似たわけではないが、俺も後ろに手をついて天井を見上げる。
足湯には他にも先客がいて、老夫婦に3人家族と、男女のパートナーがいる組み合わせが多い。側から見れば、俺とお姉さんもカップルに見えているのかもしれない。
「足湯ってなんかちょっとエッチだよね。ウリウリー」
お湯の中でお姉さんが足の指を絡めてくる。本当にカップルと間違われそうだからやめて欲しい。
「知りませんよ」
「つれないなぁ」
こちらから足を引いて離れる。
やはりふたりきりにならなくて正解だった。部屋にいたままだったら襲われていたに違いない。
しかし、こうして落ち着いてお姉さんと話せる機会も中々ないだろう。
「お姉さん。ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
近くにいたカップルがいなくなってから切り出す。
「なに? スリーサイズ? それとも経験人数とか?」
「違うって言いたいところですけど、経験人数っていうのはあながち間違いじゃないです。ただ、神崎さんのことです」
「エミの経験人数ってこと?」
「ええ、まあ……はい」
姉なら妹の情事を知っていてもおかしくない。以前からずっと気になっていた疑念を、俺はお姉さんにぶつけてみた。
実は神崎さんには他にも付き合ったことがある人がいて、俺に近づいたのは男漁りの一環でしかない可能性。それを憂いての質問だったが、顔色ひとつ変えずにお姉さんはこう言った。
「自分で聞けばいいじゃん」
正論なだけに耳が痛い。
「それができないから苦労してるんですよ……」
「下は立派なのに中身は女々しいね」
言葉のナイフがぐさぐさ突き刺さる。これも事実だから反論のしようもないのが悲しいところだ。
「まあ、ふたりの不仲は私にも原因あるし、教えてあげてもいいけど、姉だからって妹のこと全部知ってるわけじゃないからね。ひとりで慰めてるのは何回か盗み聞きしたことあるけど」
「なにしてるんですか……」
俺の突っ込みに舌を出して戯けると、お姉さんは記憶を掘り起こすように「うーん」とうなった。
「男の子を家に連れ込んだのは君が初めてだと思うよ。私の知る限りではね」
だが、隠れて連れ込むことはいくらでも可能だろう。現に俺が初めて呼ばれたときは家に誰もいなかった。
そもそも、密会の場所など自宅以外にも無数に存在する。
……こんなふうに神崎さんを疑ってしまう自分がひどく嫌になった。
「ああ、なるほどなるほど」
俯く俺を見て、なにやら納得した様子のお姉さん。
「つまり君は、エミが本当は遊び人で、自分が遊ばれてるだけなのか疑ってるわけだ」
「まあ、端的に言えば。なんていうか、神崎さんに好かれてる自信がなくて」
最初から妙な話なのだ。
神崎さんは一目惚れと言っていたが、贔屓目に見ても俺の外見は中の上。だが、身長は160cm前半の小さな男だ。サキも言っていたじゃないか。170cm以下の男は論外だと。そんな男に一目惚れなどするだろうか?
大学には他にいくらでも高身長イケメンが存在するのに、交流も馴れ初めもすっ飛ばして唐突に俺に告白するだなんて……。
そしてその疑念は、お姉さんを知ってより色濃いものになった。
「俺に近づいたのは体が目的だったんじゃないかなって……姉がこんなですし、妹もあるいはって不安なんです」
こんな姉とひとつ屋根の下に住んでいたら、貞操観念が歪んでも不思議ではない。
「こんなとはなんだ、こんなとは」
「すいません。つい本音が」
「まあ、エミの本心なんて知りっこないけどさ」
そう前置きしてお姉さんは言った。
「体目的で近づくのって、そんなにいけないこと?」
なにを言い出すのかと思えば……。
「そりゃ、いい印象はないんじゃないですかね」
ヤリマン的な思考に呆れながら応じると、
「エミから聞いたよ。デカチンポくんは最初、サキちゃんのことが好きだったんだよね?」
唐突な確認に一瞬困惑する。知られていたことに驚きだが、その認識に違いはない。こくりと頷く。
「だけど振られちゃって、そのあとすぐに告白してきたエミと付き合った。そうだよね?」
再度頷くと、「じゃあ」とお姉さんは俺の内心に踏み込んできた。
「なんで君はエミの告白をOKしたの?」
過去を思い返し、どう話したものかと考え込む。
サキに振られた直後だったから。サキとの狂った関係性を解消したかったから。早く彼女が欲しかったから。
色々あったと思うが、一番の理由は多分――しかし、これを口にするのは何故か抵抗があった。
「神崎さんならいいかなって」
そんな感じの理由でぼかしてみるが、
「卑怯だねそれは。もっと具体的に」
容赦のない追及が俺を襲う。沈黙する俺に、お姉さんはしたり顔で言った。
「エミが可愛かったからでしょ? つまり、顔が良かったからだ」
喝破され、喉が詰まったように胃が押し上がる。
「顔が良かったから告白をOKした君と、仮にだよ、体目的で君に近づいたエミ。これ、私には大して違いがわからないんだけど、君的にはその辺どうなのかな? 要はふたりとも打算じゃない?」
どこか咎められているような雰囲気を感じて、俺はなにも言えなくなった。
「ごめんごめん、別に責めてるわけじゃないんだよ。男女関係の始まりなんてそれで全然いいと思うし」
と、重くなりかけた空気にガス抜きを加えてから、お姉さんは話を続ける。
「お金目的、体目的、コネが目的。打算から始まる恋愛でも別にいいじゃん?」
同意を求められたが、素直に頷くことはできなかった。
「……でも、それって虚しくないですか」
「そう? きっかけとかどうでも良くない? 過程がなんであれ、重要なのは今っしょ。打算を超えて本気になれるかどうかは当人たちの努力次第」
足湯のお湯をかき混ぜながら、お姉さんは達観したようなことを言う。
水面に映る自分の顔が、生じた波紋によって揺らいで見えた。
「他人の本心を究極的に理解するのは、結婚した夫婦でも不可能なんだよ。もし完璧に心が通じ合ってるなら、夫婦が離婚するはずないからね」
まあ、たしかに。
「どんなに悩んだって相手の本心なんてわかりっこない。だったらいっそ、相手が自分と絡むのは打算だって決めつけちゃって、そのうえで好かれるように努力するのが一番」
「…………」
「それなら、相手が自分のことを好いてくれてるならもっと好きになってもらえる。たとえ好意がなくても、打算を超えて本当に好きになってもらえるかもしれない。そうじゃない?」
そういう考え方もあるのか、というぐらい俺には新鮮味のある価値観だった。
理由や過程は関係ない。俺も神崎さんも現状を望んで受け入れたのならそれでいい。あとはもう、今以上に好きになってもらえるように頑張り続けるしかない――お姉さんはそう言っているのだ。
「努力して、それでも好きになってもらえなかったら?」
「そんときはしゃあない。別れて次だね」
お姉さんらしい。
しかし、たしかにその考えが一番建設的に思えた。
「どったの」
顔を覗き込まれ、視線を逸らす。
「いえ。大人らしいことも言えるんだなぁって感心してます」
「これでもお姉さんですから」
背筋を伸ばし、お姉さんは胸を反らせた。
「ありがとうございます。俺、頑張ってみます」
「それじゃあ、まずはその『神崎さん』っていうのをやめるところからだね。彼女なら名前で呼んであげなくちゃ」
「いきなりハードル高いですね……」
「サキちゃんのことは名前で呼んでるのに?」
「アレはただの幼馴染なんで」
サキと神崎さんでは事情がまったく違う。だが、前に進もうという意思が芽生えたのは大きな一歩だと思う。
俺は間違いなく神崎さんが好きだ。最初は顔が良かったから告白をOKしただけだけど、今では本心から離れたくないと思っている。
神崎さんが俺のことをどう思っているのかは関係ない。
ただ俺が好きだから振り向いてもらえるように頑張る。
きっと、それだけで良かったのだ。
「頑張ります」
今度は自分に言い聞かせるようにつぶやく。
「うんうん」
満足げに頷くお姉さんを見て、俺は心の中で決意を固めた。