【2巻11/14発売!】ずっと好きだった幼馴染にフられて始まる淫らに一途なハーレム生活 作:花染彩葉@幼馴染ハーレム2巻発売中!
「私のバカぁぁぁッ――ァ!」
温泉の中に顔を突っ込み、ストレスを発散させるように絶叫します。ぶくぶくと、大量の空気が口の端から弾け出て、私は泡と一緒に水面へと上昇しました。
――場所は屋内にある大浴場。夕暮れ前だからか人は疎らで、浴場内には数えるほどしかお客さんはいません。それでもご迷惑でしたでしょうが、鬱屈した気持ちを吐き出さないと気がおかしくなりそうでしたので、ここはどうかお許しを。
タオルで濡れた髪の毛をまとめ、大理石風の浴槽に背を預けて肩までお湯に浸かります。
「やっぱり無理してたんだ」
隣に座るのは、ヘアクリップで髪を後ろにまとめたサキさんです。彼女はニヤリと笑みを浮かべると、大胆に腕を広げながら浴槽にもたれかかりました。
凹凸のハッキリした大人の女性の体……。
とても同じ年齢とは思えません。こんな人が峰川くんを狙っていたのですから、共存の道に逃げたくなるのも致し方なしなのです。
「さっさと仲直りしちゃえばいいのに」
もっともな意見ですが、それができたら苦労はありません。俯き、お湯の中で手を握り締めます。
「……仲直りの仕方がわからないんです」
「そんな難しく考えること? ちょっと言いすぎたよ、めんごめんごで元通りじゃない?」
「あなたと違って私は繊細なんです!」
水中に半分沈み、気恥ずかしさを紛らわします。そんな私を、サキさんは「繊細ねえ」と愉快そうに見下ろしました。
「アレだよ。仲直りしたいなら手っ取り早くセックスしちゃうのが一番だと思うよ」
「あなたって本当に下半身だけで物事を考えてるんですね」
まあ、私も人のことを言えた義理ではありませんが。
「いやいや、案外これが最善最速最良だったりするんだよ。――神崎さんって峰くんが初カレ?」
藪から棒な問いでした。
「……なんですか急に」
「腹を割って秘密の女子トーク的な?」
距離を詰められ、太ももと太ももがごっつんこします。さらに身を寄せられ、逃さないとばかりに肩に腕を回されました。
観念した私は、ぽつりとつぶやきます。
「……初めてですけど」
「え!? マジで!?」
「な、なんですか! 文句でもあるんですか!」
顔が真っ赤になるのを自覚しました。怒りではなく羞恥によって。
「文句はないけど、そっかあ。へえ、ふーん、へえー」
「むっ」
前言撤回です。マウントを取られたような感じがして、怒りの方が勝りました。
「人を下に見るような目で見ないでくれますか」
言いながら、お湯の中で横腹を抓ってやります。
「痛い痛い! ごめんってば」
温泉に沈む彼女を見下ろして、ふんっと鼻で息を吐きます。
「大体、峰川くんが悪いんです。姉さんには気をつけてくださいとあれほど言ったのに……」
「それって今さら気にすることなの? 私のこと許してくれてるんだから、他に愛人のひとりやふたり増えても変わんなくない?」
理詰めでいけば、そういう話になるのでしょう。
「そうですけど……」
肯定しつつ、私は続けます。
「なにも嫉妬だけで怒ってるわけじゃありません。私の言いつけを破ったことに、私は怒ってるんです」
「支配欲こわぁ」
一言にまとめられてしまったうえに、軽く引かれてしまいました。
「でも、ずっとそんなんだと峰くんに愛想尽かされちゃうよ? 男は移ろいやすい生き物なんだから」
サキさんはどこか哀愁を滲ませた表情で目を伏せます。私を憐れむためか、あるいは経験に基づく助言なのか、真たる部分は定かではありませんが。
ただ、サキさんはすぐにいつものふざけた調子を取り戻しました。
「なんなら、私が今から本気で略奪しちゃってもいいんだよ?」
「峰川くんにはもう、あなたへの恋愛感情はないと思いますけど」
「それは私が肉体関係に甘んじてるからでしょ。ありのままを曝け出さず、女の子らしい自分を演じて、本気で峰くんにアプローチしたらどうなるだろうね」
「…………」
下品な言葉を撒き散らさないサキさん……ですか。
もしこの人が本気で言動を慎むようになって、峰川くんに肉体関係ではなく恋人関係を迫ったら……その先は考えたくなかったです。
なので威嚇の意味を込めて、私はサキさんを睨みつけてやりました。
「冗談だよ! そんな怖い顔しない、可愛い顔が台無しだよー」
両手でほっぺたをすべすべされました。なんだか、あやされているみたいで癪に障ります。
「まあ、冗談は置いといてさ、早く素直になって仲直りしちゃいなよ。私じゃなくても、他の誰かが本当に峰くん掻っ攫ちゃうかもよ?」
「それは……嫌ですけど」
「でしょ? 峰くんに神崎さん以外の彼女ができちゃったら私も困るし」
結局この人の目的は峰川くんのブツだけなのでしょう。私たちが別れたら、でかちんぽのために速攻で彼を落としにいくに違いありません。
いえ、私と峰川くんが別れるなど真夏に雪が降り積もるぐらいあり得ないことですが。
「私、今のこの関係好きなんだよね。傍から見たら狂ってるって思われるだろうけど、ひとりを奪い合ってドロドロの喧嘩をするよりは、優先順位を決めちゃって、それぞれの欲を満たせるようにした方がよっぽど気楽だもん」
恋人よりセフレの方が気楽、みたいな意味合いでしょうか。それともハーレム主義と呼んだ方がいいのか。まあ、どちらもサキさんらしいといえばサキさんらしいです。
少しだけ、彼女に対して興味が湧きました。
「なにか過去にあったんですか?」
「おっ、私に興味ある感じ?」
「男性関係でいい話を聞かないもので」
サキさん――西宮サキは誰にでも股を開くヤリマン。峰川くんは知らなかったようですが、同期の女子の間では共通認識レベルの話です。
「私にも色々あったんだよ」
「色々って?」
「食いつくねえ」
「腹を割って話そうと言い出したのはあなたの方です」
温泉の中で体育座りをして、立てた膝に顎を乗せながら私は尋ねます。どんな話が飛んでくるのでしょう、と身構えている私に、サキさんは儚げに言いました。
「そんな大した理由じゃないよ。憧れてた人にヤリ捨てされて、吹っ切れちゃっただけ」
過去を語るサキさんが、先ほどの私と同じように湯船に顔を浸けます。顔の上半分しか見えなくなって、今ではどんな表情をしているのか正確にはわかりません。ただ、目元はどこか悲しんでいるように見えます。
一瞬で興味が失せました。
「へー。災難でしたね」
昨夜見た夢の内容を話す人に返答するが如く、私は適当に相槌を打ちます。本当に大した理由ではなかったので。
「あれ? 今のって過去を偲んでる私を優しく慰める流れじゃなかった?」
顔を引き上げたサキさんは、やはりというか、シリアスとは程遠い表情をしていました。
「ヤリ捨てされた話なんて、姉さんから耳にたこができるほど聞かされてるんで」
「こんな近くに類友が!? あとでお姉さんに聞いてみよーっと」
「姉さんと同類のあなたが、その程度の過去に囚われるはずがありません。ですから、慰めは不要と判断しました」
「まあね」
ウインクしながら肯定し、サキさんは浴槽に背を預けました。
「実際、今じゃなんとも思ってないし」
「悩んでたら、普段からあんなにテンション高く振る舞えないでしょうしね」
「これでも当時は結構悩んだんだよ? 自分の存在価値ってなんなんだろうなって」
湯気の立つ天井を見つめ、サキさんは言葉を続けます。
「悩んで悩んで、結局、答えは出なかった。だからせめて自分には正直になろうって、やりたいことは全力でやろうって決めたんだ」
台詞だけを切り取れば含蓄がありますが、その結果がヤリマン化ではどうにも締まりません。はあ、と私は気のない返事をしました。
「けど、そんな悩み、最初からない方がいいに決まってるんだよ。ヤリ捨てされないに越したことはないんだし」
そこでようやく、私はサキさんの意図を理解しました。
「もしかして私のこと心配して言ってくれてます?」
「余計なお世話だった?」
「いえ……そういうわけでは」
この人、意外と優しかったりするんでしょうか。噂で聞いていたほど悪い女性とは思えないのですが。
「駆け引きも大事だけど、素直にならないとマジで捨てられちゃうよ。私は大丈夫だったけど、神崎さんはそれ、耐えらんなさそうだし」
的確な見立てです。もし、峰川くんと仲直りできずにこのまま捨てられてしまったら……想像するだけで胸が張り裂けそうです。
「だから神崎さんにはそんな思いして欲しくないなあって思っただけ」
「そう、ですね……」
誰が悪いかとか、意地がどうこう言ってる場合ではないと、今さらながらに思い至ります。
サキさんからのご忠告、しかと心に刻むことにしましょう。
「今回の旅行。あなたを誘うかどうかギリギリまで迷ってたんですけど、一緒に来て良かったです」
「ハブるつもりだったってこと!? それは私でも泣いちゃうよー!」
照れ隠しのつもりで遠回しに感謝を伝えると、サキさんは涙目になって私の体を激しく揺さぶりました。
どうして照れ隠しの部分だけを真に受けるのでしょうか。聡いのか鈍いのか、よくわからない人です。
照れていたのが馬鹿らしくなり、私は素直に言います。
「ありがとうございます。おかげで勇気が出ました」
一瞬きょとんとすると、サキさんは微笑みを浮かべました。
「いえいえ。大切な竿姉妹ですから、これからも末永くよろしくお願いするために神崎さんとは仲良くしておかなくちゃ」
「一番は私ですからね」
「わかってるわかってる」
お互いに牽制しながらも、私たちは笑い合います。
――決戦は今夜。
私は覚悟を決めて、温かいお湯に体を沈めました。