【2巻11/14発売!】ずっと好きだった幼馴染にフられて始まる淫らに一途なハーレム生活 作:花染彩葉@幼馴染ハーレム2巻発売中!
約束日の前日は、昼から閉店までバイトに勤しんでいた。シンクに山積みになった食器を黙々と、というより茫然と洗う。憂鬱になっているのは、もちろん明日に控えた彼氏役の件が理由だ。
「どうかした? なんだか今日は元気ないよ」
隣で食器を拭いていたキョウカ先輩が小首を傾げる。
俺を心配してくれたのだろうか。だとしたら、やはり後輩想いの優しい人だ。ひとりで思い詰めず、吐き出した方が楽になるかもしれない。
「実は明日、幼馴染から頼まれごとをされてまして……。彼氏のフリをしてくれって」
軽くなら教えても問題ないだろう。
「えっ。なにそれ」
元の声質が暗いからわかりづらいが、キョウカ先輩は食い気味になった。ギョッとするほど肩を寄せられ、思わず横に一歩ズレる。
「おっとごめんごめん。それで彼氏のフリって?」
キョウカ先輩は縮めた距離を元に戻した。話の先を促され、俺は簡潔に事情を説明する。
「男に付きまとわれてるとかで、諦めてもらうための口実がいるらしくって。で、俺に白羽の矢が立ったわけです」
「ならその幼馴染ちゃん、彼氏はいないの?」
少なくとも俺の知る限り、現状のサキに彼氏がいるという話は聞いていない。温泉旅行のあとも何度か体を交えているため、もしも恋人がいるのならサキは平然と浮気をしていることになってしまう。
……まあ、余裕で浮気しそうなイメージだから、この論理も当てにはならないが。
「たぶん?」
俺のぼんやりとした返答に、キョウカ先輩は珍しく得意げな顔で言った。
「それは脈ありってやつだね。その幼馴染ちゃん、きっと峰川くんのことが好きなんだよ」
元カレに諦めてもらうのは単なる口実で、本当は俺へのアプローチがメインなのだとキョウカ先輩は考えたのだろう。
あのサキがそんな企みを?
……ないない。
「そんなことないと思いますよ。第一、俺には彼女がいますし」
「そうなの?」
「はい。その幼馴染も彼女のことは知ってるんで、下心はないと思いますよ」
「へえ。峰川くん、彼女いるのか……」
キョウカ先輩の顔に影が落ちる。口の端はいびつに吊り上がっていた。
なんだなんだ……なんだこの反応は?
まさか嫉妬……いや、そういう類の感情ではなさそうだ。その瞳の奥にはもっと別の、暗い感情が渦巻いているように感じた。
「あの……キョウカ先輩?」
俺の呼びかけでハッと我に返ったらしく、取り繕うように表情を素に戻すと、
「なんでもないよ。まっ、気楽にやりなよ、彼氏のフリなんて」
この話は終わりとばかりに、キョウカ先輩は乾拭きを再開した。なにか触れてはいけない闇に触れてしまったような気がするが、明らかに話を逸らされた以上、追及は厳禁だろう。
それに、こうして口にしたことで気持ちは少しだけスッキリした。
気楽に。そうだな、気楽にやろう。たかがサキの頼みじゃないか。失敗したところで、対して俺の人生に影響はない。
「そうですね。ありがとうございます」
一言お礼を告げて、俺も食器洗いを再開した。
*
翌日。自宅で昼飯を食ってから、俺は先日訪れた駅前のファミレスに向かった。足取りは当然のように重い。せめて雪でも降ってくれたら風情も出るのだが、俺の内心を嘲笑うかのように空は晴天だった。
店内に足を踏み入れる。連絡を受けていたのでサキがいることに驚きはしなかったが、そのサキの、隣のテーブルに座っているふたり組を見て、俺は声をかけずにはいられなかった。
「ちょっと。なんでお姉さんまでいるんですか?」
エミちゃんがいるのは想定内だ。意気揚々と見物に来ると言っていたから。だが、そこにはお姉さんの姿まであった。
お姉さんは相変わらず体のラインがくっきりと出るセーターを着ている。エミちゃんは長袖のキャミワンピ姿で、これまた対照的な姉妹である。
「――修羅場を見れるってエミから聞いてね。つい来ちゃった」
てへ、と舌を出してお茶目なポーズをするお姉さん。エミちゃんを見つめて不満を訴えると、ニコッと微笑みを返された。
「ふたりとも、他人事だと思って楽しんでるでしょ……」
俺の憂鬱も知らないで……。
というかお姉さん、仕事はなにをしている人なんだろう。今は2月の平日の昼下がりだぞ。学生の俺たちはともかく、この人はいい歳をした大人だろうに。
まさか夜職とかに勤めているのだろうか。綺麗でおっぱいも大きくて話上手。実際のところ天職な気もするが、詳しく尋ねる勇気はない。付け加えるなら今はその時間もなかった。
エミちゃんやお姉さんと話している姿を、これからこの店に来るであろうサキの元カレに見られるのはよろしくない。演技がバレる恐れがある。
「はあ……全く……」
早々に話を切り上げて、サキの隣に腰を下ろす。
サキは珍しく落ち着いた装いをしていた。長めのスカートにニット姿。元カレが相手だからなのか、露出を抑えたのかもしれない。
「今日はよろしくね~」
「はいはい……」
軽い調子のサキに、俺はおざなりに返事をする。
店員に注文を伝え、ドリンクバーでウーロン茶を注いで席に戻る。喉を潤しつつ、隣のサキに問う。
「で、肝心の元カレは?」
数分後には約束の時間になる。いつ現れてもおかしくない状況だ。
「さっき家出たってメッセージ来たからもう着くと思うよ。手筈通りによろしくね」
諸々の打ち合わせは事前に済ませている。泣いても笑っても、ここまで来たら後戻りはできない。
覚悟を決めよう。腐ってもおかしくても変人でも狂人でも、西宮サキはかつて俺が惚れた大切な幼馴染だ。男として一肌脱ごうじゃないか!
ウーロン茶を飲みながら待つことしばらく――。
「来たよ……!」
サキの小さな声に誘われ、俺は顔を上げた。颯爽とした足取りでファミレスに入店したのは、写真で見たままの金髪イケメンだった。しかも、俺と違ってバカクソに背が高い。
ジャケット姿が様になった金髪は、サキの姿を見つけるや否や、一直線に俺たちの方に歩みを進めた。
「――こいつがそうか?」
テーブルの横で立ち止まり、金髪は不機嫌なのを隠そうともしない声でサキに聞いた。
「そうだよ。私の今の彼氏」
「は、初めまして……」
「どうも」
金髪は無愛想に応じて、俺たちの前に着席した。
「改めて紹介するね」
サキは俺の方に手を向けて、
「私の幼馴染で、同じ大学に通ってる峰川リョウタくん」
次は金髪の方に手を向ける。
「であっちが、アプリで知り合った元カレの進藤ツトムくん。美容学校に通ってるんだよね」
「ああ」
腕を組み、金髪はふてぶてしく頷く。空気が張り詰める中、エミちゃんとお姉さんがクスクスと笑っているのを、俺は耳の端で捉えていた。
サキに肘で小突かれ、俺は予定通りの台詞を口にする。
「えっと、進藤さん? 単刀直入に言わせてもらいますけど、あなたにストーカーされてサキは困ってるみたいなんですよ。この通り、今は俺と付き合ってるんで、今日のこの場を最後に粘着するのはやめていただけませんか?」
「そうそう」
首を縦に振ったサキが、同調するように言葉を引き継ぐ。
「今は峰くんと幸せにやってるの。ごめんね、進藤くん」
「――――」
沈黙が支配する中、注文を聞きに来たウェイトレスに金髪はモンブランとバナナジュースを頼んだ。
結構可愛い物を注文するんだな、こういうのがモテる秘訣なんだろうかと、場違いな感想を抱きながら乾いた喉をウーロン茶で潤す。
「俺よりそいつを選ぶ理由がわからないな」
「ごほっごほっ……!」
飲んでいる途中に口を開くものだからむせ返ってしまった。値踏みの視線に耐えながら必死に答えを探す。
「ずっと一緒にいた幼馴染なんで……長年秘めた想いが爆発、みたいな?」
煮え切らない返事に違和感を覚えたのか、金髪は眉間に皺を寄せた。
「お前、本当に彼氏なのか?」
ヤバい! 不審に思われたか!?
「も、もちろん! 世界で一番愛してるぐらいには!」
慌てて取り繕う。だが、そんな俺に次の災難が降りかかった。
「――ごほんっ」
わざとらしく咳払いしたのは、隣のテーブルに座っているエミちゃんだった。俺も金髪も反射的にそっちを向くが、エミちゃんは無関係を表明するようにお姉さんとなにやら談笑している。
しかし、今の咳払いは明らかに嫉妬のサインだ。
クソ……どうしろっていうんだよ!
「とにかく、サキの彼氏は俺なんです! 言いがかりつけるのは勝手ですけど、ストーカーはマジでやめた方がいいと思いますよ。常識的に考えて!」
俺への疑念を紛らわせるために話をすり替える。これを言われれば、金髪も黙るしかあるまい。
エミちゃんから視線を外すと、金髪は気を取り直すように息を吐いた。
「なにか勘違いしてるみたいだが、俺はストーカーなどしていない」
「ストーカーはみんなそう言いますよ」
「そうじゃない。納得できる理由があるなら、別れる覚悟は俺にもある。だがふたつ、納得いかない点がある。まずひとつ目」
金髪は指を一本立てた。
「繰り返しになるが、お前のようなパっとしない男に寝取られる理由がわからない」
ピキッと、こめかみに筋が立ったのを自覚する。どうして俺が侮辱されないといけないのだろう。言い返そうとしたが、それより先にサキが口を開いた。
「たしかに、峰くんってチビだし地味だもんねえ」
俺をフォローしてくれるのかと思いきや、発せられたのは共感の言葉だった。
「ぁっ……」
フられたときの記憶が蘇り、目眩に襲われる。……言われたままでなるものか。テーブルの下で、サキのローファーに踵を落とす。
「痛っ!」
「あ?」
小さく悲鳴を上げたサキを、金髪が訝しむ。不自然なその間を埋めるように、サキは「でもまあ」と背筋を伸ばした。
「峰くんにもいいところはあって……」
「たとえば?」
食い下がる金髪に、サキはもごもごと答える。
「や、優しいとか……」
再びフられたときの記憶がフラッシュバックする。あのときも、優しいからという誰にでも当て嵌まる理由でその場しのぎの配慮をもらった。あくまで彼氏のフリなのだから、いいところを言えなくても当然なのだが、当時となにも変わらない評価に俺の自己肯定感が下がる。
こんな理由では金髪も納得しないだろう。そう思ったが、金髪は真摯にその回答を受け止めていた。
「優しさが欲しいのか?」
「そりゃ、私だって女の子だし?」
「なら与える。いくらでも労るし、甘やかす。だから俺とよりを戻してくれないか?」
男にしては長い前髪がテーブルに散らばる。サキへの未練がそうさせているのか、態度は誠実そのものだった。
これがストーカー?
俺が知っているストーカーは、人前でチンポチンポと叫んだり、外壁をよじ登って他人の家に不法侵入するような狂人なのだが、それと比べたら随分まともな人間に見える。少なくとも日本語は通じそうだ。
サキに肩を寄せ、そっと耳打ちする。
「なあ。いっそのこと復縁したらいいんじゃないか? 俺が言うのもなんだが、かなりの優良物件だろ」
峰川ハーレム(エミちゃんが勝手に名付けた)から脱退することになるだろうが、サキにとってはそれもひとつの選択肢だと思う。
しかし、
「あーもう……ダルいなぁっ……」
髪の間に指を入れ、サキは投げやりに頭を掻き毟る。その苛立ちを感じ取ったらしく、金髪はゆっくりと顔を上げた。
「なにが駄目なんだ……? 頼むから理由を教えてくれ。せっかく付き合ったのに、なにも言わずに別れようはあんまりじゃないか」
「なにも言わず?」
「ああ、それが納得いかないふたつ目の理由だ。いきなり別れを告げられて、こっちの言い分も聞かずに即ブロック。付き合う前なら縁がなかったで終わる話だが、俺たちは正式に付き合っていた。それなのに……」
「…………」
どうしよう。俺は今、目の前の男に少し同情してしまっている。同じ状況になったら、俺も似たようなことをするかもしれないと思ったからだ。
仮に、エミちゃんから事情も説明されずに別れを告げられ、連絡先もブロックされたら――せめて理由を知ろうと俺は躍起になるだろう。大学で強引に話しかけたり、最悪の場合は家に出向いたり、やれることはなんでもやる……と思う。
ただ、この金髪はサキの個人情報を持っていなかった。だから、SNSを使って無理にコンタクトを取ろうとした。粘着するほど必死になる気持ちも、正直わからなくはない。
「サキ。聞いてる感じだと、お前にも落ち度はあるんじゃないか? フるならフるで、男はフられる理由を知りたい生き物なんだよ」
俺がそうだったように。まあ、俺の場合はそれを聞いてフルボッコにされたわけだが、理由もなくフられるよりはマシだったと思う。
簡単な話だ。金髪にもそれをしてやればいい。
「はぁ……」
期せずして構図は二対一に。めんどくさそうにため息を吐くと、サキは渋々といった調子で口を開いた。
「だったら言わせてもらうけど――」
そう前置いて、唾棄するようにこう言った。
「進藤くんのチンポ、毛虫みたいに小っちゃいんだもん」