【2巻11/14発売!】ずっと好きだった幼馴染にフられて始まる淫らに一途なハーレム生活 作:花染彩葉@幼馴染ハーレム2巻発売中!
事後、俺たちはささやかなスキンシップを楽しんでいた。
「よく耐えましたねっ♡」
体を丸めたエミちゃんが、甘えるように俺の胸板に頬擦りする。俺はその髪を撫でながら言った。
「かなり危うかったけどね」
「サキさんと私、どっちが気持ち良かったですか?」
「またそういうこと聞いて……」
「大事なことですよ、順列というものがありますから」
晴れやかな笑顔で踏み込んだことを聞いてくる彼女だ。事実がどちらせよ、サキの方が気持ち良かったなんて言えるはずがないのに。
「エミちゃんが一番だよ。なにに於いても」
「ならいいのです。サキさんや姉さんと火遊びするのもいいですけど、自分が誰の彼女であるのかをしっかりと心に留めておくように」
下がなければ上は生まれない。だから二番手三番手を作ることで一番になる。エミちゃんのスタンスというか企みはまさにそれだが、改めてその闇をぶつけられると面倒さを覚えた。
いや、嫌とかでは決してなくて、それはペットに世話を焼くような、愛のある手間に近いのかもしれない。
ったく、ウチの彼女は本当にしょうがないなぁ、的な感情だ。
「はいはい……」
「では、先日のチョコレートをもらったという先輩のことを詳しく」
急な不意打ちで息が詰まる。もう忘れてくれたものとばかり思っていたのに、まさかここに来て追及されるとは……。
とはいえ、なにもやましいことがあるわけでもない。堂々としていればいいのだ。
「前にも言ったけどただの先輩だって。それ以上でもそれ以下でもないよ」
「ふーん……」
至近距離でじぃっと湿度の高い視線を送られる。疑われていそうだ。
「エミちゃんは俺を信じてくれないの?」
「意地悪な聞き方ですね」
「まあでも、それはお互い様じゃない?」
「むっ」
ジト目になって不貞腐れるエミちゃん。これは放置すると尾を引くタイプの反応だ。付き合うようになってから早3ヶ月、俺は彼女の習性を把握しつつあった。
「そんなに不安なら見に来る? 見られても恥ずかしくないぐらいには仕事にも慣れたし」
「え! いいんですか!」
どの道いつかは訪れる未来だ。それなら早く疑いを晴らした方がいい。
「明後日のシフトがその先輩と重なってたはずだから、来るならその日かな」
「ぜひ!」
一見面倒臭そうな彼女ではあるけど、意外と単純な側面もある。約束を交わすと、エミちゃんは満足したのか体を起こした。
「では私はシャワー浴びてきますね♡」
「ほーい。俺もエミちゃんのあとで入るよ」
それから俺たちは、かわりばんこで汚れた体をシャワーで洗い流した。服を着直して身なりを整え、あとはホテルを出るだけの状態になる。
しかし、忘れてはいけない。この部屋にはもうひとり客がいる。
「おい……いつまでそうしてるんだよ……」
行為後、エミちゃんによってベッドから床に追いやられたサキは、未だに素っ裸のまま地べたに寝そべっていた。
イキ狂ってから一度も目を覚ましていない。まるで屍のように。
その背中をエミちゃんが揺する。
「サキさん。そろそろ時間ですよ」
「もうイッてるってばぁ……」
そんな寝言をサキはのたまう。
夢の中でまでなにをしているのか……。
「延長になっちゃうんでさっさと起きてください」
エミちゃんは、割と容赦のない勢いでサキの背中を踏んづけた。
「ぐへぇっ!」
空気を含んだ悲鳴が漏れると、
「ちょっ……、なに!」
サキは飛び起きてエミちゃんを見上げた。
「もう少し丁寧に起こしてよぉ……」
友達同士でも普通にブチ切れられるレベルの威力だったと思うが、案外ノリは軽かった。ふたりの力関係がなんとなく垣間見える。
「体揺すっても起きなかったので」
「だからって踏んづけることないじゃん!」
「いいから早く帰る準備してください。軽くならシャワー浴びる時間も残ってますし」
「もう! 神崎さんはもう少し私に優しくしてくれていいと思うんだけどなぁ!」
サキはプンプンしながらシャワールームへと消えていく。俺とエミちゃんは互いの顔を見合って、苦笑と共に肩を竦めた。
*
そして2日後。今日はバイト先にエミちゃんが偵察に訪れる日だ。
大丈夫。俺とキョウカ先輩は見られて不都合があるような関係性ではない。変に気を張らず、いつも通りに振る舞う。それでなにも問題はないはずだ。
「――先輩。ちょっといいですか?」
カフェの店内。お客さんの数が落ち着いたのを見計らい、俺はキョウカ先輩に声をかけた。
「どったの?」
「たぶん今日14時頃に彼女が来るんですけど」
「ウチの店に?」
「はい。それで、もしかしたら先輩を睨んだり威嚇したりするかもしれなくて……ただ、悪気あってやってるわけじゃないので気を悪くしないで欲しいなと」
失礼があってからでは遅い。先んじて断りを入れておく。
「君の彼女は猫かなにか?」
「まあ、猫っぽいところがあるのは事実ですね。ちょっと嫉妬深いっていうか……」
俺は頭を掻きながら事情を説明することにした。
「バレンタインのとき、義理チョコくれたじゃないですか。あれ、彼女に見られちゃって。ただの同僚って言ってるのに中々信じてくれないんですよ」
「面倒な彼女だね」
否定できないのが悲しい。いや、もちろんそういう一面も込みで好きだけど。
「でもいい子ですよ。だから邪険にしないであげてください」
「おーけー。まっ、任せなさい。私これでも空気が読める女で有名だから」
やはり後輩想いの優しい先輩だ。できた人、なんていうと上から目線かもしれないが、キョウカ先輩ならエミちゃんが嫉妬を向けても大人の対応をしてくれるだろう。
「よろしくです」
お礼とお願いを兼ねて頭を下げる。これで準備万端だ。あとはエミちゃんが来るまでしっかりと業務をこなす。
そうして時間は経過して――。
客足が落ち着いた14時頃。カランコロンというドアベルの音が店内に響いた。
「いらっしゃ――」
飲食店の従業員としてはあるまじき行為だが、俺は来店の挨拶を途中で区切ってしまった。
「どうして……」
「おー! 峰くんのエプロン姿って新鮮かも〜!」
ふたり組の中で真っ先に声を上げたのは、別に招いてもいないサキだった。隣のエミちゃんが困ったように口を開く。
「ごめんなさい。サキさんに今日のことを話したら私も行くと聞かなくて」
なんでエミちゃんはいつもこう勝手に!
サキは先日、ファミレスを出禁になったような要注意人物だ。一昨日の件はまだ笑い話で済むが、ここでそれをされたら洒落にならない。
「サキ。お前は帰ってくれ」
「どうして?」
「知り合いだと思われたら俺がクビになるかもしれないだろ。お前、歩く公然わいせつみたいな女なんだから」
「それがお客さん相手に言う言葉!? ちょっと責任者〜? 従業員の躾どうなって――」
「待て待て!」
クソ……客と店員の立場を利用しやがって……!
一端の従業員でしかない俺に、客として訪れたこのふたりを追い返す権限はない。
「わかった、わかったから!」
レジの隅にサキを追いやり、俺は声を潜めた。
「帰れとは言わない。でも、頼むから大人しくしててくれよ?」
「赤ちゃんじゃあるまいし、泣いたり喚いたりしないって」
「違う」
泣いたり喚いたりする程度ならまだ可愛げがある。俺が心配しているのは、ミルクを指して「精子みたいだよねぇ」とか言い出さないかだ。
サキはいつかのカラオケでマイクをチンポと表現していた。可能性は十分にあり得る。
「淫語を撒き散らすなって話だよ。一昨日だってお前、ファミレスを出禁になっただろ」
「それは峰くんも同じじゃん」
「お前と一緒にいたせいだろ!? 俺は巻き添えを食らっただけだ……!」
俺とエミちゃんはこれといった粗相をしてはいなかった。止めなかったことを悪と言われるとそれまでだが、サキに言われる筋合いなど毛頭ない。
「とにかく頼むぞ。もし変な言動を取ったら二度とズポハメはなしだ。いいな?」
「峰くんも大概おかしなこと言うようになったよねぇ」
誰のせいだと……。
「わかったわかった。まっ、安心してよ。私、空気が読める女で有名だから!」
初めて聞いた。そして全く同じ台詞をつい先ほどキョウカ先輩から聞いたが、発言者が違うだけでこうも信用性が損なわれるものなのか。
言葉というのは、なにを言うかより誰が言うかの方が重要らしい。
「こらこら、峰川くん。お客さんが来たら案内をしなきゃでしょ」
いつまで経っても客を席に誘導しないためか、カウンターの奥に立っていたキョウカ先輩から注意されてしまった。そうだ。今は仕事中だ。
サキをレジの端から連れ戻しつつ、渋々ふたりをテーブルに案内する。
「空いてる席へお好きにどうぞ……」
平日のランチタイム後は当然ながら人の入りが少ない。店内のお客さんは、ママ友らしきグループと老夫婦、そこにエミちゃんとサキを足した合計7人。スタッフルームで店長が事務処理をしているが、店を回しているのは俺とキョウカ先輩のふたりなので、店内には閑散とした雰囲気が流れていた。
そんな中だ。
「あっ」「えっ!?」
ほぼ同時にふたつの声が上がる。テーブルに向かう通路の真ん中で立ち止まったエミちゃんが、キョウカ先輩を指差した。ふたりの視線が交錯する。
「姫野先輩!?」
「やっぱり神崎ちゃん? うわぁ、懐かしい」
「…………」
「高校の頃から全然変わってないね。ちっちゃくて可愛いままだ」
どうやら顔見知りのようだ。しかも、キョウカ先輩の方はかなり親しげに接している。ただ、エミちゃんの様子は少々ぎこちなかった。
「どうして姫野先輩がここに……?」
「どうもこうもバイト先だからね」
「バイト先……」
エミちゃんが不安げに俺を見た。
「まさか……チョコをもらったのって……」
つぶやきには問いのニュアンスが含まれていた。
店内には俺とキョウカ先輩しか従業員がいない。チョコをもらった先輩とシフトが重なっている日を選んだのだから答えは明白だったが、一応こくりと頷いておく。
「あっ」
なにかに思い至ったようにキョウカ先輩が口にする。
「もしかして、峰川くんの彼女って神崎ちゃんだったり? それともそっちの子?」
「私は違いますよ。ただの幼馴染、ていうかセフ――痛っ!」
常に警戒しておいて良かった。サキの狂言が繰り出される前に、肘鉄で口を塞ぐことに成功する。
「ってことは、やっぱり神崎ちゃんと峰川くんが付き合ってるんだ」
俺とサキのやり取りには特に興味を示さず、キョウカ先輩は事実のみを解釈した。そして、
「へぇ……」
意味深に笑い、影の落ちた瞳で俺とエミちゃんを交互に見比べる。俺にはキョウカ先輩の意図がよくわからなかったが、エミちゃんはゾクッと身震いしていた。
そこで「すいませーん」と、他のお客さんから声をかけられる。
「追加の注文をお願いします」
対応しないわけにはいかず、ふたりに「注文決まったら呼んで」と言い残して俺はその場から離れる。
立ち去る直前、ちらと窺ったエミちゃんの横顔はどこか青ざめているように見えた。