【2巻11/14発売!】ずっと好きだった幼馴染にフられて始まる淫らに一途なハーレム生活 作:花染彩葉@幼馴染ハーレム2巻発売中!
俺の仕事が終わるまで、エミちゃんは俺とキョウカ先輩の動向をくまなく監視していた。サキがペラペラと世間話を振っていたみたいだが、そのすべてを右から左に聞き流していた。
エミちゃんに見守られながらの勤務がやがて終了する。キョウカ先輩はまだ仕事が残っているため、俺は一足先にタイムカードを押してホールの方に向かった。
別に示し合わせていたわけないが、ふたりはずっと店内にいたから自然と一緒に帰る流れになった。
「神崎ちゃん。良かったらまた来てね」
「……気が向いたら」
「つれないなぁ」
会計の対応をするキョウカ先輩に、エミちゃんはぶっきらぼうにお金を払う。その会話を最後に、俺たちは共に店をあとにした。
オレンジ色に染まった雲の下、駅に向かってしばし無言で歩く。駅についたら解散になってしまう。今しかないと思い、俺は切り出した。
「キョウカ先輩となにかあったの?」
ふたりが交わしていた言葉を思い返す。
――神崎ちゃんという呼び名。姫野先輩という呼び名。高校の頃から全然変わってないという、キョウカ先輩の発言。
ふたりは高校時代の先輩後輩という関係で間違いないだろう。
サキと並んで前を歩いていたエミちゃんが不意に足を止めた。俺に背中を向けたまま答える。
「なにもなかったですよ」
「とてもそうは見えなかったけど」
「本当ですよ。文芸部で一緒だった、ただの先輩です」
高校生の頃は文芸部に所属していたらしい。本が好きなのかな。まあ、それはまた別の機会に聞くとして、今の話題はキョウカ先輩についてだ。
「なら、単に性格的に苦手だったとか?」
「特にそういうわけでは。部の中でも意気投合していた方です」
「うーん……?」
話が見えない。ならば、あの怯えにも似た反応はなんだったというのか。煮え切らない態度の俺に、エミちゃんはくるりと身を翻した。
「そうですね……姫野先輩には悪いですけど、言わないことには始まらないですよね。口止めされてるわけじゃないですし」
俺に話すというより、自問自答しているような口ぶりだ。
怒ったり嫉妬したりするエミちゃんを見るのはもう慣れっこだが、不安とか思い悩む姿を見るのはこれが初めてかもしれない。ちょっと身構えてしまう。
「少し寄り道していきましょうか。外は冷えます」
「さんせーい!」
「サキさんも来るんですか?」
「だって暇だし。どこ行く?」
「では――」
そうして向かった先は駅前のカラオケ店。そこは意外と因縁のある場所だったりする。かつてサキとエミちゃんが歌唱力対決をした場所だ。
たしかあのときも、カラオケに行ったのは話し合いがきっかけだったように記憶している。人目を気にせず話したいとなったらまず候補に挙がる空間だから、エミちゃんの提案に異を唱える者はいなかった。
俺も一安心だ。カラオケなら、サキがどんなに淫語を叫んでも平然と構えていられる。
受付を済ませ、2時間コースで部屋を取る。席に座るなり、サキはマイクを手に持った。
「この前も思ったんだけどさぁ」
「はいはい、チンポだろ。もういいよ、それは」
「おお! やっぱり似てるよね。さっすが峰くん!」
「だから、似てると思ってるのはお前だけだって……」
「シズクさんがいたら絶対同意してくれると思うけど」
「それは……」
まあ、同意しそうではあるけど。
なにせ、男根を模したチョコレートを作るような人だ。しかもムカつくことにあのチョコ、めちゃくちゃ美味かったんだよな……。
俺が返答に窮していると、マイクへの興味は失ったのか、サキはタッチパネルに意識を向けた。
「さーて、歌うぞ~!」
デジャブだ。ここでエミちゃんに咎められ、サキが逆に発破をかけたことで歌唱力対決に突入したのが前回の流れだったか。今回はどうなる。
「そうですね。歌いましょう」
「おっ、神崎さんが珍しく乗り気だ。前みたいに勝負する?」
「当然です。サキさんをコテンパンに叩きのめしてストレス発散するためにカラオケを選んだんですから」
ふっふっふっ、と、らしくもなく低い声でエミちゃんは笑う。目的が変わっているような……。
「リベンジってやつだね。負けないぞ〜」
エミちゃんがコソ錬していたことをサキは知らないはずだ。今日は彼女が勝利する姿を見られるかもしれない。
カルピスを買ってくれるようにサキに命じられて、俺は3人分の飲み物を自販機で購入した。選曲を終えたふたりがいざマイクを手に取る。
そして――。
「――はい私の4連勝! まだまだ甘いね、神崎さん」
「――きぃぃぃぃぃっッ!」
エミちゃんにとってストレス発散になるはずの対決は、しかし真逆の結果で終わってしまった。1曲ずつ歌い合って点数を競う形式だが、4回戦すべての対決でサキが勝利。圧勝。そう表現する他ない。
「やっぱりここの機械壊れてますよ!」
「まあまあ。上手かったよ、エミちゃんも」
「私は上手くなりたいわけじゃなくて、サキさんに勝ちたいんですよ!」
怒鳴られてしまった。座ったまま手足をバタバタさせている。サキは悠々自適にカルピスを呷っていた。
「神崎さんってプライド高いよね〜。もし私が負けたら全力でマウント取ってきそう」
「姉さんといいサキさんといい、胸の大きい変態はどうしてこうも多才なんですか……」
「え? 神崎さんって胸の大きさにコンプレックスあったりするの? 大丈夫だって、みんなそれぐらいだし。まっ、私よりはちっちゃいけどね!」
「ぅぅぅぅっ! そういうところがムカつくんですよ!」
サキにマウントを取られ、エミちゃんは歯噛みしていた。
美乳のエミちゃん、巨乳のサキ、爆乳のお姉さん。俺としてはその3つに優劣は感じない。全員魅力的なモノを持っていると思う。所詮おっぱいは装備品。どんな胸かより誰の胸か、だ。
「いいじゃん、胸の大きさなんて。持ち主が一番大事じゃない?」
「ですけど、サキさんに負けるのは納得いきません」
「負けず嫌いだね」
励ましてなおも不貞腐れるエミちゃんを見て、俺は微笑ましい気持ちになった。一生見ていられる可愛さではあるが、時間は無限じゃない。
「じゃあ、そろそろ」
そう言って、ここに来た本題を切り出していく。
「キョウカ先輩の話を」
「はあ……そうですね」
マイクを置いたエミちゃんが、緑茶を一口飲んでから居住まいを正す。ふぅっと、気を取り直すように深呼吸を挟み、エミちゃんは言った。
「一言で説明すると、姫野先輩はクラッシャーというやつなんです」
「クラッシャー?」
日常生活では馴染みのない単語だ。
クラッシャー。サークラとかそういう感じの意味合いだろうか。
「あの人、私が知る2年間だけでも7組のカップルを破壊していましたから。高1の頃にも何組かのカップルを破綻させたらしいので、下手をすると10組以上のカップルを破滅に追い込んでいます」
「マジ!? ヤバァ〜!」
サキが愉快そうに大袈裟な身振りを取る。
「気だるげな雰囲気してたのに、中身はとんでもなくディープなんだねぇ」
この中では唯一キョウカ先輩と接点のない人物。対岸の火事ほど気楽なものはないが、その火事の当事者になりかねない俺にとっては結構笑えない話だ。
「それって寝取ってるってこと?」
「はい。1ヶ月もしないうちに乗り換えるのが常でしたが」
「…………」
――カップル破壊兵器。
そんなワードが脳内に浮かぶ。ただ同時、『あのキョウカ先輩がそんな不埒なことを?』という疑問も浮上する。
バイト初心者の俺を優しく指導してくれて、進藤とのあれこれで悩んでいるときに慰めてくれたキョウカ先輩が?
……待てよ。そういえば、あのときのキョウカ先輩は少し様子がおかしかったように記憶している。なんの話をしていたっけ。たしか……そうだ、俺に彼女がいるのを知った直後のことだ。
あれはまさか、新たな獲物を見つけたときの獣の反応だったのだろうか。
「彼女がいる男の人を好きになってしまって、横恋慕を企むのならまだ気持ちはわかります。ただ姫野先輩は、好意から男の人を寝取ってるわけじゃないんです」
「と言うと?」
「私は優越感で興奮するタイプですけど、あの人は略奪という行為そのものに興奮を覚えるタイプだと思います。あくまで私の見立てですが」
優越感で興奮するエミちゃんと、略奪行為で興奮するキョウカ先輩……どっちもどっちな気もするが、被害者が生まれるという点を考慮すると、質が悪いのは間違いなく後者か。
それにしても、キョウカ先輩の性癖はともかくとして、
「エミちゃん、優越感で興奮してるの?」
「旅行のときに言ったじゃないですか。モテモテなリョウタくんが私に尽くしてくれるのが嬉しいって。嬉しいっていうか、興奮するんです……えへへっ」
恍惚に溶けた頬を両手で持ち上げて、エミちゃんは体をクネクネさせている。
「あぁ……」
なんとなく覚えがある。ヤバい性癖を抱えているのではないかと疑った記憶が。
優越感か。たぶんそれは、サキやお姉さんに対しての感情なのだろう。しかし、そこで件の人物が「ちょっと」と口を挟んだ。
「神崎さん。マウント取るのは勝手だけど、そこは竿モテって表現しないと駄目だよ? 峰くんって、優しさの皮を被ってるだけで性格は臆病だし、顔は平凡で身長は私以下のチビなんだから。モテモテっていうのはかなり語弊があると思う」
「穴モテが言うと説得力が違うな」
「んー? なんか言った?」
悪口には皮肉で返す。向かいに座るサキとの間に火花が飛び散る。
「――そんなことはどうでもいいんです!」
ドンッとテーブルを叩いて、エミちゃんは脱線した話を元に戻した。
「傍から見てる分には面白かったというのが本音ですけど、これはいけません……本当にいけません! 私たちの恋人関係のピンチですっ!」
勢い余って立ち上がり、エミちゃんが俺の方に身を乗り出した。
ピンチねぇ……。
「でもちょっと大袈裟過ぎない? 高校とバイト先じゃ話も変わってくるだろうし」
「リョウタくん――!」
スイッチを入れたマイク越しに、エミちゃんは金切り声を発した。キーという耳障りなハウリング音に、俺とサキは耳を塞ぐ。
「そうやって楽観的に考えて、姉さんにかどわかされたのはどこの誰ですか!」
「うっ……」
それを言われると立つ瀬がない。
「姫野先輩は狡猾なんです! のほほんとした感じで相手を油断させて、隙を見せたところでがぶりと獲物を捕食する。まさに女狐みたいな人なんですから!」
「わかったから、とりあえずマイク越しで喋るのやめて! 耳がキンキンする……!」
「はぁっ……」
ため息を吐いて、エミちゃんはソファーに座った。
「とにかく、警戒は怠らないようにしてくださいね。もしなにか予兆を感じたら、今度こそ必ず私に共有するように。前回の失敗を活かしてください」
お姉さんとのひと悶着のことを言っているのだろう。
この際キョウカ先輩の本性は置いといて、冬休みの喧嘩が俺の油断を発端としているのは事実である。ここは素直にエミちゃんの諫言を受け入れた方がいいか。
「わかったよ。なにかあったらすぐに相談する」
「約束ですからね」
残りの時間はサキとエミちゃんの再戦によって消化され、その日は解散の流れとなった。