【2巻11/14発売!】ずっと好きだった幼馴染にフられて始まる淫らに一途なハーレム生活 作:花染彩葉@幼馴染ハーレム2巻発売中!
第43話『春の訪れ』
あれからしばらくは平穏な日々が続いていた。
エミちゃんとの恋人関係の傍ら、サキやお姉さんとの情事に明け暮れる。進藤とも相変わらず巨根に関するやり取りを交わし、キョウカ先輩とも特にトラブルは起こらず、カフェでのアルバイトも順調だった。
そして俺は無事に進級を果たし、普通免許を取得していた。
そんな日々に転機が訪れたのは4月の半ば頃。風呂を上がって寝るばかりだった俺の元に着信が届いた。
――キョウカ先輩からの電話。これまでメッセージでやり取りを交わすことはあったが、通話をしたことは一度もない。少し身構えつつも、無視するわけにはいかなかった。
「もしもし」
『あっ、峰川くん。ごめんね、夜遅くに』
「いえ。どうかしました?」
『来週の土曜ってシフト空いてるよね?』
「あー、はい。交代して欲しい感じですか?」
『違う違う、あたしも土曜は休みだし。そうじゃなくって、先週からひとり暮らし始めてるんだけど、家具の組み立てとか荷物の整理が全然追いつかなくてさ』
「はあ?」
『それで、もし良かったら手伝ってくれたら嬉しいなぁって』
「先輩の部屋でってことですか?」
『うん』
「いや、それはさすがに……」
色々と問題がありそうだ。お互い変な気がなかったとしても、状況だけ見ると完全に黒。エミちゃんのことを考えるなら断るべき案件だろう。
「ごめんなさい。彼女が許してくれそうにないんで、他の人を当たってもらえませんか?」
『棚とかテーブル、すっごく重たいんだよ。男の人じゃないと無理そう』
「じゃあ他の男に……」
『残念ながらそのツテがあたしにはなくて。ほら、ウチの店の従業員って女の子ばかりじゃない? 学生時代の友達も疎遠になっちゃてて、頼める男の子が君しかいないんだよ』
唯一性を強調されると断りづらいな……。
キョウカ先輩は今はフリーターで、俺の知る限り学校等のコミュニティには所属していない。そんな状況ならたしかに頼める男がいなかったとしても不思議ではなかった。
しかし……この流れはマズい。
頼まれると断り切れない性格なのは、お姉さんやら進藤との一件で自覚している。ただ、俺だって過去から学べる男だ。ここで安請け合いをしたら、あとでエミちゃんとの喧嘩が待っていることぐらい容易に想像がつく。
「やっぱり……」
『お願い! ベッド作れなくて今も床に布団敷いて寝てるんだよ? もう背中が痛いのなんの……』
「…………」
困っているのは本当みたいだ。同僚のよしみ。助けてあげたいのは山々だが……。
「なら一回エミちゃんに聞いてみますよ。駄目だって言われたら、素直に諦めてくださいね」
正直これは断るための口実だ。このまま水掛け論を続けると押し切られそうだったので、苦肉の策でひとつクッションを挟むことにした。
『神崎ちゃんなら許可してくれるよ。ありがとね、峰川くん』
「では、また連絡します」
『了解。よろしくね』
ピロンと通話を切って、すぐにエミちゃんとのトークを開く。
キョウカ先輩から週末の土曜に家具の組み立てとか手伝って欲しいって連絡が来たんだけど、行かない方がいいよね?
とメッセージを送る。
返信は、文面ではなく着信で来た。しかも既読がついた直後、即座に。電話に出ると開口一番に、
『――だから言ったでしょう? 姫野先輩は女狐だって』
そう語る割には声色はどこか得意げだ。自分の予想が当たって満足しているような。
女狐ねえ……。
「そんな感じはしなかったけどなぁ。本当に困ってそうだったし」
未だに俺は、エミちゃんの懸念を自分事として捉えられない。
高校生時代の先輩後輩同士ならエミちゃんの方がキョウカ先輩との付き合いは長い。俺の主観より正当性は高いと思うが、しかし、俺だって約3ヶ月間キョウカ先輩と仕事を共にしている。
その間、あの人に女狐感を覚えたことはやはり一度もなかった。エミちゃんはそれを油断させるための罠と表現するだろうけど……。
『いけませんね、リョウタくん。すっかり先輩の術中にハマっています』
「そう?」
『そうですよ! このままだと近いうちにがっぷりと……ぁぁっ』
スマホ越しの声は不安げに震えていた。俺的には考えすぎとしか思えないが、そこまでキョウカ先輩を危険視するなら俺もそれに準じよう。
「ならやっぱり断るよ。エミちゃんとの関係が第一だし」
無理に行く必要もない。そもそもキョウカ先輩がどうとか関係なく、彼女持ちの男がひとり暮らしの女性の家に単身乗り込むのは不誠実極まりない。
俺の決断を聞いて、エミちゃんはしばし無言になった。電波の調子が悪くなったのかと思い、「エミちゃん?」と呼びかける。すると、
『――いえ。その提案、受けてちゃってください』
凛とした声でエミちゃんはそう言った。
「えっ、いいの?」
『本来なら断るところか、私が同行するところですが』
なるほど、たしかにエミちゃんが同行してくれるのが一番手っ取り早い。ふたり一緒なら浮気もクソもないし。ただ、この物言いはそれをしないことの裏返しに他ならなかった。
『リョウタくんは警戒心があまりに低すぎます。今日を凌いでもいつか食われちゃいそうなので、一旦ここは教育することにしましょう』
「教育って……」
いよいよ俺の立場が飼い犬じみてきた。
「でも大丈夫? 自分で言うのもなんだけど、もしキョウカ先輩に押し倒されたりしたら逃れられる自信が……」
エミちゃんの語る姫野キョウカ像ならやりかねない。もちろん流されそうなムードになっても抵抗はするつもりだが、自分のことは自分が一番よく知っている。
いつもは気だるげなキョウカ先輩に熱っぽく迫られたら――。
脳内でその様子を妄想する。きっと俺は抗えないだろう。
『ですから、危険を感じたらすぐに私に連絡してください。いいですね? 絶対ですよ?』
なにもなければそれで良し、なにかあったらキョウカ先輩の本性が露呈する、そういう算段か。
俺を信用しているのが大前提の考えだし、これは絶対に裏切れない。
「わかった。安心して待ってて」
『信じてます』
通話を終了する。キョウカ先輩に承諾のメッセージを送ると、
『ありがとー! 助かるよ!』
普段とはまるで別人のテンションで返信が来る。リアルとメッセージで人格が変わるタイプの人っているよな。
ともあれ、これでもう後には引けなくなった。何事もないことを祈るばかりである。