【2巻11/14発売!】ずっと好きだった幼馴染にフられて始まる淫らに一途なハーレム生活 作:花染彩葉@幼馴染ハーレム2巻発売中!
掃除とベッドの組み立てが終わる頃には、窓の外は夕焼け色に染まっていた。
「綺麗になったねぇ」
部屋を一望して、キョウカ先輩はふぅと息を吐く。
ベッドフレームが組み立てられたことでインテリアに高低差が加わり、部屋の光景にメリハリがついた。とっ散らかっていた床も、ゴミはゴミ、荷物は荷物で綺麗にまとめた。
「これで良しっと」
最後に不要になったダンボールを紐で結び、ゴミの方にまとめて置く。
「やっぱり男手があると助かるね。あたしひとりじゃこうはいかなかったよ」
「お役に立てたようでなによりです」
さて、用事は済んだ。直に日も落ちる。俺はお暇するとしよう。
「では、俺はこの辺で」
逃げるように踵を返した俺の肩に、キョウカ先輩はそっと手を置いた。
「待って待って。色々手伝ってもらったのに、じゃあねで帰すほど薄情な人間じゃないよ、あたし」
「いや、俺は先輩のお役に立てただけで十分ですから」
「それだとあたしの気が収まんない。夜ご飯ぐらい一緒に食べようよ? 出前取ってあげるから、もちろん奢りで!」
「ちょっ……」
そのまま肩を引かれ、ダイニングテーブルに座るよう誘導される。キョウカ先輩らしからぬ積極的な行いだ。
まさか本当にエミちゃんが言うように、キョウカ先輩は俺のことを狙っているのか?
いやいや、そんな……。
「お寿司かピザ、どっちがいい?」
なぜか食うことが前提の二択。なんだっけ、心理学でNOを言わせないテクニックがあったような気がするが、その存在を知っていても俺は「それなら寿司を……」などと応じてしまった。
「おっけー。なら盛り合わせ注文するね」
「あの、やっぱり俺は――」
「もう注文しちゃった。軽くシャワー浴びてくるから適当にくつろいでて」
先ほどから俺の話をろくに聞いてくれない。キョウカ先輩はスマホに充電器を刺すと、着替えを脇に携え、洗面所の方に消えていった。
「…………」
これはもう、エミちゃんが言っていたことを信用するしかないんじゃないか。
先輩にはなにかしらの意図がある。でなければ、こんなふうに俺を引き留めようとはしないだろう。なんの意図もなく、男をひとり部屋に残してシャワーを浴びに行く女性がいたら、俺はその人の正気を疑う。
「連絡した方が良さそうかな……」
懐からスマホを取り出して、俺はメッセージアプリを起動した。
『マジでエミちゃんの言った通りになりそう』
『今、キョウカ先輩シャワー浴びてる』
2通に分けて送ると、相変わらず返信は早かった。
『やはりそうなりましたか』
『もしものときの段取りは忘れていませんね?』
昨晩エミちゃんとは今日のことについて打ち合わせをしている。何事もなかったらそれで良し、しかし、なにかあった場合は篭絡されないための手順を叩き込まれている。
もしもの事態に陥っても、以前のように喧嘩することにはならないはずだ。
『大丈夫。進展があったらまた連絡するね』
『わかりました。待機しています』
やり取りを終えて、明かりが灯った電球を見上げる。シャワーの音を聞きながら、俺はため息を吐き出した。
「――お待たせ」
シャワーは思ったよりも短かった。
目のやり場に困るショートパンツに上はキャミソール。艶めかしい部屋着を身にまとったキョウカ先輩が、俺の向かいに腰を下ろした。髪は濡れていないため、軽く体を流しただけなのだろう。
「さっぱりさっぱり。峰川くんも良かったら浴びる? 掃除したあとの体でご飯食べるの嫌でしょ」
たしかに気持ち良く食事とはならないが、ここで体を清めたらお互い合意みたいな流れになれそうだ。
「いえ、俺は遠慮しときます……」
「そう?」
「はい。ありがとうございます」
そこで、ピンポーンとチャイムが鳴った。
「おっ、来た来た。ちょっと待っててね」
キョウカ先輩は立ち上がった。出前の応対を遠く聞く。すぐに玄関の扉が閉まる音が聞こえると、袋を持った先輩がリビングに帰還。
「お茶入れるね」
袋をテーブルに置いて、キッチンの方に向かう。
ガチャガチャと食器を弄る音と冷蔵庫に液体を注ぐ音。やがて眼前に置かれたのは、透明なコップに入った麦茶だった。
つぶやきは、本当に自然と漏れていた。
「――あの、変なもの入れてないですよね?」
「え?」
先輩は一瞬キョトンとすると、
「やだなー、ドリンクバーごちゃまぜにする中学生じゃあるまいし、塩とか入れたりしないって」
「いや、塩ならまだマシなんですけど……その、薬とか……」
「は?」
今度こそ、その表情は訝しむものに変わった。
「あたしをなんだと思ってるのさ。人に出す物に薬入れるとか、完全にヤバい人じゃん。心外だなぁ」
「そ、そうですよね! すみません、冗談です!」
耳が痛ぇ……。
誰とは言わないが、定期的にそのヤバい行為をする子が身近にいるから。しかも、とびっきりの笑顔を浮かべながら。
いや、いいんだけどさ。それを内心どこかで喜んでいる自分がいるのも事実だし。
「変なこと言ってないで――さっ、食べよ食べよ」
テーブルに座ると、先輩は袋から寿司を取り出した。トレイの中に定番のネタがセットで入っている。
「はい、割り箸ね」
「ありがとうございます」
「じゃあ」
いただきます、とキョウカ先輩は手を合わせる。俺も流れに沿って割り箸を割る。
だが、食欲は進まない。掃除を終えてからずっと、意味のないやり取りを交わしているような気がする。お互いがそれに気づいているのに、あえて気づいていないフリをして、そのときが来るまでの消化試合を行っているような、そんな感覚。
ただ、それでもこちらから追及する気にはなれない。俺とエミちゃんの勘違いだった場合の損害が大き過ぎるからだ。
――先輩、なし崩し的に俺を襲おうとしてますよね?
そう聞いたとして、しらばっくれられたら今後の関係に支障をきたす。結局こちらは後手に回るしかない。
「――せっかくだし、峰川くんと神崎ちゃんの話聞かせてよ」
黙々と寿司を突いていると、キョウカ先輩が沈黙を破った。
「話って言いますと?」
「あの子、高校生の頃は男っ気なかったから気になって。どっちが先にアプローチしたのかなぁって」
そういえば、どこでエミちゃん本人からそんな話を聞いたような覚えがある。俺が初めての彼氏だと。どうやらその話は本当だったらしい。
いや、疑っていたわけではないけれども、第三者からその話を聞けたのは……ちょっと嬉しいというのが本音だった。
なんにせよ、話題を振ってもらえたのは助かる。先輩とふたりきりで沈黙は苦しい。
「あっちからですよ」
とりあえず質問に答える。キョウカ先輩は意外そうな顔を浮かべた。
「へえ。神崎ちゃんから告ったんだ。あの子、自分からグイグイ行くタイプじゃなかったのに。君も隅に置けないねぇ」
「いやー、そんなことないと思いますけど……」
口では否定するものの、褒められて満更ではない自分がいた。
「で、どんな感じで知り合ったの?」
「ああ……」
さて困ったな。
エミちゃんから告白されたとき、俺はまだ彼女のことをほとんどなにも知らなかった。どんな感じもクソもない。ある日突然、呼び出されて告白されたと言ってもキョウカ先輩は信じてくれなさそうだ。
「まあ、色々あって……」
そんな感じに言葉を濁すと、
「ふうん」
含みのある相槌が返ってきた。
「その色々が知りたいんだけどなぁ」
「あんまり意地悪しないでください」
寿司を食い進めることで、俺はキョウカ先輩の追及を躱した。
「あはは。ごめんごめん。ふたりの大事な想い出だもんね、水を差しちゃ悪いかぁ」
「助かります……」
ホッとしたのも束の間、俺の心は落ち着かない。会話は途切れたはずなのに、先輩がじっと熱っぽい視線を送ってくるからだ。
「――これは興味本位なんだけど」
そう前置いて、先輩はとんでもないことを口にした。
「ふたりはもうシたのかな」
「ごほっごほっ……!」
全然躱せていなかった。むしろヤバい方向に話が進んでいる。
むせ返った喉に麦茶を流し込み、俺は呼吸を整える。
「えっと……、なにをでしょうか?」
おとぼけは通用しなかった。
「それ、本気で聞いてるの?」
「いや……それはこっちの台詞なんですけど……」
「ほら。やっぱりわかってるじゃん」
煽るように目を細めると、先輩は椅子を引いて立ち上がった。俺の方に回り込み、肩を組まれる。
物理的にも心理的にも、急速に距離感が縮まる。
「君、思った以上にガード硬いから。これぐらいしないと伝わらないかと思って」
「せ、先輩……」
おそらく俺は今、蛇に捕獲された獲物のように硬直していると思う。首に巻きついた腕が、素肌から伝わる体温が、俺の思考を麻痺させている。
「で、神崎ちゃんとセックスはしたの? してないの? どっちかな」
耳元で、直接的な言葉を吐息のように囁かれる。
それは、疑念が確信に変わった瞬間でもあった。
興味本位でするような質問じゃない。エミちゃんとの打ち合わせがなければ、今頃あたふたしてキョウカ先輩の本性に呑まれていたところだろう。
でも、こちらには覚悟も用意もある。何事もなく終わるのが一番だったけど、先輩がその気なら仕方ない。
俺は決然と答えた。
「しましたよ。もう数え切れないぐらい」
「へえ、急に素直じゃん。きっぱり聞いた方が早かったかな、これは」
「なにをですか」
「あたしともしようよ、セックス」
息を潜めた甘い声だった。そして同時に、耳たぶを甘噛みされる。その生々しい感覚に、俺は咄嗟に先輩の肩を押し退けた。
「……やめてください!」
「きゃっ」
小さな悲鳴と共に、細い体は呆気なく床に倒れ伏す。そんなに強く押したつもりはなかったが、反射的に力を入れてしまったのかもしれない。
「ごめんなさい! 勢い余って……」
「痛ったぁ……」
放っておくわけにもいかず、俺は即座に席を立った。先輩の前にしゃがみ込み、様子を伺おうと顔を覗き込む。
「大丈夫ですか?」
その直後だった。先輩の顔がニヤリと笑みを浮かべ、腕をぐいっと掴まれる。
「な、えっ……」
一瞬なにが起こったのかわからなかった。気づくと上下が逆転しており、先輩が俺の胸に体重をかけている。
痛そうにしていた様子はどこへやら、まるでライオンが小動物を押さえ込むような構図だった。
「なーんちゃってね。君は脇が甘いねぇ」
「ちょっ……、先輩!」
ヤバい。マウントポジションを取られてしまった。
「マジで一回冷静になってください! 俺には彼女が――」
「わかってないな。だからこそだし、あたしは最初から冷静だよ」
冗談めかしているようでいて、その眼差しは本気だった。
しなだれかかった状態で、先輩は指先でそっと俺の股間を撫でる。背中にぞわっとした寒気が走り、全身に鳥肌が立った。
ここまで来たらもう赤信号だろう。
「――キョウカ先輩、ストップ!」
「往生際が悪いね。諦めて楽になっちゃいなよ、君だって男の子なんだから」
「先輩の気持ちはわかりました! けど、ちょっとだけ待ってください!」
下手に抵抗はせず、一度キョウカ先輩を肯定する。
このまま呑まれるとエミちゃんに刺されかねない。しっかりと手順を踏まないと。
「一度彼女に電話しますから!」
「神崎ちゃんに? してどうするのさ」
「報連相が大事なんです!」
意味がわからないとばかりに首を傾げるキョウカ先輩。俺はその隙にポケットからスマホを取り出して、エミちゃんに電話をかけた。