【2巻11/14発売!】ずっと好きだった幼馴染にフられて始まる淫らに一途なハーレム生活 作:花染彩葉@幼馴染ハーレム2巻発売中!
正座するエミちゃんの前で、俺は土下座するしかなかった。
「機嫌直してよ……この通り謝るから……」
「謝って済むなら世の中に離婚という概念はありませんよ」
ごもっともだ。反論の余地などない。ないが、このまま沈黙していても事態は好転しない。
俺は藁にも縋る思いで言った。
「不可抗力っていうか、お姉さんに無理やり襲われたっていうか……。いや、黙ってたのは本当にごめんなんだけどさ」
言い訳がましく聞こえるのはわかっている。
でも事実として被害者的な側面も――いや、昨晩も今朝も、最終的にはノリノリで腰を振っていた時点でギルティか……。
チラと横目で座椅子を見やると、事の元凶であるお姉さんは、我関せずといった様子で手鏡を見ながら髪を直していた。
「ふんふーん♪」
鼻歌まで口ずさんで……。
エミちゃんの神経を逆撫でしないで欲しい。
「リョウタくん」
「は、はい!」
「姉さんの誘惑に負けたのは百歩譲って許します。男の人ですから、生理的に抗えないこともあるでしょう」
おっ。意外と理解がある。
光明が見えた気がして顔を上げかけるが、続く言葉でどん底に突き落とされた。
「ですが、隠し事は許せません」
「本当にごめん……。二度としないって誓うよ」
「付き合い始めたばかりの頃も、似たような誓いを聞いた覚えがあるのですが」
「っ……」
信頼残高がマイナスに振り切っている。
おろおろと視線を彷徨わせていると、髪を整え終えたお姉さんがポンと俺の肩に手を置いた。
「まあまあ、エミもそんなに詰めないであげてよ。デカチンポくんが萎縮しちゃってるじゃん」
「誰のせいだと思って」
「私だけど? でもさー、過ぎたことは仕方ないじゃん。ねっ?」
悪びれもせずにウインクするお姉さん。
それに、と唇の端を吊り上げて続ける。
「そんなに怒るならいっそのこと手放しちゃえば?」
「……はい?」
エミちゃんの眉が不愉快そうに動く。
「もしエミと別れるなら、私で良ければ彼女になるからねー」
お姉さんは俺の耳元に顔を寄せた。
「束縛もしないし、浮気も公認してあげる♡ 毎日えっちなことして、デカチンポくんが枯れ果てるまで愛してあげるよ?」
俺が反応する前にエミちゃんが動く。ギッと眉を寄せると、低い声で言った。
「冗談も程々にして。ほんとに怒るよ」
「あら怖い」
嫉妬してくれている。良かった。少なくとも妬いてくれる程度には好意が残っている。
まだ挽回は可能だ。愛想を尽かされていたら、きっと「どうぞどうぞ」と投げやりに譲渡されていたことだろう。
「リョウタくんは私のだから。たとえ浮気性のどうしようもない駄犬だとしても、飼い主の私が責任を以て管理するから」
とうとう駄犬扱いか……。
けど、今の俺に反論する権利はない。
そのときだ。
入り口の方から部屋のドアが開く音がした。
「ただいまー! いやー、いいお土産たくさん見つかっちゃってさー! めっちゃ散財しちゃったよ〜」
ハイテンションな声と共に、両手に紙袋を抱えたサキが部屋に入ってくる。
だが、その笑顔が一瞬で困惑顔になった。
土下座崩れの体勢で固まっている俺と、張り詰めた表情のエミちゃん。
サキは瞬時に状況を察知したらしい。
「あれ? なんか空気重くなーい?」
「リョウタくんが姉さんにキスをしたんです」
「エミちゃん、それはてにをはが間違って――」
「問答無用です」
はいごめんなさい……。
サキは紙袋を部屋の隅に置きながら、やれやれといった様子で言った。
「神崎さんってちょいちょいヘラるよね。峰くんなんてセックス風見鶏みたいなものなんだから、いちいち気にしてたら身が持たないよ?」
「なんだよそれ」
睨むことで抗議する。サキは鼻で笑った。
「違うの? チンポの向くまま気の向くまま、快楽に流されるだけの存在じゃん」
「上手いこと言いますね、サキさん」
「でしょう? だからね、風見鶏には柱が必要なわけよ。ガッチリ固定して、正しい向きにしか回らないようにする管理者がね」
「なるほど。やはり、管理、ですか」
エミちゃんの瞳に危ない光が宿る。
サキの余計な入れ知恵のせいで、嫌な方向に話が進んでいる気がする。
「――お説教はその辺にしておこうよ」
お姉さんが手を叩いて空気を変えた。
「もう14時回ってるし、そろそろ準備しないと。お化粧とか髪のセットとか時間かかるしね」
お姉さんの号令に、サキは「はーい!」と快活に返事をする。一方のエミちゃんは「むぅ……」と唇を尖らせて不満げだが、時間がないのも事実と理解しているのか、渋々といった様子で立ち上がった。
俺も身支度しようと腰を浮かせようとして――。
「リョウタくん」
エミちゃんの冷徹な声が飛んできた。
「なに?」
「誰が動いていいと言いました?」
「えっ」
「反省してるんですよね?」
「も、もちろん」
「なら、私たちが準備を終えるまでそこで正座していてください。壁に向かって」
「……承知しました」
敬礼する勢いで頷く。
俺は大人しく壁の方へと体の向きを変える。背後から衣擦れの音が聞こえ始める中、僧侶のごとく壁のシミを見つめ続けることになった。
*
正座した足の感覚が消失し、壁の模様を数えるのにも飽きてきた頃。
少々乱暴に部屋の扉が開く音がした。痺れた足を引きずりながら振り返ると、そこに立っていたのは進藤だった。
ただ、その様子がおかしい。眉間に深い皺を寄せながら肩を震わせている。そしてその背後から、ゆらりとキョウカ先輩が入室してきた。
こちらは対照的だった。進藤の剣幕などどこ吹く風といった様子で涼しい顔をしている。
「お、おかえり……?」
正座したまま、おそるおそる声をかける。進藤は「あぁ」と短く吐き捨てて、ドカッと部屋の隅に座り込んだ。
そして俺の姿を見て怪訝な顔をする。
「なんでお前正座してんの?」
「懺悔かな」
「は? 意味わかんねぇよ」
進藤は苛立ちを隠そうともしない。
「で、峰川くんたちはどうしたの? なにやら不穏な空気だけど」
キョウカ先輩が残留する雰囲気を嗅ぎ取ったらしい。
「なんか、峰くんがシズクさんとキスして神崎さんがヘラってる感じです。お仕置き中とのことで」
「へえ……」
ファンデーションを塗りながら答えるサキに、意味深に頷くキョウカ先輩。その視線が、値踏みするように俺に向けられた。
「つまり、略奪チャンスってこと?」
エミちゃんがギロッとキョウカ先輩を睨みつけた。
本日何度目かの殺気だ。
「勘弁してくださいよ……マジで笑い事じゃないんで……」
「身から出た錆だね」
キョウカ先輩は肩を竦めると、自分の荷物が置いてある場所へと歩いていった。
ひと通りのメイクが終わったのか、エミちゃんが立ち上がり、正座する俺を見下ろした。
「さて。浴衣に着替えますので」
「うん」
相槌を打つ。エミちゃんは能面のような顔になった。
「うん、ではなくて」
「?」
「……はぁ」
エミちゃんは深いため息をつくと、ビシッと人差し指を突きつけた。
「男性陣は出てってください! 女子の着替え部屋になるんですから!」
*
青姦は平気でするのに、着替えを見られるのはエミちゃん的にはNGらしい。
俺と進藤は部屋から締め出され、廊下の壁に背中を預けて立っていた。ちょうど俺たちの部屋の前に他の客が通りかかる。通路に突っ立ってなにをしているのか、というような訝しげな表情を浮かべて通り過ぎていく。
「峰川。あの先輩、マジで性格どうかしてるぞ」
先に口を開いたのは進藤の方だった。
「知ってるけど」
「はあ……」
進藤は天井を仰いだ。
「なにかあったのか、キョウカ先輩と」
「聞いてくれるかよ……!」
聞いて欲しそうな雰囲気を出しておきながらよく言う。
「実はさ」
進藤の口から語られたのは、デート崩壊の顛末だった。
なんでも、会う約束を取りつけていたらしい女性と海の家のカフェにいたらしい。相手の女性はノリも良く、会話も弾んでいて、「これはイケる!」と進藤が手応えを感じていた矢先のこと。
「突然、あの先輩が現れてさ……」
その時点で先の展開は読めたけど、口にしないとスッキリしないこともあるだろう。俺は聞き役に徹する。
キョウカ先輩は、あたかも偶然を装って進藤たちのテーブルに相席してきたという。
「『奇遇だねミニポくん』とか言ってきやがって」
「うわぁ……」
初手からあだ名攻撃か。しかも、絶対に奇遇じゃないし。
「相手の女が『ミニポくん?』って聞くから、俺が必死に誤魔化そうとしたんだよ。そしたらあの人、ニヤニヤしながら『ほら、彼のアレってコンパクトで可愛いから』とか言い出して」
サキに負けず劣らずだ。いやでも、あいつの場合は隠語というより直接的な淫語だから比喩とは呼べないけど。
「相手はドン引きしてたよ。『知り合い?』って聞かれて、あの先輩が『すごーく深い仲。ね?』とか俺の腕に触ってきて……そしたら女の子、『お邪魔しました』って帰っちまったよ」
進藤は両手で顔を覆った。
「すげー気持ち良さそうな顔してたぜ、あの先輩……。マジで頭ん中の構造どうなってんだよ……」
悲惨な話だ。察するに、キョウカ先輩は進藤のデートを潰しに行ったんだろう。暇潰しなのか、それとも歪んだ愉悦なのか。あるいは、進藤を狙っているという線もあったりするのかな。
まあ、なんにせよ、
「災難だったな」
俺は哀れなイケメンの肩をポンポンと叩くことしかできなかった。
そのとき、締め出されていた部屋の扉が開き、サキが顔を出した。
「着替え終わったよー」
再び招き入れられた部屋には、絶景が広がっていた。
まず、最初に目に飛び込んできたのはサキの姿だ。
金魚が泳いでいるデザインの、派手な柄物の浴衣。髪をアップにかんざしを指していて、うなじが露わになっている。
その隣にはお姉さん。花が描かれたデザインの浴衣を着ている。紫色の生地が妖艶さを醸し出していて、豊満なボディラインを強調していた。長い金髪をサキと同じようにアップにまとめていて、うなじの後れ毛がなんとも色っぽい。
少し離れたところにはキョウカ先輩。青色のシンプルな浴衣で、装飾は控えめだけど、それが逆に涼やかな美貌を引き立てている。髪は編み込みをサイドで一本に結んでいて、アンニュイな横顔によく似合っていた。
そしてエミちゃん!
白地にピンク帯の花柄浴衣。黒髪ボブとの相性が抜群で、清楚な魅力が爆発している。帯は少し高めの位置で結ばれていて、華奢な体つきを強調していた。
天使だ。そこに天使がいる。だが、その顔はまだツンとそっぽを向いていた。
クソッ……。やっぱりまだ怒ってるのか。
浴衣姿が最高なのはいいことだけど、肝心のエミちゃん本人の機嫌がこれでは宝の持ち腐れだ。ここで仲直りしなければ、花火大会が台無しになる。
よ、よし。ここは褒めちぎり作戦だ。
「エミちゃん最高! マジで可愛い! よっ、日本一! さすが俺の彼女!」
全部心からの本音だ。お世辞は言っていない。
サキとキョウカ先輩が「うわぁ……」と俺を見ているが、知ったことではなかった。問題はエミちゃんがどう思うかである。
「……っ」
エミちゃんの肩がピクッと震える。
ゆっくり、ゆっくりと俺の方に振り返る。
まだ不機嫌そうな顔をしているけど、口元が笑いを堪えるように引き攣っている。頬もほんのり朱に染まっていた。
よし、効いてる!
やっぱり褒められるのは嬉しいらしい。
チョロ……いや、素直で可愛い。
ただ、安心したのが顔に出てしまったらしい。
「リョウタくん」
スッと、エミちゃんの表情が真顔に戻った。
「さては今、私をチョロいとか思いませんでしたか?」
「め、滅相もございません!」
鋭い……。
「本当に反省してるんですかね」
「してるしてる! だから機嫌直して!」
「……なら、いいですけど」
エミちゃんは再びそっぽを向くと、ボソッとつぶやいた。
「完全に許すかどうかは、お祭りでのリョウタくんの対応次第です。しっかりと私を満足させるように」
「もちろん!」
首の皮は一枚繋がった。もとよりエミちゃんを楽しませるつもりではあったけど、こうなっては全身全霊で奉仕しなければならない。
俺たちも甚平に着替え、身支度を整えた。
いざ、夏祭りへ。