※この作品はR-18です。

【2巻11/14発売!】ずっと好きだった幼馴染にフられて始まる淫らに一途なハーレム生活   作:花染彩葉@幼馴染ハーレム2巻発売中!

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第64話『夏祭り』

 夕方のピークタイムを避けて、余裕を持って屋台巡りを楽しもうという完璧な作戦だったけど――どうやら世の中、同じことを考える賢しい連中で溢れ返っているらしい。

 祭り衣装の人間でごった返す満員電車の中で、俺は両腕を突っ張り棒にしてエミちゃんのセーフティーゾーンを確保していた。扉横の僅かなスペースにエミちゃんを追い込み、俺がその前に立ちはだかる。

 

「ぐっ……、人が……」

「大丈夫ですか?」

 

 腕の中で小さくなっているエミちゃんが、上目遣いでこちらを見上げている。巾着を胸元で大事そうに抱え、慣れない下駄で踏ん張りながら不安げな瞳を揺らしていた。

 守らねば、という男の本能が刺激される。

 

「任せて。俺が壁になってエミちゃんを死守するから!」

「なにから守るのさ」

 

 背後からサキの茶化す声が聞こえたが、今は無視だ。ここでの振る舞いが後の生死を分ける。

 エミちゃんに少しでも快適に過ごしてもらうことこそが、マイナスに振り切れた信頼残高を回復させる唯一の手段なのだ。

 俺は満員電車の圧力を背中で受け止め、不動の肉壁と化した。

 

「良い心がけですねっ」

 

 俺の献身が伝わったのか、エミちゃんは満足げに頬を緩ませている。と、そこでキョウカ先輩と進藤の声が聞こえた。

 

「ちょっとミニポくん。そっち、もっと詰めてよ」

「これ以上どうしろと!」

「あと、ドサクサに紛れてあたしの胸を触らないで」

「あんたの胸に興味ないっすから」

「ふたりとも仲いいね~」

 

 殺伐としたやり取りを、少し離れた場所にいるお姉さんがニコニコ眺めているのが見えた。

 俺の連れはどいつもこいつも……。

 奇怪な知人を持つと、こういうときに苦労する。

 他人の目が届かないところなら好きにしてもらっていいけど、頼むから公共の場で一緒にいるときは変な言葉を使わないで欲しい。

 

 ――目的の駅に到着し、吐き出されるようにホームへと降り立つ。改札を抜けると、さっそく祭りの熱気が俺たちを出迎えた。

 駅前から続く通りが歩行者天国になっており、道の両脇には彼方まで屋台が軒を連ねている。

 ソースの焼けた匂い。ベビーカステラの甘い香り。昼飯を抜いているから、誘惑的な匂いが空っぽの胃袋を殴りつけてきた。

 

「さすがにお腹減りましたね」

「ねー」

「…………」

 

 エミちゃんのつぶやきにお姉さんが同調するが、エミちゃんはプイッと顔を背けた。

 

「裏切り者とは口利かない」

「えー。まだ怒ってるの?」

 

 お姉さんの苦笑いにも無反応だった。

 

「よーし、まずは腹ごしらえだー!」

 

 姉妹の不穏な空気すら読まないのがこの幼馴染だ。サキは高らかに拳を突き上げた。

 

「食って食って食いまくるぞー!」

 

 サキの先導で屋台に向かって歩く。

 カツン、カツンと足元から涼やかな音が鳴る。

 女性陣が履いている下駄の音だ。

 浴衣に下駄。慣れない履物に足が痛くならないか心配になる。俺たち男は履き慣れたサンダルだからいいけど、鼻緒ずれとかしたら大変だ。配慮しないと。

 

「足痛くなったら遠慮なく言ってね。ペース落とすから」

「神崎ちゃんの機嫌取ろうと必死だねー。健気健気」

「エミちゃんだけじゃなくて、全員に言ってるんですよ。先輩も含めて」

「おお。惚れちゃいそー」

「棒読みでなにを……」

 

 突っかかってくるキョウカ先輩に、俺は肩を竦めて応じる。

 サキが辛抱堪らない様子で言った。

 

「もうお腹ペコペコ~! 片っ端から爆撃して行きましょ!」

「賛成! 私はキュウリの一本漬け食べたいな」

 

 そう言ってお姉さんは、巾着を持っていない方の手を俺に向けた。

 

「はぐれないようにしないとだし、手とか繋いじゃう?」

 

 明らかに挑発している表情だった。

 

「結構です!」

 

 語気を強くして拒絶する。ただでさえエミちゃんの気が張っているのだ。

 これ以上、火に油を注ぐような真似はできない。

 

「今日はエミちゃんの日なので!」

「ちぇー。つまんないの」

 

 しゅんとするお姉さんを放置して、俺はエミちゃんの隣に並んだ。手を差し出す。

 

「行こ」

「……まあ、心がけは評価しましょう」

 

 相変わらずツンとしているが、拒絶はされなかった。手を繋ぎつつ、俺たちは屋台が並ぶ通りを歩き出す。

 しばらく歩くと、サキが素っ頓狂な声を上げながら足を止めた。

 

「お祭りといえばやっぱこれだよね!」

 

 サキが目をつけたのはチョコバナナ屋だった。カラフルな粒がまぶされたやつ。あの粒、正式名称はなんていうんだろう。

 あと、チョコバナナにお祭りのイメージはあんまりない。

 

「祭りといえば、焼きそばとかたこ焼きが定番じゃないか」

「わかってないなー、峰くんは。そんなの家でも食べれるでしょ。普段食べない物を食べるのがイベントの醍醐味なんじゃん」

 

 そういうものだろうか。チョコバナナだって、食おうと思えば食える気もするけど。まあ、いちいち食い下がるようなことでもない。

 サキの後ろをついていき、チョコバナナ屋の前で足を止める。

 

「おじさーん。チョコバナナひとつくださーい! とびきりデカくて太いのお願いします!」

「はいよ! 好きなの選んでねー」

 

 店主に言われ、サキは一番太いやつを鷲掴みにした。

 まずは粉物で腹ごしらえを……と思っていたけど、いざこの甘い匂いを前にすると心が揺らいでしまう。

 結局、俺も無意識のうちに財布を取り出していた。

 

「すみません、俺も1本ください。エミちゃんはどうする?」

 

 エミちゃんは「うーん」と刹那に考えると、朗らかに笑った。

 

「リョウタくんのを少し分けてもらいます」

「おっけ」

 

 というわけでチョコバナナを購入。

 1本500円。人件費とか踏まえてもボッタクリだろうけど、イベント税として割り切るしかない。

 割り箸にブッ刺さったチョコバナナを受け取って列から退避。

 俺が会計している間に、他のメンバーも近くの屋台で戦利品をゲットしていた。

 お姉さんは宣言通り、割り箸に刺さった太いキュウリの一本漬け。進藤はフランクフルト。

 ……待てよ。チョコバナナ、キュウリ、フランクフルト。なにか棒状の、嫌な共通点が見える気がするのは俺の心が汚れているからだろうか。

 それらを見て、案の定、サキが口角を吊り上げた。

 

「ねえねえ峰くん。気づいた?」

「なにが」

 

 サキは自分のチョコバナナとお姉さんのキュウリ、そして進藤のフランクフルトを見ると声高に言った。

 

「チンポがいっぱいだね!」

「…………」

 

 白昼堂々、なにをほざくのかこいつは。

 呆れる俺を他所に、サキはチョコバナナの先端を口に含んだ。

 

「んーっ! 甘くて美味しい~!」

「こっちもコリコリで美味しいよ〜」

 

 キュウリを咥えたまま咀嚼するお姉さんに、舌で転がすようにチョコバナナの先端をねぶるサキ。

 ただ食べているだけなのに、なんでこのふたりはこうもエロい雰囲気を醸し出せるのか……。

 ふたりが食事を楽しむ中、なぜか進藤だけは手元のフランクフルトを悲しげに見つめていた。

 

「……俺のよりデカいな」

「食い物に劣等感抱くなよ……」

 

 無視するのも可哀想なので、適当にツッコミを入れておく。

 俺は隣の彼女に向き直った。

 

「エミちゃん、最初の一口どう?」

「えっ、いいんですか?」

「もちろん」

 

 まずは彼女優先だ。断じて、媚びを売っているわけではない。

 

「では――」

 

 口を開け、顎を差し出すようにエミちゃんが上を向く。

 

「あーん」

 

 そう来たか……。

 とはいえ、エミちゃんに物を食べさせるのが初めてというわけでもない。温泉旅行のときの食べ歩きでも、バレンタインのチョコエッチでもすでに経験している。この程度で動じる俺ではなかった。

 俺はチョコバナナの先端を、エミちゃんの口元へと向けた。

 

「はい、あーん」

 

 小さく口を開けて、先端に食いつくエミちゃん。チョコのコーティングが割れるパリッという音がして、舌がバナナの果肉を絡め取る。

 ……いかん。サキが変な喩えを使ったせいで、邪なフィルターがかかってしまう。ただチョコバナナを食べさせているだけなのに、なぜか俺の脳内にはフェラチオという単語が浮かんでいた。

 

「美味しいです。今度は私が食べさせてあげますねっ♡」

 

 もぐもぐと咀嚼を終えると、エミちゃんは俺の手から棒を奪い取った。

 

「はい、あーん♡」

「あー」

 

 んっ、と食べさしのチョコバナナを咥える。

 うん。ちょっと甘過ぎる気もするけど、普通に美味い。

 

「――おっ、あっちにりんご飴あるじゃん! ちょっと買ってくるね!」

 

 早食いでチョコバナナを貪りながら、サキが向かいの屋台に駆けていく。忙しいやつだ。

 それぞれ買った物を食いつつ、みんなでのんびりそのあとを追いかける。トンボ返りで戻ってきたサキの手には、透明にコーティングされたりんご飴が握られていた。

 

「思ったんだけどさぁ」

 

 サキは無邪気に笑って、りんご飴を俺の目の前に掲げた。

 

「これ、亀頭に見えるくない?」

 

 こいつは……。

 

「なんでもかんでも男性器に例えて、お前の頭にはそれしかないのかよ……」

 

 重症だ。そのうち人の頭を指して亀頭とか言い出しかねない。

 

「えー? でも見えるくなーい? このテカり具合とか、パンパンに張った感じとか、峰くんのにそっくりだよ。神崎さんもそう思うよね?」

「……まあ、大きさ的にはリョウタくんの先端ぐらいはあるかもしれませんね」

「エミちゃん!?」

 

 まさかの裏切りだった。いくらなんでも、りんご飴ほどデカくはないと思うけど……。

 

「でしょでしょ! やっぱり神崎さんはわかってるなー」

 

 俺はため息を吐いた。

 祭りの情緒もへったくれもない。俺たちの周りにだけ、ピンク色のモヤが立ち込めている気がする。

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