【2巻11/14発売!】ずっと好きだった幼馴染にフられて始まる淫らに一途なハーレム生活 作:花染彩葉@幼馴染ハーレム2巻発売中!
チョコバナナを平らげたあとも、俺たちは粉物を中心に食べ歩きを敢行した。胃袋が満タンになるまで詰め込み、腹ごなしにと宛もなくブラブラと歩く。
空も茜色へと変わり始めていた。
「おっ」
暑さを感じていたからだろうか。ヨーヨー釣りの屋台に目を引かれた。
ビニールプールの中に水風船が浮かんでいる。
「懐かしいねー。やろうよ!」
お姉さんの一声で6人全員が挑戦することに。
3人ずつ横に並び、まずは俺とエミちゃん、キョウカ先輩が挑む。
捻ったティッシュの先端にクリップを引っかけた得物で、いざ水面に浮かぶ風船を釣り上げようとするが――。
意外と難しい。屈んで集中していると暑さを意識してしまい、注意が散漫になる。清涼感に釣られて参加したのにかえって暑苦しい。
手こずっているうちにティッシュの糸が水に溶け切れて、俺の200円は一瞬にして消え失せた。
両端のふたりも結果は芳しくなかったようで、
「あらっ」
「チッ」
エミちゃんの間の抜けた声と、キョウカ先輩の舌打ちが重なる。見れば、ふたりのクリップも無残に水面に落下していた。
「いやー、残念残念。再チャレンジする場合は並び直してねー」
店主の馬鹿にしたような声に追いやられ、俺たちは次の3人に位置を譲る。離れ際、キョウカ先輩が刺すような視線を店主に向けていた。
……怖いって。
傍らから残る3人の様子を見守る。不器用なのか、進藤はすぐに撃沈。しかし、続くサキとお姉さんは違った。
「ほいっ」
「よっと」
ふたりとも、いとも容易く釣り上げていた。サキに至っては、ひとつのクリップで2個取りという神業まで披露した。
「いえーい! ゲットー!」
「峰くん! 見て見て!」
釣り上げたヨーヨーを手に、無邪気にはしゃぐふたりを見て思う。
こういうイベントを心から楽しめる人というのは、ある種の才能を持っているのだろう。感受性が豊かで、その場その場の空気に全力で乗っかれる才能。
油断すると忘れそうになるけど、そういう人間が近くにいるのはとても恵まれていることだ。役得というか、楽しい雰囲気のおこぼれにあやかれるから。俺自身が少し斜に構えてしまう人間だからこそ、余計にそう思う。
「こうするとおっぱいみたいだよ!」
両手に持ったヨーヨーをびよんびよんと弾ませるサキ。
その感受性の中に、一般常識が備わっていれば完璧だったのだが……。
サキはビニールプールから逸れると、俺の前に立って言った。
「ぽよーんぽよーんって。揺れ具合とかマジでリアルじゃない?」
しつこい。
「よく言うよね、走ってる車の窓から手を出すと風がおっぱいの感触に似てるってやつ」
あー、聞いたことある。時速なんキロだかで走る車の窓から手を出して、風を掴むようにするとおっぱいの感触が味わえるという童貞が一度は通る道。
いやまあ、童貞のときもやったことないけど。普通に危ないし。
「あれとこの水風船、どっちが本物に近いかな?」
「知らん」
「興味ない? あっ、そっかー! 峰くんは本物揉み放題の出し放題だもんね。聞く相手を間違えてたよ」
揉み放題はともかく、出し放題ってなんだよ……。
俺への興味は失ったのか、サキはニヤニヤしながら標的を変えた。手元のヨーヨーをふたつ、進藤の前へと差し出す。
「これ、ミニポくんにあげる。寂しい夜はこれで慰めなよ。揉むなり挟むなり好きにしてさ。ローション垂らさば気持ちいいよ、きっと」
「お前、どこかで自分が殴られないと本気で思ってないか?」
「ミニポに加えて暴力まで振るったら男として終わりだよ? 結局、進藤くんは弄られる運命なんだよ」
「なんだとっ……!」
こいつらは本当に……。
サキと進藤の小競り合いを傍観していると、隣でキョウカ先輩がつぶやいた。
「あっ。金魚すくいだ」
ヨーヨー釣りの隣には金魚すくいの屋台があった。
ただ、個人的に金魚すくいってあんまり好きじゃないんだよな。偽善と言われればそれまでだけど、生き物を粗末に扱っているような気がして。
キョウカ先輩はそれ以上なにを言うでもなく、じっと隣の水槽を見下ろしている。
「やりたいんですか?」
「ううん。全然」
そう言って、吐き捨てるように続けた。
「あたし、金魚すくいって嫌いなんだよね」
おっ。本当に珍しく気が合った。
「ですよね。愛護動物ではないですけど、一応は生き物なわけですし」
意外と真面目なところがあるんだな、と見直しかけたのだが、
「違うよ。1匹も取れないから」
「はい?」
「ポイがすぐ破れるんだよ。小学生の頃にムキになっちゃって、少ないお小遣い全ツしたのに1匹も取れなかったことがあって。金魚を見るとあのときの後悔が過るから、嫌い」
「…………」
不器用なだけだった。
「まあ、そこまでして欲しいかと言われると別にいらないしね」
水面で必死に逃げ回る金魚を目で追いながら、キョウカ先輩は独り言のように続けた。
「お情けで1匹もらった金魚も、結局すぐに死んじゃったし。世話も面倒だし、手に入れた瞬間から死へのカウントダウンが始まってるようなものでしょ? 虚しいだけだよ」
ペット全否定の発言だった。というか、突き詰めると人生にも適応できてしまいそうな理論だ。厭世的というかなんというか、祭りの場にそぐわない虚無感を放っている。
「姫野先輩、縁日でそんな重い話しないでください」
エミちゃんも同じことを思ったのか、冷徹にツッコミを入れた。
「でも本当のことじゃん」
「TPOを弁えてください。今はお祭りなんですから、もっと浮かれたこと言いましょうよ」
「終わりがあるから美しいなんて、誰かが作った欺瞞だね」
「なんの話ですか……」
「さあねー」
夕暮れの日差しの中で自嘲気味に笑う横顔は、触れたら切れてしまいそうなほど鋭利に見えた。
やはりキョウカ先輩は闇が深そうだ……。
*
射的に輪投げなど、ぶらりぶらりと遊戯物の屋台を楽しんでいるうちに、辺りはすっかり夜の帳が下りていた。
提灯の明かりが通りをオレンジ色に照らしている。そろそろ花火の時間だな、と思ったところでスピーカーからアナウンスが響いた。
『えー、本日はご来場いただき――』
打ち上げ開始まであと10分らしい。そろそろ観覧スポットである河川敷に移動した方がいいだろう。
「河川敷行く前に飲み物買ってこっか。屋台のでいいよね?」
お姉さんの提案に全員が頷く。ただ、全員で行くのも効率が悪い。というわけで、
「負けた人が買い出し班ね!」
サキの提案でじゃんけんする流れになった。
厳正なる勝負の結果――。
「うわーん! 言い出しっぺの法則だー!」
「はいはい。行くよサっちゃん」
サキ、お姉さんのふたりが負け組になった。
「俺はションベン行ってくるわ」
進藤がついでとばかりにトイレを宣言して、3人が人混みに紛れていく。残された俺たちは、通りの隅でみんなが戻ってくるのを待つ。
その直後、向こうからチャラそうな男ふたり組が近づいてきた。
色黒の金髪に茶髪ピアス。いかにもウェーイといった風貌の男たちだ。
くわばらくわばら。触らぬ神に祟りなし。
俺は関わるまいと、そっぽを向きながら通り過ぎるのを待った。だが、
「おっ、お姉さんたちぃ! 浴衣超似合ってるじゃん! 髪も可愛いね! モデル?」
「これからどっか行くの? 良かったら俺らと一緒に花火観ない?」
エミちゃんとキョウカ先輩がその餌食に。教科書に載せたいぐらいのテンプレナンパだ。
俺では男除けにならなかったか……。
面白くない。シンプルに不快だ。
しかし、なんか前にも似たようなことがあった気がする。いつのことだったけ。
「ごめんなさーい。あたしたち連れがいるので」
キョウカ先輩が手慣れた様子で断りを入れるが、男たちは食い下がった。
「えー? 男? まさかそいつ? いいじゃん別に」
「そんなやつより俺たちと遊ぼうよ」
「くどいなぁ。彼女いない男に興味ないんで、両手に花を添えてから出直して」
「「……?」」
いいぞキョウカ先輩!
もっと翻弄してやってください!
と、内心で応援していたら、
「じゃ、じゃあそっちの黒ボブちゃん!」
「ちっちゃくて可愛いね。俺らと遊ぼ?」
矛先がエミちゃん単体に向かってしまった。
そして、その流れでエミちゃんは流し目で俺を見た。助けを求めるように――というより、なにか確認するような素振りだった。
いけない。俺がどう出るか試している目だ。ここでヘタレを晒したらあとがない。いや、そうでなくても、大事な彼女がナンパされているのを黙って見ているのは男が廃る。
俺が一歩前に出ようとした、そのときだった。
「――ふむ。悪くないですね」
エミちゃんは顎に手を当てて、納得したような声を上げた。
「もしかしたら、リョウタくんと一緒にいるより楽しいかもしれませんし」
「なっ!」
この子はなにを!
「マジで!?」
「脈ありじゃん!」
言わんこっちゃない。男たちが色めき立ってしまった。
その間も、エミちゃんはニマニマと俺の出方を窺っている。これは、お姉さんとキスをしたことへの当てつけなんだろうか。
理由がなんであれ、このまま見過ごすわけにはいかない。男のひとりがエミちゃんの肩に手を伸ばそうとしたところで、俺は間に入った。
「ちょっと」
「あ?」
「この子、俺の彼女ですから。悪いけど他を当たってください」
精一杯の虚勢を張って睨みつける。
「邪魔すんなよ」
「彼女も乗り気じゃん。お前じゃつまんねーってさ」
「その子がいいって言ってんだから部外者は引っ込んでろっての」
俺への対応は明らかに険悪だ。酒でも入っているのか、息がアルコール臭い。
正直怖いけど、後ろにはエミちゃんがいる。下手な姿は見せられない。毅然とした態度で応じる。
「部外者じゃないですよ。彼氏ですから」
「あ?」
「空気読めよお前」
男たちが俺を威圧するように詰め寄ってきた。暴力沙汰にはならないと高を括っていたけど、ちょっと雲行きが怪しくなる。
それでエミちゃんもやり過ぎたと思ったのか、男たちに見せつけるように俺の腕にしがみついた。
「ごめんなさい、やっぱり遠慮しておきます。よく見たら全然タイプじゃないですし」
良かった。悪ふざけもここまでらしい。
でも、その言い方はちょっと……。
「は? テメェ……ふざけんじゃねえぞ!」
「思わせぶりな態度取りやがって!」
案の定というか、面子を潰された男たちはより一層に喧嘩腰へと変わった。エミちゃんの態度が火に油を注いだらしい。
敵意の対象は俺から俺たちへ。巻き添えを嘆くかのように、キョウカ先輩が不満げな視線をこちらに向けていた。
男の片割れが一歩前に出る。
俺が身構えた、その瞬間だった。
「ウチの連れになんか用か?」
背後から男の肩に手を置いたのは長身の影。
進藤だ。タッパもふたりよりあって、ただ立っているだけで威圧感がある。
「なになにナンパ〜?」
「おー、いかにも見た目。風情だねぇ」
と、そこで買い出し組のふたりも帰還して6体2の状況になった。多勢に無勢で、男たちは気圧されたようにたじろいだ。
「……チッ。なんだよ、シラけんな」
「めんどくせぇ。行こうぜ」
捨て台詞を吐きながら、男たちは逃げるように歩みを進めていった。
「大丈夫か、峰川」
「あ、ああ……助かったよ、進藤」
「気にするな」
頼りになるやつだ。
脅威が去ったところで俺はエミちゃんに向き直った。
「もっとスマートに追い払えれば良かったんだけど……」
「いえ、十分に合格です。リョウタくんが必死になってくれて、ちょっとスッキリしました」
「エミちゃん……」
「私の気持ち、少しはわかっていただけました?」
やはり当てつけでやっていたらしい。相手の好意を試すためにわざと別れを切り出すというテクニックが男女交際にはあるらしいけど、それと似たようなものだろうか。
やられた側はあまり気分が良くない。ただ、それも身から出た錆。自業自得というやつだ。
「本当にごめん……」
「謝罪はもういいですよ。その代わり」
カツンと下駄音を立てながら、エミちゃんは俺の耳元に顔を寄せた。
「ちゃんと行動で返してもらいますからっ♡」
囁きと共に手首を掴まれる。そのままエミちゃんは、全員に向けて言った。
「私たちは野暮用がありますので。一旦、別行動にしましょう」
「なにそれ!? せっかくふたりの分のドリンク買ってきたのに!」
「それはありがたく頂戴します。先に行って場所取りお願いしてもいいですか?」
荒れるサキにエミちゃんは淡々と言う。
野暮用ってなんだろう。
いや、なんとなく想像はつくけど……。
「私たちは神崎さんの奴隷じゃないんだよ!? いつも貧乏くじばっかり引かせてさ!」
「では、私がリョウタくんを独占してもいいんですよ?」
「卑怯者!」
女王様の決定は絶対らしい。当然、俺にも逆らう権利はないだろう。
「もうっ! はいこれ、神崎さんの分」
サキから差し出されたペットボトルのお茶を、エミちゃんが受け取る。コンビニでも売っているような市販のやつだ。
「ほい、デカチンポくんの分」
「ありがとうございます。あとで合流するんで」
お姉さんからペットボトルのコーラを受け取る。ただ、受け渡しの際にお姉さんが一瞬だけ寂しげな目を宿した。
「?」
俺が首を傾げると、その表情はすぐに誤魔化すような笑顔に変わる。
なんだろう。
「では、行きましょうか♡」
真意を問う暇はなく、エミちゃんに手を引かれ、俺たちは人混みの中に紛れていった。