【2巻11/14発売!】ずっと好きだった幼馴染にフられて始まる淫らに一途なハーレム生活 作:花染彩葉@幼馴染ハーレム2巻発売中!
道中でレンタカーを返却し、そこからお姉さんのマイカーに乗り換えて神崎家へ。その間、俺の体はずっと震えていた。
「リョウタくん、緊張してます?」
「そりゃ……。彼女の親に挨拶ってなれば誰だってするよ」
せめて心の準備があれば違ったかもしれないけど、エミちゃんが不意打ちじみたことをするから余計に緊張してしまう。アポなし準備なし、あるのは勢いだけだ。
膝の上で握り締めていた手の甲に、エミちゃんが自分の手を重ねてきた。
「大丈夫ですよ。私がついてますから♡」
「……頼りにしてる」
とは言いつつも、いまいち信用できないんだよなぁ……。
とりあえず、絶対にお母様に粗相がないようにしないと。
*
何事にも終わりは来る。永遠に続けばいいと思っていた神崎家への道中も、ついに終わりが来てしまった。
「さっ、着いたよーん。降りて降りて」
自宅の駐車場に車を停め、お姉さんが軽快に声を上げる。ふたりは旅行の荷物を持ち、俺はキャリーバッグをトランクに入れたまま、手ぶらの状態で姉妹のあとをとぼとぼとついていく。
お姉さんが鍵を開け、声を上げながら扉を引いた。
「ただいまー」
「ただいま」
「……お、お邪魔します」
紛れるような声で訪問のご挨拶。すると、リビングの方からスリッパの足音が近づいてきた。
「おかえりなさい。旅行は満喫できた?」
「うん、いい息抜きになったよー」
お姉さんが応じているうちに、廊下とリビングを隔てる扉に人影が差す。そこから現れたのは当然、先日ショッピングモールで遭遇したあのお母様だった。
ゆったりとしたスウェットワンピースに身を包んだお母様は、俺の姿を視認するなりその目を輝かせた。
「あらー! エミの彼氏くんじゃない! 来るなら来るって言ってくれないと! すっぴんじゃ恥ずかしいわ」
「娘の彼氏に色気づかないで」
浮足立つ母にすかさずツッコミを入れるエミちゃん。俺は居住まいを正し、直角になる勢いで頭を下げた。
「は、初めまして! ……ああいえ、先日お会いしましたが、改めて峰川リョウタと言います。突然お邪魔してしまい申し訳ありません!」
緊張で声が裏返りそうになる。頭を下げていると、スリッパの先端が視界に入った。
「かったいかったい! もっと砕けてくれてもいいのに~」
「っ!?」
瞬間、むぎゅっという擬音が脳内で再生される。頭を引き寄せられたかと思うと、顔面が柔らかいなにかに埋没していた。
後頭部には優しい掌の感触。そして顔面には――豊かな胸元の感触が!
さすがお姉さんのお母様。服越しからでも伝わる極上の柔らかさが、俺の鼻を、頬を、そして唇を圧迫して――って、そうではなく!
「んーっ! んむっー!」
「お母さん! 娘の彼氏に手出さないでよ!」
窒息しそうなところで、エミちゃんが強引に抱擁を割ってくれた。
しかし、めっちゃいい匂いしたな……。
そんな思考が頭に過るが、それを口に出せば俺の命はない。ただ、自分の彼女がこういうところで目敏いことを俺は忘れていた。
「リョウタくん。なにを照れているんですか」
エミちゃんのジト目が俺を射抜く。
「ふたまわりも年上ですよ、人妻ですよ、不倫ですよ! 彼女の母親相手になに考えてるんですか」
「なにも考えてないって! 誤解だってば!」
「えー、それはそれで傷つくなー。私も女なのに」
「ああいえ……、そういうつもりで言ったわけじゃ、」
「リョウタくん」
フォローしようとすれば沼に嵌る。
ああもう、俺にどうしろと!
「はぁ……全く……」
ひとしきり俺への威嚇を済ませると、エミちゃんは熱を逃がすように息を吐いた。
場の空気が落ち着いたのを見計らって、お母様が不思議そうに小首を傾げる。
「それはそうと、突然どうしたのかしら。連絡もなしに彼氏くんを連れてくるなんて」
「実はお母さんに話したいことがあって。リョウタくんも交えて」
「ん? なによなによ、そんな改まっちゃって。あっ、もしかして」
目を数回瞬かせたのち、お母様が驚きを演出するように口元に手を当てる。
「妊娠?」
「っ……!」
心臓が口から飛び出すかと思った。
「まあ! やっぱりそうなのね!」
お母様は両手の指先を合わせると、上機嫌に頭を左右に振りながらこう続けた。
「安心して、育児は全力でサポートしてあげるから。休学も許します、大学なんていつでも復学できるし、若き母親っていうのも素敵じゃない!」
早合点も甚だしいお母様だ! しかも肯定的だし!
「ち、違いますっ! 妊娠じゃないですから!」
「あら、違うの? ……残念」
お母様は心底無念そうに、大袈裟な動作で肩を落とした。
この人、本気だったのか……。
「冗談じゃなくて真面目な話なの。とにかく上がってもらうから」
エミちゃんが強引に話題を修正して、お母様を押し退けるように玄関に上がった。
「リョウタくんもどうぞ」
「あ、うん……お邪魔します」
恐縮しながら靴を脱ぐ。差し出されたスリッパに足を通し、エミちゃんのあとについていく。
背後にはお姉さんとお母様。背中に粘っこい視線を感じて、俺は振り返ることができなかった。
神崎家のリビングには何度かお邪魔している。ただ、それは総じてご両親が留守を見計らってのときだ。
普段と変わらない間取り。見慣れた家具。
それなのに、お母様がそこにいるだけで別の空間になったみたいだ。
「さあ座ってて。今お茶淹れるわね」
お母様がキッチンへと消えていく。
俺とエミちゃんは、ローテーブルとソファの間――ラグの上に並んで座る。もちろん俺は正座である。
お姉さんはソファの端っこにどっかと腰を下ろし、肘掛けに腕を置いて俺たちを見下ろすように座った。完全に野次馬の体勢だ。
やがて、お母様がお盆に乗せた湯呑みを運んできた。それをテーブルに置くと、俺たちの対面に腰を下ろした。
「それで? 真面目な話ってなにかしら。妊娠じゃないなら結婚?」
発想がいちいち劇的だな……。
「それはまだ。する予定だけど」
……する予定なんだ。
いや、もちろんするつもりだけども。サラッとそういうことを言わないで欲しい。
「そうじゃなくて」
エミちゃんはそこで咳払いをして背筋を伸ばした。
隣にいる俺もつられて姿勢を正す。
エミちゃんは真っ直ぐにお母様を見据えた。
「私、リョウタくんと同棲したいの」
「――――」
沈黙。お母様は瞬きを止めた。
学生同士の同棲なんて親的には反対してもおかしくない案件だ。
テーブルに置いていた湯呑みを持つと、お母様はお茶を一口。そして――。
「同棲! いいじゃない!」
湯呑みを置きながらにっこりと微笑んだ。
「なーんだ、そんなことだったのね。もちろん許可するわ。お父さんにも私から伝えてあげる」
「へ……? え……? 同棲ですよ? 僕たちまだ学生ですし」
「それが?」
「…………」
それが、と言われると返す言葉はないのだが……。
困惑していると、エミちゃんが俺の袖をクイクイと引いた。横目で見ると、そこには『だから言ったでしょう?』と言わんばかりのドヤ顔があった。
その顔がお母様の方に向く。
「家賃や生活費はふたりでなんとかするから。バイトもしようと思ってる」
「エミがバイト! 大人になったわねぇ。なおさら否定する理由がなくなったわ」
お母様は娘の自立を喜んでいるようだった。
エミちゃん、相当甘やかされて育ってそうだな……。
「そうと決まれば、さっそくお部屋を探さなくっちゃね。リョウタくんはエミと同じ大学なのよね?」
「は、はい。学部も同じで」
「なら近いに越したことはないわね。大学に通いやすくて、スーパーも近くて、ふたりで住むなら1LDKぐらいかしら。それとも将来を見据えて2LDK? きゃー! 夢が広がるわねぇ、孫の顔がこんなに早く見られるなんて!」
薄々感じていたことではあるけど、このお母様ちょっと変じゃないか……?
ぶっ飛んでいるというか、常識が抜けているというか……いやまあ、神崎姉妹も似たようなものではあるけど……。
「自分たちで済まそうとするのは良いことだけど、せめて初期費用ぐらいは出させて頂戴! あとは家具家電も揃えなきゃいけないし、引っ越し業者の手配も……あらやだ、急に忙しくなっちゃうじゃない!」
早い早い! 話の進み具合が早過ぎる!
このままでは来週には新居の鍵を渡されかねない。
「ちょ、ちょっと待ってください! お母様!」
「ん? なにかしら? 物件にこだわりでもあって?」
「そうではなくて! まだウチの両親にはなにも話してないんです! だから確定ってわけじゃなくて……!」
「あら、そうなの?」
「リョウタくんのご家族には明日の夜にでも挨拶に行く予定」
明日の夜!?
「あ、あの、エミちゃん……? 例によってなにも聞いてないんだけど……」
「当然でしょう。今決めたんですから。我が家はクリア、残すは峰川家のみ、となれば善は急げです。同棲は目の前ですよ♡」
「いくらなんでも急ぎ過ぎだよ!」
俺の悲鳴に近い抗議も、エミちゃんには馬耳東風だった。
「楽しみですねっ、同棲。リョウタくんのご両親に気に入っていただけるよう、明日は気合い入れてお化粧しようと思います♡」
この調子じゃ同棲が始まった直後に『次は結婚式ですね♡』とか言い出しかねない。
同棲の次は結婚、その次は……。
結局のところ、俺の人生はどこまでいってもエミちゃんに振り回される未来しかないのかもしれない。