「最近、おまえ”死にたい”って言わなくなったよな」と友人は言った。
居酒屋での話だ。学園都市は確かに学生の多い街ではあるが、酒の飲める場所も当然ある。
友人の言葉に、巻毛の青年はどう応じたものかとはにかむ。
確かに”死にたい”が口癖だったのだ。自分でも自覚するように、ずっと死について考えてきた。
「ま、仕方ないよな」
友人は勝手に進める。
「なんてったって、学園都市なわけだし」
学園都市の裏表。ろくな成績を収めることができずに成長してしまった学生はどうするか。
勝手に期待されるだけ期待されて、ちょっとでも応えられなければ捨てられる。そういう経験を積み上げていけば、ひとは興味を失う。物事にも、努力についても。自分自身についても。学習性無気力というやつだ。何をやってもどうにもならない、という感覚。病。青年の口癖の”死にたい”はその結果だった。
「なにか良いことでもあったのか?」
「……」
何をどれだけ答えればいいか、青年には分からない。
「たぶん、幸せなんだと思うよ」
「それはそれは」と友人は自分ごとのように喜ぶ。
自分は今常盤台中学の生徒と肉体関係にある――そう答えたとしたら、この長年の友人の表情はどう変わるだろうか、と青年は考える。考えるだけで、やめにした。悪い方には転ばないと信頼しているが、自分の中でもこの事実をどう取り扱っていいのか判断がついていないのだ。
「いつか話すよ」と青年は告げる。
「それには及ばないよ」と友人。
「たぶん、この
それは衝撃的な台詞のはずだった。
そして同時に、何度となく聞いてきた言葉でもあった。
学園都市に住むおちこぼれの能力者のうち、何割かは人知れず都市を去る。外の世界に仕事を見つけたとか、自分探しの旅だとか、いろんな理由を想像することはできる。真実が不明である以上、それはある種の幻想だ。共通して言えることは、この街から放逐されるということだ。
おそらく、自分もその内そうなるのだろうな、と青年は思う。
けれども、願わくば、それが自分の意思であれば良い。
・・・♪・・・
華奢な体。スレンダーということもできる。まだ幼い。未成熟なのか、それともそれ以上育つことを拒んでいるのか、浮いた肋からは判別がつかない。汗で湿った腕が、首の後ろに巻き付けられている。肌の張りも手伝って、吸い付いてきている。それ以上沈み込まないように、とする腕の力が、強い。
すでに何度か体を合わせてきた甲斐もあって、すでに二人の腰は隙間なく密着している。しっかりと収まっている。思えば、飲み込みがずいぶん早かった。何度目かの頃にはすでに自分から緩急をつけて、リズムに適応することを覚えていた。抜こうとすると、引き留めるように吸い付いてくる。突き入れると、もう離すまいとするように握りしめてくる。
やっぱり賢い子なのだ、と青年は思う。
なんだか愛しくなってしまって、色抜けた髪の頭を撫でた。とても小さな頭だ。この中に賢さと器用さ、人格が詰まっている。何度だって驚きだった。ぐっと頭を近づける。彼女は青年の肩に犬歯を立てた。近いらしい。リズムは大きく、激しくなってくる。有声化されれない吐息が、短く、熱く、叩きつけるようになってくる。
大人になろうか決めあぐねている肢体が、はねた。
バチバチと静電気のようなものが弾け、青年の体にもピリピリときた。それで、彼も達してしまった。変な癖がついてしまった。教え込む立場だったはずが、しっかり習慣づけがなされている。
自分の痙攣を止めようとして、お互いを抱きしめる力が強くなる。瞬間的に、感じているのは砕かんばかりの力だ。一方、青年の方はもっと弱い。砕きたくなる気持ちを腕の芯に堪えるようにして、ただ離れないように支えている。
論理的に考えれば、彼女の胎の中に放ったはずだった。しかし、耳元で彼女の深く、荒い息が聞こえている以上、顔は見えない。彼女がどこを見ているのか、彼には分からない。自分のことなど見ていないのではないか、と感じる。
ふと、顔を上げると時計が映る。彼女の門限まであとどれくらいだ、と彼は考える。