「今度は玄関から来てくれ」と青年は言った。
御坂はすとんとベランダに降りる。身軽だった。重力なんてないみたいだ。
「どうかしら」と彼女は答えた。
「ていうか、なんで来てくれたんだ」
あなたが呼んだのに、と怪訝そう表情をしながら、
「たまたまよ。ひと段落ついたの」
「何が?」
「それより、何か飲み物ない? 冷たければなんでもいいわ」
青年はなかなか立ち上がれない。
しばらくして、ソファに二人は座っている。
「それ」と彼女が指差す青年の下半身は高くなっている。「したいの、昨日みたいなこと」
「したい」と即座に答えた。「でも、いいのか?」
「……うまくできるか分からないけど」
昨日のことでトラウマになりかける。
「悪いなとは思ってたから」
隣に座る御坂の肩を抱くようにして引き寄せた。そのまま唇を重ねる。何度か啄んで、息を漏らしたところに舌を捩じ込んだ。
「んっ」
異物感に彼女は眉根を寄せる。舌が一瞬固くなるが、すぐに解ける。
唾液の交換をしている間に、頭がぼうとしてきた。夜景を見ていたときとは別の感覚だ。他の雑事が溶けていき、口の中の感覚が研ぎ澄まされていく。自分には脳と舌しかないような気がする。しかし、そう感じるのとは裏腹に、下腹部に血が溜まっていくのを感じる。そこにいるもう一人の自分が我を出そうと苦悩していることに、意識が向かう。
相手の様子を見るために、青年は口を離した。
「どう?」
「昨日も思ったけど」と彼女は手の甲で口元を拭った。小さな手に、唾液の跡がつく。「これはいやじゃないわ」
「好きってこと?」
そう尋ねると、彼女はさっと顔を赤らめる。
「――うん」
再びキスをしながら、手をハーフパンツの方に下ろす。真ん中の縫い目をなぞると、彼女は慌て出す。
「ちょ、ちょっと待って」
「何を?」
「そんなとこ――」
「昨日、これが入ってたんだよ」
彼女の手を取って、青年は自分の股間にあてがった。すでにはち切れんばかりだった。
「熱い……」
布の上からでもわかる、ひんやりとした手だった。先ほどまで夢想していた手だ。
「大丈夫なの?」と彼女は尋ねてくる。
「大丈夫じゃないよ」と彼は答える。
「……どうしたら良い?」
「脱がせて」
「はぁ!?」
青年はそうしやすいように、ソファから少し腰を浮かす。そうすると中心がより高く見える。
「〜〜ッ」彼女はかなり迷ったようだった。「わかったわよ……」
生まれて初めて勃起したかのように固く、そそり立っていた。青年自身も驚いたほどだ。
「よくこんなの入ってたわね」
「昨日は、途中までだったよ」
「そ、そうじゃなくて……」
ズボンの中にって意味、と彼女が付け加える言葉を遮って、
「きみも脱いでくれ」と彼は言う。
御坂は目を白黒させる。顔も一瞬だけ青くなり、次いで赤くなる。
「全部?」
青年は少し迷った。
「下だけでいい」
「”だけ”って」
彼は手を伸ばしたが、御坂は「自分でやるから」と言う。では、と彼は手をのけた。
震える手で、彼女はボタンを一つ外した。ジッパーを下ろしていくにつれ、薄いタイツが見える。闇に溶けそうな色。その下に白い生地が隠されている。骨盤の細い線が顕になる。青年は昨日の晩にも似た緊張を覚えた。あまりに細い。背徳感で済まない感情が、彼の心を奥底から揺さぶっていた。禁断の、という言葉が浮かぶ。
昨日のおれも、今日のおれも、悪い――頭の奥底が焼けそうだった。
恥ずかしさから先延ばしにしたかったのだろう、御坂は意を決してハーフパンツから脚を抜く。意を決したと見えて、タイツを脱ぐ。すると、生白い脚がすらりと現れる。夜景にも負けない月光がさっと差したかのようだった。眩いほどの白。事実青年は目眩がしたし、恍惚感すら押し寄せた。
自分が達してしまったのたでないかと慌てたが、依然として健在だった。いや、先ほどまでより高くなっている気もする。泣いていた。
「そんなに鼻息荒くしないでよ」
「無理だろ。やっぱりきれいだよ」
彼は言った。もちろん嘘偽りのない言葉だった。
御坂は照れ、ソファに膝立ちになり、下着に手をかける。白波がじわじわと下がっていくにつれ、彼の中の興奮が高まっていく。肌の面積が増えていく度、鼓動が早くなる。息ができない。溺れそうだ。御坂は途中、違和感を感じて手を止めたかけたが、それでも下着を下ろし終えた。
粘り気のある露が、夜に光る。
「昨日はこんなのじゃなかったのに」と消え入るような声。
「違うんだ」
昨日とは、違う。
「正常だよ」
と宣う自分の倫理観が疑わしかった。それどころではない。今やすべてが疑わしかった。彼女の割れ目に吸い寄せられているこの意識と、いつの間にか手を伸ばし胸を収めている手と、どちらも正気ではなかった。普段の彼とは離れた、まったく別の何かがそうさせていた。彼の指先は、服の上から、突起を掠めるように往復する。そんな動作を計算しているわけはなかった。
「ンっ……ふっ……」
そんな風に、人差し指を噛むように唇に当てている彼女が愛おしくてたまらなかった。
「御坂、御坂」
「……?」
「上にまたがって」
浅い息をしながら、彼女は従順にそうする。
「自分のタイミングで入れてみて。ゆっくりでいいから」
露が落ちて青年に当たる。先端と縁が触れたとき、彼は思わず跳ね上がりそうになった。爆ぜるように熱いと感じた。
「無理しなくていいから」
うわごとのようにそう言ったが、我慢は限界だった。それでも、今すぐ彼女の中に収まりたいのをグッと堪える。その自制心がどこから来ているのか、彼には分からない。相反するこころがあった。自身の欲望のままに彼女をめちゃくちゃにしたい気持ちと、いたわりたい気持ちが混在している。そのいずれもが、自分のものである確証が持てなかった。
「でも」と御坂は言って、腰を下す。
先端が合間にめり込んでいく。