翌日には友人に連絡をし、アルバイトを手伝わせてもらうことになった。彼にとっては簡単な仕事だ。いくつか装置を組み立てるだけでいい。その正体を知る必要もない。
「爆弾だったらどうするんだよ」
「そうなのか?」
「知らない方が良いこともある。善き目的に使われるのは確かだから、安心してくれ」
そう聞いてから、作業は一層慎重になった。
「はい、謝礼」
そう言って、現金の入った封筒を渡してくる。青年は中身を確認せずにしまった。
「それにしてもなんで金がほしくなったんだ? 喫茶店の代理店長で楽に稼いでるんだろ」
「金もそうだけど、労働に興味が湧いたんだ」
「ははーん、女か」
青年は答えない。
「どんな女なんだい? かわいいか?」
「かわいいよ」と軽口に答える。
「……今度は真面目にやれそうか」
彼のことをよく知っている奴だ。青年にしてもそうだった。
青年は、今までろくに付き合ったことがない。することはしたが、すぐに別れてしまう。無関心と言われたり、優柔不断と言われたりしてきた。自分は何事にも真面目になれない奴なのだと思っていた。しかしそれは目標がなかったからで、今は情熱を傾けて求めるに値するヴィジョンがある。
「真面目にやるさ。そのための金だ」
「精神性と金は関係ないだろう」と友人は笑う。
言う通りだった。
「でも今までとは違うんだ」
・・・♪・・・
あれから、青年は御坂と何度も会っている。不定期に。決まっていることといえば、時間帯だけだった。夕方か夜。
青年は彼女の門限について考えなくなった。どこにも裏口というものはあるらしい。
彼女の場合、それは後輩の女の子とのことだった。
いろんな話をした。
好きなマスコットや映画、音楽などについて。特に彼女はマスコットについては情熱を持って語った。青年は、自分にはそういうものがないので、微笑ましく聞きつつも、内心焦りを覚えていた。
何も特別でないこと――それは、主に何か他のことについてだったが、同時に自分自身の浅さを表しているように彼には思えた。
「何か趣味を作るべきかな?」
「趣味って、”べき”で作るものじゃないと思うわ」
彼女は服を脱ぎながら言う。もうすっかり慣れたものだ。
「なんとなく好きで、それが続いて、気がついたら趣味になってるものじゃない」
「自覚するところからか」
彼は下着一枚で、彼女がポップな柄の下着を外すところを眺めている。細いだのなんだのと言ってきた、今ではこれが完成系なのではないかと思いはじめていた。
「自覚もいらないのよ。本当かどうかなんて誰にも分かりゃしないわ」
「ふむ」
小さめの胸が露になる。そこの柔らかさが手の中に蘇ってくるようだった。
「誰かに”ご趣味は?”って聞かれて、反射的に答えちゃったのが趣味なのよ。適当でいい」
青年はベッドの端に、膝を開いて座っている。
御坂はパンツだけの姿で、その間に両膝をつく。
「自分で脱ぐ? 脱がしてほしい?」
自分で――と言おうとして、彼は改めた。「脱がしてくれ」
バチン、と彼の隠された正体が、弾けてヘソの下を打った。
御坂はくすくすと笑った。
「世間話しながらでもこうなっちゃうのね」
彼女は彼の膝から腿の付け根にかけてを撫で回す。触れるか触れないかの手つきだった。小さな手が産毛をくすぐる。
「――でも、趣味を隠したいひともいるらしいけどね」
「そ、そうなんだ?」
「必ず歓迎されるとも限らない。嘲笑、侮り――色々あるんでしょ。秘密にしたいことってあるものよ」
「……御坂にもそう言うのあるのか?」
「わたしはこれを”趣味”って言わないわ」
そして、彼女は先端にキスをした。
ビクンと跳ね上がってしまう。
青年が教えたことではなかっった。
「どこでこんなことを」
「友だち」
ねろりと竿の下から上まで熱い舌が登ってくる。寒気に似た快感が逃げてきた。耳年増な友人がいることは聞いていた。だからといって、ここまで慣れた手つきで実行できるものだろうか。やはり賢いのだな、と青年は舌を巻いて、唸る。切先の上では、細い指がくるくると踊っていた。
そのまま、彼女の舌は何度か根本と先端までを往復する。溶かされそうになるが、むしろ内側からどんどん漲ってくる自身の反骨心には 驚かされた。しかし実態として、彼は苦悶の表情を浮かべている。
「御坂」
「これ、いいの?」
「いいっ、すごく」
「ふーん、じゃ、これはどうかしら」
そう言って、彼女は青年のものを咥えた。じゅああと唾液に満ちた口の中に、分解されるような感覚を覚える。青年が白黒する目で見下ろすと、御坂は上目遣いで彼を見た。そこには勝ち誇った光が灯っている。
手で竿をしながら、彼女は青年をしゃぶりはじめた。じゅぽ、じゅぽ、と卑猥な音が鳴る。それが耳に届くたび、彼は脳が掻き乱されるような気分になった。吸い上げられ、留められ、また吸い上げられる――快感のリズムに掻き乱され、前後左右がわからなくなり、何かにしがみつきたくなる。彼はのけぞりながら、シーツを握りしめた。
このままでは引き抜かれてしまう、という直感的な危機感があった。
しかし、御坂の手がさっと伸びて、彼の腰を抱き止める。
「ちょっ」
青年は捕まった。普段であれば振り解くこともできただろうが、今や自由はない。彼は奥底にあるものを吸い上げられる他ないのだと気づいた。それでも予想外の快楽に彼は恐ろしさを覚え始めていた。もはや奉仕などではなかった。ただの搾精だ。
「み、御坂」
なに、と問うように彼女は見上げてくる。異物を押し込んでいる苦しさからだろう、その目は潤んでいる。一回り瞳が大きく見えた。魅了された。
彼は唇を噛む。
御坂は微笑む。
「いつれもいいはほ」
青年は目を瞑った。ぐっと御坂が一層深く彼のものを飲み込んだ時だった。奥底から、一気に駆け上がってきた。怒涛の勢いが、そのまま御坂の喉奥に放たれる。
「ゔっ」
苦しそうな声を聞いたが、それでも青年は止められなかった。どくんどくんと脈打つままに任せる他なかった。申し訳なさと快楽に頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだった。