しばらく呼吸しようとして上手くいかない。精液が絡んでいるのだ。青年はティッシュを探すが、その背後でゴクン、という音が聞こえた。
「飲んじゃったのか?」
「えほっ――そうだけど」そういうものじゃないのか、と問いたげな表情。
ぐっと胸の奥が熱くなった。
なんのことだか分からない調子の御坂は「それ、取ってよ」
ペットボトルを手渡すとうがいを始める。
自分の子種を飲んでくれたという事実が、彼の胸を熱くさせていた。
だから抱きしめた。
御坂は水を噴き出す。
「ありがとう」
「苦かった」
それなのに、彼女は飲み込んでくれたのだ。吐き出しても良かったはずなのに。また愛しくなってしまった。
「あっ、まだ残ってるかもしれないから、んっ」
キスをする。
構わなかった。御坂の唾液は変わらず甘いままだった。
首筋、鎖骨、とキスをしていく。
「こっち来て」と青年は言った。
ベッドに横たわる彼女。
青年は足の指先からキスをしていく。御坂はくすぐったいと笑う。しかし青年は真面目だった。
全ての場所にマークをつけておきたいと感じた。すね、膝、腿――上っていく度に、湿度が上がり、濃い女の匂いがしてきた。青年には芳しく甘く感じた。この少女とて酸いも甘いも味わってきているはずなのに、それでも甘さが勝つ。その匂いの源泉を探すように鼻を鳴らしながら、舌を這わせて味も追った。
そしてたどり着いた。
下着が透けていた。
視線を上げて、彼女に問う。
顔を赤らめて彼女は頷き、腰を軽く上げた。
下着を剥がすと、未熟な膨らみがあった。唇よりは厚く、毛はない。湿潤の中にあったためか、全体が妖しく光を反射しており、乾く様子がなかった。彼は大きく息を吸い込む。そして、舌を割れ目に忍び込ませる。
「あっ」
舌が握るように締められる。合わせて蜜が溢れてきた。すくっては飲みを繰り返すが、尽きる様子はない。溺れそうになる。一旦退却し、上流へ逃げる。そこに隠された宝石がある。ヴェールをほどけば、切ないほどに赤く輝いていた。
彼はしゃぶりついた。
「んああああっ」
御坂は痺れるように体を振動させる。
「指、入れるよ」
舌先であらかたの地形は把握できている。しかし彼女の源泉はもっと奥にあった。
赤い宝石に接吻を繰り返しながらも、指を入れていく。温かく、柔らかい。迎えるように緩んだかと思えば、引き留めるように狭まる。前進はなかなか大変だった。弛緩と収縮のリズムが不規則なのだ。
「あっあっあっ」
彼女の嬌声にドキドキする。焦りにも似た感覚が広がっていく。
そして、見つけた。
洞窟の天井にざらざらとした部分があった。青年はそこを撫ぜる。
「あんっ」
「ここか?」何がを尋ねているのかは、彼にもよく分かっていなかった。
数回タップして、指の腹で強く、時に優しく撫ぜる。その度、彼女は逃げるように腰を跳ねさせる。リズムは、おれが作る、とわけの分からないことを青年は思った。正気といえそうなものはすでに吸い上げられていた。タップ、強く、優しく、強く、優しく、タップ、撫ぜる。
「は、は、はっ、はっ」
御坂が高まっていくのを感じた。
「ダメェ――ッ!」
バチン、と彼女の体が一際大きく跳ねた。痙攣する。その内部にある彼の指は攪拌された。あまりの強さにそのまま食われるのではないかと思った。
揺れが落ち着くまで待って、彼は指をゆっくりと引き抜いた。
御坂が顔を隠して、深い息をしていた。全身が汗だくだった。
「……なに、いまの……」
誰に言うでもない疑問だった。
そんな御坂の上に跨がるようにして、両膝立ちになる。青年はもう限界だった。正直なところ、先ほど顔を埋めている最中、シーツとの擦れで危うく暴発しかけたほどだった。ヘソを超えんばかりにそそり立っていて、先端はこれ以上ないほど充血していた。つい今し方、絞り尽くされたかに思われていたが、完全に復活してしまっている。過去最高かもしれなかった。
そんな彼を見て、御坂はごくりと喉を鳴らす。
「大きくない?」
「こうなっちゃったんだよ。――うしろ向いて」
「うしろから?」
頓狂な顔をする御坂。
「そういうのもあるのよね。面白そうじゃない。ドキドキする」
なんで余裕なんだ? とかすかに思った。常盤台の、エリート。
その少女が、今や壁に手をついて、尻を向けてきている。
後から見ると、彼女はやはり幼い。骨ばっている。今更だというのに、取り返しのつかなさが冷気の針となって青年の頭を刺した。他の部分が灼熱のようだったので、それは一瞬の内に溶けたが、記録は残る。
「するなら早くしなさいよ」
彼女は無意識にだろうが、小さく尻を振った。
ちょっとした考え事など吹っ飛んだ。
彼は十二分に濡れた女の部分に自身のものを突き立てた。
ばちん、ばちんと腰が尻を打つ音が響いていた。
はじめこそ細い腰を掴んでいたが、気がつけば腕を引っ張っていたし、今では両肩を掴んでいる。
組み敷くような姿勢で、とにかく青年は腰を振った。
「はっ、はっ、はっ、あんっ、あんっ」
荒い吐息は嬌声に、そして啼き声になった。彼の動きに合わせて、内側でしがみついてくる。差すときは削るように締めつけ、抜くときは名残惜しそうに吸いつく。天井のざらざらを擦れば、きゃんと震えた。
側からみれば、青年が優位に見えたことだろう。
しかし、彼の実感としては「勝てないな」だった。女の子には、勝てない。コントロールしているようでいて、快楽のすべてが彼女の制御下にあるのだ。本能とでもいうべきものに、自動的に突き動かされているだけで、彼の人間的な意思はほとんど機能していなかった。彼はただ与えられるがままに、腰を振っていた。
そこに、ちらりと能力的な貧富が重なった。持たざる者だった彼が、持つ者である彼女に、今や良いように仕向けられている。彼の心に、快楽とはまた別の炎が兆した。この快楽でグズグスになった状況から、どうにか勝ちたいというような気持ちだった。
当に限界は近づいていた。
しかし、彼は今こそが最後の闘いだと思った。歳の差とか男女としてではない。ひとりの人間として、抗いたいと思った。
歯を食いしばって、彼女に堪える。
ここで負けてしまえば、数日前に見た夜景の未来も手に入らないと彼は思った。
彼女の内部が乱れ始めた。リズムが次第に不揃いになってくる。大きな揺れがくる、と彼は覚悟した。ここが山場だ。
――はたして、それはやってきた。
「ぅああああああっ」
彼女の内部が震える。締めつけてくる。
舌の奥を噛みながら、彼は下腹部に力を入れた。
「うぁっ」
すんでの差だった。彼女の振動を追いかけるように、彼は放った。腰の奥から崩れ、溶かされ、抜けるような快楽が駆け巡った。
二人はどっと倒れる。
息も絶え絶えに抜いて、青年は御坂の横に倒れた。
驚いたことに、彼女はすぐにこちらを向く。汗に下ろした髪が張りついていた。頬も桃色に染まっていて、目は涙に潤んでいる。満足そうに微笑んでいた。
「すごかった。こういうことするひとだったんだ」
「こういうこと?」
「うしろからしたり、激しくしたり。今まで優しかったじゃない」
「ごめん」
「いいのよ。良かったんだから」
御坂がキスをしてくる。
考えてみると、彼女が能動的にキスをしてきたのは初めてだった。
しばらく見つめあった後、御坂は言った。
「失恋したのよ、わたし」
「……知ってるよ。なんとなくは……」
それ以上、彼女は何も言わなかった。いろんな話はしたが、この話題だけは避けてきたのだ。
「どうしたら良いと思う?」
「……付き合わないか」
青年にしてみれば、それは数日前から考えていたことだった。ただ質問に対する返答としては不適切だったかもしれないとも自覚していた。
御坂は驚いた様子で、片方の髪をかき上げた。いつもの髪型だった。
「付き合うってどういうこと?」
「都市中に自慢のカノジョだって見せびらかして、生活する」
こどもみたい、と彼女は笑う。
「生活って――働いてるの?」
「一応。でも、もっとちゃんとしたのを見つけるよ」
青年の意図を精査するように、彼女はしばらく観察してきた。
「……言わなかったかしら、バレるとマズいんだって」
「言ってたかもしれない」
名前の知れた、学園都市第3位。
「スキャンダルになる?」
「そうじゃなくて……」
青年はそこに後悔とか、未練のようなものを見出した。彼女は今になってもまだ、失恋をしているのだ。この子の心を手放さない者がいる。相手はきっとこの学園都市に。彼は悔しくなってきた。体は抱いた。快感もある。しかし、それ以上でも以下でもないのかもしれない。愛情があると信じたいが、それ以上に未練が強いのかもしれなかった。
おれが先に出会っていればよかったのかな、とありえないことを思う。
「そしたら、出会ってないじゃない」
声に出ていたらしい。
「……そんなに良い奴だったの?」と体を起こしながら彼は尋ねた。
「ムカつく奴。でもそうね、良い奴ではあると思う」
彼女に覆い被さる。
「困ってるひとがいたら、絶対に見捨てない。どんな状況でも首を突っ込んでくる」
「そんなヒーローみたいな奴がいるのか」
嫉妬していた。そのくせ、下腹部が熱くなっている。
――おれはそうなれずに図体ばかりデカくなっちまった。
「――あっ」嬌声がはじまった。
・・・♪・・・
御坂が帰った後、将来のことを考えてみた。仕事に応募してみようと思ったのだ。今は、彼女の語ったようなヒーローではない。しかし、だからと言って、先日の未来像もまた捨てられないのだった。この二つは彼を少し混乱させていた。
腐っても学園都市の学生だ。明に暗にパイプはある。それを頼りに、メールを書いてみた。
次に、有名な求人サイトに登録して、適当なところに個人情報を送信してみたりした。
この都市で働く方法と、外で働く方法。両方選んだのは賭けだった。どちらが正解かは分からないから、当たった方にしようと決めた。
この後に及んで優柔不断だな、と思った。