※この作品はR-18です。

無自覚ECT   作:見送り全裸

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第四話(了)

 青年は、久しぶりに御坂美琴に連絡を取ってみることにした。

『いつもしてばかりだったろ。遊園地にでも行こう』

 ちょうど、アルバイトの伝手でチケットが2枚手に入ったところだった。

『いいわね』と返事がある。『行けるか分からないけれど、多分行けると思う』

『話したいことがあるんだ』

『なに?』

『会ったときに話すよ』

『ん』

『待ってみるよ』

 約束の日は数日後に決まった。

 それだけのやりとりだった。

 

・・・♪・・・

 

  学園都市の広大さと人口の多さで紛れているが、この街にも事件は起こる。普通に過ごしていても噂話や怪談、都市伝説の類には事欠かないし、神経異質に過ごせば、それらが実話だと耳にすることもある。

 大抵の場合、そういった話は人知れず解決する。

 というか、忘れ去られるといった方が近い。

 噂話や怪談、都市伝説というのは日々アップデートされていく。関係者ならいざ知らず、部外者はいつも新しい話題に飛びつきがちだ。

 その事件が誰によって解決されたのかなど知る由はない。

 こんな話も荒唐無稽だ――たとえば、事件とあらば必ずといって良いほど、中心になるような男子高校生がいる――などと。

 よっぽどの因縁か、執念があれば追いかける話ではない。

 

「おまえ、上条当麻だろう」

 青年はつい呼びかけてしまった。

 直後に反省したが、その様子を見せたくはなかった。

「そうだけど」

 彼は女の子と一緒に歩いていた。印象には残りそうになかった。この都市にはおかしな格好の奴が多すぎるため、仮に変な装いをしていたとしても”ふつう”にカウントされてしまうからだ。それにどんな素性だろうと、彼には関係のない話だ。

「なんでおれの名前を知ってるんだ?」

 彼は怪訝そうな表情で問いかけてくる。

「それなんだけどさ」青年は自分の髪を弄った。「聞いてたんだよな。髪型が似てるんだってさ。ツンツンの黒髪。おれの方が短いけど」

「聞いてたって、誰にだ?」

 警戒。彼はそばの女の子を背中で隠す。

 人混みの多い場所で良かった、と青年は思った。そうでなければ、興奮に叫んでいたところだった。

「――って名前、知ってるか?」青年は答えず、自分の言いたいこと言った。「おれの友人だ。ほとんど唯一のと言っても良い。アルバイトを紹介してくれたのも、金を工面してくれたのも、奴だ」

「聞いたことないな」

「だったら、そのままでいてくれ」

「――?」

「邪魔しないでやってくれってことだよ、ヒーロー」

「訳が、分からない」

「それでいい」

 青年は踵を返した。

 

 今日は服を買いに来ただけなのだ。就活用のスーツと、それからデート用の衣装と。

 それだけだというのに、黒髪でツンツンの奴を見かける度に気にしてしまったのは、友人がいなくなったからだ。

 ”爆弾ではない”何かを作っていた彼が、学園都市から姿を消した。それは単に裏に逃げただけかもしれないし、青年がそうするかもしれないように、都市の外に就活でもしたのかもしれない。

 『黒髪でツンツンの奴がいたら、挨拶しておいてくれ』それが彼からの最後のメッセージだった。

 意味は分からなかったが、義理はあった。

 友人は昔からそうなのだ。何かとトラブルに巻き込まれる。

 だから、今回もそうだと踏んで、絡んで来そうな男子に声をかけた――それだけだった。

 ――十分、不審者だけどな。

 青年はため息をつく。

 ――それにしても、ヒーロー、か。

 この街には一体何人のヒーローがいるんだろう、と青年は思った。

 確かに妙な事件は発生する場所だ。多発と言っても良いかもしれない。今もなお進行中のものが一体いくつあるのか、すでに解決されたものがどれだけあるのか、彼にはまるで分からない。

 不審者から庇って、女の子の前に立ちはだかるのも含めれば、相当な数に上るのではないだろうか。

 

・・・♪・・・

 

「――さんですよね?」

 遊園地前の広場に立っていた青年は、突然名前を呼ばれて振り返った。

 遊園地の広場だった。

 時計を見ると御坂美琴が来るまでには少し時間があった。

 あの少年もこういう気分だったのかな、と思った。覚えがないのに呼び止められると、まるで自分が悪いことでもしたかのようだ。

 黒髪ストレートの女子高生だった。白い花の髪飾りをつけている。

「佐天涙子と言います。御坂さんの友人です」

 ああこの子が、と青年は思った。御坂は交友関係について深くは話さなかったから、名前を聞くのははじめてだった。

 

「伝言役で来ました。”行けなくなった、ごめん”だそうです」

 あまりのことに、青年は少しの間、言葉を失った。

 そこらで騒ぐ声が遠くに聞こえた。

「……メッセージでも送ってくれれば良いのに」とかろうじて言う。

「携帯が壊れちゃったらしいです」

「――そんなテンプレな」

 そんなことが起こりうるのか? と青年は考えずにいられなかった。

 納得しきれない彼に、見かねたのか、佐天は付け加える。

「実は御坂さん、今事件に巻き込まれているんです」

「事件? なんの? 大丈夫なのか」

 矢継ぎ早に尋ねてしまうが、

「大丈夫ですよ」と断言されてしまう。「なんてったって、学園都市の第三位なんですから」

 トドメの言葉だった。

 学園都市の第三位。

 この街の七人の上位、超能力者(レベル5)の中でも、第三位。常盤台の超電磁砲(レールガン)。彼らの何名がヒーローなのかと想像してみれば、御坂は明らかにそちら側だった。誰かのために何かができて、ちゃんと解決もでき、ちゃんと帰ってくることのできる人物。

 今までずっと心の中に滞っていた壁が、今また見えた気がした。

 御坂美琴は、大丈夫。

 

 ――そこにおれの力は必要ない。

 

「……なんの話だったんですか?」

 野次馬だった。

「きみには、言わない」

「御坂さんが暗に話してたのって、あなたなんですね。楽しそうでしたよ」

 本当か、と言う声は自分でも不気味なほどに平坦だった。

「それから、楽しそうでした」

 胸が締めつけられるようになる。

「年齢の話をするつもりはありません。御坂さんの決めたことですから」責める口調ではなかった。「でも、あなたもどうなんだろうって思ってるなら、それはどうなんでしょうか。――いえ、これも年齢の話じゃなくて、ええと、あなたも今、何かに迷ってますよね?」

「……何の話だよ」

 不貞腐れた言い方になってしまった。

 彼女は人差し指を唇に当てて考える。

「ええと、ひとりの大人として?」

 自分が大人? 青年は困惑した。

 相対的に見れば、確かにそうかもしれない。しかし、まだ学生であることも確かだった。

 彼を置いて、佐天は続ける。

「わたしは友人として、御坂さんには幸せになってほしいんです。ちゃんと考えてあげてください」

 では、と言って、彼女は去ってしまう。

 

 しばらく呆気に取られて、気がつくと遊園地の入場券を買っていた。こんにちの女子高生はみんなああなのか? ひとりでポップコーンをつまみながら、ぶらつく。何を見るでもない。人混みを避けるだけだ。

 何かに迷っている、と彼女は言った。その通りだった。何に? 何もかもに、だ。御坂美琴と出会ってから、色んなことに疑問が湧いた。それらは解消されることはなく、彼はここまで頭の隅に押し除けながらやってきていた。

 彼女の傷を通じて、色んなものが分からなくなった。

 

 この街にはヒーローがいて、彼女はそいつに失恋した。おれは何をしていたのだろうか、とぼやく。観覧車は何も言わない。息苦しくなって、飛び出したくなった。窓に触れるが、開きそうになかった。

 

 夕景の学園都市が揺れている。

 燈がつきはじめるが、ここからではだいぶ遠い。

 

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