あなたのその顔が見たいから 作:スロット767
それは、いつものように血式少女隊がジェイルの探索を行っていた時の出来事だった。
旧寺院エリアの竹藪を、赤ずきんのハサミや白雪姫のポイズンボムで切り拓き、ちょっとした広場で一度休憩を取っていた一行。談笑する者、武器の手入れを行う者、ぐっすりと眠る者……死との距離が余りにも近いこの戦場において、皆ひと時の休息を思いのままに味わっていた、が。
「……!みんな!」
赤ずきんの喝にも似た一声で、緩んでいた気持ちを一様に引き締める。血式少女隊唯一の少年であるジャックは、耳を澄まして何かの接近に気づく。
「来るよ……!みんな構えて!」
不規則な足音と竹が折れる音が、広場を囲うように鳴り響く。
「グルルァ!」
「キシャアァーッ!」
「ヴィァァァァ!」
各自ポジションに着いたのも束の間、あっという間にジャック達はメルヒェンの群れに取り囲まれた。先程までの和やかな雰囲気から一転、命懸けの乱戦が始まろうとしていた。
「シンデレラ!」
「任されましたわ!」
赤ずきんの合図で、シンデレラが先陣を切る。持ち前の俊足と踊るような徒手空拳で、バッタバッタとメルヒェンを薙ぎ倒していく。
「よし、あたし達も続くよ!親指、眠り姫、ジャック、後方支援任せた!」
「ええ、任せなさい!」
メルヒェン達が作った円の中心に三人が残り、他の血式少女でそれを囲むように陣形を組む。アリスの大剣が血飛沫を撒き散らし、赤ずきんのハサミが数匹まとめて二等分したかと思えば、白雪姫の爆弾とかぐや姫の銃が火薬の香りと共にメルヒェンを葬り去り、撃ち漏らしを親指姫の魔法と眠り姫の弓矢が貫く。
メルヒェンからすれば、数の上では圧倒的に有利な状況。しかし血式少女隊の息のあったコンビネーションの前に、一匹また一匹と、地に伏して行く。
「みんな!穢れは大丈夫!?」
「うん、まだまだいけるよ!」
「大丈夫です〜」
血式少女は強大な力を持つ反面、精神的な苦痛などをきっかけに暴走する危険性を持ち合わせている。それに対処できるのは血式少年であるジャックの血液のみで、また暴走してしまえば命を絶たせる以外の対処が現状存在しないこともあり、ジャックは自らの存在が彼女達の命綱という事を肝に銘じ、人一倍の注意を払っていた。しかし、脅威はいつの時も、理不尽に襲ってくるものだ。
「そっか、危なくなったらすぐ言ってね!」
「……!ジャック後ろ!」
「え……?」
アリスの少し裏返った声で、全員の視線がジャックへと向かう。戦闘の中で親指姫と眠り姫からも少し離れてしまった彼の背後には、面と着物に身を包み、以上に肥大化した左手を持つメルヒェンが立っていた。
全員のちょっとした隙を突き、まんまとターゲットに狙いを定めたそれは、右手に持った薙刀を薄暗い空に高く振り上げた。
「ジャック……!」「ジャック!」「ジャック!?」「ジャックさん!」「……ジャック!」「ジャックさん!?」
足を動かす猶予すら無く、キラリと刃先を光らせた薙刀が振り下ろされる。
「……!ジャックさん!!」
一番遠い所にいたシンデレラは、他の六人よりも少し遅れて事態に気が付いた。世界がスローモーションに見え、彼女自身も驚くほど冷静に状況を分析し始める。
(ここからジャックさんまでは150メートル程、わたくしの足でも流石に……)
その時、彼女は不意に元繁華街エリアのナイトメアを倒した時の事を思い出す。ナイトメアの体で潰れそうになった自分の宝物を、危険を顧みず守ってくれた彼の事を。
(でもあの時イヤリングが壊れていたら……きっとわたくし……あの時のわたくしの大切なものはこれで……じゃあ今は……)
自分と彼の立場が逆なら、彼はどうするだろう。それを考えた次の瞬間に、目はきっと見開かれ、足は地面を迷い無く蹴り出していた。
「ジャックさん、今助けますわ!」
足を引きちぎれるくらいにしならせ、走るというよりも跳ぶように彼の元へ向かう。風のように颯爽と、時間にして1秒も無かった。
「ヴァァァァッ!」
「……っ……ぁ……」
悍ましい鳴き声と共に、薙刀は振り下ろされた。真っ赤な返り血がメルヒェンを染め、悲鳴すら上げられずに肢体を力なく崩れさせたのは……シンデレラだった。
***
「……っ、まぶし……」
寝起きのぼやけた視界が、少し青みがかった照明を嫌う。それと鼻につく清潔な香りとで、ここが自身の部屋ではない事を知る。
「ここは……救護室ですの……?っ……」
そう言って、起き上がろうと左手を体の右側に回した瞬間。背中を引き裂かれたような痛みが走り、ごろんと再び仰向けになる。
(そうでした……わたくしはジャックさんを護ろうとして……)
ジャックを突き飛ばし、無防備な背中にメルヒェンの一太刀を食らった瞬間の激痛。その記憶が蘇り、脂汗が滲み出てくる。右腕に繋がれた点滴からもかなりの重症だった事が察せられ、気が遠くなる。
あの後みんなが自分を運んでくれたのだろうか、そもそもあの大群を相手に皆は無事だったのだろうか。天井相手ににらめっこしているだけでは分からない。一刻も早く、その二つが知りたかった。
「あ、あの!誰かいらっしゃいませんかしら!?」
傷口が傷まない程度に叫ぶと、カツカツと硬く無機質な足音が迫り、カーテンがゆっくりと開かれた。
「……良かった、目を覚まして」
「視子さん……」
普段はポーカーフェイスで、クールな印象を中々崩さない彼女が、満面の笑みと潤んだ瞳でこちらを見ている。そして頭を優しく数回撫でられると、無意味にドキドキしてしまい、布団で顔を隠す。
「は、恥ずかしいですわ……」
「あ、ごめんなさい……つい嬉しくて……」
点滴の針を抜きながら、視子が申し訳なさそうに言う。
「これでよし……そうだ、彼にも顔を見せてあげて?」
「彼?」
「ええ、昨日までずっとついててくれたのよ?呼んでくるわね」
何故か少し楽しそうに笑う視子。彼と言われると一人しか心当たりは無いが、今その彼と顔を合わせて、平静を保っていられる自信はなかった。
「待たせたわね……って、あちょっと!?」
「シンデレラ!」
「ひゃ、ひゃい!?」
救護室のドアが開かれるや否や、目にも止まらぬスピードでベッドに向かってきたジャック。まずは心の準備をと思っていたシンデレラにはその猶予は与えられず、寝転がっているので後ずさりもできない。
「良かった……生きていてくれて本当に……良かった……」
「あっ……ん……ジャックさん……」
肩を抱かれ枕元に顔をうずめられると、枕越しに彼の涙が伝わってくる。心臓はこの状況に、慌てて鼓動を早める。少し横に目線を切ると、何やら嬉しそうな視子が目に入り、かあっと身体が熱くなる。
「ジャ、ジャックさん……近いですわ……」
「あっ、ご、ごめん!?」
シンデレラが掠れて消え入るような声で言うと、パッとジャックが離れる。熟れたトマトのように赤くなり、ばつが悪そうに動かされる彼の顔を、つい目で追ってしまう。
「また君の元気な顔を見れたのが嬉しくて、つい……その怪我は、僕のせいだから……」
「そんな……!ジャックさんのせいではありませんわ、わたくしがもっと強ければ……あっ、ジャックさん達に、お怪我はありませんでしたの?」
手負の自分を庇ったせいで、誰かが同じように負傷していたらと思うと、シンデレラは気が気でなかった。ネガティブな考えが頭を支配する。
「僕達は大丈夫、みんなで君を守って、ここに帰ってきたから……」
「……ありがとうございます、ジャックさん……」
「シンデレラ……」
お互いの目を見つめると、周りの音が何も聞こえなくなるような感覚。さっきまであった気恥ずかしさが、音もなく消えて行く。
「ふふっ、じゃあ私は用事があるから留守にするわ。二人とも仲良くね」
「え?視子さん?」
「あ、そうだシンデレラ。背中の傷が開いちゃうかもしれないから、しばらくはあんまり激しく動いちゃダメよ?」
「は、はい……?」
小さく手を振りながら部屋を出て行く視子。去り際に言われた一言で、シンデレラは思わず背中を触り、貼られたガーゼの柔らかな感触を確かめた。しかしそれ以上に、視子が退出したその瞬間から一変した部屋の空気感が気になって仕方がない。
(二人っきり……ですのよね……)
そう考えてしまうと、さっきの意図しない抱擁すら別の意味を持ってしまう気がした。こんなに心臓がこんなにバクバクと動いたら、傷口に悪いのではないかとも思ってしまう。
「あの……!」「あのさ……!」
勇気を出してひり出した声が二重に聞こえる。
「あ……ジャックさんからどうぞ……?」
「いやいや、シンデレラから……」
「いーえいえ、お先にどうぞ!」
「いやー、僕よりシンデレラの方がいいと思うなぁ!?」
意味のない譲り合いのラリーが数回続き、なんだかおかしくなって。
「ぷっ、ふふふふっ……」
「ふっ……あははは!」
二人同時に吹き出してしまった。
「ふふ…………ねえジャックさん?」
「あはは……ん?何かな?」
「わたくし、何であんな無茶なマネをしたと思います?」
「えっと…………」
笑って出た涙をちょちょっと拭い、ほんの少しだけ鎮痛な面持ちでジャックに問いかける。本当はこの和やかな空気のまま、適当に話を切り上げても良かったのだろうけど、彼にそんなぞんざいな対応は出来なかった。どう思われても構わないけれど、思ってもらえないままは嫌だから。
「ジャックさん、以前わたくしのイヤリングを守ってくれたでしょう?」
耳に輝くガラスの靴をちらっと見せる。その時は今と逆。貧血で倒れたジャックの事を、シンデレラは目覚めるまでずっと看病していた。
「この間の事だよね、繁華街エリアの……」
「はい、これはわたくしにとって命の次くらいに大切なものでして……それを危険を冒してまで守ってくれたあなたに……」
そこまで言って、言葉に詰まる。あの時は彼があまり理解できていないうちに退散してしまったが、今日は逃げられない。逃げるとしたらあっちの方だ。
「いつか必ず恩返ししたいって、そう思っていましたの。なあなあで終わりにしたくありませんでしたから……」
「そっか……嬉しいよ、シンデレラ。でも……」
「でも……?」
ジャックは普段鈍感で、弱々しい所がある。でも、時折凄く逞しい部分を見せることもあって、その度にシンデレラは、やっぱり男の子なんだと思っていた。今目の前にいる彼は、彼女からすれば少し怖いくらいに、怒りや悲しみといった感情を湛えているように見えて、その後ろでカシャンと音を立てた器具と共に、自身を問い詰めているようだった。
「僕が言えた事じゃ無いかもしれないけど、もうあんな事はやめて欲しい……な」
声色以上に、彼の仕草や瞳から、彼が自分を看病してくれていたこの数日間の想いが伝わってくるような気がした。そして怒られているのだけれど、本気で心配してくれているのが嬉しくて、シンデレラは思わず顔が綻んだ。
「シ、シンデレラ?どうしたのそんなに笑って……」
「ご、ごめんなさい……そうですわよね、死んでしまったら、元も子もありませんもの」
「うん、それにアリスや赤ずきんさん、みんなが悲しむと思うんだ。もちろん……僕も……」
ジャックは拳を強く握り締め、何処かに思いを馳せるように言った。シンデレラも仲間の顔を脳裏に浮かばせ、口を歪ませる。
「僕もつい無茶して、怒られる事あったからさ……僕も気を付けるから、シンデレラも……」
「ジャックさん」
「な、何?」
「わたくしがあんな無茶したの、本当に恩返しだけだと思いますか?」
ジャックの言葉を遮って、問いかけた。彼も声のトーンから真剣な話だと察したみたいだけれど、言葉の意図が掴めないと言った顔をしていた。
「えっと……」
寝転がった彼女から、ジャックの顔はちょうど逆光で暗く見えた。今から自分の言う事に、彼はどのように反応するだろうか。顔があまり見えないのは、彼女にとっては踏み切りやすく好都合だった。
「このイヤリングと同じ……ううん、それよりも大切な人だから、ですわ」
ジャックは呆気に取られたような表情を見せた後、すぐにそれがどういった意味なのかを把握して、見る間に挙動不審になって行く。二人きりの部屋に、若々しい胸の鼓動だけが響き渡った。
「ジャックさん、貴方さっき、わたくしの怪我は僕のせいだって、仰いましたよね?」
ジャックがこくりと首を縦に振る。
「ええ…………その償いとして、わたくしの願いを一つ聞いてくれませんこと?」
彼は優しいから、こういった言い方をすれば断る事はない。その優しさにつけ込んで、己の欲望を満たそうとしている自分の事を、悪い女だと心の中で自嘲した。
目論見通り、ジャックは僕に出来る事ならとすぐに言った。思い通りにことが進めば進むほど、身体と心はより彼を利用する方法を求めて行く。
「……貴方にもう一度、さっきみたいに抱きしめて欲しいんですの……構い……ませんか……?」
少し戸惑いながらも、ゆっくりとジャックの手と身体がシンデレラに向かって伸びる。震えるその手を優しく取り、笑顔で「お願いします」と彼女は囁いた。
肩を腕全体で覆われ、彼の呼吸がはっきりと聞こえる程に接近する。しかし先程よりも腰が引け、密着を避けていた彼の上半身を、空いた両手で無理矢理自身の身体に押し当てた。
「シ、シンデレラ……」
「ん……ふぅ……」
ずっと背中に感じていた小さな痛みが、触れた瞬間に引いて行く。多幸感に押し潰されてしまう前に、シンデレラは再び彼を利用する。
「キス……してくださいまし……」
「え!?あ…………」
瞳を閉じ、鮮やかさを取り戻してきた唇を見せる。心臓の鼓動が、数枚の布を貫いて伝わる。次第にバラバラだった鼓動の周期がほぼ重なるくらいの時間をかけて、二人は静寂でコーティングされて行った。
(……じれったいですわね……)
緊張と人の温もりによって、今にも汗をかき始めそうなほどに身体が熱い。視界は未だ暗闇だが、ジャックの表情は何となく分かった。
埒が開かないと踏んだシンデレラは、彼の腰辺りに置いていた手をするすると上部に移動させ、頭を捕える。
「え……シンデレラ……?」
「ジャックさん……んっ……」
「んんっ……!?ぅ……」
無理矢理に自分の唇へ向かわせる時、彼が何の抵抗もしなかった事を喜んだのは、二人の唾液が混ざり始めた頃だった。シンデレラは唇でジャックの前歯を啄み、そこを支点に舌を挿入して行く。
「んはぁ……れるっ……ちゅぱ……」
「むぐ……ぅぅ……ぅぁ……ふぅっう……」
彼の舌を衛星のようにぐるぐると舐め、味わう。相手の息づかいを慎重に確かめながら、間違いなく彼もまた興奮しているのだと分かったその時、シンデレラは己の全身先の先まで快感が走って行くのを感じた。
着飾ったり、部屋を掃除したり。自分の生活の中での喜びであったそんな事、全て消し去ってしまうほどに、それは強烈で鮮烈かつ甘美だった。続ければもう元に戻れないことを頭では察していても、その頭が溶けるように快感は浸食してくる。次第に自制も効かなくなり、舌同士のダンスによってはじき出された唾液が、シンデレラの顔と首周りを汚して行く。
「じゅるぅ……ぷはぁ、ごくっ……」
「ふぁ……はぁ……はぁ……あぁ……」
永遠とも思えた長い口付けが終わり、お互いに目と目を見合わせる。普段はお互いに照れくささを感じて顔をそらしてしまうが、今は何か、縄張りを争う野生動物のように鬼気迫る空気が二人に流れていた。
「シン……デレラ……」
「…………ぅ……」
再びシンデレラが目を閉じ、唾液でさらに艶を増した唇をこれ見よがしに誇示する。それを目の当たりにしたジャックは目を倍ほどに見開き、聞こえるほどの大きさで喉をゴクリと鳴らした。その音が彼女の耳に届き、成功を確信して微笑んだ。
「はぁ……シンデレラ…………!」
「んむぅ……ぺろ…………ちゅむっ……」
ジャックはケダモノが餌をむさぼるような勢いで、唇を奪った。シンデレラもすぐにあの熱烈な舌での愛撫を再開し、歯、歯茎、舌下……口内のありとあらゆる部分を、唾液という絵の具で染め上げるかのように舐め回して行く。彼は時折あらぬ場所に当たった舌にえづきながらも、興奮を抑えきれないといった感じで口を離そうとは決してしない。
ジャックが、自分という女に対して他全てを忘れるほど夢中になっている。その事実がシンデレラをさらに興奮させ、責めを苛烈なものへと変化させる。だが、口だけならば天井は見えていた。
「れぁ……ふふっ……」
「っあ……シンデレ……ああぁぁっ!?」
ズボンの上からでも怒張していることが容易に分かるジャックのそれを、シンデレラの柔らかな手が揉みしだく。それだけで、彼は声変わり前のような嬌声を上げ、熱っぽく蕩けていた顔は氷水で締められた麺のように様変わりする。
「っぁあ……シンデレラ…………それは……ダメ…………!」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「あ……あ……」
瞬き一つせず、ジャックのファスナーを手こずりながらも下したシンデレラ。何の抵抗もないダメという言葉には微塵の説得力もなく、下着の隙間から、ジャックの肉棒は冷たく白く細い指に包まれた。
「かあっ…………はっ、はっ……ひいっ!?やっ、だめぇ……!」
(ジャックさん……可愛い……)
キスと簡単に言うには濃密かつ淫靡過ぎる口付けにより、尿道からは既に竿全体を覆うほどのカウパーが射出されていた。彼女はそれを潤滑油代わりに、悲鳴を上げる持ち主の願いを聞き入れることなく手淫を始めた。もちろん彼女とて経験がある訳ではないが、二十年弱の人生で聞きかじった知識を頼りに、万全ではない身体を使って精一杯の快楽を、自分ではない人に与えようと必死になっていた。
(これ……どんどん熱くなって……ジャックさんも気持ちよさそうに……)
「あっ……そこ……いいいぃっ!?」
クチュクチュと淫らな水音が救護室に響く度に、竿はより硬さと熱を増してゆく。その雄々しい部分とは裏腹に、女々しい嬌声と小動物のように縮こまるジャックの姿を見て、シンデレラは被虐心にも似た感情の芽生えを自覚する。
「シン……っあ……デ……だ、だめぇっ……!」
(もっと……もっとわたくしの手で淫れて……!)
シーツや布団が誤魔化せないほど汚れていくのもお構い無しに、彼女は手淫のスピードをさらに上げた。全ては彼が悶え、果てるその瞬間を感じたいが為。彼の上げる吐息、熱、声……そのどれもがシンデレラを昂らせ、指一本触れていない彼女の秘部すらも濡らしてゆく。
「も……もうだ……めぇ……!」
「はぁっ、はぁっ……ジャックさん、いつでも……好きなだけ……出してくださいまし……!」
「あっ、ああっ……!」
せき止められていた川が決壊するかの如く、シンデレラの腹部から首元にまで勢いよく白濁の液体が流れ込む。どくんと脈打った肉棒はなおも餌を求める魚のように跳ね、白く彼女を染めて行く。
ゼエゼエと荒い息を漏らすジャックの顔と自らに放出された精液を交互に見やり、湧き上がる欲望。もっと彼が快感に震える姿を見たい。もっと、もっと彼が自分の手で壊れていくのが見たい。そう自覚してしまえば、行動は早かった。それまで彼女の上に体を預けていたジャックを仰向けにさせ、自らは腹部の精液を右人差し指で掬ってこれ見よがしに舐めたあと、シーツを滑って彼の下腹部に目線を持ってくる。
「ちゅぱ……ん……苦いですわ……」
「え……シンデレラ……?何を……」
「でも、幸せですわ……わたくし。これを口の中に直接注がれたら……ああっ、想像しただけで……!」
「何言って……」
口では嫌悪していても、瞳の中の僅かな期待をシンデレラは見逃さなかった。フッと軽く笑いながら、彼の肉棒を再び握る。
「はむっ……ちゅ……れぅ……しゅ……」
「あっ、いぎ……うぁぁっ……!」
一仕事終え萎え切ってきたそれを勢いよく咥え、舌で丹念にカリ首から舐め回す。鈴口に付着していた精液も余さず舐め取り、唾液で竿を包んでいっぱいにすれば、次第に膨れ上がって熱を帯びてくる。
(凄い……またジャックさんのが元気に……)
「はっ、はっ、はっ……あ……くぁ……」
(しかも……気持ちよさそう……ならこうして……)
起き上がる一物の裏筋を指先でツーっとなぞると、彼が少女のように高い声で鳴く。それが面白くて、何度も何度も繰り返す。
「あっ、ああ……ひゃんっ!だ、だめだよ……それ……ああっ!」
「ん……じゅぽっ、ぐぼっ、じゅる……」
「あひ……!うぁ……そんなの舐めないで……」
ほんの少しの刺激に翻弄されるジャックをたっぷりと堪能し、本格的な口淫が始まる。ビンビンに腫れ上がった肉棒はシンデレラの口内をいっぱいにし、彼女が根元まで咥え込めば先端は喉を埋めそうな程。彼女は時折えずきながら、それでも彼を二度目の射精に導こうと、唇と舌で竿に懸命の奉仕をする。
「ふうっ、ふぅっ……くぁ……」
「じゅるる……ずぞぉっ、ちゅる……」
(ジャックさんの……大っきくて、硬くて、逞しい……)
(シンデレラの……絶対こんなのダメなのに……気持ち良すぎるよ……!)
ジャックが初めての性の悦楽の虜となっていたのと同時に、シンデレラもまた、初めてのフェラチオによって、彼の男根の虜になっていた。ほんの十数分前までは単なる友人だった二人の関係は、簡単に性的快楽を共有する一組の番に変化していた。
唇が竿を優しくサンドし、同時に艶かしい舌が鈴口から根元まで、余すとこなくねぶり切る。誰に教わるでもない行為だが、それは初めてにしては、やる側もやられる側にとっても、上手すぎる口淫。簡単には果てるまいとするジャックの我慢も虚しく、性感帯を的確かつダイナミックに責められてしまえば、女性経験のない彼が即座に力尽きるのは自明の理であった。
「だ……め……シンデレラ!」
「じゅ……んっ、んんんっっ!」
思わずシンデレラの頭を押さえつけ、何か入れ物のように彼女を扱う。舌の上で男根は跳ね、熱とともに夥しい量の精液を叩き込むと、彼女の口の端から一筋、白い液が漏れ出た。
「ごほっ、ん……ごくっ、こくっ……ん"ん……ほぁ……」
「いっ……!くぅぁ……はぁ、はぁ……」
口に溜まった精液を一気に飲み干し、上目遣いにジャックの顔を覗く。
「ん……ちゅ……れろ……」
「……!」
漏れ出た精も指でこそぎ、決して肉棒から口を離すことなく舐め取る。その一連の動作は、ちょうど火照り切った二人の体温を差し引いてもなお淫らそのものと言える程に彼の情欲を掻き立て、衝動的な行動に突き動かすものだった。
「はぁっ、はっ……シンデレラ……!」
「……ん……ひゃあ!?」
唐突にジャックは起き上がり、その勢いでシンデレラは彼に膝枕される格好となった。二度目のキスと同じ様に、もうジャックに正気は残されていなかった。
「んむっ……でゅっ……じゅば……じゅるぞ……」
「はむ……ちゅ……しゅろ……ひじゅるぅ……」
前二回とは比べものにならない程に濃厚な口付けに、ジャックは顔の下半分が溶けてしまうのでないかと思った。それでも、この甘く濃密な果実を味わう事をやめられない。彼女の身体を包んでいた腕にも、自然と力が入る、その時だった。
「っ!痛っ……!」
「んぅっ……え?」
シンデレラが、彼を強引に引き剥がした。あまりに突然の事に混乱するジャックだったが、彼女が背中を抑えているのを見て、全てを察した。
『背中の傷が開いちゃうかもしれないから、しばらくはあんまり激しく動いちゃダメよ?』
ここを出て行く直前の視子の言葉が、脳内にリフレインする。強く押さえ付けた柔らかな感触が、呪いのように侵食してくる。
“僕が彼女を傷つけた"
「あ……ああっ……!」
「いたた……ジャックさん?あっ、ちょっと!?」
青ざめた表情で、彼は服のヨレも気にせずにベッドから飛び降り、逃げるように救護室を後にした。
「ジャックさん!ジャックさん!ええ……?」
彼女の叫びも虚しく、甘美な時間は唐突に終わりを告げたのだった。
蛍光灯が唸りをあげて、瞬きするように一瞬だけ止まった。