あなたのその顔が見たいから 作:スロット767
「それで、本当にもう大丈夫なんだよね?背中」
「ええ、今日からは休んでいた分も取り返すくらいの大立ち回りですわ!おーっほっほっほ!」
シンデレラが大怪我を負ってから、一月程の時が流れた。一時は命の危機すらあったことを思えば、驚異的な回復スピードであり、これも血式少女という特異な出自の成せる技か……という大人達の思惑とは裏腹に、仲間の復帰を口々に祝う血式少女隊の面々。
「でも良かった、その……やっぱり……仲間だし……」
「ん……そう思う……」
「はい、白雪も地味同盟の仲間としては、シンデレラさんが元気になって嬉しいです!ね?ジャックさん?」
「え?あ……うん、そうだね、僕も嬉しいよ……」
「……ジャック?」
幼馴染のアリスの声に対しても、ジャックは曖昧な返事だけを返した。
「それじゃ、今日も探索に出発だ!」
彼女の僅かな疑念も、赤ずきんの元気いっぱいな号令で掻き消された。
***
避けられている。ベッドの上で去り行く彼を見送ることしかできなかったあの日から、彼が一人で会いに来ることはなかった。アリスや赤ずきん達と一緒の時も、二言話せば良い方。多少不自然になってでも顔を見ようとすれば、そっぽを向いてしまう。
(やっぱり、わたくしがあんな真似をしたから……?)
シンデレラの脳裏に焼き付いて離れないのは、ジャックを二度吐精に導いたあのひと時。その瞬間こそ甘美な熱に包まれ至福そのものであったが、彼の逃亡によって冷えた後は呪いに変わった。
(ジャックさんに責任があるような言い方をして、その上それにつけ込んでワガママ言って……ああっ、わたくしは何て事を!そもそもわたくしみたいな灰かぶりに、お、お…………大切な所を触られて嬉しいはずがありませんわ……その上口で咥えるなんて……ジャックさんも嫌がっていましたし、あの時は本当にどうかしてましたわ……)
ネガティブな彼女の性分と相まって、次第に彼女自身も彼を避けるようになっていった。あの時の粘ついた熱さと、脳に走った多幸感は消えないままに……
***
なんで逃げたんだろう。あの日からジャックは、それが呪いのように頭を離れない。彼女の事を嫌いになった訳では無いのに、アリスや赤ずきんに着いて行くことでしか会いに行けず、まともに目すら合わせられない。
(シンデレラを乱暴に扱ったのは、僕だ……)
口付けを交わしながら、思わず力が入った手。彼女が大怪我を負ったのは自分のせいなのに、その傷口に塩を塗るような真似を、ただ自分が快楽を得たいが為にしてしまった。身体中が凍るほどの寒気を感じ、気付けば自室のベッドの上に逃げ帰っていた。
(シンデレラは僕を命懸けで守ってくれて……僕がもっと強かったらあんな怪我せずに済んだのに……キスされたり、その……あそこ触られた時はびっくりしたけど、僕も途中からは夢中になってたし……それにしてもシンデレラ、あんなに積極的に来るって事は……いや、たとえ好きな人だったとしても、怪我してる人を労われない奴なんて、きっと嫌いになるよな、はあ……僕はなんて最低な奴なんだ……)
シンデレラ程ではないにせよ、彼もまたネガティブな思考に陥りがち。とことん自分の情けなさに浸りたかった彼の気持ちとは裏腹に、時間が経っても体が覚えているのは、彼女を痛がらせた時の右手の柔らかくも嫌な感触では無く、彼女の接吻と、手と口による二度の射精の絶頂だった。
***
「♪〜♪〜♪」
上機嫌な鼻歌をbgmに、シャッシャッという箒と地面が擦れる音がリズミカルに旋律を奏でる。長い青髪を靡かせながら、シンデレラが掃除をしていた。
どんなに辛かったり、悲しかったり、逆に浮き足立つような嬉しいことがあっても、こうして掃除をしている時間だけは全てから切り離された、正に自分だけの時間。埃っぽい床と共に自らの心までもが綺麗になって行くかのような、特別な気持ちになれるこの時間。たとえ彼女がやらなくても、黎明の職員が自室以外は勝手に掃除をしてくれるのだが……血式少女達が暮らすこのスペースだけでもと大人達に懇請したのは、それを失いたくなかったからだ。
順調に掃除を進め、ドアの前を箒で掃いていた、その時だった。
「♪〜♪〜〜〜きゃっ!?」
「えっ!?」
突然ドアが開き、シンデレラは箒を抱き抱えながら後ろに倒れ込む。
「ひゃう……!」
「危ない!」
ドシンという大きく鈍い音が、薄暗い廊下に響いた。
「痛た……あれ?ジャックさん?どこですの?」
右左と見回しても、彼の姿は無い。まさかと思い、恐る恐る下を覗く。
「むぐ……むぐぐ……」
「へっ!?うわぁぁぁっ!?だ、大丈夫ですかジャックさん!?」
「あ、あはは……平気だよ……」
自分の下敷きになっていたにもかかわらず、崩れた髪型で必死に笑う彼。女とはいえ、人一人に勢いよくのしかかられたのだから、きっとかなりの衝撃があった筈だ、なのに。まるで平気そうな顔をして、なんならシンデレラの心配すらしている。その笑顔に、出来れば会いたくないなと思っていた事さえも炙り出されたような気がして、心がチクチクと痛む。
彼は、いつもそうやって自分を後回しにする。本当は血式少女よりも弱いのに、メルヒェンやナイトメアの攻撃から彼女達を庇い気絶する事や、危険そうなトラップに対して、自ら囮になると言い出すのを皆で必死に止めるのは日常茶飯事。死と隣り合わせの毎日で、彼に染み付いた歪んだ自己犠牲は簡単に顕となる。
「っしょっと……シンデレラの方こそ、怪我はない?」
「…………もっと…………まし…………」
「え?」
服が汚れるのも構わず、地べたに座り込んだシンデレラの一言を、ジャックは何の気なしに聞き返した。
「もっと自分を大事にしてくださいまし!!」
「ええっ!?」
「いっつもそうですわ!何でもかんでも僕のせいだ僕が悪いって全部抱え込もうとして!あなたが居なくなったら、あなたが……居なくなったら…………」
「わっ!?な、泣かないでよ……」
彼女の爆発のような感情の発露は、彼との一月の空白を埋めるかのような勢いで、黎明のそう厚くない壁では止めることはできなった。
「なになに……?そんな騒いで……ああ……」
「騒がしいです~静かにしてくださ……お邪魔しました~」
「赤ずきんさん!?かぐや姫!?」
二人は個室から顔と僅かな上体だけでこちらを見ると、多くを語らず再びドアが閉まる。慌てるジャックと、ぺたりと座り込んですすり泣くシンデレラ。あの表情は何かあらぬ勘違いをされた顔だ、彼は数秒頭を抱え、彼女に声を掛ける。
「シンデレラ、あのさ……」
「ぐすっ……え?あ、はい……」
「落ち着くまで、僕の部屋で休む?」
***
落ち着ける訳がない。せめて自分の部屋ならまだしも、少し皺と乱れのあるベッドシーツが、心にも皺を作るように働きかける。
(なんて鈍感な人なんでしょうか……いやこれはむしろ大胆……?)
軋む椅子の上で腿と手をすり合わせながら、同じ作りなのに住む人でここまで異なるのかと本来なら驚嘆しているであろう部屋を見回す。もちろん細かい家具や装飾のチェックなどが出来るはずもなく、彼女の脳が理解している情報は色と大きさ位のものであった。
「おまたせ……といっても、大したものはないけど……」
「い、いえそんな……」
ジャックは小さな器に、クッキーのような個包装の菓子を三つ載せて持ってきた。きっと大人達の言う、平和だった頃の世界では子供のお菓子としても力不足だったのだろうが、この地下監獄では多少の無理難題ならば聞いてもらえる程の価値を持つのだから、この三匹は幸せな一生といえる。
「……大したものですわよね、これ……」
「この間の探索で拾ったんだ、僕一人で食べるのもなんだか悪いし……」
「そうですの……」
シンデレラはそれへ無意識に手を伸ばし、包装を解いてそっと口へ運ぶ。
「美味しい……!」
滅多に訪れることのない甘い味と香りに、舌と鼻腔が喜びの舞を踊り始める。ついさっきまで涙が染めていた顔も、思わずほころんで行く。
「よかった、やっと笑ってくれた」
「え……」
「シンデレラ、今更だけど……ごめん」
そう言って、彼は深く頭を下げた。驚きがお菓子の粉っぽさと相まって、少しだけのどを詰まらせて咳込む。
「ん……けほっ、けほ……」
「だ、大丈夫?」
「え、ええ、喉にちょっと引っ掛かっただけですわ、でも、ごめんというのは……?」
シンデレラが聞くと、ジャックはより沈痛な面持ちに変わる。むしろ謝らなければならないのは自分の方だと、合わせて彼女も悲壮感を漂わせる。
「その、この間の……救護室で……」
「あ、ああはい、救護室の事ですわね……ええ……」
今となっては最早白昼夢だったのではないかと思えるほどに現実感が無く、はっきりと意識したが最後、二人の顔は朱に染まる。
「あの時……僕は君を無理やり強くして……その、背中の傷のせいで絶対安静だって事は知ってたのに、乱暴な真似をして君を痛がらせて……本当にごめん!」
「…………」
終わった、負けた、と彼女は思った。元はと言えば自分が始めた事なのに、彼に罪悪感を押し付けるような真似をしてしまった上、先に謝る事すら出来なかった。深い後悔と自責の念が、自分の心を飛び出し、世界中を暗く塗り潰していくように思えた。あの日彼の見舞いを穏当のままに終わらせられていれば、今こうして自分が、そして何よりも彼が苦しむ事は無かったのに、今この時間も、単なる友人として話せていたかもしれないのに。
「さっきも、もっと自分を大切にって怒られちゃったけど……そうだよね、僕はすぐに周りの事というか……自分の事すらも見えなくなっちゃう時があって、みんなに心配かけちゃってるから、あの時も夢中で君の怪我の事が見えなくなって、取り返しのつかない事になってたかもしれないよね……」
彼の一言一言に、彼女は頭をガツンと殴られるような衝撃を受ける。また、彼に抱え込ませようとしている。それは彼自身の性格もあるだろうが、結果的にはあの時みたいに、彼を自分の都合の良いように誘導しているような気がして、この世で今一番醜い存在は自分だと、自信を持って言えた。
「だから、その……許してくれないかも知れないけど、これから君の言う通り、もっと自分の事も、周りの事も大切にできるよう頑張るからさ、前みたいにまた仲良くできれば嬉しいなって……思うんだ。シンデレラの事は……大切な仲間、だからさ……」
言いづらそうに仲間と言った事など、最早どうでもよかった。早く自分から謝って、彼の重荷を下ろしてやれなかった事を思えば、今すぐ魔法のように消えてしまいたかった。でも、どんなに願っても甘い香りと味が引かない。
「……ジャックさんは、わたくしの事、好きですかしら?」
「え?あ……うん、好き……だよ」
「お嫁に貰いたいくらい?」
「およっ……!?」
分かりやすく動揺した彼に、これは遊びやおふざけでは無いのだと目線を送る。この後に及んでも、まだ彼を試すような事をするのかと、自分で自分を叱りたかった。
「君さえ……良ければ……」
嘘を言っているようには、見えなかった。
「そう……ですのね……」
きっと、こう言ってくれた事を一生噛み締めながら生きて行くのだと、そう思った。彼に今抱きついて、『よろしくお願いいたしますわ』とか言ってしまえば良いのだろう。しかし、自分のした事にけじめを付けられない自分など、彼を不幸にさせてしまうだけだ。遅いかもしれないけれど、一言謝って、二人を終わらせよう、そう思い口を開こうとした、その時だった。
「あのさ……シンデレラも、僕に何か言いたい事があったんじゃないかな?」
「えっ?」
「シンデレラ、何だか思い詰めた感じの顔してたから……何かあるなら、僕に相談してくれないかな?あ、でも……力になれるかは分かんないけど……それでも、僕に出来る限りの事はするからさ」
彼女の手袋の中は、ぐっしょりと濡れていた。
「ジャックさん……貴方に、謝らなければいけない事がありますの」
彼は、何も発さずにこくりと一回、確かに頷いた。
「この間の救護室で……わたくしはジャックさんが断らない、いや断れないのを知ってて、貴方の気持ちも考えずに……辱めを与えてしまいました……謝って済む事ではありませんけれど、本当に……申し訳ありませんでしたわ……」
溢れる涙も拭かず、床に頭を着ける。これで元通りなんて贅沢な事は言えないけれど、彼が与えてくれたチャンスを無駄にはしたくなかった。
「シンデレラ、頭を上げて」
穏やかな彼の声。それに応えて上体を起こすと、気恥ずかしそうに彼は言った。
「その、僕も途中から、君を襲うみたいになっちゃったから……傷にも触れちゃったし……あの、あんまり自分を責めて欲しくないと言うか、僕も……その気が無かったら、ちゃんと断ってたと思うし……その……気持ち良かったから……」
たどたどしい口ぶりで、次第に赤くなりながら話す彼を見て、また欲望が湧き上がる。
「本当に……君がそこまでして謝る必要は無いよ、さっきも言ったけど、君さえ良ければ……お嫁さんに貰いたい……くらいだし……」
尻すぼみに小さくなる言葉を聞き、シンデレラは椅子に座り直して涙を拭った。
結局甘えてしまうけれど、自分が甘えたいのも、彼が甘えさせてくれるのも、きっと無理しているからでは無い。そう信じられるだけで、胸の奥がすっと、ガラスのように透き通って行く気がした。
「ジャックさんは、本当にお優しいのですね」
「そ、そうかな……そう思ってくれるのなら、嬉しい……かな……」
「じゃあ……あの日の続き、致しましょう?」
唇が触れ合うと共に、二人は混ざり合って、溶けてゆくように、ベッドの柄となった。
***
「んちゅ……んわぅ……うしゅ……」
「んはぅ……シンデレラ……はげし……」
「んっ、あっ、ご、ごめんなさい……ふぁ……」
口付けを交わしながらジャックとベッドでシンデレラを挟み、飛んでしまいそうな程に濃厚で、焼けてしまいそうな程熱いキスをする。彼女がさっき食べたお菓子の甘い香りが、粘膜を仲立ちに彼の鼻にしゃなりと座り込む。
「シンデレラ……綺麗だ……」
「え……?……はい、ジャックさんも……うふふ……」
呆気に取られた末、我を失ったケダモノと化した先日のそれとは異なり、ジャックにはどこか余裕があった。そして、それはシンデレラも同じ。
とはいえ決して冷めているわけでもなく、相手の笑顔に胸をときめかせ、互いに身体を預けた。
「……脱がせて……頂けますか……?」
「……わかったよ」
ジャックは右脇腹に手を伸ばし、紐を解いて行く。楽器のように、時折当たる手が彼女を喘がせつつ、紐から解放された黒いドレスは、ひらひらと彼女の肌から離脱して行く。
「…………」
「じ、ジャックさん……あんまりじっくり見られると、その……」
「っ……!ご、ごめん!」
下着と手袋に靴下、そして彼女の特徴の一つである、腿に付けた腕章。追い剥ぎにでも逢ったかのような格好の彼女を、ジャックの青い瞳がじっと見つめる。
「あっ、い、いえ良いんですのよ、ただ、ちょっと……」
「ちょっと……?」
隠すような素振りを一切見せず、顔を赤らめた彼女が目線を逸らしながら言った。
「……わたくしもあんまり我慢できそうにありませんから、早く……脱がせて下さいまし」
ジャックは鼻息を少しだけ荒げ、シンデレラのコルセットへそっと手をかける。ごくりと唾を飲み込んでふと彼女の顔を見ると、まるで女神のように優しく微笑んでいた。それを見てもう一度、熱いキスをした。今度も甘い香りがしたけれど、それはたぶん、彼女自身の芳香だった。
「あっ…………」
最後の城壁は思っていたよりもスルリと脱がされ、張りのある乳房とてっぺんの薄い桃色、柔らかさを失わない程度に引き締められた腹部、手入れの行き届いた下毛が、彼の視線に刺さる。彼は先程よりも彼女を、もう会えなくなる子を見送るときかのようにじっと見つめ、それにとうとう恥ずかしくなってしまったシンデレラは、誤魔化すように手袋を外し、ベッドの外にポイと放り投げた。
「…………あっ、ご、ごめん……つい見惚れちゃって……」
「い、いえ!見惚れるくらい好いてもらえて、嬉しい……ですわ」
お互いどこかぎこちないなりに、胸の奥で育ってゆく愛と幸せ。滲んできた汗もお構いなしに抱きしめたかったけれど、暑さが熱か気持ちかがわからなくなりそうで、やめた。
「それよりも…………」
彼女が彼の上着に触れると、彼も意図を理解したように小さく頷き、それとズボンを、キスしながら脱いだ。
「待ってくださいまし」
透明の一本橋が唇から伸び、ボーダーのシャツを脱ごうとした彼に声を掛ける。
「わたくしが……脱がせても構いませんか……?」
いいよとすぐに彼は言って、彼女が手を掛けやすいように少しだぼつかせて胡坐をかいた。シャツが顔に引っかかり彼女は少し慌てたが、スポンと引っこ抜けた後は二人で笑いあって、胸を突き合わせてお互いの鼓動を感じながら、また唇を重ねた。
「……胸も……良いですわよ……?」
「え………………うん」
二人の口の周りがてらてらと光り始めた頃、シンデレラは一呼吸おいてから、その形のいい乳房を寄せて持ち上げ、誘う。ジャックは、そのどこか現実感のない光景に一瞬戸惑うが、男としての性か釘付けになっている自分に気付き、据え膳食わぬは男の恥と言わんばかりに、彼女を押し倒しそれを貪り始める。
「じゅる、じゅ、ぴちゃ……にゅむ……」
「あんっ……!はぅ、は、はっ、はっ、んんん…………!」
「ろるぅ、しゅるばっ、ちゅむ……」
「んっ、いいですわ……ジャックさん……ジャックさん……!」
赤子のように一心不乱に、乳首を吸い続けるジャック。彼のその必死さが、彼女をさらに駆り立て、下腹部に手を伸ばさせる。
「ちゅる……っっ……!?」
突如彼を襲った、電撃的な刺激。乳を吸う事に夢中になっていた彼は、下着を下ろされ、血液がパンパンに詰まった陰茎を扱かれ始めるまで、全く彼女に行動を把握できていなかった。
「あ……かぁっ、ほぁ…………!!」
「気持ち良いですか?気持ち良いんですわよね?だって、こんなにビクビク熱いんですもの…………!」
あの日がジャックの頭をよぎる。でも、何が起こっているのか分からなかったあの日と違って、今日は確かに、恋人として、彼女の責めを受け入れられている気がした。
「うっ、うんっ、いい、いいよシンデレラ!ああっ……!」
「嬉しい……ジャックさんの、とろとろが沢山出てて……凄い……きゃっ!?」
時間にして一分ほど、子孫を残さんと力強く隆起していた陰茎は、あっという間に情け無く果てた。
「あっ、ああっ!くぁ……」
「…………」
なおも彼女の腹と胸に、白濁の液体は散り続ける。それと苦悶の表情を浮かべるジャックに、再びシンデレラの欲望は刺激され、彼女を動かす。
「ご、ごめん!気持ち……良すぎて……」
「構いませんわ…………ジャックさん、可愛いですわね……」
「かわっ!?可愛い……の?」
「ええ、その可愛いお顔、もっとわたくしに見せて……ね?」
そう言って彼女は、自身の秘部の中を彼に見せつけるように開き……彼の肉棒が再び勃起するのを見て、妖しく笑った。
「シン……デレラ……」
「初めてですので……なるべく優しく……お願いしますわ」
彼女は何かタガが外れたかのように、即座の挿入を期待していたが、ジャックは思いの外冷静……と言うよりも、よく欲望を一時的にでも押さえ込んだと言うべきなのだろうか。彼には見えない首輪でも付いているかのように、目の前の楽園にギリギリで踏みとどまっている。自分の言葉は通じているのだろうかと、言ってから心配になるシンデレラ。それでもジャックが自分で一物を手に取ると、じりっじりっとそことの距離を詰め、彼の裏筋が、未だ侵入を許したことのない城壁を、先程漏れ出た精液越しに撫でた。
「ん……っ」
「僕も…-初めてだから、その……上手く出来ないかもしれないけど……」
ずちゅずちゅと粘っこい水音が静寂の中に響き、これから始まるひとときに期待を膨らませ、一度瞳を閉じる。
「じゃあ、行くよ」
彼の声が優しく鼓膜を撫で、この距離でないと分からないくらいに、小さく頷いた。
「ひんっ……!」
「う……ぁ……」
それはずぶずぶと生々しい音を立て、彼女の身体の奥深くを目掛けて侵入してくる。強い異物感と、そこから全身を這うように伝わってくる感覚に、思わず顔を歪める。
「っう……シンデレラ、大…‥丈夫?」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……す、少し待って頂けると……ありがたいですわ……」
「そう……辛かったら、すぐに言ってね」
「え、ええ、ありがとうございます……」
自分の静止も聞かず、射精したいが為に獣のように腰を振る。そんな彼も見たかった筈なのに、目の前にいるのは穏やかに笑う一人の優しい少年だ。でも……そんな彼だからこそ、好きなんだろうな。そう思うと笑みが溢れて、異物感も心地よい圧迫感に変わって行く。
「もう……動いても構いませんわ」
「分かった、ゆっくり行くね?」
「はい……あっ……」
膣内で二人の液が混ざり合い、それが肉棒の滑りを後押しする。遅いテンポではあるが、一突き、また一突きと擦れ合う度に、シンデレラが喘ぎ、ジャックは息を荒くして行く。
「あっ……いいっ、いいですわぁっ!」
「シンデレラも……中、凄く気持ち良い……!」
気付けば何の合図もなしに、彼はとてもゆっくりとは言い表せない程のスピードで彼女の膣を突き、彼女は手足を彼の背中に回し、自ら身体を揺らしてより奥へと肉棒を誘導していた。
「ああっ……ジャックさんっ、好きっ好きっ、大好きぃっ!」
「僕もっ……うっ……好きだよっ……シンデレラ!んちゅ……」
「ふむぅ……れう……ちゅぅ……」
高まる感情のまま、口でも二人は繋がる。今日だって何度もしたはずなのに、まるでマンネリを感じさせない新鮮さで、更に深く、深く深い二人だけの世界へと迷いなく沈んで行く。
「ちゅも……シンデレラ……」
「ぷはぁ……ぁ……ふふ……」
無限にも思えた口付けが一旦終わりを告げ、ジャックはガラスを扱うかのように優しい声で愛しい人の名を呼び、微笑んだ。それにつられるように、乱れた青髪の隙間から、シンデレラも笑顔を覗かせる。
下腹部の圧迫感も気付けば、元々同じ一つの存在だったかのように、彼女の身体へと馴染んでいた。
「あぅ……中でピクピクしてますわ、ジャックさんの…………いつでも、どこに出しても構いませんわ」
「っ……!」
そう耳打ちした瞬間に、彼の肉棒はもう一段と大きくなった。
「う、うぁぁっ!」
彼が慌てて引き抜こうとした陰茎は、鈴口を膣壁に所々衝突させながら久しぶりの外気に触れ……辺り一面を白く染めてしまうのではないかという程の量と勢いを持って、精をシンデレラの顔と体目掛けて吐き出した。
「んぐっ……あっ、ひゃあんっ!?」
「ぁぁ……はぁっ、あ、ゔゔ……」
「あ、ジャックさん!?」
全ての生気を白濁に託したかのように、ジャックは息を切らしてシンデレラに覆い被さる。
「ご、ごめん……力……抜けちゃって……あはは……」
「と、とにかく横になっていて下さいまし、お水、そうお水を持ってきますわ!」
あたふたとシンデレラはベッドから降り、精液がべっとりと付着した裸体を揺らして洗面台に向かう。余りにも忙しなく、先程までの雰囲気もどこかへすっ飛んで行ってしまった、が。
朦朧とする意識の中、ジャックの口は微かに、『ありがとう』と動いた。
***
「ありがとう、もう大丈夫」
「もう……本当に心配したんですのよ?」
「ご、ごめん……でも、多分メアリガン使い過ぎた時と同じやつだから……」
「だからって気を失って良い訳がありません!」
「そ、そうだね、ごめん……気をつけるよ……」
ジャックはものの数分で意識を取り戻し、二人でシャワーを浴びた後は一枚の布に包まってピロートーク、と言うには少々ムードが足りない会話を、お互いに通わせていた。
「でも……ジャックさんを煽ったわたくしにも、責任はありますわね……」
「えぇっ!?そ、そう……なのかな……?」
彼の乱れる様が見たいと、情欲を掻き立てた時の自分が今になって恥ずかしくなり、顔を赤らめて手で覆う。
「で、でも実際に僕もこ、興奮してたから……君のせいでは無いよ、うん。看病もしてくれたし……」
何をしたら彼は、自分の事を悪く言うのだろう、寧ろ彼に悪く言われた時が、本当に終わりの時なのではないか。反射的に後ろ向きな考えが浮かんでしまうが、一段大人になった彼女は少し、強かになっていた。
「……じゃあ、もう一回キスして下さいまし」
「え!?……わかっ……た」
もう、何度目かも分からないキス。我儘が通り、無限の幸せを注入されたような心地のまま、彼女は切り出す。
「ジャックさん……もし無事に脱獄出来たら……」
「……ぁ…………」
一瞬戸惑ったような表情を浮かべられドキリとするも、流石に何を言うかは鈍感な彼でもバレている。それよりもこれから言う事への緊張の方が、心臓を大きく震えさせた。
「結婚……しましょう?」
指を絡ませながら、祈るように彼女は言った。
「……僕で良ければ」
また、唇が触れ合い、どちらともなく交わった。