あなたのその顔が見たいから 作:スロット767
ぱちり、と目が覚める。瞳に入る光量は昨晩閉じた時のそれとは比べ物にならず、太陽が昇ったことをこれでもかと伝えてくる。
ふかふか……とは言い難いが、一人で寝るには広いベッドの、左。ぱっちりと目を開けてほほ笑む彼女が居た。
「おはようございますわ、ジャックさん」
「…………おはよ……う、シンデレラ…………何してたの?」
おそらく今起きたのではない彼女の元気な挨拶が、ジャックを困惑させる。
「何って……ジャックさんに朝のご挨拶を……」
「その前は……?」
「え?ジャックさんの可愛い寝顔を、至近距離で眺めていたのですが……」
きょとんと、『当然のことですが?』といった表情で答えるシンデレラ。ここまで堂々と言われると、むしろ自分の方が何か間違っているような気がしてくる。
「と、とにかくもう起きなきゃ」
「えー?あと十分くらいは大丈夫ですわ、だから、ね?ジャックさん……いいえ、“あなた”」
「っ……!」
シンデレラはずるい。鼻と鼻がちょっと動けばぶつかってしまうくらいの距離で、その整った顔を自分にしか見せない歪ませ方をして、自分にしか使わない二人称を使われたら。
「シンデレラ……」
「あなた………………んっ……」
断る事なんて、出来やしない。
舌と舌が交わり、じっとりとした触感をお互いに感じ取る。何度も、というより昨日寝る前もしたはずなのに、一晩寝たら二人共生まれ変わったのかと思うくらいに新鮮で、新しい部分への官能が脳を悦ばせる。
このまま二人で一つになれたらどのくらい幸せだろうとか、逆に彼女の全てを自分の中に吸収出来たら天にも昇る気持ちだろうなとか、実際には在りっこない妄想が膨らんで、この世界から切り離されたような感覚になる。
「ちゅ……ぷぁ……」
「んはぁ……ふふっ……んんー」
唇が離れた後、背中に手を回しぎゅっと抱きしめてきたシンデレラを、ジャックは静かに受け止める。
(あったかくて……柔らかいな……)
男の体よりも遥かに優しい温もりと柔らかさをもって、彼の心を夢中にさせて行く。一緒に暮らし始めてから、彼女は前よりももっとこんな感じに、積極的に彼を求めるようになった。嬉しいと思いつつ、外ではもう少し抑えて欲しいなとも思うが、今も香る、彼女の花や果実のような匂いを嗅げば、まあどうでもいいかと思えてしまう。
「んー……大好き…………はっ!?」
「わぁっ!?」
青く長い髪をさすりながら、もう少しで再び夢の中へ向かいそうになっていた刹那。シンデレラは突如飛び起き、彼女に被さっていたジャックはメンコのようにベッドの上でひっくり返る。
「あ、ごめんなさいあなた。さあ、起床時間ですわ」
「ぁ……」
呆気に取られる彼の前に、そっと差し出された白く細い手。おもむろにその手を取り、手を繋いだまま洗面所に向かう。
「その……シンデレラ?」
「何ですかしら?あなた」
先に顔を洗い終えたシンデレラが、タオルで顔を入念に拭いてこちらを向く。かき分けられた髪と瑞々しさを増した彼女の肌が、布団の中とは違ったときめきをくれるから、それに見惚れて不審がられる前に口を開く。
「ちょっとくらい……時間過ぎても良かったんじゃ無いかな……?」
ジャックは元々、早起きというのがあまり得意では無い。ジェイルに収監されていた時はあまり関係が無かったけれど、黎明に入ってからは何度か寝坊したっけ……などと少し昔の事を思い出したりもするが、彼女と同じ屋根の下に暮らすようになってから、寝坊は無くなった。というより、出来なくなった。
「いいえ!確かにわたくしもあのままあなたとその……イチャイチャしていたかったですが……それでも時間にルーズなのはいけませんわ!」
「うぅ……」
「そもそも遅れるとハルさんや門脇さんに迷惑がかかるから、時間になっても寝てたら起こしてくれって言ったのはジャックさんですわ、自分で決めた事はしっかり守るべきだと思いますけれど?」
「はい……」
悲しいほどに正論のみを突き刺され、彼は枯れた草木のようにしょぼしょぼと顔を洗い始める。
冷水で顔を流せば眠気も何処かへすっ飛び、鏡に映った自分に励まされているような気分になり、ジャックは両の頬を鼓舞するように軽く叩く。
「さあ、着替えて朝食を摂りに行きますわ、あなた」
「…………」
「ど、どうなさいましたの?」
今のジャックの目は、疑いと好奇を纏っていた。彼は何もやり込めるという程では無いが、さっき正論でなす術なく轟沈したお返しを、少しでもしてやろうとするくらいのプライドはあった。
「シンデレラさ、その『あなた』ってやつ、そんなに恥ずかしいの?」
「うぇっ!?」
あなた。二人の関係からすればおかしな二人称では無いが、それを言う時のシンデレラは、そうで無い時の彼女と比べ少し気恥ずかしそうにしている事を、あなたと呼ばれるくらいに近しい関係の彼だからこそ気付いていた。
「というか徹底できてなくて、時々普通に『ジャックさん』って言ってるし」
「あ、あ……そりぇは……」
分かりやすく動揺する彼女を見て、彼はもう十分満足した。凛々しくてしっかり者の彼女も良いけれど、こんな風になんちゃってお嬢様の彼女もそれに負けず劣らず素敵だと再確認し、からかってごめんねと謝ろうとした時だった。
「その……ダメ……でしたかしら……?」
「えっ?」
「『あなた』って呼ばれるのがもし嫌だったのなら……申し訳ありませんわ……わたくしがちょっと調子に乗りすぎてしまったのですわね……」
何やら重大な勘違いを起こし、更には最近抑えられていたネガティブ思考までもが再燃してしまっているようだった。ジャックは慌てて彼女の言葉を遮る。
「ち、違うんだシンデレラ!嫌じゃないよ、ううん、嫌なわけないじゃないか!」
「……本当ですの……?」
言葉で簡単に言っただけでは、彼女はそうあっさりと信じてはくれない。赤ん坊が言葉を話せるくらいの時間しか、同じ屋根の下では暮らせていないけれど、その事を理解していた彼はすかさず次のアクションを起こす。
「もちろん」
「あっ…………」
「ほら、『あなた』って、言ってみて」
シンデレラは軽く抱き寄せられ、二人の身長差から彼を少し見下ろすようにして目線がぶつかる。ベッドではもっと近くでお互いを見つめ合い、なんならキスまでしたというのに、どうしてこんなにドキドキするのだろう。そんな遊びの思考を許さないくらい、彼の瞳はそれを彼女に迫っていた。
「あ……あな……た……」
「シンデレラ」
「ぁ…………んっ」
彼のその瞳に、一切の嘘も濁りも無かった。相変わらずのネガティブ思考で、彼に心配をかけてしまった事を謝ろうとするその口は、慰めるように塞がれた。
「ぷぁ…………信じて……くれた?嫌じゃないって」
ここでいいえって言ったら、彼はどんな顔をするのだろう。出来ることなら彼のあらゆる全てを見て、聞いて、感じて、味わいたいと考えているシンデレラからすれば、そう告げてちょっと困らせるのも気持ちいいかななんてよぎるけれど、よぎっただけ。
「は……い…………」
「そう、良かった」
彼は笑って、着替えを取りに彼女の前を離れようとする。また、彼の優しさに負けた。負けっぱなしは悔しいので、気持ちよく踏み荒らされた頭が悔し紛れに言った。
「あなたって言うのは……二人っきりの時だけですわよ……?」
彼は嬉しそうにして、何も言わずに彼女を再び抱きしめた。それから、“あなた"、“シンデレラ"と、大切に、噛み締めるように言い合った。
***
夕食も風呂も終え、後は寝るだけというゆったりとした時間。そう大きくない机を間に向かい合った二人は、今日あった事を語らっていた。
「あなたが美味しいって言ってくれたあの料理、実はクナイさんに教わって……」
「タクミさん達が頑張ってくれたおかげで、もうしばらくしたら電気も自由に使えそうなんだって」
その内容自体に、さほど大きな意味はない。確かに二人の情報共有において重要な時間ではあるのだが、それ以上にこうして、二人でゆっくりと話せ、平和な時間を過ごすことができるという一点が、彼らにとっては大きな意味を持っていた。
「あ、そろそろ……寝ようか?」
ジャックが気づけば、時計の針は頂点がかなり近くなっていた。ラプンツェルやシラのような年少組は、とっくに寝床に就いているだろう。
意識すれば先程までは微塵も感じていなかった眠気が急にやって来て、シンデレラに尋ね終わると欠伸が後を追うように飛び出た。
「あら、もうそんな時間ですのね……」
彼女もすっくと椅子を立つ。二人でベッドまで向かい、お互いの顔を見ながら夢の世界へ旅立つ。そんな幸せを頭に浮かべたジャックの肩を、後ろから濡れた布のようにじっとりと、シンデレラの手が覆う。
「あなた……今晩……」
耳を背中に当て、何かしながらでは聞き取れない程の音量で、妻の声。
二人の間の秘密のサインは、彼が振り返って彼女にキスする事で、成立した。
「んぅ……ちゅ……はぅぁ……」
唇を重ねたまま、二人は吸い寄せられるようにベッドに倒れ込む。どちらともなく一度唇を離し見つめ合うと、互いに上気した赤い顔が、奥底の情欲を掻き立てる。
「脱がす……ね」
「……はい……」
初めて身体を重ねたあの日よりも遥かに洗練された手つきで、ジャックはシンデレラの身包みを次々に剥ぎ取って行く。時折キスによって手が止まりながらも、あっという間に彼女は生まれたままの姿。
「ジャックさんも……」
シンデレラがそう言って、彼の上着に手を掛ける。彼は少しの抵抗も見せる事なく、むしろ協力して、次々と彼の肌が露出して行く。
相手の服を互いに脱がせ合うのが、誰が言い出したでもない二人の中での暗黙のルールになったのはいつだったのだろうか。そんな事を疑問に思う時間すら惜しいと言った感じで、下半身の下着一枚をもベッドの外に投げ捨て、既に隆々と聳え立った陰茎を剣先のように彼女へ向ける。しかしそれはまだ突き刺される事はなく、二人は耐え切れないといった風に、また口付けを交わす。
「ぷは……ねえ、あなた……」
「っ!な、何かな……?」
今朝散々言われ、何なら自分から言わせた『あなた』という言葉。裸で抱き合っている時のそれは存外刺激が強く、心臓を撃ち抜かれたように一瞬言葉が詰まる。
「わたくし……やってみたい事があるんですの。あなたに……」
とろんと魅惑的な歪みをたたえた瞳に、ジャックの心は逆らえるはずがなかった。その『やってみたい事』が何なのかは想像もつかないが、彼女が喜ぶ事なら何でもしてあげたいと、一回頷く。
「いいよ、僕は何をすればいいかな?」
「ありがとうございます。じゃあ、両手を後ろにやっていただけますか?」
「こうかい?」
彼は言われるがままに、両の手を背中側に突き出す。それを見たシンデレラは彼に気づかれないくらい一瞬、にやりと笑って彼の背後に回る。
「ええ、ありがとう……ごさいます!」
「…………シンデレラ?」
熱っぽく震えていた顔がすんと元に戻り、ジャックは首だけを後ろに回して、自分の両手を括った犯人を視界に入れる。
「悪いようには……致しませんので……」
「あっ……」
妖美な笑みを浮かべ、彼女は彼の視界を塞ぐ。彼に巻き付けられた目隠しが彼女のネクタイであることを、視界が塞がれた事で普段より鋭敏になった嗅覚が教えてくれたが、そんな事は今どうでもよかった。
「どうです……?あなた……いえ、ジャックさん」
「シンデレラ……あぅっ!?」
未だ何が起こって、彼女が何をしようとしているのか分からないまま、ジャックは自身の胸元への、熱くねっとりとした刺激に悶える。
それは彼の乳首をべっとりと濡らした後、肌を這って右から左へ移動すると、そこでも入念に、掃除でもするかのように突起を嘗め回す。
「はぅ……ぐっ、あぁぁぁ……」
「じゅむっれぅっ、じゅるぅ……ふぅ、さて……」
彼女は舌と口を離し、彼の背後に再び回り込んで、背中に少しの間頭を預ける。そして彼の胸元へ手を伸ばし、まるでピアノでも弾くかのように、ぬらぬらと光り硬くなった突起を弄り始める。
「あぁっ、やっ、シンデレラ……はぅっ!?」
正座するような形を今まで保っていた足はがくがくと震え、今にも倒れこみそうになる。そんな頼りない部分とは正反対に、その間から生える肉の棒は痛いほどに硬く、大きさを増して行く。最愛の人と愛を育もうとした矢先に、突如手と視界の自由を奪われ、成すすべなく乳首を弄られただけで女々しい嬌声を上げてしまう。
普段のシンデレラを思えば、彼女によく似た偽物なのではないかと思ってしまうほどの豹変ぶり。彼がこうして知らない快感にのたうちまわる姿を密着して感じ、時折楽しそうに笑い声が漏れる。しかしジャックには、今の彼女に少しだけ心当たりがあった。彼女に軽い恐怖を覚えつつも、与えられる悦楽に全てを無視したくなる、この感覚に。
「シ、シンデレラぁ……もぅ……あぐっぅ…………!」
「ああ……ジャックさん、気持ちいいですか?気持ちいいんですわよね?ふふっ、可愛い♡ふーっ♡」
「あ、あぁぁぁぁぁ!」
耳元で囁かれ、熱い吐息が耳元に炸裂する。はち切れそうな下腹部を、男としての意地のみでかろうじてとどめていたジャックだったが、まるで意識していなかった耳への攻撃により、その意地やプライドは負け……あえなく暴発した。
「うひゃっ!?」
血管や筋も生々しく見せ、雄々しく反り返っていた彼の男根。二人の荒い息に負けるどころか、それをかき消す程の音と勢いで射出された白濁液は、執拗に主人の弱点を責め立てていたシンデレラの細く白い手を狙撃した。
「ぅあ……一回も……触ってないのに……」
目をぱちくりとさせ、初めて射精を見たかの様に驚くシンデレラ。実際には何度も見てはいるものの、一度も陰茎に触れる事なく彼を果てさせたという事実が、彼女を更に焚き付ける。
「あ……はぁ、はぁっ、はぁっ……い"っ!?」
「んー……ぺろっ、ちゅ…………れぅ……」
彼女は手に付着した精を綺麗に舐め取り恍惚の表情を浮かべると、休む間もなくジャックの耳、首筋といった敏感な部位に、キスと舌での愛撫を織り交ぜて刺激して行く。もちろん、乳首への執拗な責めは継続したまま。
「かはっ、やっ、そこはぁっん!」
(あんなに逞しくって、頼りになるジャックさんが……女の子みたいに悶えて……ああっ!)
快感に狂うジャックを目の当たりにして、彼女の欲望は満たされるどころか、もっともっととその先を、際限なく求める。
豪快に精を吐き出したはずの肉棒は萎える事を忘れたかの様に勃起したままで、壊れた蛇口の様に鈴口の先から我慢汁を吹き出させている。その、最早限界に近い彼の状況を見てもなお、敢えてそこには触れない。
彼女は目隠しで半分彼の顔が見えない事を少し残念に思いながらも、その下にきっとある、泣きそうな瞳と歯を食いしばり涎を端から垂れ流す口を見て、身体の奥底からの高揚感に身を捩らせる。彼のその顔が、彼女の最も求めていた顔。
「シンっ……デレラぁ……おぉっ、も、もうやめ……ひぐっ……」
「ぺろ……むちゅ……ジャックさん……かわい……」
ちょっと触れる程度では形状が変わらないほどに硬くなった乳頭を、時折力を入れてぐにゃりと潰す。その度に彼は情けなく喘ぎ、彼女の心は満たされて行く。
「あっ、あ"あぁ……おかしく……なっちゃ…………んんんっ!?」
乳の出ない、単なる性感帯を弄られ続け、苦しみ悶えながらもその感覚が歪んだ安定と化してきた頃。垂れ流した精液を拭き取られることもなく、天辺からとめどなく溢れる液で自らを妖しく染めていたその竿に、彼女の手が不意に触れる。
「触って……あげますね……ジャックさん、とても苦しそうだから……」
興奮を抑えきれないといった吐息をあげながら、シンデレラは極めてスローに、ジャックの竿を前後に扱いて行く。
「あ"っ、んぎぃ!?だめっ、シンっ、デレラぁっ、あぁぁっ?!」
粘ついた水音が、二人だけの家、二人だけの寝室に溶けてゆく。シンデレラの手捌きは少しの澱みもなく、竿の先端、カリ首、裏筋……彼の感じる部分を的確に触る事で、子供に言葉を教えるかのようなスピード感にも関わらず、神経に甚大な影響を与えかねない程の快楽を与えていた。
その証拠に、ジャックはその引き締まった身体を捩らせ悶えさせ、やっと動きが止まったかと思えばピンと情けなく強張らせて、射精だけは堪えている。もちろんその間も、シンデレラの手と口は、それぞれ彼の乳首と陰茎を捉えて離さない。そう来れば我慢も時間の問題であり、現に彼の頭は、白い種を吐き出す事でいっぱい。
「シンデレ……ラぁっ……もう……げんか……うぁあっ?!」
「ふふっ、もうですの?さっきも出したのに」
「出そうっ、出そうなん……ああぁっ!?本当に……」
「そんなに……興奮しているのですね……かわいい。んちゅっ」
「んぐぅっ……!」
唇を奪われる、というより犯される。野生の飢えたライオンのように、ジャックという獲物を欠片も逃さぬよう奪われぬようなそれは、口付けなどと言う言葉では到底言い表せない程濃厚で、情熱的で、そして何より、暴力的だった。
やがてジャックは、口元と肉棒の神経が、体の中で一筋の経路で繋がったような感覚を得る。
「んっ、んん”っ、んんっー!」
口を塞いでいるシンデレラにも、彼の変化に気付く。彼の顔や唾液の味、扱く竿の感触が変わったわけではない。纏う雰囲気とか感覚といった、曖昧な変化。
それでもこうして、生まれたままの姿で、肌と肌を擦り合わせながら彼の中身を蹂躙するような行為で、彼を変化させられたという事実が、彼女を悦に浸らせ、更に焚きつける。
「んぷぁ……ふぅー……ジャックさん……」
「がっ、ぁぁ……はぁっ……んぃ……」
上気した顔と輝く瞳が、快楽の煉獄に悶えるジャックの顔を捉える。あれだけ激しく動いてもほとんどズレていない目隠しの上からでも分かるほどに、歪む口と頬、そして垂れる汗が彼の状況を表していた。
百パーセントの満足は、この時点で彼女の物だった。シンデレラの心は既に満タンで、このまま彼を抱きしめて、ありがとうと目隠しを外し、愛してもらえればそれでよかったし、そうするつもりだった。
「……ごめんなさい、もうちょっとだけ」
消え入りそうな声。彼女は、百ニ十パーセントの満足を求めた。
「じゅるっ、ちゅ……」
「はがっ……?!んぃ、ひぃぃぃん……!?」
じっとりと熱気を纏った青く長い髪をかき上げ、四つん這いのような浅ましい体勢になって彼のペニスを口に含む。自我を失いかねないほどの責めにより、小突けば吹き出るほどに追い詰められたそれが、滑らかで生暖かい熱を持った彼女の、性器のような舌に敵うはずがない。
「あ”っ、ああっ!!うぁぁぁっ!!?」
初弾と何ら変わりのない勢いで、熱い半固形の液体がシンデレラの口に流れ込む。彼女はそれを迷わず飲み、その熱さと生臭さを、彼の生命の力強さとして体内に取り込んで行く。
一塊を飲み終えても、咥えている肉棒からは彼の身体の痙攣と共に、少しずつではあるが精液が溢れている。それを飲んだという幸福と、まだそれはあるという幸福。シンデレラはこの上ない多幸感に包まれながら、ジャックが気を失って倒れるまで、肉棒をしゃぶり尽くすのだった。
***
「本っ当に、申し訳ありませんでしたわ!」
深夜に似つかわしくない大声。ジャックが慌てて口の前に人差し指を立てると、シンデレラもさらに申し訳無さそうに肩をすくめる。
「だ、大丈夫だよシンデレラ、僕はその……君になら、あれくらいは」
「でもわたくしは、調子に乗ってジャックさんを気絶するまで……うぅっ……」
「な、泣かないで……」
愛しい人を傷つけてしまった悲しみと、己を抑えられなかった悔しさで、とめどなく涙が溢れる。
「ジャックさんには、地下で暮らしていた時も同じ襲うような真似をして……もうあんな事はしないと誓ったはずなのに……ごめんなさい……」
「シンデレラ……」
二人の脳裏に、黎明の救護室での一件が蘇る。そして、ジャックの部屋で仲直りし、初めて交わった日のことも。
「あのさ、シンデレラ……!」
ジャックが何かを決心したような声色で声を掛ける。二人共がベッドの上に、全裸で正座している状況はかなり珍妙なものだが、幸いそれを指摘するどころか、見物している者は人っ子一人いない。
「シンデレラって、ああいうの……好きなの?」
「ふぇ……?」
ああいうの、とはどういうのだろうかとシンデレラは一瞬考えて、直ぐ先程までの、自分の暴走行為だと察する。すると彼女は顔を真っ赤に染めて、羞恥に悶えながら小さな声で応えた。
「……はぃ……いやでも好きというよりはその……わたくしの中の欲望を、時々抑えきれなくなると言いますか……」
「そっか……」
彼はこんな事を聞いて何がしたいのだろう。思わず自分が責められるべき立場だという事も忘れて、彼女は羞恥と彼への疑念を抱く。
そのまま一分ほどの沈黙が流れ、その間ずっと瞼を閉じて眉間に皺を寄せていたジャックが切り出す。
「もし抑えられない時があったらさ、僕の事は、好きにしてもいいよ」
「えっ?」
聞き間違いかと、自分の耳を疑った。しかしそれに彼が続けた言葉が、耳に異常は無い事を伝える。
「その……自分の好きな事を無理して抑えるのって、あんまり良くない事だと思うし……血式リビドーみたいに、それはきっとシンデレラの個性なんだって僕は思うよ。確かに人に迷惑をかけたりする様なのはダメかもしれないけど、君には僕がいるからさ」
優しい顔で見つめられると、顔を背けたくなるけど、それは何だかもったいないように思って見つめ返す。
「君とその……初めてした時にも言った気がするけど、ああいうの、嫌い……では無いというか、ちょっと嬉しいから……」
照れながら言う彼に、シンデレラは今すぐにでも抱きついて、愛を叫びたい気持ちが溢れ出る。
「優しすぎますわ、もう……これじゃあわたくしが、甘えてしまうではありませんの」
「ご、ごめ……ん?」
「でも、でも……そこがあなたの好きな所ですから……だからこそ、抑えるよう、努力致しますわ」
“あなた"と呼ぶと、自然と顔がほころぶ。
「よかった、笑ってくれた」
「……ええ」
どちらからともなく、二人は抱擁と、軽い口付けを交わす。
「ねぇ、一つお願いしても……いいかな?」
唇を離して笑い合った後、先に口を開いたのはジャック。
「何ですかしら?」
「さっきは君にしてもらったから、今度は僕が……いいかな?」
何だそんな事かと、シンデレラは彼の背中に回した腕を頼りに、そっと仰向けになる。自然と彼が覆いかぶさる形となり、胸の奥からじんわりと、染み込んでくるような悦びに身体と心を預ける。
「もちろん、ですわ。あと…………そろそろ二人だけじゃ、寂しくありません?」
重力でふにゃりと崩れた乳房よりも、ずっと魅惑的な提案だった。
彼がその言葉の意味を理解するのには少しのラグがあったが、心と心が直接まぐわったかのような興奮に、彼の分身は正直だった。
「ねえシンデレラ……“あなた”って、言って欲しい」
「はい、あなた……んっ……」
自分たちが夫婦だという事を確かめるように彼女は囁き、それに彼は無上の喜びを覚えてまた口付ける。
お互いの舌を絡ませるまでは最早序の口で、ファーストキスでは彼女だけだった口内への責めを、お返しとばかりに彼がする。彼女は意表を突かれたといった感じで目を大きく見開くも、愛しい人の味を過剰なまでに堪能するうちに、とろんとそれは崩れてゆく。
「んはぁ……ん……入れるよ……」
「ぷぁ……ぁ……はい……」
自身の形の良い胸に両手を置き、その時を待つ。血走った目でジャックを責め立てていた時とはまるで別人のように初心な姿だが、きっとそのどちらも確かに彼女自身で、そんな彼女に惚れている自分を、ジャックは何だか嬉しく誇らしく思った。
「んっ……はぁぁぁ…………」
少しの抵抗を見せた入り口をずぶずぶと搔い潜り、今か今かとそれを待ちわびていた蜜壺に着地する。
ジャックは安易に動けばすぐに果ててしまうと直感で悟り、慎重に最奥まで進めたところで、改めて彼女の顔を見る。
「気持ちいい……ですわ……動いて…………」
青く澄んだ瞳、整った高い鼻、蠱惑的で鮮やかな口、絹のように流れる青い髪。今視界に入る彼女を構成する全ての要素が調和し、完璧という形の一例を指し示しているように思えた。
「うん……いくよ」
「はっ、うんんぅっ!」
ゆっくりとした一突き一突きごとに、シンデレラの足はジャックの背に絡まる。二つの性器が奏でる淫靡な水音が二人をトリップに近づけて行く。そうして次第に水音のペースが速くなり、合間に荒い吐息が混ざり始める。
「っうぅぅ……シンデレラ……僕……もうっ……!」
「あなたっ、好きっ、好きっ好きですわ!この世で……んんぅ……いちばんっ!」
「僕もっ、好きだよっ!んむぅ……っ……!」
エスカレートしたのは体の動きと性の悦びだけではない。お互いへの感情はとっくに臨界点を超え、プリミティブな思いの吐露が止められない。
引力で引き合うかのように唇を重ねたのを皮切りに、胸元も腹部も、二人の間を隔てる物は何もなくなった。肌と肌がぴたりとくっついて、それすらも悦楽を生み出して行く。
そして……
「むぅぅうん……!ぷぁ……あああぁぁぁぁっん!!」
「ふぁ……うぅっ!くぁ…………!!」
さっきは口や手で受け止めた精液を、それよりもずっと小さく狭い膣壁に受ける。
「あったかい……ぅ……きもち……みゅぁ……いぃ……」
脳天を突かれるような感触に気を失いそうになるが、次第に自分のすべてが彼に染められているような心地良さに、思わず笑みがこぼれる。
「あ……んぁ……はぁっ、はぁっ…………ぁ……」
「はぁっ、ぜぇ…………んん…………」
一言も交わせないほどに二人は疲弊していたが、無言のままベッドに並んで横になる。
「シンデレラ……おやすみ」
「…………おやすみなさい……あなた……」
実際には、それぞれ独り言を言っただけだったのかもしれない。しかし、目を閉じた二人は、まるで見えているかのようにすっと手を繋ぎ、夢へと落ちて行った。
◇◇◇
ぱちり、と目が覚める。陽の光は明らかに朝のそれではなく、太陽がてっぺんに近いところまで昇ったことを、これでもかと伝えてくれる。
昨日も遅かったからな……そうぼんやり思って寝返りを打つと、一人で寝るにはやはり広かったベッドの、左。ぱっちりと目を開けてほほ笑む彼女が居た。
「おはようございます、あなた」
「おはよう、シンデレラ」
何度か同じような日はあったから、前みたいに言葉を詰まらせることはない。僕は彼女をそっと抱き寄せて、目をしっかりと合わせてから聞いた。
「また、僕の寝顔見てたの?」
「はい、涎が垂れてたので、拭いたりもしましたわ」
「ええっ!?」
僕は口元を慌てて拭うが、彼女が拭いてくれたのだから、当然そこに水滴は無い。そんな僕を見て、彼女が口元を抑えてクスクスと笑う。
「も、もうお昼だよ……早く起きなくちゃ」
「えー?あの子もまだ寝てますし、ちょっとぐらい……ね?あなた?」
「う……」
鼻腔をくすぐる彼女の香りが、愛しい気持ちをそそのかす。
「そ、そうだね、たまには……」
「ええ、ふふっ……」
そうして顔を更に近づけ、触れ合うまであと僅かの、その瞬間。
「ぐぇ……うぇー、びぁえぇぇぇぇぇん!!」
ベッドのすぐ横の、我が家の新しい家具。その中ですやすやと眠っていたお姫様が、目を覚ました。
「あらあらあら!」
シンデレラはベッドから飛び起きて、彼女を抱きかかえあやす。するとすぐに泣き止んで、きゃっきゃと楽しそうに笑う。
僕がやった時は、一時間泣き続けてたのに。少し嫉妬してしまうけど、泣いていても笑っていても、とても愛おしいことに変わりはないのだから、一時間くらいどうという事はない。
「ほら、パパにもおはよ~」
「ぅぁ……ひひゃ……!」
二人共いい笑顔で、それが僕に向けられている事の幸せに浸る。
きみのそんな顔が見たかったと、僕は心の中で呟いた。いつか、直接言えるように。