推定10話くらいの予定でした。
無事、アスティカシア高等専門学園の地を踏んだ私達は早速、都会の洗礼を受ける。
巨大なエレベーターを経て、校内の電車を経て、キャンバスの中に入った私達を待ち受けていたのは、如何にも陽気なキャラクターの女性三人組による質問攻めだった。悪意はなく、水星という未知の領域から来た私達に対する純粋な好奇心で話しかけられる。宇宙港に着いた時点でミオ……ミオミオは、企業の偉い人に連れ去られてしまっていた。そういえば、水星の魔女って企業闘争とか、そんな話だったような気がする。まあ彼女とはまたすぐに顔を合わせる機会が来るはずで、今はそう、私の隣で正座をしようとするスレッタのケツを無言でしばいた。
これから嫁争奪戦に参加するというのに、そんなみっともない真似をするもんじゃありません。
何かを言いたそうに睨み付ける赤毛の狸から目を逸らし、三人娘よりも先に案内役として話し掛けてくれたメカニック科の先輩であるニカという女性と向き合った。彼女は私達を見て、少し困った風に笑みを零す。十数年前の前世の記憶、優等生って感じの子であまり印象には残っていない。まあ、その程度の相手なんだと考えて、あまり身構えなかった。
ちなみに私はメカニック科で、スレッタはパイロット科。スレッタは頭に付けたヘアバンドを三人娘にバカにされたけど、スレッタは良い笑顔で「もちろんです!」と答えた。彼女は、人の悪意に気付かない良い子なんです。パーメットリンクを用いた秘匿回戦で私の端末と繋がっているエリクトも、きっと自慢げに頷いている。
そんな折、銀髪の少女が私達の前を横切った。
「ミオリネ=レンブラン、事情は聞いている。すぐに授業に戻るように」
教官に名前を呼ばれたミオミオ……ミオリネは少し拗ねるように目を逸らした後、教官と向き直って「はい」と短く返事をした。
「ミオリネ……あの人だ!」
スレッタはミオリネの傍まで駆け寄る。
銀髪の彼女は不機嫌に睨み返す。
スレッタは彼女の鋭い目付きに臆しつつも「責任」と小さく零した。
「責任、取ります!」
「あの時の邪魔女! 何を今更!」
「だ、脱出、手伝います……どうすればよろしいでしょうか!?」
「もう遅いっての!」
周囲から「責任?」と騒めく中、ミオリネは居心地が悪そうにスレッタを睨んだ。
「バカなの? こんなところで……!」
素直なのが彼女の良い所なんです、と私はニカの説明で端末に学園マップを入力した。
エリクトにも通信、彼女には高性能のオペレーションAIとして説明するつもりだ。ハロが当たり前に普及した世界観、水星という辺境で未知の星。独自に発展させたOSやAIの一つや二つ、あったとしてもおかしくない。スレッタとミオリネの会話を遠目から見守っていると「取って貰えば良いじゃないですか、責任」と別の方角からメスガキっぽい声が聞こえた。
「逃げたいんですよね、地球に」と嘲る女子生徒にミオリネが苦虫を嚙み潰した顔を浮かべる。
そんな折、急に警報音が鳴り響いた。
コロニー内の天井に映し出される青空のグラフィックが解かれて、何処かの惑星の景色が映し出される。何処からともなく飛び出した二機のモビルスーツを見て、スレッタは横目で私との距離感を測った。大丈夫、私は避難しておきますから、と隣のニカが二機のモビルスーツの戦闘から距離を取ったのに合わせて、距離を離す。出力を落としたビームライフル、実戦向けではない事は光線の色を見れば分かった。少なくとも実戦向けのビームライフルの一撃は先程、チラリと姿を現した障壁程度では防ぐことができない。
スレッタは呆然としつつも赤いモビルスーツの動きをよく観察していた。
『実習中に失礼する』
スピーカーの音が学園中に響き渡る。何処かで聞いた事のある声だ。
『これは決闘委員会が承認した正式な決闘である』
恐らく、水星の魔女における重要なポジションに位置する人間。
『立会人はこのシャディク・ゼネリが務める』
シャディク……そうだ、確か百合の間に挟まる男C君だ!
「決闘?」と呟くスレッタに反応するように私の端末が振動し、液晶に決闘に関する情報がズラリと並べられる。学生同士で行われる私闘。賭けるものは、なんでも良かった。決闘はモビルスーツを用いて行われて、相手のブレードアンテナを折る事で勝敗を決する。
そして1位には、ホルダーの称号と共に、ミオリネとの婚約者としての立場が得られる。
なるほど、これが物語の肝という事か。
二機のモビルスーツは何度か切り結んだ後、相手を押し切るように私達の方へと迫り来る。危険を察知したスレッタは一早く、隣に立っていたミオリネの手を引いた。倒れるモビルスーツ、舞い上がる砂煙を前に「あ、まずいかも?」と思った私の背中をスレッタが覆い被さるように倒れ込んだ。
舞い上がる瓦礫片。倒れ際に身を捩り、仰向けになっていた私はスレッタの赤い頭を守るように強く抱き締める。
「……あだっ!」
そして、額にコツンと受けた小石に私は意識を失ってしまった。
◇
次に目覚めた時、真っ白な布団の中で目覚める。
ちょっと眠たかったので二度寝しようかなと考えた時、十年以上も連れ添った友達の匂いがしない事に気付いて、バッと飛び起きた。周囲を見渡す。ニカが居た、戸惑う私の手を優しく握り締めてくれる。「此処は医務室よ」と語り掛ける彼女。ベッド脇の台座に置かれた端末が振動しているのに気付いて、液晶をタップする。私の端末は、学園支給の端末とは別物である。液晶画面が勝手に操作されて、ある映像が映し出される。決闘委員会が配信する決闘映像。気絶する前に見た赤いモビルスーツ、そしてエアリアルの姿があった。
コックピットの中の映像。そこにスレッタの姿はなく、代わりにミオリネが操縦席に座っている。
「え、なんで……? そういう感じだったっけ?」
流し見ただけの本筋に、十年以上も前の記憶。細部なんて覚えている訳なかった。
『HELP! HELP!』
ハロの音源を活用した電子音声で救援を呼び掛ける。
「あー、えっと、スレッタさんが決闘を受けたみたいで……」
「ごめん、行くとこができた」
これが本編の流れなのか、私が居た影響なのか判別が付かない。
実際問題、私が傷付けられた姿を見たスレッタが勢いのままにあの赤いモビルスーツのパイロットに決闘を吹っ掛けていてもおかしくなかった。なんでミオリネがエアリアルに乗ってるのか分からないけど、私、僕にはエリクトを助ける使命があるのだ! 私を呼び留めるニカを振り切って、私は近場にあるトイレの個室に籠った。私とエアリアルは、データストームの裏技で端末からエアリアルと接続する事ができる。
端末を別の機器と接続し、目を覆い隠すように頭に装着する。
遠隔操作なので負荷の誤差はスコア1。要はスレッタが来るまで持たせる事が出来れば良いのだと、パーメットスコアを2まで引き上げる。負荷はスコア3と同等、全身の神経が焼かれる感覚。パーメットに乗せられた過度の情報が私の神経を直接、刺激してしまっているのだ。だけど、これは、パーメット粒子の塊であるエリクトと唯一、触れ合える手段でもある。エアリアルとは即ち、エリクトと同一。エリクトそのものが全身に注ぎ込まれる感覚にプシュッと股間から潮を吹き出した。『ええ……』と引き気味のエリクト。久し振りの感覚なのだから、と私は精一杯の言い訳と共にエアリアルとリンクした。
コクピット内で、急に自動で動き出すエアリアルにミオリネが困惑する。
一心同体、スレッタ来るまで堪えてみせる。と愛液を垂らしながら赤いモビルスーツに臨んだ。
◆
アンヌがエアリアルと同期するのは今回が初めてじゃない。
僕、エリクトが妹のスレッタを守る為に編み出した緊急措置的な装置であり、当時はまだアンヌよりもスレッタの方が大事だったのでママに内緒で構築した。船外任務の時にスレッタが気絶をした時、心身を喪失した時に緊急的にアンヌがエアリアルの操縦を肩代わりする。だけど、僕には、お母さんほどの腕はなかったので、データストームを肩代わりできるようなシステムを組む事が出来なかった。精々隠蔽する程度、データストームの情報は、端末の方に記録する事で処置をした。
スレッタは薄々気付いているようだけど、僕が手を貸しているのだと思っている。
だけど、僕自身がエアリアルを操縦するには、まだパーメットスコアが足りなかった。
最低でもスコア6は必要。だから、僕では、スレッタを助ける事ができない。アンヌに申し訳ないと思うようになったのは何時頃だったか。だけどスレッタと肉体関係を持つようになったアンヌは、僕の情報を送り込まれる事を性行為も同然に考えるようになっていた。欲求不満になった時には、僕のパーメットを流して貰う為にコクピットに来ることもあった程。アンヌの情報を抜き取る為に何度もパメ焼きを繰り返してる内に、後遺症が残らない程度にパーメットを流し込む技術が身に付いてしまった。
スレッタの恋路も応援するし、アンヌの幸せも願っている。スレッタの股間に生えているアレは、お母さんが僕の孫の顔が見たいからって付けたものだし、あわよくば僕の生まれ変わりにできるんじゃないかと考えての事である。まあ、後者に関しては本気ではない。そんなことはできないって、お母さんも分かってはいるみたいだし、僕自身も二人の子どもに成り代わるなんてしたくない。
精々スレッタを助けてくれた御褒美に微量のパーメットを流し込んで性感帯を刺激してやるくらいだ。
肉体があればな、と思う事が多々ある。
パーメットの塊でなければ、スレッタの代わりに僕が彼女を幸せにしても良い。結局、僕の趣味はスレッタと似ている。だけど僕が死ななければスレッタは産まれなかったし、他の十一人の妹達と出会うこともなかった。
儘ならないものだなあ、とデータストームの世界で憂鬱に溜息を零す。
◆
「勝手に、動いて……!」
ミオリネの困惑する声に、警報音が鳴り響いた。
決闘の舞台にニカという名の生徒が乱入したのだ。だけど乱入者は、ニカではなかった。押され気味だったエアリアルは、赤いモビルスーツ、ディランザに対して手で静止しながら接近するバイクに向かって膝を着いた。
パイロットスーツを着たスレッタは、 エアリアルに導かれて、コクピットに乗り込むや否や操縦席に座るミオリネに頭突きをした。
口論を続ける中、スレッタは、怒声を張り上げた。
「私とエアリアルは、あんなのに負けません!!」
胸を張った一言、それがディランザのパイロットであるグエルの逆鱗に触れた。メリー曰く、百合の間に挟まる男A君はスレッタの挑発とも取れる言葉に乗り、そして返り討ちに合う。突如として展開されたビット兵器に唖然とするグエルにスレッタは、兎も角、責任を果たせたことに安堵の息を零す。
「勝ちました」
コクピットの外に出て、四肢を切断されたディランザ見下ろすミオリネに、スレッタはドヤ顔を披露する。
それを見てミオリネは小さく溜息を零し、勝者としての手続きを淡々と熟す。白色のパイロットスーツと制服は、決闘の頂点、ホルダーの証。そして、それはそのまま、
「そして、私の婚約者の証でもあるわ」
「う、うええっ!?」
「言ったでしょ。そういうルールだって」
「聞いてませんよ!」
スレッタには、想い人がいる。
「それに……私、女なんですけど?」
だけど、想い人からは女同士だから結婚できないって言われ続けてきた。書類上の手続きとかなくても良いって思っていたのだけど、目の前の彼女は同性同士で結婚すると言ってきたのだ。
「水星ってお堅いのね。こっちじゃ全然アリよ」
その言葉を聞いた瞬間、スレッタの瞳は、まるで初めて本物のトマトの味を知った時のようにキラリと輝いた。
エリクトもまた悪戯っぽい笑みを浮かべる。
早速、トイレに引きこもるアンヌの様子を端末越しに確認したエリクトは、絶頂で尿を漏らす妹の推定婚約者のアヘ顔に、そっと通信を遮断する。
彼女は時折、お漏らしをする。
そういう時は決まって、スレッタを助ける時だった。