翌朝、地球寮。モビルスーツが配備される格納庫での話。
メカニック科の二年生であるニカは、後輩の愛機であるモビルスーツの調整をしていた。最初期型のデミトレーナーをチュチュ専用に改造したもので、一撃離脱をコンセプトにパイロット殺しの加減速を重視している。ピーキーだけど、当初のコンセプト通りにまとめ上げる事が出来たニカ自慢の一品、地球寮だとチュチュ以外の乗り手がいないことだけが難点である。
我が子のような機体を見上げて、ふわりと欠伸を零す。
ニカは昨晩、可愛い後輩の頼みで水星の転入生の一人、スレッタの情報収集に勤しんでいた。エアリアルに使われた技術が問題視されており、そのパイロットであるスレッタも尋問を受けている事まで分かった。スレッタが監禁される部屋までの侵入ルートまで導き出している。
少し後輩に甘過ぎるかなとニカは小さく溜息を吐き捨てる。
チュチュは先天性の両性具有である。
かつてまだ人類が宇宙に進出する前の話。今となっては考えられない事だけど、少子化が問題視されていた時代に、地球政府は同性婚を認める、と同時に女性に陰茎を生やす技術を確立した。人間の遺伝子情報には、女性と男性の両方の情報が詰め込まれており、染色体の組み合わせで性別が決められる。よって遺伝子情報を操作する事で、男性に新しく膣を増やす事は難しくても、女性に陰茎を生やす事は比較的容易とされる。
性別の改造が法的に制限されたのは、無作為の肉体改造で人類の遺伝子情報が破壊され始めたからだ。
以後、両性具有の人間は大きく数を減らす。しかし今もまだ世界には、両性具有の人間は残っており、チュチュは両親の遠い先祖に同性婚をした両性具有が隔世遺伝した子である。両性具有の人間は、今となっては数少ない。人生で知り合った人間の中に一人も居れば多い方だ。故にチュチュは地球寮に入った当時、性自認が女性寄りであった事から女性部屋で生活を営んでいた。
しかし女性に囲まれた生活を過ごしている内に、チュチュは前屈みに生活する事が増える。
事件が起きたのは、皆で風呂に浸かった夜の話。
チュチュは夢精してしまった。幸い、気付いたのは私だけだった。処理を手伝う中で、彼女には、女性の中での生活に無理をさせていた事に気付いた。だから彼女の為だけに仮眠室を開放する。耐え切れない時は、自分に相談してくれれば良いと言い付けている。顔を赤らめながら仮眠室の鍵を受け取るチュチュの顔は大層、嗜虐心を擽った。チュチュは意外とガードが緩い。ゴミ箱の中身を見れば、彼女が仮眠室で自慰に明け暮れている事なんで直ぐに分かる。最初はティッシュに包まれた精子を確認するのが趣味になり、彼女が私の名前を呟きながら肉某を扱く姿を想像して私自身も自慰に耽る。「ティッシュだと少し、臭いが残っちゃうから」と指摘した時の彼女の声も出せぬ羞恥顔は、子宮が疼くほどに可愛らしかった。彼女は詰めが甘い。ティッシュに包んで捨てられた精液の溜まったコンドーム、避妊具を購入する彼女の姿を妄想して愉悦に浸る。
異臭を放つ白濁とした液体を纏わせた指を秘裂に這わせた時、過去一番の絶頂を果たす。
チュチュに恋愛感情を抱いている訳ではない。
自分を慕う後輩の羞恥心を煽り、知られると破滅しかない背徳的な行為に及ぶ事に興奮を覚えるのだ。
指先に付着した自身と愛液と後輩の精液が入り混じった液体を舐め取る。
これが自身の血肉になることを空想し、想像だけで軽く達した。
後ろ暗い感情を抱えているのに、良い先輩面をする事には多少のストレスがある。
だけど、それも、自慰をする時だけは、最高のエッセンス。チュチュだけではない。男女問わず、自分を慕ってくれた後輩全員に対してオカズにした事がある。中でもチュチュは一番、近しい後輩で、手元に置いておけるのでオカズにする回数が多いという話。彼女の下着で深呼吸をした時の事を思い出す。彼女の匂いに興奮するというよりも、最低な行為を行っている自分自身に興奮する。
チュチュに嫌われたい訳ではない。
彼女に嫌な想いをさせたくもないのだけど、蔑む視線で見下されながら全裸で土下座する願望を私は抱えていた。
幻滅されるのは良い。だけど、自分から離れて欲しくはなかった。
ほの暗い感情に悶々としていると格納庫に件のチュチュと水星からの転入生が姿を見せる。
チュチュは、妙にやつれた顔をしている。
逆に転入生、マリアンヌは艶のある顔で青褪めていた。
「ニカさん、一刻でも早くエアリアルを取り戻さなきゃ!」
マリアンヌは鬼気迫った顔で私に詰め寄る。
◆
水星から学園までの道中、性行為をする予定がなかった。
避妊薬は性行為用の道具と一緒に段ボールの中に詰め込んでいる事に気付いたのは、チュチュの精子でお腹がぽっこりと膨らんだ後の話。事の深刻さにサアッと血の気の引いた私は「中はやだ! 赤ちゃんできちゃう!」って懇願したのだけど「今更、何を言ってやがる!」と膣の最奥で射精を受ける。子宮に感じる生命の温もりに私は身震いする。パイロット科のチュチュに腕力で敵うはずもなく、レイプ紛いの種付けセックスを強要され続けた。学生出産と堕胎の言葉が頭の中でグルグルと回る恐怖に心を蝕まれながら、だけど抗えない快感に何度も絶頂を繰り返した。
子供とは、愛の果てに作るものだ。快楽を求める私にはまだ子供は早い、私にとってのセックスはコミュニケーションも含まれている。セックスフレンドとは言い得て妙で少し激しめのボディタッチも同然だった。
故にまだ子宮に精液が残る今の状況に焦燥感を抱いている。
昨晩、ニカが集めてくれた情報を基に留置所に足を運んだ。
チュチュは試験の予定があるので付いて来てくれなかったので一人での侵入。だけど考えていた以上に警備は厳しくて正面からの侵入は難しそうだった。留置所前のベンチで悩める私に「君は?」と話しかける者が一人、ペイル寮の筆頭。氷の君と呼ばれるエラン・ケレス。またの名を、百合の間に挟まる男B君である。
彼は、私の不安な心に呼応して、赤く光るデータストームの影響を受けた左脚を冷たい目で見ていた。
彼が出てくるのは物語の序盤、彼に関しての情報は頭の中に入っている。
「スレッタは、貴方が共感を覚えるような人間ではないよ」と伝えた。エアリアル本体は、特別な機体という訳でもない。私自身も先天的にデータストームに強い耐性を持っているだけの普通の人間である事を教える。私は、エリクトの事を思い出し、水星という特殊な環境がデータストームに対する耐性を鍛え上げるのかも知れないね、と付け加えた。
原作でのスレッタが人間的に成長する為には、彼の存在は必要だったのかも知れないけど、今のスレッタに彼の存在は必要ない。スレミオ過激派である私の懸命なブロッキング。しかし彼はスレッタよりも、むしろ私の方に興味を抱いているようだった。
「君は、どうして平気なの?」
パメ焼きはエリクトの愛ですから、なんて馬鹿正直に言えるはずがなかった。
◆
査問会を終えて、ミオリネはスレッタの居る留置所に一早く駆け込んだ。
自分のせいで巻き込んでしまった彼女に責任を感じていたのもあるし、純粋に心配もしている。ベネリットグループという政治闘争の中で生きていた彼女は、他人の悪意に敏感で、だから純粋なスレッタには少なからずの好意を抱いている。ミオリネは、自分の言動には責任が伴っている事を少しずつ理解していた。自分の意志とは関係なく、巻き込めば、相手に多大な迷惑を掛ける事になる。それが分かったからミオリネは、スレッタを守る為に全力で動く。それが彼女の責任の果たし方だった。
査問会で決められたのはグエルとの再戦。エアリアルの廃棄処分、スレッタの退学を賭けた決闘だ。
経営戦略科であるミオリネにはパイロットとしての腕前はない。
故に彼女が出来るのは此処まで、この先はスレッタに委ねる他にない。
半ば怒鳴り散らすように告げられた言葉。
スレッタは臆しなかった。ミオリネの方を掴んで問い返す。
「メリーさんは今、どうしていますでしょうか!?」
ミオリネは形式的とはいえ、花嫁である自分よりも友人を優先するスレッタに少しだけムッとした。
「兎も角、絶対に勝って。あんたの退学と、私の結婚が掛かっているんだから」
決闘の準備期間、執行猶予という意味合いも込めてスレッタは留置所から解放される。
留置所の控室に向かう道中、無重力空間の廊下。
壁に設置された移動パネルに手を添えての移動中、スレッタはミオリネから視線を逸らしながら告げる。
「嫌、です」
「はあ!? 一緒に戦う流れでしょ!?」
苛立ち混じりの言葉にスレッタは真正面から彼女を見つめ返す。
「私、結婚する人は決めています!」
ミオリネは、既にスレッタに恋人が居た可能性が抜けていた事に気付いて頭を抱える。
別に人の趣味に文句を言う訳ではないが、こんな眉太でどん臭そうな女を好きになる男って誰なのよ。
……少し身形を整えてやれば、形にはなるか?
スタイルは良い、性格も良いはずだ。
愛嬌もある気がする。
それって恋人の居ない私には可愛げがないってことか、ああん?
「色ボケ」
ミオリネは嫉妬混じりの言葉を返し、まとまらない頭で彼女に背を向ける。
「別に良いじゃない、嫁が二人以上が居たって。大企業のお偉いさんなら愛人の一人や二人、どーせ抱えてるわよ」
不愛想な父親を思い出す。
「……都会って進んでいるんですね」
「形式的には、レンブラン家への入り嫁か入り婿って事になるでしょうけどね」
「えっ、それって駄目じゃないですか!?」
「どーせ、全員で同じ苗字になるんだから良いじゃない!」
「……えっと? ええっと?」
混乱するスレッタに背を向けて、ミオリネは大きく溜息を零す。
どうしてこんなのに自分の運命を託すことになったのか。
彼女の事なんて放って、地球に逃げれば良かったかも知れないと少しだけ後悔した。