煉星姫シリウスのヒロピン 作:総武高校文芸部
いまだ残暑を感じさせる夜中のことだ。
森の中を歩く女子高生の姿がある。
腰まで届く煌びやかな銀髪で、膝よりずっと短いミニスカートから美しい素足を見せているのは、こんな場所には似つかわしくない美少女だった。
長袖のスクールシャツは肘の辺りまで折っていて、襟のボタンをはずし、黒いネクタイも緩めていた。
宝石のようなものが付いたチョーカーをしている首筋には汗が流れており、どこか疲れを見せている。
「あっつぅ… 早く帰ってシャワー浴びよっと…」
彼女の名前は如月火煉、普通の女子高生でありながら。
それと同時に、『煉星姫シリウス』という変身ヒロインでもあった。
復讐のためとはいえ街に巣食うディザスターを討伐し、人々を守っている。
何年も変身ヒロインをしてきて、その実力も確かなものだ。
彼女からすれば、今回のディザスターは雑魚だったけれど。
「それにしても、最近多いな…」
彼女はずっと1人で戦っている。
ピンチになったり、ケガをしたり、最悪の場合は女子として辱めを受けたり。
そういうことは何度もあるけれど、それでも戦い続けていた。
変身ヒロインであろうと、彼女も1人の人間であるのに、その精神力は凄まじいものだろう。
「はぁ~ またか……」
こちらを待ち構えている気配を感じ、気を引き締める。
どのディザスターも能力を持っており、油断はできない。
「変身!」
変身アイテムであるチョーカーに指を添えてそう叫ぶと、火煉は光に包まれる。
「煉星姫シリウス!」
光が収まれば、そこには赤髪ツインテールの変身ヒロインの姿があり、決めポーズをしながら名乗った。
白いレオタードと赤いスカート、同じく赤いグローブやロングブーツを身に着けている。おへそもくっきり見えるほどにフィットしており、胸元が空いているため、その発育のいい胸が主張されていた。
そんな胸元には宝石のようなコアがあり、全身へエネルギーを送っている様子が輝いていて見える。
「ふふっ、似合ってるよ」
そう言って地面に降りてきたのは、金髪のポニーテールの少女だ。
褒められても全く嬉しくない火煉は睨みつける。
何より、少女の服装は火煉にとって慣れ親しんだものだったから。
「趣味が悪い」
その長袖のスクールシャツや、ひざ丈の黒いミニスカートは、火煉が通っている学校の制服そのものだ。
「ボクはルベラ、よろしくね?」
綺麗な赤い瞳を向けて、にこりと微笑んでいる少女は、煉星姫シリウスの正体を知り尽くしている可能性が高い。
「よろしくするつもりはない。さっさと終わらせてやる!」
いまだ戦闘態勢を取っていないディザスターに対しても容赦なく、火煉は地面を蹴って向かっていく。
その勢いのまま、炎を纏わせた拳を繰り出す。
豪快な音を立てて直撃した。
そのはずだった。
「っ!?」
「それ、自分は熱くないの?」
黒い影でできた壁に阻まれていた、
さらに、まるで腕が食べられていくかのように、影がまとわりついている。
「このっ!」
空いている腕はまだもう片方ある。
振りかぶった腕を、一気に振り下ろす。
さっき以上にエネルギーを込めていたためか、爆発が起きる。
右腕も自由になり、火煉は一度距離を取った。
「ハァ… ハァ…」
いまだ戦いは始まったばかりなのに、すでに火煉は肩で息をしている。
炎によって周囲の温度が上昇し、さらに大量の汗をかく。
それに、連日の戦闘が知らず知らずのうちに大きな負担になっていた。
「暑い… これだから夏は嫌いなのよ…」
夏の暑さと忙しい日々が、彼女の体力を着実に奪っていたのだ。
ぴっちりとしたレオタードが火煉の肌に張り付いて、心なしか透けているようにも見える。
「なるほど…」
最近頻繁にディザスターが襲ってきた理由を、火煉は察した。
「あのディザスターたち、あなたの仕業だったのね」
「正解~」
火煉が振り向けば、ルベラが涼しい顔をしてパチパチと手を叩いていた。
「雑魚なディザスターでも、塵も積もればなんとやらってやつだよ」
「合理的で腹立たしいわね…」
実際に火煉は、たとえどんな雑魚でも見てみぬフリはできなかった。ディザスターの相手の度に変身しなければならないし、エナジーも無限ではない。逃げようとするディザスターを追いかければ、それだけで体力を無駄に消耗させられる。
夏の朝は無駄に日の出が早く、昼間は蒸し暑い学校に通い、比較的涼しい夜にもディザスターに呼び出され、満足に眠れてもいなかった。
心の中で火煉は考える。
『どうにか早めに決着をつけないと』って。
コアの光も弱まっており、額の汗が彼女の集中力を奪っていた。
相手は奇策を使わなければ自分に勝てない少女だ。
だから強化形態にならずとも決めきれると。
「くらいなさい!」
拳に大量のエナジーを集めて勢いよく殴りつける。
巨大な炎の弾丸がルベラに向かっていった。
だが。
「そん、な……」
「ん、ごちそうさまでした」
更に巨大な影によって、爆発する前に吞み込まれてしまった。
まるで動物のように影がモグモグとしている姿は火煉を苛立たせる。
遠距離攻撃は通用しないと思い、拳を握り込んで近づこうとしてしまう。
「えっ、なにっ!?」
足首が握られていて動けないことに、火煉は思わず下を見てしまう。
「まずっ……ッ!!」
戦いの最中に大きな隙を見せてしまった。
慌てて顔を上げれば、ルベラの指が目の前にあった。
額をペチンと指でつつかれる。
いわゆるデコピンというやつで。
「バカにしてるの!!!」
さすがの火煉でも冷静さを失ってしまった。
ほぼすべてのエネルギーを解放して攻撃を行ってしまう。
目の前の少女の姿が一瞬で消えるのにも関わらず。
「しまった……」
周囲の木々を吹き飛ばしたが、火煉自身が無駄な攻撃だったと自覚している。
膝をつき、地面に両手までついてしまい、あごから汗がポタポタと落ちる。
そんな自分の姿が悔しくて歯噛みする。
「…もう…エナジーが……」
「影の中に隠れて移動、さっき使ってたのに」
ルベラが背後を取った時にも使っていた。
それを指摘されたことで、火煉はさらに悔しい表情を浮かべる。
「あのシリウスに勝っちゃった? ボクって天才かも?」
見た目からして自分よりずっと幼い少女にいくつも罠をかけられ、まともな戦闘もさせてもらえず、エナジーを消費しただけで自滅してしまい、そして煽られる。
その悔しさをバネにして、火煉は地面を叩いて立ち上がろうとする。
『まだ負けてない!』って心の中でつぶやいて。
「くっ… なにを……」
そんな火煉の手首に影がまとわりついてきて、身体が持ち上げられていく。
「どこまで…私を……ぁぐ……」
まるで釣り竿に釣られた魚かのように、火煉は無防備な姿のまま宙吊りにされる。
いくら変身ヒロインであっても、自分の体重で引っ張られ、肩に酷い痛みが生じた。
ブーツが完全に地面から浮いているため、腕を動かしづらい。
身をよじって暴れようにも、余計に体力を消耗するだけだ。
「ピチピチしててお魚みた~い」
「ぁああ!!」
火煉は激昂するように睨みつけた。
怒りでますます頬が赤くなっているようで、ルベラからすればさらに愉悦できる光景だろう。
「それにしても火煉らしい、かわいい衣装だよね」
「な、なにをっ!!」
火煉はスーツの脇腹を撫でられ、身体がビクッと跳ねる。
レオタードに包まれているとはいえ、スカートの裾だってたくし上げられる。
「さわるなぁ…!」
ただでさえ熱くて火照った顔が、羞恥に染まる。
「えー、これからが楽しいのに~」
抵抗するべく、身をよじると同時に肩に痛みも生じる。
『悔しい悔しい悔しいッ!!』
火煉の瞳からはほんの少し涙がこぼれ始めていた。
「もう…ゆるさない……から!」
火煉は、残りのエナジーをコアに集めようとする。
後先のことよりもこの状況を打開することを選んだ。
「はぁぁぁ!……ひゃぅ!?」
火煉は色っぽい声を出してしまい、その集中力も途切れてしまう。
「な、なにを!?」
胸元のコアが、影に包まれており。
スカートの中には、手のひらが伸ばされていた。
「大逆転なんてさせないからね?」
「…ん…この……やめ…なさい……」
火煉は頬を真っ赤にしながら、潤んだ瞳で睨み付けようとするも、そのような表情では全く威圧になっていない。
エナジーを奪われる感覚と、指でこすられる気持ちよさと、同時に味わうことになっていた。
それぞれの動きがだんだん激しくなっていき。
「ぁ……ぁ……ぁぁん!!」
「うひゃぁ!? 早すぎぃ!」
指が湿った感覚に、思わずルベラは手のひらを引っ込めた。
いまだコアを影に包まれてエナジードレインは行われているが、ようやく見せた隙だ。
「ん…ぅ……ハァハァ……」
それでも火煉は動けなかった。
快感によって一時的に意識が飛んでいたからだろう。
「あぶなかったぁ」
「やめ……ろ……」
指についた愛液をスカートで拭かれ、手持ち無沙汰になった手のひらは、次に胸へと伸ばされた。
「ボクは真正面からの戦闘って苦手なんだよね」
上下左右に動かされることに火煉は歯噛みしながら、ルべラの話を聞くことしかできない。
「でも火煉のエナジーを貰って、シリウスの力が使えるようになれば、きっと強くなれるよね?」
「そんなこと…できるわけ……ひゃぅ!?」
火煉の否定が気に入らなかったらしく、レオタード越しに乳首をつままれることで、またもや色っぽい声を出してしまう。
「この、いい加減に……ぁぅ……」
「ねぇ、まだやる気みたいだけど、気づいてる?」
そう言ってルベラは、火煉のツインテールを手のひらに乗せて顔に近づけた。
「そんな、もう……」
「意外だった?」
変身した時は髪が赤色なのに、先端から少しずつ元々の銀色に戻ってしまっていた。
「ま、まだ、おわってない……」
どうにか絞り出した火煉の声は震えていて、変身が解けてしまえば無力な女子高生だって、彼女自身が最もよく分かっている。
「だねー だって、まだエナジー残ってるもん」
「きゃっ……ぁぐっ……」
宙吊りから急に降ろされ、火煉は地面に叩きつけられた。
ルベラに見下ろされながら、なんとか立ち上がろうとする。
『なんとか勝機を見つけなきゃ』って、その精神力の強さを見せていた。
しゃがみこんだルベラは、指で火煉のグローブをつまんでみる。
「これ取れるのかな?」
「なにを…バカなこと言って……!?」
コスチュームがボロボロにされたことは何度もある。
だが、するりとグローブが抜き取られることなど初めてだった。
「まさか…そこまでエナジーが……」
「なるほどね」
今の火煉は片腕だけグローブを身に着け、もう片方は綺麗な指を見せていた。
目の前のディザスターに奪われ、しかも身に着けているのが見た目が少女なのでブカブカだ。
自分の変身ヒロインとしてのコスチュームの一部が、まるでコスプレの服のように扱われてしまっていて、火煉は相当の屈辱を味わうことになっていた。
「そうと分かったら、それ~!」
「っ!? やめなさい!?」
まずは両腕や両足に影が絡みついてきて、残ったグローブやブーツだけでなく、スカートやハイソックスまで、火煉からどんどん奪われていく。
「やめ……んぅ……ぁぁ…!」
エナジーを消耗した火煉では、されるがまま受け入れるしかない。
「かはっ…」
そして、まるで食べ物の残りを吐き出されるように、再び地面に背中から落ちることとなった。
「おぉ、なかなか可愛い恰好になったね」
ルベラが見下ろされながら、汗だくの火煉は無防備な姿を晒しながら、たわわに実った胸が上下している。
「ハァハァ……そんな……」
火煉は首だけ曲げて、今の自分の姿を確認し、恥ずかしさと悔しさで顔がさらに熱くなる。
「ぅう……」
月に照らされた白い素肌や素足は汗で湿っていた。
ハイソックスまで奪われたことで、マニキュアを塗った爪すらしっかり見えている。
衣服で残されているのは真っ白なレオタードだけで、それを守ろうと身体を抱きしめた火煉の姿は、ただの乙女のよう。
そして、ノースリーブで綺麗な素肌を見せていることで、白いスクール水着を着た女子高生のようでもあった。
「くやし…い……」
攻撃を受けて敗北したわけではない。
獣のようにディザスターに犯されたわけでもない。
ただただ自滅して消耗したところから、エナジーを奪われ、コスチュームすら脱がされてしまった。
ツインテールは維持しているけれど銀髪に戻ってしまっていて、胸元のコアは赤く点滅している。
「んー、ダメだなー」
いまだルベラは火煉の力を自分のものにはできていないようだ。
火煉が顔を上げれば、普段は身に着けているグローブやブーツが視界に入る。
「かえ…せ……」
取り返そうにも、変身前よりも力が出なかった。
今の彼女に残されたのは、汗と泥で汚れているレオタードを維持するエナジーだけだ。
「やっぱり全部取ろうかな?」
「ぁ……ぁ……やめ……」
再び自分を取り込もうとする影に、火煉は怯える。
もちもちの胸がむにゅっとつぶれるくらい、コアをぎゅっと握りしめて、残されたエナジーを守ろうとする。
それでも影は迫ってくる。
そんなとき。
「だ、ダメ……だめ…… ぁあ!?!?」
火煉の身体が光に包まれた。
「解け…ちゃった……」
ディザスターの目の前で、変身解除してしまったのだとすぐに気づく。
ツインテールからロングの髪型に戻っていて。
レオタードの代わりに長袖のスクールシャツを着ていた。
シャツはすぐに肌の汗を吸収してしまって、下に着ていたキャミソールが透けて見えてしまっている。
「え~! こっちまで消えちゃうなんて~!」
ルベラが身に着けていたグローブやブーツも消えていて、さすがに火煉の力を掌握できなかったのだろう。それに、奪われたエナジーも次第に失われていくはずだ。
『今のうちに逃げないと』って、火煉は肘を地面に立てるように身体を起こし始めた。
次に会うときは復讐してやると誓って。
なんとか立つことができたとき。
「なんで逃げれると思ったの?」
「きゃあ!?」
大きな胸を押されたことで、力なく火煉は尻もちをついてしまう。
いつの間にか、目の前にはルベラが顔を近づけてきていた。
「火煉は負けたんだからさ」
そう指摘された通り、変身解除させられて、女の子座りのまま見上げるしかない火煉は、誰が見ても敗北した変身ヒロインだろう。
「そんなのっ!」
それでも『負けたなんて認めてやるものか』と、火煉は気丈に振る舞う。
煉星姫シリウスとしての力に興味のあるディザスターだ。
エナジーが空っぽの状態の火煉には手を出してこないだろうと予想する。
どちらにせよ今の火煉ではまともに戦えず、ルベラが諦めてくれるのを待つしかない。
「どうしたらシリウスの力をボクが使えるのかな?」
「私が知るわけがないでしょう!」
油断していただけだなんて言い訳するつもりもないが、次に戦うとすれば、必ずこのディザスターを殺してやるという気概を見せる。
「だったら」
「くっ……」
火煉は、ぐっと唇に力を入れてこらえる。
銀髪すくうように弄ばれたとしても、ルベラを睨み続けた。
「これを借りていくね」
チョーカーに手が添えられてしまった。
火煉にとっての変身アイテムであり、それだけは奪われてはならない。
「やめ……」
叫ぼうとした火煉の唇が、ルベラの唇によって塞がれた。
『噛んでやる』って思っても、空っぽにまで奪われたエナジーどころか、生命力も吸われてしまっているようだ。
「ぅ……んんん……」
身体を押しのけようとしていた火煉の腕は力なく下がってしまい、『やめて』と言わんばかりに、声にならない声を出すだけだ。
カチャッという音が聞こえてきて、火煉は青ざめた表情を見せた。
「げほっ…げほっ… かえしなさい!!」
声を荒げながら火煉は手のひらを伸ばす。
大切なチョーカーは、興味深そうに見られ、指で弄ばれている。
そんな光景を見せつけられている火煉は、まるで自分自身の身体が辱めを受けているかのように錯覚するほどの屈辱を味わっていた。
「頼み方があるんじゃない?」
火煉は恥ずかしさと悔しさによって限界を迎えてしまったらしく、瞳からは大粒の涙を流してしまう。
「か……かえして……ください」
ミニスカートの制服の女子高生が、地面に正座をして、土下座をする。
そのシャツの背中は、汗によって透けたキャミソールが目立っていた。
今まで様々な屈辱を耐えてきて、逆転してきた火煉だ。
しかしエナジーどころか、変身アイテムまで奪われてしまったことで、完全な敗北を認めるしかなくなり、さすがの彼女も弱気になってしまっていた。
「だーめ、借りるって言ったじゃん?」
「い、いつ…返して…くれますか……」
大粒の涙を流しながら、返してほしいと懇願する。
変身アイテムがなければ、目の前のルベラだけでなく、ディザスターたちと戦うことすらできないから。
最初から力がなかったのならこんな屈辱を味わうことはなかっただろう。
だが、何年も戦ってきたからこそ、力を失うことを恐れていた。
「んー、学校で返すから、ちゃんと来てね?」
それだけ告げて、ルベラは去っていく。
『待って!』と必死に火煉は手を伸ばすも、虚空を掴むことしかできない。
「……うぅ……」
夜の蒸し暑い森の中で、『ぐすん…ぐすん…』という嗚咽が聞こえ始める。
泣いている火煉には目立った傷はない。
しかし、完敗して、プライドもズタズタにされて、エナジーどころか、変身アイテムすら奪われてしまった。
チョーカーがあったはずの首筋に触れるも、そこには汗が流れているだけだった。