「・・・・と、いうわけで私は今ここに居るのです!終わりっ!ちゃんちゃん!」
こいしはまるで壮大な
「あら、そう。」
私は大変だったわね。とか辛かったでしょう。とかいう安上がりな言葉を一つも言わずにただこいしにそう返した。
「あらそう。ってなによーそれ!」
「別に。あなたは古明地こいしという人生であり私は古明地さとりという人生、ただそれだけのお話よ。」
「もっと感想とかないの?こう、感動したとか悲しいとかせつなーいとか胸がきゅーんとしたとか!?」
「無いわね。それに、人生っていうのは他人が簡単に感想を述べていいものじゃないの。」
「私とお姉ちゃんは他人なわけ?」
「違う。立派な姉妹よ。」
「う〜〜~ん?なんだか
「それでいいじゃない。こいしらしいわ。」
私はそう言って右手を丸めて口元へ持っていき、ふふっ、と軽く笑った。
「お姉ちゃん今適当に言ったでしょ。姉妹だから分かるんだよ!?」
「そうね。適当に言ったかもね。」
「んもぅ!お姉ちゃんってばさっきから意地悪すぎだよ!いいもん、また開いた私のこの第三の瞳でほんとの、、、あれ?」
こいしが自らの身に何か違和感を感じるような不穏な口調になった時、私はこいしと同時にその違和感の正体に気が付いてしまった。
こいしの開き切った緑色のサードアイ、第三の目はいつの間にか以前の様に紫色に変化し、その瞳もまた以前の様に深く閉ざされていたのだった。
「あれれ、また閉じちゃった・・・私って、本当に弱い子だなぁ・・・・。」
「・・・こいし。」
こいしは瞳の閉じた紫色の第三の目を両手で握りしめながら、おそらく無意識のうちに涙を両目からぽろぽろと流していた。
私はそれを見てすぐにこいしの側まで寄り添い、そのままこいしを強く優しく抱きしめる。
「そうね。弱い子ね・・・でも、私はそんな弱い子なこいしも愛してるわ。」
「お姉ちゃん・・・・。」
こいしは私の抱擁に負けないくらいに強く、ぎゅっと私を抱きしめ返して嗚咽を漏らし始めた。
「こいし。弱いっていうのは優しいって意味でもあるのよ。」
「優しい・・・?私が?そんなわけないよ。だって私、いっぱい間違えたし救えなかったし、殺したりもした・・・・私は優しくなんかない、私は人間なんかじゃないの。」
「それは過去のお話。過去は消えないし消せない、だけれど今はどうとでも作っていけるし人は望めばどんな自分にでも生まれ変われるわ。それとねこいし、あなたは自分の昔話に出てきた大切な思い出たちを愛しているからこそこうして涙を流せるのよ。だから私はこいしに何度だって飽きるくらいに言ってあげるわ、こいしは愛のある優しい人間だってね。」
こいしは私のその言葉を皮切りに
私はそんなこいしをただ、ありのままに愛し全力で肯定して体でも心でもこいしを受け止めてあげた。
「思い切り泣いちゃいなさい。」「愛しているわ。」「大丈夫。私がずっと傍に居るから。」
私の口からこいしを想う言葉が無意識にぽんぽんと出てくる。
全て私の本心であり、全て私のこいしへの愛だ。
そうしていくうちに、思いの丈を全部吐き出すことが出来たのかこいしはゆっくりと全身で深呼吸をするかのように肩を上下に揺らし、それでも変わらずに私の胸の中に顔を埋めて私に甘え続けていた。
私はそんないつになっても甘えん坊な妹の頭を優しく丁寧にいつまでも撫でてあげた。
「・・・少し、落ち着いたかしら。」
「うん、落ち着いた。ありがとうお姉ちゃん。」
「どういたしまして。また何かあればいつでも遠慮なく私に飛び込んできなさい。全力で受け止めてあげるわ。」
私は少し覇気のある
「ふふっ、お姉ちゃんのそういうたまに面白いとこも大好き。」
「そう、なら良かったわ。でも超クールだった私を面白くしたのは一体どこの誰かしらね?」
「ん~~~私?」
「正解。こいしのおかげで万年品行方正だった私もほんのちょっと柔らかくなれて、今はこいしとこうやってくだらないこともそうじゃないことも素直に話し合えるのがとても嬉しくてしょうがないわ。だから私からもありがとう、こいし。」
「どういたしましてっ!!!」
私とこいしは初心の頃の様に純粋に素直にお互いを見つめ合って笑った。
すぐそこに居て何気ないことでも言い合える絆と、お互いの身体を強く優しく抱きしめ合うという心を体現化した行為は私達姉妹にこの世の何にも変えられぬような幸せをもたらしてくれた。
「あったかいね。」
こいしが私の体を抱きしめながら私に顔を上げ、笑顔でそう言った。
「うん。そうね。こいしと一緒だとあったかいわ。」
「お姉ちゃん。」
「何?こいし。」
「愛してるよ。いつも私を気にかけてくれてありがとう。これからもずっと、よろしくね。」
「当たり前じゃない。こちらこそずっと永遠によろしくだわ。それからねこいし、あなたのこと心から愛しているわ。」
私は素直に、ただ自分の心の真実の声に従ってそう言った。
「私も。」
こいしはそう一言だけ言ってくれた。
それは紛れもない心の真実の声のイントネーションであった。
「ねぇ、お姉ちゃん。もしも私がどこかにふらふら無意識に行っちゃってもお姉ちゃんは私のこと見つけてくれる?」
「もちろん。最初にこいしに会った時みたいに秒もかからず見つけてやるわ、姉ですもの。」
「そっかー。それなら本当に良かった・・・・。」
そう言ってこいしは自分の顔に付いている二つの緑色の瞳を閉じ、眠るようにして私の胸元に優しく寄りかかり、私はそれを
そうして、私もこいしと同じように自分の顔に付いている二つの薄紫色の瞳を閉じ、赤い第三の目を使うことも無くただ妹と同じ暗闇の中でこいしの体温と心音を在るがままに感じ取る。
今はこれでいい。
今はこれだけで、私とこいしは繋がれるし通じ合えるのだ。
幸せね。こいし。
そしてしばらくすると不意に、ふっ、と自分の体が軽くなったのを感じて私は閉じていた目を開ける。
自分の体が軽くなったというより、目の前に居たはずのこいしはもうすっかりとその姿をまるで私が最初から幻でも見ていたかのように、消えるようにして居なくなっていたのであった。
「まったくもう、あの子ったら。」
私はふぅ、と若干困り顔のような表情で笑みを浮かべながら一人、執務室へと残される。
いつだって神出鬼没で天真爛漫でいたずらっ子で可愛くて優しい心を持った私の妹、古明地こいしはこれだから愛しくてしょうがない。
私はそんなこいしへの愛の感情とつい先ほどまでのこいしのぬくもりの余韻に浸りながら、しばらくして「さて、続けましょうか。」と言って書類整理の仕事に戻ろうとしたが、私の視界の隅に数冊の本が映り、そういえば、とこいしが本棚にぶつかった時に落下した数冊の本を先に片付けるために腕を伸ばしそこでぴたりと手を止めた。
「・・・・。」
そして私は床に散らばった数冊の本の内の一冊、こいしがたった数秒だけれどもかなりの意識的な視線を送っていたとある本を手に取った。
その表紙には、「無意識の哲学 著:エドゥアルド・フォン・ハルトマン」と書かれており、実在したドイツの哲学者の難解ながらも人の真理に辿り着いたような内容が書かれている本であった。
私はそれを見て想った。
決して面白がったりいたずらに言うつもりはないけれど、もしもこの世界、もしも地霊殿も旧地獄も幻想郷もその外の世界も関係なく隔たりもなく「彼女」という存在をこの世に題するとするのなら、それは・・・・・
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「ハルトマンの妖怪少女。」
私は地霊殿の屋敷に背中を向けながら、お姉ちゃんに言うでも誰に言うでもなく独りでそう呟いた。
意識があるからこそ得ることができた有償の愛。
無意識だからこそ辿り着くことができた無償の愛。
私だけが知る大切な思い出と恋心。
例え汚泥を這いつくばってでも今だに存在し続けたいと言う私のエゴ。
無意識という名前の、私だけにしか知り得ない哲学。
それら全てが私の意識と無意識に帰結して、「心(わたし)」が産まれるのだ。
「さてと、今日はどこに遊びに行こうかな~♪」
私は無意識のうちにこの愛すべき全ての世界に一歩足を踏み出していた。
【完】