シルヴァリオ ディアボロス~ハイスクールD×D銀月譚 作:グレン×グレン
《樹下誠二》
本日、打ち合わせでリアス先輩と一緒に会議に出る秀華の指示もあり、俺たちは旧校舎のほうに差し入れを届けに来た。
なんでも、イッセーのお得意様にギャスパーを体験で連れて行ったら男の娘萌えタイプだったらしい。リアル男の娘にやばいレベルで興奮されて、ギャスパーは反射で神器を発動。結果としてトラウマが呼び起こされたのかまた引きこもったと。
ふむ。イッセーのお得意様は確かに気のいいやつが多い印象だが、同時に変人も多い印象がある。ちょっと人選ミスではないだろうかと思ってしまうな。
というわけで、秀華も友人として気に入っているリアスのことを思っていろいろ動いている。動いているのだが―
「なぁ、やっぱり色仕掛けでスイッチ入れるのは荒業過ぎないか? しかもVRゴーグル使って酒池肉林状態の映像を流すとか、性癖確実に歪むぞ?」
「そこはそうだね。人間、初体験って性癖に絶対影響するし」
流花さんが俺のボヤキに同意するが、やっぱり荒療治過ぎるだろう。
あいつ、トラウマ系列はエロパワーを利用して乗り越えればいいと思ってないだろうか?
「実際問題、私たちも四年かかってここまでこれたものね。ひきこもった理由が理由だし、やっぱり年単位でスケジュールを組むべきでしょう」
海砂さんがそういうのも当然だろう。
大雑把なところは俺たちも把握している。
ギャスパー・ヴラディ。吸血鬼という種族において名門よりかつ太陽光の悪影響を受けにくいハイデイライトウォーカーのヴラディ家。そこで生まれたハーフヴァンパイア。
だが吸血鬼は、悪魔を超える純血主義の貴族主義。人間との混血というだけで、迫害することが珍しくもない種族だと聞いている。
加え、時間を停止する神器を持っていたうえに制御が困難だったことも大きい。
見下す対象が時間をランダムに停止してくる。これを危険視するのはおかしなことでは断じてない。少なくとも、追放するという手段をとるのは想像が簡単にできる。
そしてヴァンパイアハンターに襲われて死にかけたところをリアス先輩に助けられて悪魔になった。だが、それでも制御できなかったことから封印措置が取られることになった。
ギャスパー自身、時間を停止させることに強い忌避感を持っており、また悪魔になるまでの過程から対人恐怖症君になったことから、自発的に引きこもって今に至る。
どう考えてもPTSDとかそういうのだ。専門の治療機関に助けを求めるのが打倒だろうに。
「悪魔社会には心療の類が広まってないってことか。勘弁してほしいぜ」
「そうね。こういうのって、文化の違いが大きいのかしら」
俺がため息をつくと海砂さんも大きく頷いていた。
本当に、心の問題は大切だろうに。
悪魔の古い貴族が主導権を握っているからだろうな。さらにギャスパーの神器を考えると、直接接触をしない形でする必要もあるからややこしいだろう。
ふぅ。そういう意味だと、俺は日本に生まれてよかったよ。
異能側は古い連中も多くて大変だが、民間よりなら基本的に恵まれた側だ。いろいろ文句を言っている奴がいるが、そういう連中が比較対象にしているのはさらに上を行く別々の国家でしかない。総合すれば日本以下や同程度の国家のことが多いし、全体で見れば下の国家のほうが大きいだろう。
きちんと調べられる程度{調べることすらできないやばい国もある}の国家の中から、国家として大問題な度合いを探る不名誉極まりない脆弱国家ランキングとかをまず見てほしい。日本は頂点争いどころか、ランキングとしては下の中がいい所。総合的にいい国だと世界的に認定されているって理解したほうがいいと思うんだが。
ま、話はそれたな。
とはいえだ。秀華提案のエロ方式は最終手段だ。絶対になんか大事なものが歪むし。
ま、当人も「使うかどうかはそっちの判断でねー」なんて言ってたし、本当に最終手段として提示して責任はとるというスタンスなんだろうが。
それにまぁ、俺もある程度は考えているから何とかならないこともないだろう。
そんなこと思いながら旧校舎に入ると、なんか談笑らしく声が聞こえてきた。
「ん?」
海砂さんが首をかしげているが、声の雰囲気からするとイッセーと木場だな。
部屋を見つけてはいると、実際にイッセーたちが和やかな雰囲気だったし。
「よ、イッセー。差し入れ持ってきたぞ」
「お、樹下! ちょうどいい所……って旗本さんと吹本さんもいるのかよ!?」
何をぎょっとしている。ぎょっと。
イッセーはめっちゃ驚いてから、なんか肩を落とした。
「こ、これから男同士で性癖を語り合う猥談をしたかったのに」
「……なんかすまん」
複数人で来てしまって本当にスマン。
そしてさらにスマンが、それはまずかったりする。
「性癖の猥談? う~ん。私は―」
「言わんでいいから! 普通の男子高校生は女子に猥談降られても困るから!」
流花さんが乗ってしまったので、素早く止める。
こうなるんだよ、俺たちの場合。
いや本当に危なかった。ややこしいことになるところだった。
「……まぁ、別に猥談をしなくても話ぐらいできるでしょう。ほら、差し入れにお菓子とか持ってきたから」
「ありがとうございます。お茶を用意しましょうか?」
海砂さんがお菓子の袋を置くと、木場が立ち上がろうとする。
だがそれより早く、海砂さんは袋の中から冷えたジュースの瓶を取り出した。
「そういう気遣いも大丈夫よ」
ま、この流れは予想済みだからな。大丈夫大丈夫。
それはそれとしてだ。
「ま、とりあえずギャスパーだな。ほら、ジュース飲め飲め」
「は、はいぃいいい! その、知らない人が多いですぅううううう!!」
ビックンビックンしているな、ギャスパーの奴。
だがその時、ギャスパーがそっと抱え上げられた。
「ふえ、えぇ!?」
「はい、振り返らないで」
慌てるギャスパーをなだめながら、流花さんがそっと膝の上にギャスパーを乗せる。
そのまま軽く抱きしめると、そっと頭をなで始めた。
「大丈夫大丈夫。とって食べたりしないから」
「なるほど。視界に映ったら止まるのなら、視界の外側でコミュニケーションを取ればいいと。シンプルだけどいい発想ですね」
木場が感心しているが、こういうことを流れるようにできるのが流花さんのすごいところだ。
俺も相応の暗殺者的な訓練を受けさせられたが、この流れるような動きはなかなかまねできない。
「……くっ! ギャスパーが、ギャスパーがうらやましい!!」
「あなた、私たちにパイズリまでされてるのに嫉妬する?」
イッセーが涙を呑んで悔しがっているのに、海砂さんは若干呆れ気味だ。
そして軽くため息をつくと、ジュースを一口飲んでから立ち上がった。
「ま、こういうのは人慣れしたほうがいいし、私も一つ魅せてあげるわ」
お、これはいいこと聞いた。
「イッセーに木場、ちょっと黙っとこうな。ギャスパーも目を閉じとけ」
「え、あ、はい……?」
暴発阻止を考えてギャスパーに目を閉じるように指示。
ついでに俺の考えた策を用意しながら、俺は耳を澄ませる。
そして、ついに始まった。
「……じゃ、まずは一曲」
音楽をスマホを利用して流し、海砂さんが歌いだす。
うん。いつ聴いても上手い。
声もリズムも音程も、全部が見事にうまい。
思わず聞きほれているうちに、一曲が終わる。
「ふふ、久しぶりのいい曲聴けたよ」
「……す、すげぇええええええっ!!!」
俺が小さく笑うと、イッセーは勢いよく拍手する。
続けて皆が拍手を続け、海砂さんはゆっくりと片手をあげてそれに応じる。
うん、こういう手段もあるな。
目を使うことなく楽しめる方法でコミュニケーションをとる。確かにこの方法なら問題ない。
……と、なるとだ。俺の発案もやるしかないか。
そういうことで、俺は一瞬のスキをついてそれをギャスパーにつけるとスイッチを押す。
「え? 何かしまし……あれ、何か変だな」
困惑するギャスパーに、俺は思いついた策を教えてネタ晴らしをすることにした。
「カメラ越しの映像を見るタイプのマスクだ。最近見たアニメに触発され、お前の停止対策に発注してみた」
そう、ゴーグル越しではなく、カメラで撮影した映像を見る形の仮面だ。
直接視界を経由するわけでないのなら、うっかり発動しても相手を停止させることはない。そういう発想の元開発してもらった。まぁ、開発してくれた人には「アニメを参考にしたジョークグッズ」といっているから性能に限度はあるが。
とはいえ悪目立ちがひどいな。これは失敗かもしれない。
「え、え、ええ……あ、仮面を止めちゃったから画像が止まってしまいましたぁあああ!」
「いろんな意味で失敗だったか……っ」
そっちは考えてなかったからなぁ……。
俺が地味にダメージを受けていると、今度はイッセーが考え込んだ。
「う~ん。そういやこいつ、段ボール箱の中に入ってると落ち着くんだよな。ならこれは……?」
そう言いながら、イッセーは紙袋に穴をあけるとギャスパーに渡す。
その結果、紙袋を被ったギャスパーができたわけだが、怖い。
いや、コレ室内が暗いこともあってホラーのノリなんだが。
「ゆ、夢に出そうね」
「目が覚めそう……っ」
「イッセー君、ちょっとこれは……」
海砂さんも流花さんも木場も、さすがに引いている。
ただ、問題が一つ。
「ギャスパー、もしかしてお前……気に入ってないか?」
なんかつけてるギャスパーの機嫌が、心なしかよさそうなことだ。
「えへへ。これすっごく落ち着きます。いい感じですイッセー先輩!」
「そ、そっか。オマエスゴイナァ」
イッセーも軽く引いている。思い付きを試したことを後悔しているノリだ。
実際問題、これが町中を歩いていたら俺が用意した仮面をつけるより騒ぎになりそうだ。最悪の場合警察を呼ばれるだろう。
……ま、まぁ会話の種にはなったから良しとするか……していいのか?
《Other》
「やれやれ。退屈な日常が続くことになりそうだ……そうは思わないかい、雲川麗華」
「そんなに和平が不満か、ヴァーリ」
「戦争が無くなるということは、強い奴と戦う機会が減るということだからね。特に聖書の神が死んでいるのが残念だよ。神との戦い、君なら楽しめるだろう?」
「まぁ確かに、楽しいことは間違いない。……だがな、ヴァーリ」
「なんだい?」
「そういう事態になれば、まず間違いなく多くの民草にとっては悲劇や苦境となる。私は自分が異常であることを知っているものとして、自分の楽しみのために自分から民草を苦しめたいなどとは思っていないのだよ」
「なるほど。面倒なことに縛られるというのも、難儀なものだね」
「仁義と道理の話だ。それを無視するものは、往々にして世界から排斥されるだろう?」
「……なるほど。確かにそれはその通りだ」
「そういうことだ。……変なことをするなよ?」
「ふふ、何か警戒されることでもしたかい?」
「赤龍帝に対する興味が強いのが不安でな。相手にその気がないのに、和平を結んだ組織の者に喧嘩を売るなという話だ」
「なるほどね。まぁ、そのあたりはわかっているさ。立場というのは本当に難儀なものだとね」
「それで? 代表は貴方ということになるの? ……支社長が出るべきでは?」
「これはおかしなことを。アイアンローズの筆頭たるトップエージェントこそ、組織の胃の体現者。裏で補佐をするしか能のない私が差し出がましいことなどできません」
「分かっているさ、支社長。アイアンローズの一員として、あの馬鹿どもにしっかりと突き付ける。これは最大の好機だ」
「分かっています。日本政府の方々や悪魔の皆様にも、これまで培っていた繋ぎがあれば力を貸してくれるでしょう」
「……本当に、どうしようもない連中」
「ん? どうかしましたか?」
「いえ、明日が上手くいくかどうか、不安に覚えたもので」
「大丈夫とは言わないが、やることをやるだけだろうアルトリーネ。あまり期待はできないが、その時は各勢力に協力を求めるしかないだろう」
「そうですねぇ、兵野さん。私たちがこれまで培ってきた貢献があれば、協力は得られるはずです。彼らとて、神器という存在の業は嫌というほど理解しているでしょうし」
「……その自信はどこから来るのかしらね」
「どうした、アルトリーネ?」
「大丈夫ですか、富士野さん?」
「いえ、私はあまり楽天的に考えられてないだけです」
「……はぁ。やっぱり、繋ぎを取ってよかったわ」
「ふ~んふふ~んふ~ふ~ふ~ん♪」
「……相当に機嫌がいいですね。まぁ、私も多少はいいですが」
「悪いね、カテレア殿。待ちに待った機会がようやく幕を開けられそうで、期待に満ち溢れていてね」
「そうですか。さすがにその上機嫌だと気になるけれど、なんですか?」
「最愛の女性と、本格的に全力で殺しあえるんだ! ああ、僕は四年待った……ついに、ついに第一幕だ!!」
「………その、気でも狂ってるのですか?」
「当然! 正気で世界に喧嘩は売れない。そんなものに価値はない!!」
「……まぁいいでしょう。仕事はきちんとしてください。貴方の用意した戦力、期待していますよ?」
「オールオッケー! あ、そういえば英雄派のほうは?」
「何人か、例の戦力を現場で指揮する担当として送り込むそうです。」
「なるほど。後で顔合わせをしておかないとね! ふふ、お茶菓子でも用意しようかな~♪」
「ここまではしゃいでいると不安ですね。まぁ、彼の手引きもあるし大丈夫だと思いますが」
「……あ、その作戦だけど、いざというときのカバー担当を要請していたけど」
「そういえばそうですね。……まぁ、作戦そのものはなかなかの完成度。そこまで不安になることはないと思いますが」
「だといいけど。こういうのって、こっちが一生懸命準備しても相手側の準備や備えでアウトってあるからね~」
「やる気を削らないでいただけません?」
「前提が破綻したときのリカバリーは重要だよ。だからこそ、カバー担当をお願いしたんだしね」
「ふふ、待っていてくれジュリエット。……ようやく、ようやくこの機会が訪れたんだから……」
さて、次回からは会談に突入します。
……結構初手から飛ばすぜぇ?