※この作品はR-18です。

シルヴァリオ ディアボロス~ハイスクールD×D銀月譚   作:グレン×グレン

42 / 232
 はいどうもー! ちょっと遅れているけど投稿のグレン×グレンでっす!

 いやはや。寝不足気味なのかちょっと執筆速度が低下気味で申し訳ない。

 ただまぁ、適度な速度で無理せず続けていきたいので、本編どうぞ!!


第七話 会談、初手から大波乱!?

《兵藤一誠》

 

 

 

 外の様子、ピリピリしてるよなぁ。

 

 なんかいろいろと集まっている空を見ながら、俺は旧校舎の部室で息を吞んだ。

 

 悪魔、天使、堕天使。三大勢力の兵士たちがそれぞれ集まりながらにらみ合ってる。

 

 こ、これが和平を結ぶ会談の護衛かよ。

 

「リアス部長、大丈夫なんですか?」

 

 俺が思わず聞くと、リアス部長も困り顔だった。

 

「確かに不安ね。おそらく警護の人たちは、あくまで表向きの理由で集まっているのでしょう」

 

 なるほど。和平を結んで仲良くしようなんて思ってないのか。

 

 だから敵としてほかの連中を見てると。ようは「こいつら何かしてくるんじゃないか?」とか「殴りてー」とか思ってて、相手もそう思ってると考えてると。

 

 これ、何かあったらほぼ確実にすごいことになるな。この街、吹き飛ぶんじゃないか?

 

 この会談、いろんな意味でちょっとドキドキするんだけど。三大勢力のトップは漏れなく和平する気だし、大丈夫だとは思うけどなぁ。

 

 な、何かあったらリアス部長やアーシア、仲間たちを何とか逃がすぐらいはしないとなぁ。

 

「み、みみみみなさぁーん! が、頑張ってくださいぃいいいいい!!」

 

 ギャスパーが、外の様子を見て震えながら俺たちを応援してくれる。

 

 今回、さすがにギャスパーは連れていけない。コカビエルの時に参加してないし、まだ神器が制御できてないからな。

 

 ただ、それなりの護衛もついてくれるみたいだ。

 

「ま、私たちもフォローするから安心して」

 

「しっかりカバーするから、皆はそっちに集中してね」

 

 吹本さんと旗本さんは、今回ギャスパーの護衛側だ。

 

 あと、松森さんとフロージアさんも今回は外で待機。小笠原さんもそっちに回ってる。というより、祓魔庁との連携らしい。

 

 あまりたくさん入れると、余計な警戒心が出るかもしれないって感じだ。ただ、祓魔庁の人たちが事務所のほうに集まっていて何かあったら駆けつけてくれるって話らしい。

 

 で、会議室に俺たちオカ研と一緒に来るのは樹下と秀華先輩、そして空本さんだ。

 

 メンツを絞って向かわせるって感じらしい。

 

「んじゃリアスちゃん。そろそろ行こっか」

 

「そうね。ちょうどいい時間みたいだもの」

 

 秀華先輩とリアス部長が話しあい、俺たちは本校舎の会議室に向かう。

 

 ……やっぱり、外がピリピリしているなぁ。

 

「大丈夫かな、この会談」

 

 俺はちょっと不安になってるけど、木場達も緊張感はあるけどまだ落ち着いてる。

 

「三大勢力トップは、全員が和平を結ぶつもりだしね。日本政府がとりなす形だし、内側のリスクはほぼないよ」

 

「懸念点としては、アイアンローズの連中だな。各勢力の会談に、規模が大きいとはいえ傭兵組織が介入って何考えてるのか」

 

 樹下も気にしてるけど、アイアンローズって何考えてんだろうな。

 

 やっぱPMCって感じだから、和平が結ばれると食い扶持が無くなるって警戒か? でもアルトリーネさんはいい人だったしなぁ。人間界での活動も困ってないだろうし。

 

 ちょっと気になるけど、そこはサーゼクス様達に任せるしかないのか。

 

 そう思いながら会議室に入ると、俺たち以外は全員集まっている形だった。

 

「やぁ、待っていたよ」

 

「ふふ、呼びつけてごめんね♪」

 

 サーゼクス様とセラフォルー様が座っていて、給仕役なのかグレイフィアさんが立っている。

 

「先日はありがとうございました。苦労を掛けてすいません」

 

 ミカエルさんも席に座っていて、後ろには雨宮さんとリーナさんが護衛役の形で立っている。イリナはいないけど、あいつは聖書の神の死をコカビエルから聞いてないからかな?

 

「コカビエルが迷惑かけてすまなかったな。今日はよろしくな」

 

 アザゼルの奴は軽いけど、その後ろにはヴァーリが壁に背を預けて、雲川さんはアザゼルの隣に立っている。

 

「……はぁ。先が思いやられる」

 

「そういうのは心の中だけにしておいてくれない?」

 

 ため息をついているのは兵野の奴で、それをたしなめているのはアルトリーネさん。

 

 う~ん。なんで兵野の奴、強気なんだ?

 

 なんだろう。この会談が不安になってきたぞ。

 

「では皆さん。そろそろ会合を始めましょうか」

 

 と、小笠原長官さんが声を上げた。

 

 これから、和平会談が始まるのか……!

 

 

 

 

 

 

《木場祐斗》

 

 

 

 

 会談は、思っていたより問題なく進行していた。

 

 アイアンローズはこと、三大勢力同士の利害調整にはあまり関与する気を示していなかった。

 

 政治的な介入をする意図がないのなら、積極的にこの会合に参加する理由はないだろう。にもかかわらず、二人は沈黙を続けている。

 

 聞かれたことには答える程度なのが、少し不安だね。

 

 そして、話の本題がコカビエルの事件になる。

 

 ことこの土地の管理を担当しているリアス部長に、その監視役となっている秀華先輩が互いに補佐をしながら状況を説明した。

 

 そして十数分が立ち、一通りの説明が終わる。

 

「ご苦労、リアス。十分な説明だった」

 

 サーゼクス様がそうねぎらい、視線をアザゼル総督の方に向ける。

 

 その視線を受けて、アザゼル総督は肩をすくめた。

 

「コカビエルはコキュートスに永久冷凍。ほかの捕縛した連中も似たり寄ったりだ。ま、あそこに封じりゃよほどのことがなけれりゃ問題ないだろ」

 

「説明としては下の下ですが、それは構いません。さて……」

 

 ため息をついたミカエル様が、ちらりとアイアンローズに視線を向ける。

 

 アイアンローズはほぼほぼ完全な部外者に近い。その彼らの前で、うまく本題である和平に移ることに対する警戒があるのだろう。

 

 サーゼクス様やセラフォルー様も様子をうかがっている。

 

 そのタイミングで、アザゼル総督は小さく息を吐いた。

 

「ったく。面倒くさい話はもういいだろ? さっさと和平を結ぼうじゃねえか」

 

 ……直球で来たね。

 

 アルトリーネさんに、僕たちと同じ学生服を着ている兵野君は目を少し大きくしている。

 

 ただ、兵野君は明らかに不機嫌そうになっている。小さく視線を動かして、アザゼル総督とミカエル様を見た。そのあとサーゼクス様達や小笠原長官に向けた視線は、どこか同情を感じさせるものだったけどね。

 

 不穏な雰囲気を感じるなか、サーゼクス様達はいい切り口だと思ったのか笑みすら浮かべている。

 

「そうよねん。私たちもそれを切り出すつもりだったもの」

 

「悪魔の存続のためにも、三大勢力の争いは終わらせるべきだ。戦争を主導した初代魔王と聖書の神も死んでいるのだから」

 

 セラフォルー様に続いてサーゼクス様も形、それに対してミカエル様もうなづいている。

 

「天の使いとして問題ある発言ではありますが、戦争の原因が無くなった以上はやるべきことは戦争ではありません。神の子を慈しみ守ることこそが最重要でしょう」

 

 天使の長がこれだけのことを言う。それだけの状況だということか。

 

 ただその言葉に、サーゼクス様達もアザゼル総督も笑みを浮かべていた。

 

「堅物ミカエルが言うようになったぜ。……ま、成長って言ってもいいのかもな」

 

「そうだな。失った者は大きいが、だからこそ私たちは前に進まなければならない」

 

「ええ。我らはこれ以上戦争をするべきではない。自分たちだけでなく、この世界のためにも」

 

 アザゼル総督やミカエル様と同様に、サーゼクス様も意見を同じくした。

 

「ま、神が死のうが消えようが、俺たちは此処で生きてるし世界は続いている。神がいなくても世界は回るってこった」

 

「あまり大っぴらに賛同はしづらい意見ですが、事実ではありますね」

 

 アザゼル総督の言葉にイッセー君が少し感銘を受けている節があるし、ミカエル様の言葉にはゼノヴィアとアーシアさんが少し感動している風にも見える。

 

 この調子なら、和平は結ばれるだろう。

 

 そして唯一の懸念点であるアイアンローズ側に視線を向けると、その反応は二分されていた。

 

 アルトリーネさんはうれしそうにしているけれど、兵野君は不満が目に見えて分かる状態だ。

 

 その上で、兵野君が意を決したようにしたその瞬間だ。

 

「―では、そろそろ別の部分も進めましょうか」

 

 割って入るように小笠原長官が声を上げる。

 

 注目が集まってからあえて数秒待ち、長官はその顔を兵野君のほうに向ける。

 

「ではアイアンローズの方々。どうやらあくまで使者のようですが、そろそろこの会談に参加した理由を彼らに説明していただきたいですねぇ」

 

 その発言に、動いたのは兵野君だ。

 

 堂々とした立ち振る舞いで立ち上がる彼は、使者というレベルには見えない。

 

 むしろ逆。彼の雰囲気は明らかに、僕たち全体を裁定する者たちのそれだ。

 

「……いいだろう。その前に、一つだけ大前提として明かしておくべきことがある」

 

 堂々とした雰囲気で、彼はアザゼル総督に視線を向ける。

 

「お前たち神の子を見張る者なら察知しているだろう? 神器保有者の始末における不可解な事態。全てとは言わないが、その一部は間違いなく俺たちアイアンローズによって行われたものだ」

 

 その言葉に、それ以外の四つの勢力が見せた反応は大きく分かれた。

 

 悪魔側と日本側は、失望と呆れの表情が見える。

 

 天界側は状況が分かり切っておらず困惑している。

 

 そして、堕天使側。その中でもアザゼル総督は明らかに表情を変えていた。

 

「……なるほどな。チェンジリング案件はお前さんたちか」

 

 チェンジリング。一部の妖精が人間の子供を連れ去って返したりする悪戯の類。

 

 その名を冠す案件とはどういうことだろうか?

 

「確認と事情の説明を兼ねて、俺たちから説明するぜ? ……ここ数年、俺たち神の子を見張る者が「危険ゆえに殺害が妥当」と判断した案件で、対処した奴が何者かによって逆に討伐されるケースが年に十数回から数十回の割合で確認されている。さらにそれを警戒して手練れを派遣したころには、神器の保有が確実だったにもかかわらず検査結果は「神器を一切宿していない」になっているって事件だ。……それが、お前さんたちアイアンローズの仕業だと?」

 

 そうだとするなら、警戒度合いは跳ね上がるだろう。

 

 今彼らはこの場で、堕天使側に対する敵対行動を行っていることを告白しているんだ。

 

 場合によっては、和平を選んでいるほかの勢力を含めて敵対することになりかねない。

 

 にもかかわらず、兵野君は余裕と自信に満ち溢れている。

 

「そうだ。俺たちが独自に開発した、人を神器から安全に開放する技術を運用し、堕天使の魔の手と神のよこした呪いから守り解き放っている。……大まかな技術概要は日本政府にはすでに送っているはずですが」

 

「ええ。再現はともかく、どういう理論で行っているかはなんとなくわかりましたねぇ。……理論を再現できるなら、我々でも同じことができると試算も出ていますよ」

 

 苦笑しながら、小笠原長官は兵野君の言葉を肯定する。

 

 その言葉と反応に、アザゼル総督は目の色を変えた。

 

 興味津々という言葉がこれほどなく似合う表情もない。思わず身を乗り出して食いついているぐらいだ。

 

「おいおいマジか! すっげぇなおい!! 被害が出てるがそいつと話させて技術も教えてくれるなら、全部チャラにできるかもな!!」

 

「悪いがありえないな。絶対に話が合わないぞ?」

 

「なんでだよ! うちの研究班でもできねえことできるとか、神器に熱心に取り組めなけりゃ無理だ。……馬が合うとしか思えねえ」

 

 アザゼル総督のその自信に、兵野君は明らかに失望の表情を見せる。

 

 というより嫌悪だろう。彼は明らかに、神の子を見張る者に敵意を見せていたがこれほどとわね。

 

「悪いがウチの技術班……いや、アイアンローズの中核にとって神器とは忌み嫌い滅ぼすべく邪神の呪いだ。この世から消し去るべき汚物に好意を向けるやつに、どうやって好感を抱けっていうんだ?」

 

 ……すごいことを言うね。

 

 思わず戦慄すら覚えるいいように、アザゼル総督は勿論、僕たち含めたほとんどの人が引いている。

 

 にもかかわらず、彼はまるでそれを分かってないかのように首を横に振った。

 

「人間に宿る神の贈り物? 望んでもないのに生まれたときから押し付け人生を振り回す無自覚の悪意の間違いだ。あんなものを喜ぶのは、一握りの狂人だけ。ほぼほぼ全てにおいて人生に呪いをかけるだけだ」

 

 かなり切れ味の鋭い発言をしたうえで、兵野君はその視線をミカエル様にも向ける。

 

 その視線もまた、明確に軽蔑の意思を見せている。

 

「貴様も貴様だ、天使長。聖書の神が遺したシステムにより呪いがふりまかれているのなら、なぜ人類を思うのにシステムを止めるなり壊すなりしない。……俺たち人類の人生をからかって楽しんでいるとしか思えないな」

 

「……確かに弊害が発生していることは恥ずかしながら事実です。ですが主が遺したシステムは非常に多種多様の事象をつかさどり、いまだ解析も進んでない代物。うかつに干渉すれば多くの信徒に被害が生まれます」

 

 ミカエル様はそう、本人もつらそうに言う。

 

 あの戦いでコカビエルですら、システムを管理しているミカエル様達セラフの方々を「よくやっている」といっていた。

 

 それほどまでに大きなシステムなのだろう。彼らが苦労しているのがこれだけの情報でもわかってしまう。

 

 だが、兵野君は「ハッ!」と鼻で笑った。

 

「信仰の有無にかかわらず勝手に宿り、人生をゆがめる呪いを創り出すだけのシステムが? そんな有害なものを使うという発想が、狂信者どもをのさばらせて人に呪いを振りまく、百害あって一利ない物をいまだ残しているのだろう!」

 

 明確な糾弾の意思を込めたその言葉。

 

 それに対し、大きなため息が割って入った。

 

「説明を聞いていなかったのですかねぇ? 聖書の神のシステムについて、コカビエルが言ったことだけでも十分()()()()()()()()とわかりますよ?」

 

 小笠原長官はそういうと、たしなめる視線を兵野君に向ける。

 

「神器という加護はあくまでシステムの一分野でしかありません。信徒全体に対する加護、教会といった拠点に対する加護、悪魔祓いたちに戦う力をもたらす加護。そういった多種多様な方面を維持する貴重な要素でしょう。一部の被害者だけでシステムは構成されてないのですよ?」

 

 そう告げると、長官は同情の視線をミカエル様に向ける。

 

「おそらく、天界そのものに対してもシステムは大きな影響を与えているのでしょう。よくわからないまま止めたり壊すどころか、下手な干渉をしただけでもどんな事態が起こるかわからない。リスクや想定される被害のほうが甚大で、うかつな干渉など不可能だろうとは察しております。……本当に、大変ですねぇ」

 

 心から言っていると思えるそのいたわりの言葉に、ミカエルさんは瞑目して頭を下げた。

 

「ご配慮、痛み入ります」

 

 その言葉を受け止めてから、小笠原長官は兵野君に向き直る。

 

「おそらくですが、貴方はこの流れで神の子を見張る者を糾弾するおつもりでしょう? アイアンローズの中核となる者たちは、その多くが神器を持っているが恨んでいるもの達……違いますか?」

 

「……驚いたな。日本政府の諜報力を甘く見ていた。いや、CIAか?」

 

 兵野君のその答えに、会議室の多くの人たちが目を見開く。

 

 神器保有者たち……いや神器保有者だったものたちで構成される神器を恨んでいる組織。それが、アイアンローズなのか。

 

「そうだ。俺たちアイアンローズは長い年月をかけ、神器という呪いから人類を開放するために動いていた。神代晃星によってもたらされた星辰体がなければ、ここまでの規模に急成長することも結果を示すこともできなかったがな」

 

 兵野君はそう語り、そしてアザゼル総督をにらみつける。

 

「神器を長い年月にわたって研究しておきながら、そこの連中はやれ神器の可能性だと神器の再現だのに力を注ぎ、真っ先に行うべき神器から人を解き放つ技術はいまだ進まず、罪なき者すら殺している。敵意の象徴以外の何だと思えるか!」

 

「そもそも彼らは堕天使の組織であり、人間に奉仕しているわけではありませんねぇ。そこまで言うのならまず相応の恩恵をもたらすなりしなければいけないでしょう」

 

 兵野君の糾弾を、即座に小笠原長官の反論が襲う。

 

「何の理由もなく神の作ったシステムの気まぐれで渡してくる異能。そんなものは存在そのものが呪い。それを尊ぶ狂信者もだが、面白がって調べるなど、堕天使も大概だろう!!」

 

「キリスト教圏の人間に限りませんが、そういった者を「神がもたらした特別なもの」とみるのは人間珍しくもないでしょう。大半の保有者からすれば、神器を知っても「人生のおける才能の一つ」と受け取る者のほうが多数派でしょうねぇ」

 

「そうやって千年も二千年ものほほんとしている間にどれだけの悲劇が生まれたと思っている! 俺たちはあと何年苦しめばいい? 一年か、二年か!?」

 

「二千年間もかけてできなかったことなのですから数百年単位で考えないとだめでうしょう。それに数千年間の神器保有者全体で考えても、恩恵ではなく呪いでしかないなど間違いなく少数派ですしね。まあ、和平で三大勢力が連携を取れれば十年単位で病気の治療レベルにできる可能性はありますが……ほかの神話体系側がネックですね」

 

「……さっきから何なんだ貴方は! 堕天使と聖書の教えを糾弾する邪魔ばかり!!」

 

 連続で反論を割り込まれて、兵野君がいら立ちを見せた。

 

「いや、そこに関しては俺も同感だぞ。普通、ここは俺やミカエルが相手をする状況じゃねえか?」

 

 アザゼル総督も困惑しているが、小笠原長官は軽く笑った。

 

「あなた方だと逆に負い目から押し込まれそうですから。こういう人は自覚の有無にかかわらず付け上がりかねないので、バッサリ切ってあげたほうがリターンが多いですよ?」

 

 さらりと厳しいことを言ってきたね、長官殿。

 

 さすが日本政府側の人物。仮にも国家機関の長になっているだけのことはある。海千山千の魑魅魍魎を相手にしているのだろう。

 

 そしてその上で、小笠原長官は少し鋭い視線を兵野君に向ける。

 

「というより、あなた達はなんで日本政府(私たち)が味方という前提で動いているのでしょうか?」

 

「……貴方は人間だろう?」

 

 キョトンとした表情で兵野君が首をかしげる。

 

 その反応を見て、小笠原長官の顔色が少し変わった。

 

 いや、これはあえて見せている。それも、失望だ。

 

 それに気づかない兵野君から、長官は視線をサーゼクス様やセラフォルー様に向ける。

 

「ところで、アイアンローズ(彼ら)はここ十年ほど前から、討伐隊を皆殺しにしてはぐれ悪魔を保護しているケースがあるようです。知ってましたか?」

 

 ……なんだって?

 

 僕がその言葉の意味を理解するころには、セラフォルー様は鋭い表情になって兵野君のほうを向く。

 

「それ、本当なの?」

 

「あとで伝える予定でしたが、そうです」

 

 兵野君は、あっさりと肯定した。

 

 視線と反応から、小笠原長官に知られているのが想定外の顔つきだ。ただ、其れだけでしかない。

 

 むしろ魔王様方に向けるその顔は、まるで同志たちに向けるそれだった。

 

 彼はこの情報を知られて、まるで感謝されると思っているようにしか思えない。

 

「神器という呪いによってあなた方と異なる下劣な大王派に目をつけられたもの達。そして彼らのように冷遇されている悪魔は庇護対象でしょう? 忌々しい大王派の横やりで止められない不条理にはとても同情しますが、それも時間の問題です」

 

 心からの笑顔を浮かべて、兵野君は断言した。

 

「我らアイアンローズが世界各国と連携すれば、あなた方魔王の力になれます。そうなれば、狂信者や研究狂いの力を借りることなく、冥界の膿を出し切ることも容易でしょう」

 

 信じられない。

 

 発言の内容ではない。彼が、兵野君がそれを魔王様の前で堂々と言い切る神経が、僕には理解できない。

 

「……一つ聞こう。それは、アイアンローズ全体の考え方でいいのかね?」

 

「その通りですが? 今回の会談において、私は運営陣やトップエージェント、各支社長達と大筋のパターンを詰めたうえで、この学園に在籍していることもあって総責任者として送られました」

 

 キョトンとしながら兵野君が言うと、セラフォルー様がため息をついてサーゼクス様のほうを向いた。

 

「サーゼクスちゃん。いろいろ大変だけど、外交担当としてアイアンローズとの契約活動は一切の禁止と破棄を全ての悪魔に命じるわ」

 

「当然だ。大王派とも協議するが、まず間違いなくアイアンローズは危険組織として対抗手段を確立しなければならない」

 

 ためらうことのない、魔王同士の意見だ。

 

 その言葉に、兵野君は愕然と言うほかない顔になっている。

 

 肯定的に受け取られる確信が裏切られた。それどころか、明確に拒絶の意思をはっきり示されたのだ。そうもなるだろう。

 

 最も、僕たち悪魔からすれば当然だけどね。

 

「な、なぜですか!? 忌々しい悪しき大王派達によって虐げられる被害者たちを見捨ててまで、天使や堕天使と結びつきたいというのですか!?」

 

「当然だろう。むしろ今の発言を聞いて、君たちと手を取り合うほうが論外だ」

 

 サーゼクス様が明らかに呆れていた。

 

「確かにはぐれ悪魔の中に、主に虐げられることに耐えかねた者たちがいるのは事実であり私も心を痛めている。だが彼らが主に反旗を翻して脱走した罪人であることもまた事実なのだ。……君たちが代価を払う形で穏便な解決を図るのならまだしも、胸を張って私たちに最優先事項である和平の撤回まで求めるようなら、厳しい対応をして当然だろう」

 

「私たち悪魔は、三大勢力の戦争と旧魔王血族との内乱で大きく傷ついたわ。その上でそれをさせないための決断を邪魔し、あろうことか人間界まで巻き込んで起こすことを要請する危険思想を認めるわけにはありえないわねぇ」

 

 サーゼクス様もセラフォルー様も、噛んで含めるように兵野君に説明した。

 

 そしてその説明を聞いた兵野君は、失望の表情を明らかに見せていた。

 

「なんてことだ。悪魔となら、神器から人間を完全開放することもできると思っていたのは大きな間違いだったのか……っ!」

 

「それはもう。論外極まりないですねぇ」

 

 そう、追い打ちをかけるように小笠原長官が落ち込んでいる兵野君に声をかける。

 

 その上で、彼は資料の束を出すと一度何かを確認する。

 

「……実は、日本政府はアメリカ合衆国と協議し、いくつかの状況に合わせて何をするかは決定しております。このパターンなら問題ないでしょう」

 

 どうやら、彼らも和平を考慮していろいろと動いていたらしい。

 

 そして長官は、まっすぐに兵野君を見て胸を張った。

 

「日本とアメリカは現時点をもって、担当である私の判断にのっとりアイアンローズとの業務提携の完全破棄を宣言します。加えて各種特許の使用も破棄するので、来月からの特許使用料は一切払わないのでご了承を」

 

「……なん、だと?」

 

 唖然としか言いようがない表情の兵野君に、小笠原長官はため息をついた。

 

「想定している中でも「さすがにそこまでないだろうが念のために考えた最悪」を見事にやってくれましたねぇ。まぁ、悪魔側と堕天使側の企業が開発した星辰体代替技術をうまく使えば問題ありません。特許料については後程交渉ということで」

 

 長官はそういうと、またため息をついたうえで兵野君に向き直る。

 

「神器によって被害を受けたと思っている君たちに、神器を肯定しろとは言いません。ですがそれにとらわれすぎて視野狭窄に陥っている過激思想の持ち主と手を組むぐらいなら、三大勢力の和平に手を貸して蜜月関係になったほうがはるかにいいというものです」

 

 かなり手厳しいことを言ったうえで、さらに苦笑まで浮かべている。

 

「第一提出された資料を見ましたが、あなた方の神器安全摘出施術もコストも資材も馬鹿になりません。「悪魔との同盟締結後、各国で協力して神器保有者の大量保護と解放に全面協力を求める」とか言われても、わが国や合衆国ですら経済とインフラが破綻しますよ。なぜ三大勢力が連携と技術交流をして大幅改善が見込める時期に、こんな極論すぎる博打に走ると思われるのかが理解できません」

 

 そ、相当なことを言っていたようだ。

 

 というか、今アジアの雄になっている日本に世界最強国たるアメリカ合衆国が組んだうえで、全人類の神器摘出を進めようとすればインフラと経済が崩壊って……いろいろと消費する物が大きすぎる。

 

 アイアンローズという組織の実態が見えた会談だけど、内情がかなり問題の宝庫といえるかもしれない。

 

 ……これは、魔王様が契約を打ち切ることを選んだのも当然だ。

 

 真っ当な信徒を含めて狂信者と言い放っているけど、味方によっては彼らこそ「神器全廃」を狂信するカルトじみた宗教だ。

 

 そしてその自覚が見えない兵野君は、残念そうにため息をついた。

 

「……残念です。我々としてはこれを機に、各神話勢力と連携することも視野に入れて動いていたのですがね」

 

「さすがに皮算用が過ぎるだろ。できるとおもってんのか?」

 

 兵野君のつぶやきにアザゼル総督が呆れるが、兵野君は自信が見えていた。

 

「神器の愚かしささえわかっているのなら、堕天使や教会と和平を好んで結ぶわけがない。俺たちアイアンローズが仲介をすれば、歩調を合わせることはできると確信している」

 

 そう言い切った兵野君は、残念そうに懐から封筒を取りだす。

 

 そこには「退学届け」の文字があった。

 

「悪いが、こうなった以上はこの学園にいる意味もない。……今後は敵とみなす、帰るぞアルトリーネ」

 

 そう言い捨てた兵野君が振り返ったその時だった。

 

 ―刃が煌いた。

 

 

 

 

 

 

 

《樹下誠二》

 

 

 

 まさか本当にこうなるとはな。

 

 俺は麗夜さんとともに魔剣を抜き、牽制の構えで兵野からアルトリーネさんをかばった。

 

 さらにアルトリーネさんの周囲には、秀華がレヴィアタンの力で具現化した蛇型の魔力が周りを囲んでいる。

 

「……ここで戦争をするつもりか? 俺としても避けたいが、アルトリーネは―」

 

「―逆よ」

 

 兵野の勘違いを、言葉を遮ったアルトリーネさんが正す。

 

 そう。これはアルトリーネさんに対して害をなすことが目的ではない。

 

 むしろその逆。俺たちがアルトリーネさんを守っている。

 

「では小笠原長官に、三大勢力の方々。取り決め通りに私はそちらに亡命します」

 

 そう。アルトリーネはコカビエルが倒れた後、代表者に亡命を打診していたそうだ。

 

 理由はわからなかったが、アイアンローズのアレっぷりを見れば逃げ出す機会を探っていたのだろう。情報漏洩が死につながる以上、確実な亡命の準備が必要だった。

 

 そして俺たちに与えられた極秘任務は「アイアンローズが三大勢力と敵対姿勢を見せた場合に限り、アルトリーネをアイアンローズから守り亡命を助けろ」というものだ。

 

 それを理解したのだろう。兵野は心からの失望をアルトリーネに向ける。

 

「残念だ。……三大勢力、こと堕天使と天界の愚かさを分からなかったのか」

 

「ええ。むしろずっと前から、あなた達こそ愚かだと思っていたもの」

 

 そういいあったうえで、アルトリーネは兵野に明確な敵意と怒りと憎悪を向ける。

 

「上に伝えなさい。……私の友達を奪っておきながら、仲間面できる神経に報いあれってね」

 

「……なるほどな。心まで呪いに浸されていたのか、残念だよ」

 

 そう言い返すと、兵野は踵を返す。

 

「殺しに来るなら好きにしろ。ただし、道連れを何人も作る覚悟あるならな」

 

「安心したまえ。敵対は会談が終わってからにするとも」

 

 サーゼクス殿もそういい、同時にグレイフィア殿が通信をつなげていた。

 

「護衛班。一名がお帰りになられるので、魔王様の名の元に危害を加えることなく丁重に見送りなさい」

 

「……その対応にだけは感謝する」

 

 そう告げ、兵野は今度こそ会議室を出て行った。

 

 これが、駒王学園生であった兵野和正の最後の日。

 

 これより彼は、三大勢力の大敵が一つ。その初期における難敵として、各勢力が危険視する存在となる。




 アイアンローズはコンセプト的に言うと「出てくる余地は原作にもあるけど、三大勢力と折り合う余地がないだろうコレ」な塩梅の組織です。

 とにもかくにも神器の被害者が中核となっている組織で、それゆえに神器という存在そのものを害悪をみなして視野が狭い。そして折り合いをつけられない以上、三大勢力の和平より優先順位が高いわけもないので、現魔王政権側と仲良くしようと思っても向こうから手を切られるだろうという塩梅。そもこのレベルの組織と手を結ぶのなら、現魔王派は大王派と内覧したり旧魔王血族を強引に皆殺しにしているだろうといったレベルにしています。

 しかしアイアンローズはめげないので、三大勢力以外との協力体制を模索するでしょう。そして広いネットワークと対神器賛同派という性質から、いくつかの手合いにとっては好都合な側面も多数あったりすると言えば、裏コンセプトの一旦はつかめるのではないでしょうか?

 実をいうと以前おもしろ荘で見ていた作品の独自勢力が元になっており、「……好き放題言ってくれるな。というか、原作キャラの見方が協力体制を取ろうとする組織に見えないんだけど」と思ったことがあり、「自分ならこういう風にしか書掛けないんだけど」といった形で我慢できず作ってしまった経歴があります。
 あまり趣味のいい話ではないですが、その作品がどうやら消されたようなのでならまぁ、発散目的で行けるか……? といった感じで作りました。

 アルトリーネはそのアンチテーゼを思いっきり出せるキャラとして作った設計です。今後も味方側で出していくので、ぜひ応援願いたいですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。