シルヴァリオ ディアボロス~ハイスクールD×D銀月譚 作:グレン×グレン
《樹下誠二》
「皆様。兵野勝正は駒王学園の敷地内から退出しました。現在監視は日本政府が引き継いでいますが、アイアンローズ日本支社へのルートを通っている模様です」
……ふぅ。
グレイフィア殿の報告を聞いて、俺は少し肩の力を抜いた。
とりあえず、あいつだけがキレて暴れるような事態はないとみていいだろう。もしあるにしても、この段階なら外の奴らにまず警戒を任せるべきだ。
とはいえ、これで会談における最大の懸念点もいなくなった、か。
「古巣の者がお騒がせして、申し訳ありませんでした」
と、アルトリーネ……さんが、俺たちに頭を下げて謝罪する。
まぁ、条件付きで亡命をしているあたり、彼女にとってアイアンローズは好ましくないところだったのだろう。
とはいえ、下手をするとこの場で殺し合いが起きかねなかったわけだからな。謝りたくもなるだろう。
「気にすることはありません。むしろ、あのような組織にこれ以上つながりを深くされるとリスクが増します。……好ましくない組織とのつながりは、可能な限り避けられるに越したことはありませんしねぇ」
「そういうことだ。もしこれ以上冥界に根を張られていたら、和平を結ぶこともできなかったかもしれないと思うとぞっとするぐらいだよ」
小笠原長官とサーゼクス殿がそういい、ミカエル殿とアザゼル総督もため息をついた。
「これも我々が過去なしてきた因果なのでしょうが、あそこまで神器だけを理由にシステムの破壊を求められるとは」
「一事業で大きな負債が生まれたからって、他の十分以上に稼げている事業まで全含めて解体するようなもんだ。流石にあれはないだろうさ」
ミカエル殿にうなづいたアザゼル総督は、その上で面白そうに俺たちを見る。
「ま、最近の神器事情や星辰奏者なんて新顔の影響だろうさ。見ている分には面白いし、今後もいろいろ探求するか」
「……ほどほどにしてくれ、アザゼル。今後、アイアンローズは積極的に我々と敵対するだろう」
楽しそうなアザゼル総督をサーゼクス殿がたしなめるが、その表情はかなり苦い。
セラフォルー殿も似たような表情で、なにか計器の類を見ていた。
おそらく計器に映し出された情報をみた結果なんだろうが、どんな事態になっているのか。
「アジュカちゃんが警戒して検査機器を渡してきたけど、ドンピシャよ。……冥界で契約している子が見ればドンビキして手を切るような禁呪を、最低でも五つは使ってるわよん?」
……禁呪か。
大抵そうなる者には理由がきちんとあり、中には寿命を削り有害な影響をもたらすものも多数存在する。
そういった禁呪を当たり前のように使い、隠すつもりもなかったということか。
なんというか、頭のねじが明らかに外れてるな。
「神器でいくつも問題が起きてるのは事実だけれど、それ以外の問題をそれ以上に出してどうするのかしらねぇ」
「問題と思ってないのでしょう。あの様子では、指摘されても「神器という呪いを消し去るための誇るべき技術」とでも答えそうです」
セラフォルー殿とミカエル殿がため息をついて、アザゼル総督とサーゼクス殿は苦笑していた。
「……実際問題、これまでの我々に多くの問題があることは事実なのが痛い」
「だよなぁ。ウチの組織も、和平前だとろくでもない奴を切るに切れねえところがあるしな」
ま、確かにな。
そのあたりはどこの勢力も似たり寄ったり。不備や問題はただしたいが、その結果としてそもそも守るべき者も守れず滅びるなんてことは避けないといけない。
塩梅の調整が難しいのは間違いないな。
「……とはいえ、ひと段落はついたでしょう。まだ時間もありますが、小休止をしてからにしましょうか」
ねぎらうように小笠原長官がそう告げると、ミカエル殿がうなづいてからイッセーのほうを向いた。
「ならこのタイミングにしましょう。赤龍帝、私に尋ねたいことがあるという話、ここで聞いてもよろしいでしょうか?」
……ふむ。
例のアスカロンを受け取った時の件か。
さて、イッセーの性格だと言いそうなことは大体予想できるな。
と、なるとだ。
「アーシアの件か?」
俺が機先を制して、イッセーに確認を取る。
イッセーは真剣な表情でうなづいたが、やはりな。
こういうのは本人が直接言うより、別の者があえて正解を言うほうが
小休止中の会話とはいえ、三大勢力トップによる会談だ。新米下級悪魔が別勢力のトップに批判的な意見を言うのは、うるさい連中が出てきて当然なところがある。
どうせ止めてもいいそうだし、ならワンクッション置いて刺激を緩めてやるか。
「一応言っておくが、聞いている限りの情報なら組織の判断としてはおかしなものではないだろう。知らぬとはいえ戦争中の相手に対する利敵行為、賞賛は勿論無罪放免も組織運営にデメリットが大きいぞ?」
「……だからって追放はねえだろ? 雨宮さんの話じゃ、枢機卿? っていうすごい偉い人ももっとましな対応しようとしてたじゃねえか」
よし、いい意見が引き出せた。
イッセーは基本的に善人だし、好き好んで社会秩序を乱すやつでもない。ただ自分の願いの通し方が不器用だし、嫌でも社会秩序を守るというタイプでもない。実際高校生にもなって覗きを敢行していたしな。
どこかのゲーム風に言うなら、中立・善といったところか。
だからこそ、ある程度クッションを置いておいたほうがいいだろう。議事録は取って当然だろうし、それが後で変な危険視を生むことになりかねないしな。
とりあえず、社会秩序側の指摘に多少の理解は見せれた。さらに会話で教会側からも穏便な対応を求める有力者がいることも示せたから、派手な動きにはならないだろう。
これ以上は日本政府に迷惑も掛かるし、俺は視線をミカエル殿に向けたうえでうなづく程度にとどめておく。
「その点においては謝罪するほかありません。……現状において、アーシア・アルジェントの持つ神器を教会においておくことができなかったこともあの処罰の要因となっています」
そう告げるミカエル殿は、本当に苦渋の決断寄りだったのだと態度で示していた。
「現在、天界や教会の運営や加護は、今は亡き主が遺したシステムをだましだまし使っている状態。主に及ばぬ我らでは不具合も多いため不本意な対応も必要になっています。……そのうちの一つに、一部の神器を拠点に置くことが困難という点があるのです」
「……悪魔も治せるアーシアの神器は、教会においておけないんですか?」
イッセーも頭の回転は割と速い。どうやらある程度は察したようだ。
まぁ確かに。和平前に置くには信徒たちに毒なところはあるな。
「神の奇跡によって神の敵対者たる悪魔すら治せる。これはこれまでにおいて、信徒の信仰に疑念を生みます。教会内にそのようなものがある場合、システムに不具合が出る場合があるのです。……もちろん、それ以外にも不具合が起きるパターンも多数あります」
そう説明するミカエル殿は、ゼノヴィアのほうにも振り向いた。
「なるほど。主の死を知っているものもまた、基本的には追放対象なのですね」
「はい。主の死を知る者が教会にいることには大きなリスクが存在します。流石に伝えるべき相手には伝えられるよう努力していますが、それでも最重要機密としてごく限られた者だけにしなければ、システムに不具合が発生するのです」
まぁ確かに、正論だ。
最重要機密とは、知らないとだめな相手ぐらいにしか伝えないほうがいい。情報がどこから漏れるかわからないことを考えれば、本当に厳選しなければいけないだろう。
結論として、現場の実働が知っていいわけがないことを知ったのなら対処は必須。むしろ暗殺ではないうえ、デュランダルも持ったままにしているのは温情だろう。
ミカエル殿がここまで苦渋の決断だと思って申し訳なさそうにしているほうが不安だ。もう少し堂々としていても問題ないレベルの事態だしな。
などと思っているうちに、ミカエル殿は頭まで下げた。
「本当に申し訳ありません。我らの不備により敬虔な信徒であるあなた方に追放という不名誉を与えたことを、ここで謝罪させてください」
……難儀な人だ。
現状清濁併せのめないといけない政治の世界には向いてない。宗教家としても人間としても美徳だが、そういう美徳が足を引っ張る世界もある。
「顔を上げてください、ミカエル様」
「そうですミカエル様。気になさらないでください」
ゼノヴィアとアーシアのほうが困惑しているし。
「理由を聞いて納得しました。追放された時は確かに残念で衝撃も受けましたが、信徒の一人としてその判断は現状必要だとわかった以上、思うところ等ありません」
「そうです。悪魔さんを治したことは後悔していませんし、それが処罰を受けることなのもわかってはいますから」
二人はそういったうえで、イッセーたちのほうを見る。
「それに、イッセーさんや部長さん達と過ごす毎日は幸せです。本当に気に病まれないでください」
「信徒としては問題でしょうが、私も今の生活を気に入っています。ですから、お気になさらず」
「……二人のお心に、本当に感謝します」
ミカエル殿も、とりあえず落ち着いたようだな。
「ま、そっちに関しちゃ俺たち側にも責任はあるしな。あんまり深く考えんな」
だがアザゼル総督。フォローのつもりだろうがもうちょっと言い方を考えてくれ。
軽い。軽すぎる。ちょっといい加減に思える。
ほら、イッセーもイラっと来てるし。
「まったくだぞこの野郎! アーシアは危うく、アンタを崇拝している奴の星で殺されるところだったんだ! ……俺も危うく殺されかけたし!!」
ほら怒鳴ってきた。
イッセー。一応相手は国家元首クラスの人だからな? 現場の下っ端があまり突っかかったらいけない相手だからな? 国際問題クラスだからな?
ま、俺も思うところはあるからフォローはしておくか。
「総督殿。件の堕天使であるレイナーレは、なるべく苦しませないようにする配慮がないばかりか、ひとめぼれだと適当こいてからかってから殺すような悪辣な真似まで働いています。むやみやたらに味方を減らせない今までなら仕方がありませんが、和平が結ばれた以上は明確に規律を正していただきたいのですが?」
ペナルティが与えられるかもだが、まぁこれぐらいならギリギリ俺の責任で行けるだろう。始末書・減俸・謹慎のどれか、最悪も二つぐらいで大丈夫だとは思う。
ただ暗殺するだけなら俺も立場があるから止められなかった。だがやり方があまりに悪辣すぎだ。
どこの世界にも立場を利用してあくどいことをする奴はいくらでも出てくるが、相応の取り締まれるようにしてくれないと困るぞ。
「そこについてはきちんとやるさ。和平を結んで戦争やめて連携取れるなら、必要な汚れ仕事もごっそり減らせるしな。そうだろ?」
総督がそういうと、ミカエル殿と魔王の方々もうなづいていた。
「ええ。我々としてもあまりいい思いがしない研究機関などは解体し、穏便な研究に回すといったことができるでしょう。むしろこちらの施設にいる、神器が悪影響をもたらしている方々の治療も進めたいですね」
「悪魔側としても、双方の力添えがあれば大王派を中心とする問題行動を多少は是正できるだろう。血を流すことなく穏便な解決ができるのなら、そちらに注力したいものだね」
「他の神話勢力とも和平を結ばないとねん♪ そうでないと、神器保有者とかの問題は解決し切れないもの」
ミカエル殿、サーゼクス殿、セラフォルー殿も前向きだ。
これなら、こちらとしても好都合な展開になるだろうな。
「はっはっは。これは内閣や国会にいいお土産を持ち帰れそうですねぇ」
「そうだろそうだろ? ま、赤龍帝君たちには世話になったし、もうちょっとしっかり目に詫びもさせてもらうさ」
長官に笑って答えた総督は、その上で真剣な表情になった。
「ま、俺たちが和平をするっていうならほかにも意見を聞くべき奴はいるだろうさ。……この場だと、二天龍とかな?」
……ほう?
「え? 俺? 下っ端の下級悪魔っすけど」
「イッセー。さんざんトップ中のトップに舐めた口きいて今更だぞ」
イッセー。お前自分の今までの発言が大概だという自覚はしてほしい。
正直ちょっとあきれるが、総督は得に気にしてないようだ。
「歴代の二天龍はその大半が、最終的に下手な最上級悪魔よりやばい連中になってるからな。三大勢力からすりゃ、二天龍なんて無視できるわけもないしな」
そう言って、アザゼル総督はヴァーリのほうに視線を向ける。
「……俺は強い奴と戦えればそれでいいさ」
……いきなり和平とは方向性が違う意見が出てきてるんだが。
やはり警戒したほうがいいのかもしれないな。
と、アザゼル総督はイッセーのほうに視線を戻す。
「白龍皇はそういってるが、赤龍帝君はどうなんだい?」
「え、えっと、そんなこと言われても」
だよなぁ。
イッセー、感覚的にはまだ一市民レベルだろうし。悪魔としても下級だし。
とても世界の趨勢とか、そんなことを真剣に考える段階にないだろう。そういう意味では同情するな。
さてどうしたものかと思っていると、なぜか総督はにやりと笑う。
「では簡単な二択にしてやろう。……平和な世界でそこのリアス・グレモリーを抱きまくれるか、戦いに望んでリアス・グレモリーとのエロを封印するかだ」
どういう二択だ。
即座に口に出したくなるのを抑え込むが、イッセーは天恵を受けたかのような顔になっている。
「どういうこと?」
「平和になれば後は種の繁栄第一。つまり産めよ増やせよ地に満ちよって感じで、子作りに集中できる。戦争中ならそんな余裕が吹っ飛んじまうってわけだ」
「平和平和平和! 平和☆on★lyでお願いします!」
あまりに分かりやすい方向性だった。
わずかな期間でここまでイッセー向きの二択を示せる総督はさすが総督なのか。それともイッセーがわかりやすすぎるだけか。どっちもってことにするのが妥当だろうか。
というか、イッセーはすでにリアス先輩とエロいことしているのになんでそんなに感極まっている?
「……これで、俺は今度こそリアス部長やアーシアと二度目ができる……!」
「イッセー君。サーゼクス様がおられるんだよ?」
「イッセーお前、人によっては絶縁されるぞ」
木場も俺もツッコミをつい入れてしまった。
というか、まだ二度目で来てないのか。
「リアスちゃんとアーシアちゃん、これ終わったら説教第二ラウンド。ゼノヴィアちゃーん、二度目していいけど補佐に誰か欲しい人いたら教えて?」
ほら、秀華もピキっといってるし。
「はっはっは。妹の眷属と友人たちは愉快な子が多いねぇ」
「……サーゼクス様。貴方様も大概かと」
おい、腹心に皮肉られてるぞルシファー殿。
な、なんか空気がとっちらけた———
《Other》
「おっと残念。セカンドプランになったか」
「うるさい人間たちに文句を言われそうですね。彼の手引きがあったはずなのにこれとは、だまされたのかしら?」
「多分違うね。これはジュリエットが備えてたかな?」
「……楽しそうに言わないでください。手間が増えましたよ?」
「だからいいんじゃないか。戦いは、油断すると負けるぐらいの手ごたえがないと腑抜けるよ?」