シルヴァリオ ディアボロス~ハイスクールD×D銀月譚 作:グレン×グレン
感想とか高評価とか、活力の源は常に大募集しております!!
《樹下誠二》
駆けつけた時には、イッセーは既に応急処置を受けていた。
悪魔の回復は簡単ではない。治癒の異能は極めて希少であり、また神器においてもそれなりに珍しい。付け加えると、回復といった神の奇跡の類は悪魔のような神に愛されない存在だと使えないことが多いからだ。
「ごめんね~。ちょっと別件で二人が出払ってて。痛み止めで我慢してね?」
「大丈夫っす波柴先輩。樹下も……あとえっと?」
イッセーがちょっと麗夜さんを見て困惑する。
そういえば自己紹介がまだだったな。色々あって忘れてた。
「空本麗夜っていうんだ。よろしくね」
そう和やかに挨拶した麗夜さんは、すぐに表情を切り替える。
「それで、はぐれ悪魔祓いがこの町にいるっていうのは本当ですか、リアス嬢」
本当にな。勘弁してほしい。
だが人間が身を持ち崩すことはよくあること。悪魔祓いの中には快楽の為に悪魔を殺したり、悪魔以外すら敵とみなす者が多数存在する。それらをはぐれ悪魔祓いと呼び、その多くは堕天使が戦力として抱えている。
つまり、高確率で堕天使側の戦力ということだ。
どういうことだ? 俺達桃山警護事務所の継続的な仕事を知っている状態で、エージェントの監視と補佐を依頼しながら……?
真剣に困惑するが、秀華はあえてそこには触れないようだ。
「そっちに関してはコネを使って聞いてみるよ。で、どうするの?」
「……相手がこれ以上仕掛けてこない限りは、こちら側から一切の手出しはしないわ。三大勢力間の緊張状態を悪化させるわけにはいかないもの」
リアス先輩の判断は妥当だな。秀華も特に動揺はしてない。
うかつに大ごとになれば、それをきっかけに三大勢力の冷戦状態が一気に過激化する。こと悪魔側がグレモリー次期当主である以上、そういった手合いに着火剤になるからだ。
ただ、イッセーは愕然としていた。
「イッセー君。これは三大勢力間の問題ですわ」
「……事情は分かりません。ですがうかつなことは厳禁です」
姫島先輩と塔城がそうたしなめるが、一体何があったのやら。
あとで聞いてみるとして、さて……どうする?
俺が考えながらも秀華の方を向かいくと、秀華も少し考えていた。
「……とりあえず、誠二と麗夜の二人をサービスでつけるよ。私はちょっと忙しくなるか、明日は休みってことでいいかな?」
「……ええ。学園には私から伝えておくわ」
互いにちょっと推し量るようにしながら、しかしうかつに触れずに秀華とリアス先輩の会話は終わる。
さて、今後を考えるとややこしいことになるかも……な。
《Other》
かつて教会が保有し、廃棄した駒王町に存在する教会。
その敷地内及び建物内には、数多くの人影がうごめいていた。
少なく見積もっても百人近い人数。明らかに堕天使側の現場部隊としては多すぎる。
更にこの程度ではとどまらない。
さほど準備をしたわけではないが、同等の人数が三か所に分散して配置されている。これはもはや、戦争の準備と言っても過言ではなかった。
そして同時に、これを引き起こした元凶にとっては戦争も同然だった。
「儀式の準備はどうなっているかしら?」
「はい。ほぼ完了しており、この調子なら問題ありません!」
気負っている雰囲気で帰ってきた返事に、堕天使レイナーレは得意げな笑みを浮かべている。
この儀式が完了すれば、自分は間違いなく至高の堕天使になれる。その確信が彼女にこの凶行を引き起こさせようとしていた。
そして同時に、それだけではいけないとも確信している。これに根拠が彼女の中であるのが問題だった。
堕天使レイナーレは星辰奏者だ。そしてその星辰光は特殊であり、また強力であると自負している。
だが、そんな星辰光を持っていることが判明したのに、自分の待遇は変わらない。その価値を認めてすり寄ってくる者達は多いのに、現場で人間を狩る末端止まりだった。
これは逆に、管理する側の者達が集まってくる者達よりきちんと彼女を見る目があるというその一点でしかない。それを彼女が分かってないことが両者にとっての不幸ともいえた。
自分の待遇を上げるには、絶対に上層部に知られるような功績がいる。そうすれば、至高の堕天使となった自分の価値を、見る目の無い管理職に邪魔されずに見せることができる。
故に、レイナーレはこの地の上級悪魔を討伐することを決定した。
中級堕天使止まりの自分が、上級悪魔が二人もいるこの地を堕天使のモノにする。それは絶対に広まるだろうニュースであり、少なくとも出世の邪魔をする上司で隠し通せることではないだろう。
そして、上層部はやっと目にするのだ。優れた星辰光と至高の能力を併せ持つ、このレイナーレという堕天使を。
その為に入念な準備をしてきた。すり寄ってくる者達と繋ぎを取り、多種多様な方法で自分の仕事場所に連れてきた。儀式の為に必要な機材も、上司の目を盗んで集めてきた。
あとは儀式を完遂させ、その勢いで現地の上級悪魔を討伐する。そうすれば自分は中級堕天使止まりの扱いから脱却することができる。
そう考えたレイナーレは、そのうえで小さく微笑んだ。
「それと、アーシアの場所は把握できているかしら? そろそろ連れ戻さないと駄目よ?」
「もちろんです! ただ、何故かこの街の商店街の方にいますね……誰かと共に行動しているようです」
その言葉に、レイナーレはため息をついた。
「人間如きにすり寄った程度で、私達から逃げられると思っているのかしら? それとも悪魔達の助けでも借りようとしているの?」
ならくだらない。
倒す順番が前後するのはリスクがあるが、十分な勝算は既にある。
まずは回収し、邪魔するのなら悪魔だろうと人間だろうと殺すだけだ。ただそれだけの問題でしかない。
「さて、準備運動を兼ねて連れ戻すとするわ。その間に再確認を済ませておいて頂戴」
「はっ! かしこまりました!!」
悪意が、動き出した。
《樹下誠二》
俺は放課後、リアス先輩のいるオカルト研究部で簡単な会議をしていた。
「……で、どうするんですか先輩」
「さて、何のことかしらね」
とぼける先輩に、俺は言っておいた方がいいことを言う。
「一年ほどつるんでるんで断言しますが、イッセーは下手すると辞表を提出して一人で動きかねないところがあります。居場所の目星がついているなら尚更です」
それが最大の懸念点だ。
あの男はいい奴なんだが、ちょっと考え無しなところが玉に傷だ。
覗きの常習犯だったことからも分かる通り、善人ではあるが順法精神がそこまで豊富なわけではない。
個人としては善人だし、人様に好き好んで迷惑を駆けたがる奴でもない。テロリストに好き好んでなろうという神経はないし、犯罪社会でのし上がろうなんて発想もない。ただしかし、体育会系の部活みたいな徹底的な上下関係とか、厳しい社会秩序とかをそう重視するタイプでもない。
どこかのゲームで言うなら……ニュートラルとかいった感じか? あくまで個人として善人で周囲に配慮しており、社会の歯車であることに徹するタイプじゃないわけだ。
そして事態についてだが、これも厄介だ。
なんでも、はぐれ悪魔案件で落ち込んでいた朝に、傷を治癒する異能を持ったシスターに会ったらしい。
彼女は赴任先の教会を探していたとのことだが、たまたま場所が地図を見て分かったイッセーが連れて行ったそうだ。
……この時点でもうちょっと警戒心を持ってほしいが、それは置いておく。
問題は、その教会は既に使われてないことだ。これに関しては俺達桃山警護事務所も把握しており断言可能。十中八九、はぐれ悪魔祓い達の仮宿といったところだろう。
そして昨夜、イッセーは三度依頼をこなそうとしてチャリで依頼人の家に向かった。
しかしその家で依頼人は惨殺死体と化していた。更に下手人であるはぐれ悪魔祓いはまだ残っており、イッセーを殺そうとする。とどめにさっきのシスターは、結界を張る担当として家に来ていたうえ、その凶行についてはさっぱり伝えられてなくて愕然としたそうだ。
イッセーは殺されかけるが、ぎりぎりでリアス先輩達が間に合ったことで悪魔用の転移を使って離脱。だがイッセーでも転移できるが悪魔専用だった転移なので、イッセーはシスターを助けようとしたが無理だった。
……もう嫌な予感のバーゲンセールだ。こちらに何の話も来てないところ及びレイナーレの奴がまだ戻ってないことから考えて、あいつがろくでもないことを企んで動いていると考えるべきだろう。頭が痛い。
とはいえ、確認はしっかり済ませてからでないと俺達は動けない。桃山警護事務所は堕天使側からも長期依頼を受けている為、配慮を示す義理があるからだ。
そしてだからこそ懸念点はイッセーだ。
「兵藤一誠という男は、情に厚い
「……困ったわね。確かに話を聞いて同情はしているけれど、うかつに動かれると流石に困るわ」
リアス先輩が困るのも同然だが、さてどうしたものか。
と、ノックが響いて麗夜さんとリアス先輩の眷属である二年の木場が入ってくる。
「……リアス嬢。追加報告が神の子を見張る者から届きましたが、どうやらレイナーレ一派はまだ戻ってきてないようです。またレイナーレと繋がりのあったはぐれ悪魔祓いが200人近く行方不明になっており、どうもこの辺りに向かった可能性があると報告が来ました」
「それと例の教会の情報を集めましたが、正確には結界の星で把握できてないですけど、100人近くいるのは間違いないです。朱乃さんと小猫ちゃんも周囲を探っていますが、三つの廃墟に数十人の悪魔祓いの系列と思われるものがいるようで、その情報とも一致するかと」
俺はそれを聞いて、リアス先輩の方を向いた。
「先輩。
俺達が動くにはもう行ってほしいが、リアス先輩なら自分の管轄での対応だからいいような気がしてきた。
幸い、この駒王学園には上級悪魔が他にもいる。全員総がかりで各個撃破を試みれば打倒は十分可能ではないかと思う。
と、そこで俺のスマホに通話が入った。
通話先を見てちょっと目を見開いた俺は、ここで話をするのはよした方がいいと判断する。
「すいません。ちょっと出ます」
外に出て足早に離れると、俺は遅くなったが通話に出る。
「……遅くなって申し訳ありません。どうしましたか?」
そして通話先からの連絡に、俺はため息をつきたくなった。
あ、頭が痛くなってきた……っ!
応対を終えて部室に戻ってくると、入れ違いになるようにリアス先輩が出てきた。
「ちょうどいいところに来たわね、誠二」
「すいません先輩。ちょっと伝えたいことがありまして」
俺と先輩は互いに情報を交換すると、互いにため息をついた。
「そちらも大変なようね。で、どうするの?」
「もちろん動きます。そちらもでしょう?」
互いに大体何をするかを把握したうえで、お互い小さく苦笑した。
さて、まぁおかげでやることははっきりしたから大丈夫。
「イッセーのこと、お願いね?」
「ご安心を。しっかりやってきます」
そういうとすれ違い、俺は部室に入る。
……おお、臨戦態勢が三人も。
「誠二くん、実は―」
「あ、その前に連絡が」
麗夜さんに伝えるべき情報を耳打ちする。
それを聞いた麗夜さんは、目を見開いたうえで天を仰いだ。
「……このタイミングで、つるべ打ち……っ」
「頑張ってくれ、麗夜さん」
本当に同情するが、もうこうなったら仕方がない。
俺達がやることは決まったも同然。
そして、それはイッセーを見れば分かる。
「行くみたいだな」
「ああ。アーシアは絶対に助け出す!」
……そうか、ならいい。
「俺と麗夜さんも行くさ。その辺りはもう大丈夫だ」
イッセーはちょっと目を丸くするが、まぁそうだな。
立場や責任が俺達にもあるからな。堕天使がきちんと真面目に仕事をしているのなら、イッセーを見捨てるほかなかったのも事実だしよ。
「いいのか?」
「ああ、ある筋が依頼が来てな。……堕天使レイナーレとその一派を可能な限り討伐してほしいとのことだ」
まぁ、その辺りでちょっと面倒ごとになりそうな気もするが。
「実際問題数が多すぎるから心強いよ。……ただ、今のメンバーで足りますか?」
最初の言葉を俺に言ったうえで、麗夜さんに懸念点を告げたのは木場だ。
まぁ、少なくとも百人を超える敵を相手にするわけだからな。本格的に潰す場合、分散している別動隊も片づける必要があるだろう。
ただまぁ、そこは問題ない。
「分散地区の内、二か所はどうにかなるよ。あともう一か所に関しても、まぁ解決するから放っておいていいかな?」
「……放っておいて解決するんですか?」
麗夜さんの言葉尻を塔城が捉えるが、そこに関しては安心していい事態になってるからな。
というより、別の意味で面倒ごとにしたくないからできれば関わりたくない事態になっているというか。
「……依頼主からの追加事項なんだが、別口でレイナーレ一派に対する報復行為を依頼された連中がいてな。リアス先輩には話を通したが、まぁ一か所ぐらいは潰させた方が面倒ごとにならないだろうって判断だ」
「なんだよそれ?」
イッセーが首を傾げるので、俺は今後の知識を追加することも兼ねて教えることにする。
「神の子を見張る者及び、天界と教会の依頼は一切受けない異形側の傭兵部門を持つPMC。独自に星辰体技術を確立し特許を取り、国連加盟国の殆どから莫大な特許料をせしめて以来急拡大を続けている大企業。……アイアンローズという、この国が警戒心をあらわにしている組織だよ」
ああもう、面倒なことになってるなぁおい!!
《Other》
堕天使レイナーレに従い、駒王町を堕天使の物にするべく集まったはぐれ悪魔祓い。
星辰奏者すら複数人保有する彼らは、レイナーレ達のいる廃教会に集まった部隊とは別に、三か所に分散していた。
三十人前後でそれぞれ、廃墟となっているビルや倉庫に集まっている彼らの目的は別動隊。レイナーレ達が上級悪魔がいる駒王学園を攻める際に、包囲する形で動き出す予定の者達だ。
だが同時に、彼らがそれを成すことはあり得ない。
「グリィイイイイゴリィイイイイイッ! 抗癌剤の到着だぁ!」
それぞれに不意打ちで結界を張り、そしてそれぞれが動く。
「……これだから神の子を見張る者は度し難い。今回は仕事をしてる方だろうけどな」
強襲を仕掛けるは、誰もが少数精鋭。
「それじゃぁ、流花さん海砂さん懲らしめてやりなさい!!」
「「平常運転で何よりです」」
「所長、私は? あとダーリンは!?」
今ここに、思い上がりすぎた者達に因果応報の時が訪れた。