鉄の揺籠、VRカプセルベッド。
人類が人類であることを諦めた末の産物だ。
そんな万能揺籠の中でプレイするのはもちろんギャラルホルンオンライン!
生命多種族繁栄の地ミズガルズ、その舞台で繰り広げられるファンタジーアクションオンラインRPGだ。
目的としてはミズガルズ外部の未開地ウーズガルズを歯応えのあるモンスターを薙ぎ倒して少しずつ攻略開拓していく……そんな定まったシナリオのない壮大で自由なゲーム。
特徴としては、あと笛ってアイテムが結構集めたり奪い合ったりこの世界において重要なモノになってくるんだが……まぁまぁそこは実際この良ゲーをプレイしてやってみてくれよ。
──何?
そんな檻の中にいたら寝てるのかゲームしてるのか分からないだって?
……ノンノン、認識があまいぜ。こいつがあれば今までテレビ画面上の勇者とコントローラーを握る畳の上の
VRカプセルベッドに寝転び、顔からつま先まで人間をフルスキャンし、自分に似たキャラクターをAIが描画し作り出す。
それがこの世界ギャラルホルンオンラインの分身、俺の影。
闇の裏ギルド、
今日も学校の宿題よりごろんと……ログイン。俺宛に届いた任務を遂行する。
そう、闇凪陽でつながる俺たちはこの現実より広い世界を裏から動かしている。そう自負している。
なんせ俺は────
▼▼▼
▽▽▽
「硬いな、どナイト!!」
「どはいらないナイトだ! フっ、貴様みたいなのに斬られてはまた一段と輝きを増し硬くなったからなぁ!!! 影の傭兵シャドウ・シェード!!!」
黒衣装に施された透明隠蔽のマジックバフは玄人騎士様の目に見破られ、城前の草原にて両者は遭遇した。
分断作戦で城の橋を落とした間に、一時協力関係にある防衛側のギルドマスターに彼が命じられたのは敵のエース級プレイヤーの撃退。
兜まで重々しくフル装備した黄金のナイトと、影の傭兵の剣はさっそく激しくぶつかり合う。
素速さで勝る影に、攻撃を当てることは難しいこと。しかし相手は人間、光速のマジックを当てることは容易いことである。黄金ナイトは簡易光魔法【ムーンフラッシュ】を発動した。
【ムーンフラッシュ】:
本来ダンジョンに潜む罠や隠しアイテムを見つけるために使う攻撃力を持たない魔法。
だがこの黄金のナイトにしかできない裏技があるのであった。
それは、手のひらから放った光を、有名ジュエリーブランドとのコラボ武器盾《ゴールデンジュエルシールド+50》に乱反射させることで起こる裏技だ。
そうすることで豪華な黄金宝石盾に施された飾りであって飾りでない、隠されたエフェクトがプレイヤーの予想より過剰に煌めくのである。
「目眩し!??」
「ハッハッハ! 廃課金シールドのエフェクトは額以上に眩しいだろう!」
「ッ!? ……ぶっしー……これが子供たちのやるゲームっていえるかよ、ナイトさん……」
「今日ばかりの騎士道精神とは勝ちゃよかれなのさ、貴様にな!!! さすれば子供も手を叩いて喜ぶ! 勝利者の私が面白くこの悪しき影との戦いを語り継いでやろう!」
剣劇の最中の台本破りの目潰しを浴びてしまった影の傭兵は、突然光を発しヤラれてしまった奇策に両目をぎゅっと絞るように閉じた。
黄金のナイトはここが好機とばかりに、愛刀
「【
〇×△□、入り乱れる特殊剣筋の秘伝斬りがシャドウを襲う。
激しすぎるエフェクトが次々と描かれる……ネタでは済まない狂乱トドメの課金秘剣は────
「そんなに叫んじゃ────避けんだろ?」
「ナッ!?? なにぃ!? ありえない!? この技は覚えたところで完全にこっちのマニュア──」
ありえない。
黄金のナイトは戦慄する。
掟破りの目潰しをされれば、影響を受けるのはゲームのステータスじゃない生身の肉体、目が回復するまでは時間がかかるはず。
そしてその目潰し状態ではどんな技かを例え知っていても、この珍乱舞の全てを避けることは────生半可な難易度ではない。
「【シャドウボル…ソード】!!!」
ナイトならば打たれる度に、
影ならば照らされる度に、
職種ごとの特殊な行動で溜まりやすくなる通常MPとは別に、特別強力な技を放てるスペシャルMPというシステムがこのゲームにはある。
そしてスペシャルMP技の隙にはスペシャルMP技で当然お返しを。
影の中で発動待機チャージしていた影中距離魔法【シャドウボルト】をキャンセルして、叩き込むは【シャドウボルトソード】。
使う自身の影量は2倍になり射程も著しく減るが、その魔剣影剣の威力は────油断した黄金の鎧をも斬り裂き、砕く。
カウンターで浴びせられた必殺に、吹き飛ぶHPはゼロ。
ダメージ限界を迎えた黄金のナイトはドス黒い影を受け、草原の地を光に消えてゆく。
そしてギルド戦のルールにおける、倒されたプレイヤーはデスペナルティにより3分間このギルド攻防戦の戦線に復活することはできない。
つまり相手はエース級のプレイヤーを一騎失い、チャットテロップにも流れる悲報が士気を下げた中で3分間以上も色濃くなる……影の脅威に怯えながら戦わなければならない。
そして、やがて────
そのまま時は過ぎ……勝利の笛が震え、戦場に鳴り響いた。
⬜︎おしらせですよ。
戦力ゲージ27%
ギルド チョコレートデスティニー WIN
戦力ゲージ0%
ギルド 雪見ぷくぷく LOSE
⬜︎
▼
▽
▽チョコレートデスティニー城内貴賓の間▽にて
黒尽くめ姿の影属性魔法剣士、シャドウ・シェードは此度の防衛戦に期待以上のただならぬ活躍をおさめた。
そのご褒美で傭兵として一時的にギルド員の末席で働いた彼は、城内の賓客の間へと、豪勢な食事とともにご招待されたのであった。
シャドウ・シェードの密かな楽しみといえばフルVRゲームの世界における〝食事〟である。もっぱら食う専であるが、彼はそれを仕事の報酬に指定する程に細身に似合わぬ食いしん坊なのである。
VRゲーム内での食事とはもちろんそれで現実の胃袋が膨れるわけではない。味覚と嗅覚にまで肉体をスキャンしリンクする許可を国から得ているこの〝ギャラルホルンオンライン〟は豊富な食材未知の食材までも料理に扱えることで有名なのである。
つまりゲームの中ではどんな高級な料理もその味や香りや食感を細かく再現し、全プレイヤーが擬似的に味わうことのできる現実の飲食店泣かせのシステムを搭載されているのである。
ただし、やはり腹は膨れない、あまりにも食べすぎると後でログアウトしたときに唾液がだらだらと分泌するという食いしん坊なプレイヤーたちの報告は多々あるが……そんな生身の不具合をフィードバックするのは現在のゲーム技術では難しいものだ。
ギルドチョコレートデスティニーには専属のパティシエがいるという。なんでも前菜肉料理…全料理にチョコレートを使ったチョコレート縛りのスイートで大人な……風変わりな味が楽しめるというのだ。
そうとなれば食いしん坊な彼の指定した報酬は決まっている。
そして今、シャドウ・シェードはチョコデスのフルコースを堪能し終えた。
大満足に汚したチョコ色の口元を白いナプキンで、顔に似合わずお上品に拭いながら……。
「ふふ、ご満足いただけましたか?」
全ての料理を担当したパティシエの女は椅子にかけたゲストに微笑いながら、そう問うた。
「まぁまぁかな? もっと食えるけど今日はこのぐらいにしといてやる」
皿に少し残っていたチョコソースを中指で掬いながら、ねぶる……。若いゲストは偉そうにそう答えた。
「ははは、変わったお感想で。ものの見事、チョコデスフルコースを完食していただきどうもありがとうございます。では、そろそろお眠りください」
「はははは──は? なにが……ずぁ……」
コック帽の女が微笑む顔が、澱んでいく。
瞼が急におもくなり、思考が定まらない。
大皿にほっぺたをのせながら……シャドウの意識が遠のいていく────────。
▼
▽
「さぁてフルコースのデザートはここから。提供するまえにチョコっと私のお楽しみの時間です」
「なっ……なんだこれ……」
ストロベリーチョコ色のおさげにソバカスと糸目、それはシャドウがさっき会った女パティシエの顔である。
眠りから覚めて……気付けば見知らぬ黒いベッドの上にいたシャドウは、訳の分からない状況に戸惑った。
しかも身ぐるみを、装備を、剥がされている、ゲーム的にバグった全裸である。
「おいっ!! なんだこれ!?? お前俺に何を!? 何の魔法だ? 毒かデバフか!? 何しやガッ──」
「チョコっとうるせぇおい」
「ガハッ!?」
女がその糸目を開眼し、寝転ぶ腹筋にいきなり躊躇なく刺されたペティナイフに、シャドウはゲームでありながら息詰まり苦しんだ。
そして、苦しみ開いた口には────突然女の顔が迫り、キス。
滑り込み侵入するパティシエの舌は何かを含んでいる。──チョコ味のする固形物が強制的にシャドウの口内に投与され、甘く広がっていく。どろっと溶けてゆく味……。動き蠢きシャドウの口内を這いまわり蹂躙する舌使いに、訳も分からず……ただ甘く離れない食すようなキスされながら溶かされてゆく。
女キャラのホワイトチョコ色の瞳にずっと睨み見つめられながら、卑猥な唾液音を鳴らしキスされつづけるシャドウの目尻はとろんと溶けてゆく。
ながいながいキスに喋ることもできず黙らされてゆく。
押しのけようにも身体は何故か痺れて思ったように言う事をきかない……。弱弱しく震える手がいきなり強制的に恋人つなぎのように掴まれて、ベッドに押さえつけられていく。若い雄の抵抗心を繋いで押さえつけて、──崩す。
キスはまだ終わらない。
もう完全に溶けてしまったチョコの味と、何故だか甘く味わされるほどに火照るカラダ。
そして最後は甘い唾液を彼の舌ごと啜り、唇と両頬を窄める……。パティシエ女に強く吸われながら────
シャドウ・シェードは射精してしまった。
勃起ペニスから噴きあがる白濁。
その射精の間にも女の口に吸われ啜られながら、やっとちゅぷっと……音を立てて離れた。
「ぷっ、チョコっとお早いようで? まだまだ仕込みは始まったばかりなのですよ? ふふふ、とろけてしまって……仕込みがいがありそうです。あーははは」
余す事なく食べられねぶられるようなキスで射精。
ゲストである彼はチョコレート料理のフルコースを堪能していたはずが、今はその料理人により直接与えられるチョコと唾液に口内口元思考までを甘くべとべとにされていた。
コック帽の捨て落ちたパティシエ女そのプレイヤー名〝しょーこら太子〟は、下劣な本性を現したかのように優しげな糸目も忘れて、高笑いを浮かべている。
ギルド、チョコレートデスティニーの城にて、謎の甘い毒を盛られてしまった影の傭兵シャドウ・シェード。
フルVRゲームギャラルホルンオンラインの凄腕エース級プレイヤーである彼の数奇な運命はこの日から……。
あるいは彼の気付き得ないもっと前から……。
神の悪戯により決まっていたのかもしれない。
鉄の揺籠はまだ醒めない。
ログアウトしないゲームに熱中する身体は熱くなり警告音が流れる……。
豪勢な料理の味に、味わったことのない秘密の蜜の味……。
フルスキャンされるリアルとゲームの感覚の境目は一体どこからなのか。
脳をも惑わすきけんなチョコの味が、ウイルスのように染み渡ってゆく────────。
武器のナイフを腹にブッ刺しては、キスとチョコで強制的にHPを回復していく。
シャドウは朦朧の意識の中で、甘く甘く供給される一粒のチョコごと溶かされてゆく。
理解不能の狂気の行動が今もなおゲーム内で行われており、彼は身体がもうずっと熱く……まるで自由が効かない、すきに与えられるままに……。
「は~~い10個めーいないいないべぇーー……ぁぁ…」
またべぇーっと出した長舌上にチョコを一粒のせて見せる、女パティシエの顔が近づいて来る。女がターゲットした顔を睨みながら、生温かい吐息が閉じた彼の唇にあたる。
「やっ…やめ…ろ」
「はーいチョコっとっととお口開けろーー」
「ぁガッ!?」
また握っていたペティナイフを腹部へと刺されて口を開けさせられていく。プレイヤーへとゲームシステム上でのダメージを与えつつ、そしてねじ込まれる、毒と薬と狂った愛。
また執拗なキスがシャドウの口内に侵入し、身体が熱くなりおかしくなるチョコのクスリを溶け与えていく。何度も同じことを繰り返した末に彼のことを知り尽くしたのか、上歯茎の裏を女の舌が素早くスイングしていく。こそばゆい感覚が与えられつつチョコが溶けて、口内にまた甘い味が侵入する女舌に掻き回され広げられてゆく。
そしてまた長い長いキスから彼の舌を根元ごと吸い上げるように、口を窄めて舌フェラをする。
「じゅずずぞぞじゅ♡♡♡」
「ひぁぁあ♡♡♡」
とても淫靡なそのキスに耐えきれず……シャドウ・シェードはまた啜られながら射精した。
ぐりぐりとナイフで腹をかき乱しダメージとストレスを与えながら、上は反面甘くねちっこいチョコ味の恋人キスをして射精の終わりまで溶かし甘やかしてゆく。とぷとぷと放たれてゆく白濁を女は後ろ目に見ながら────
「ふふふ、チョコが溶けて可愛く甘く柔らかくなってきましたねー、ねぇ? ふふふあははは」
雄の反抗的な目すらも蕩けてもうそこにはない。繰り返された甘いキスと突き刺す拷問に、唾液とチョコではしたなくべたつく口元。
そんなダメにした表情出来栄えを間近で見つめて、彼の口元のやらしい色を舌で舐め取りながら、おでこに最後はやさしくキスをする。
口角を引きつり上げる……イカれた女パティシエに見守られながら、シャドウ・シェードはまた眠りに堕ちていった。
▼
▽
目覚めたらまたベッドの上。
シャドウはおもむろに暗がりの中起き上がり、ひどい汗をかいている事に気付く。
甘い味がまだ口の中の現実にのこっている……。
そして視界をさえぎる邪魔なレース状のカーテンをひらき、寝ていたなぞの天蓋ベッドから抜け出す。
すると見えた橙色の明かりの中に悠然とソファーで座り、波打ちティーカップに口をつけ、茶を飲んでいる黒髪褐色肌のプレイヤーがいた。
その耳の尖りは種族ダークエルフ。
アラビアンな臍出しの白黄ストライプ衣装と、金とブラックオニキスのアクセサリーをしている妖しい派手な女プレイヤー……。
それはシャドウの記憶するギルドチョコレートデスティニー、略称チョコデスのギルドマスターだ。
「この紅茶の味と香りははっきりし過ぎていてイマイチだの。新しい茶係をどこかで雇うとでもするか」
「おいお前!! 俺に何しやがった!!」
「おや、お目覚め? 此度の働きは見事だったわ。さすがは影の傭兵シャドウ・シェード。そんな怖い顔しないでそこに掛けたら」
「うるせぇ!! 全部お前の仕業か!! チョコデスのギルドマスター!! PKしてでもここまでのこと全部吐いてもらうぞ!! ──あ」
「フッふふふ、その丸腰で凄まれてもパン屋のNPCも怖がりゃしないわ。──蛮勇、影の傭兵シャドウ・シェード」
左の剣鞘から剣を抜こうとしたが、そんなものはない。
シャドウ・シェードはチョコデスのギルドマスター〝キョロ〟にくすりと微笑われながら、一糸纏わぬ装備なしで考えなしに威嚇した自分の無策を恥じた。
赤い唇は紅茶をまだゆるり悠然と飲んでゆく。威嚇と脅しすら歯牙にかけず妖しく嗤うダークエルフ族のさまに、睨むシャドウは恥など通り越して……。
先ほどから暖炉にバチバチ音を立て赤熱し燃える薪のように、シャドウ・シェードの伸びゆく影に怒りの感情がメラメラと引火し募った。
そして首をぶんぶんと左右に振り見つけた──部屋飾りに置かれてあったエストックを素早く手に取りその場で彼は装備した。
その細き鋭き切先をまだソファーに掛けたまま待つむかつく態度のギルマスの喉元へと向けた。
「玩具を見つけてはしゃいじゃってかわいい、いまの私と同じかも?」
「黙りやがれ!! クソキモ耳ダークエルフ!!」
怒る切先に貫かれたティーカップに穴が空き、安く香る飴色の血が飛び散っていく。
まともな装備が今無かろうと彼には関係ない。一介のギルドマスターごとき、一介のダークエルフごときに微笑われるいわれなど彼の世界にはない。
この湧き上がりつづける怒りの感情は今は武器など選ばない、まかせないと鎮まらない。
HPはある、MPはある、剣はある、ここはVRゲーム、相手はイカれた違法プレイヤー、なら殺す!
影の傭兵シャドウ・シェードは突き刺さった赤いソファーから銀刃を引き抜き、紅茶色に濡れたチョコデスのギルドマスター、キョロへと不意打ちの追撃を仕掛けた。
※VRカプセルベッドⅢ:
世界を股にかける大手多国籍電機メーカー弐創が作り上げた次世代仮想空間電子計算機である。
展開される3Dビジョンはパソコンの代わりにもなり、ベッドは寝そべる傾斜角度を可動変更可能。格納されたワイヤレスキーボードを使えば従来のようなパソコンの役割にもなる。
しかし細々とした機能より醍醐味は全身と感覚をフルスキャンするフルVR体験への対応。人をリッチな夢のVRゲームの世界へと誘う鉄の揺籠の役割だろう。
開閉式のカプセル内の温度はファンと簡易エアコンで調節可能。
星空、森林、宇宙、水の中などのリアルな映像体験の中にいながらひとつ眠りにつくのも……心地良い。未来的ベッドとしての価値も大いにある。