「私は雇ったことないけど、簡単に言ったら”代わりに荷物を持ってくれる仲間”のことね」
どうやらエリザは知っていたらしい。
「ええ、そう。クレスもメアちゃんから依頼表の説明はされたわよね?」
「魔物が落とした戦利品や鉱石、それに薬草なんかを収集して依頼主に渡すと報酬が貰えるってやつだよな」
「そうそう。だけどあなたたち探索者の本来の役割は魔物と戦うこと。それなのに採集ばかりしていたら荷物が重くなって戦いに支障が出てしまうでしょ? そこで、非戦闘員である運送屋に荷物を持ってもらうのよ」
初めて地下迷宮へ行ったとき、巨大ムカデやデスマッドを倒して戦利品を落とした。
あれを持って帰ってきていれば、依頼表で探している依頼者に渡して報酬を貰うことができた。もし依頼がなかったとしても、お店なんかで買い取って金にすることもできる。
戦うのに邪魔になると思って捨ててきたが、運送屋を雇っていれば戦闘に支障をきたさないで済むということか。
「運送屋に関しては依頼云々の話しだけじゃないの。上層であれば日帰りでそこまで大きな荷物にならないけど、中層下層って下に行けば行くほど地下迷宮で滞在する日数も増えて食べ物や飲み水とかを多めに持って行かないといけないから、必然的に荷物は重くなってしまうわね。だから中層よりも下へ行く探索者パーティーは、必ずといっていいほど運送屋をパーティーに入れているわね」
「なるほど。じゃあ、中層より下に行くってなると雇わないといけないわけか」
探索者として稼ぐ一番の方法は、誰も見たことのない古代遺物を見つけて一発当てることだろう。
ただエリザも言っていたが、貴重な古代遺物なんてものはそう簡単に見つけられる物ではない。
ましてやこの世に地下迷宮が生まれてから既に何百年も建っているんだ。上層、中層、下層なんかは先輩探索者にほとんど狩り尽くされている。
それらの場所で、この世に流通していない貴重な古代遺物を見つけられる可能性は限りなく0に近い。
そんな奇跡を狙うよりも現実的なのは、多くの依頼をこなして生計を立てることだろう。そして地上と地下を一日で往復するのは現実的ではない以上、多くの依頼をこなすならカトレアの言った運送屋を雇う必要がある。
まあ、その運送屋を雇う費用分も多く稼がないといけなくなるんだが……。
「カトレア、その運送屋はどうすれば雇えるんだ? これもカトレアかメアにお願いした方がいいか?」
「私に任せてくれたら斡旋するわ。ただ……」
カトレアは「問題がある」と言いたげに難しい表情を浮かべた。
「ここではちょっとあれだから、奥で説明するわ」
カトレアに連れられて奥へ。
歩いていく中、周囲の視線を感じる。
その多くは俺やカトレアではなく、エリザへ向けてのものだ。
「何から話したらいいかしらね」
「これから話すことは、ここにいる連中の視線と関係があるか?」
そう聞くと、カトレアはため息をつく。
「ええ、そうよ。あまり長居させても気分を悪くさせるだけでしょうから、配慮抜きで話すけど……ほとんどの運送屋は、あなたたちと地下迷宮へ行ってくれない。その理由は──」
「私が、ダークエルフだからか?」
「そう」
エリザも、カトレアも、お互いに申し訳なさそうに俯く。
「そもそも運送屋の多くは固定のパーティーに属さないの。いってしまえばその日その日の雇われてってのが一般的よ」
「毎回、別の探索者と地下迷宮に行くのか。固定を組んだ方が連携面でもいいと思うが」
運送屋というのが戦場でどんな立ち回りをするかわからないが、はじめましての相手よりも性格や癖を知った相手の方が動きやすいに決まっている。
だから固定でパーティーを組む方がいいと俺は思った。
「もちろん報酬も満足、パーティーの関係性も最高ってなったら、その探索者たちとパーティー契約をする運送屋もいる。だけど運送屋を一言で言えば”商品”なの」
「商品?」
「そう、自分は商品。どの探索者だって、有能な運送屋を求めてる。でもパーティーを組んじゃったら、他に今よりも良待遇のパーティーが現れたときそっちに行けなくなっちゃうの。めんどくさい契約なんかがあってね」
「要するに、オークションみたいに自分を高値で買ってくれるとこに行けるよう、わざとパーティーを組まずその場限りのパーティー契約を結んでいるわけか」
「そういうこと。そしてこの都市にいる探索者の七割は人間なの」
そういうことか。
と、俺は大きく息を吐く。
「はっきりいって、運送屋にとっては人間という種族自体がお得意様といっても過言じゃないわ。そんな状況でもしもあなたたちと仕事をした……なんて噂が広まればその運送屋は今後人間たちから雇われない。それはその運送屋にとって死活問題になるの。だからおそらく、私が斡旋しても仕事を受けてくれないと思うわ」
「ここでもまたそれか」
まるでガキのイジメみたいで呆れてしまう。
だがドーゴンも言っていたが、それがここでの普通なのだろう。そしてそうさせているのは、間違いなくこの迷宮都市ウォレスイトを仕切っているという王的存在の人間なのだろう。
「これまでそういう話を嫌ってほど聞いてきた。その度にエリザが辛そうにしているのもな。それで……? カトレアはわざわざそんな胸糞悪いことを言うためだけに、俺たちをここへ連れて来たのか?」
「……クレス」
「私に敵意を向けないでちょうだい。言ったでしょ、配慮無しで話すって。私が伝えたかったのは、これが現状の迷宮都市ウォレスイトということ。そして、こういう理不尽なことがあなたたちにはこれから頻繁に訪れるという助言。……昨日、中央エリアで人間の探索者たちと揉めたんでしょ?」
周りに聞こえないように小さな声で話すカトレア。
「そんな噂も広がっていたか」
「『新入りの人間の探索者がダークエルフを庇った。ドワーフ族と共に』ってね。名前までは広がってなかったけど、すぐにあなたたちだってわかったわ。この都市にダークエルフはエリザ一人だし、そういったことに囚われずいい女だからと彼女を助けようと考える人間、あなたしかいないもの」
「それで連中は、俺たちを襲う計画でも立てているのか?」
「かもしれないわね。きっと見過ごしてはくれないでしょう。あなたはきっと、ドーゴンからこの都市で他種族がどう扱われているか聞いたでしょ?」
「……他種族に肩入れしたら、有難いことにそいつも敵意を向けられるだとかってな。だから人間は人間で、他種族は他種族で頑張りましょうってか? はっ、ここは子供の街か何かか?」
「……本当にね。ただ、あなたみたいにそういった子供じみたことに屈しない者もいるということ」
「ゴードンや医療所にいた医者とかか?」
カトレアは「ええ」と小さく頷く。
名前は出なかったが、目の前にいるカトレアもそうだろう。
彼女だって人間だ。けれどこうして、周りの目を無視して俺たちの手助けをしてくれている。彼女だってここで営む以上、この地の暗黙の了解に従わなければいけないというのに。
「それで、俺たちはどうやっても運送屋は雇えないってことでいいか? もしそうなら俺たちは──」
「──待って」
立ち上がってこの場を去ろうとした。
カトレアに迷惑をかけるわけにはいかないし、何より悲しそうに俯くエリザをこの場にいさせたくなかったから。
だけど止められた。
「一人だけ……一人だけ、あなたたちの依頼を受けてくれる運送屋に心当たりあるわ」
「へえ、そんな変わり者いるのか?」
「ええ、まあ……色々と難がある子だけどね。金さえ払えば引き受けてくれるはずよ。それとその子、すっごい可愛い子よ」
「ほお」
そう言われると俄然、会ってみたくなった。