「他の運送屋連中が噂してたよ。人間に喧嘩を売った人間とダークエルフの探索者がいるって。それで、キミたちからの依頼を受けたら金輪際、人間の探索者から依頼してもらえなくなるんだってさ」
「そうみたいだな」
「それにしても、実際に会ってみるまでは嘘だと思ってたけど、実際にいるとはねえ……」
観察するように、彼女──アリスは俺とエリザを交互に見る。
「そんなに俺たちが面白いか?」
「ああ、ごめんごめん、面白いわけじゃないんだ。ただ珍しくって。むしろ、ボクはキミみたいな人間好きだよ?」
「好き?」
「だってそうでしょ。ここでは人間様の言うことは絶対みたいな風潮があるの。人間様に嫌われたら仕事ができない、人間様に嫌われたら買い物するだけでも相場よりも高くお金を取られる。そんな中、人間であるキミが、同じ人間に喧嘩を売った」
腕を組み、にやにやと笑みを浮かべながら話を続けるアリス。
「人間たちと仕事をする兎人族の運送屋だって生きる為に従ってはいるけど、ほとんどは嫌々人間に従っているんだ。だけどキミが同じ人間に喧嘩を売った。それを知って、中には陰から応援している者もいるんじゃないかな? 兎人族だけじゃなく他の種族からもね」
「そうか? まだ「ファンです、応援してます!」って握手を求められてないぞ?」
「当たり前じゃん、だってそんなことしたら連中に目を付けられちゃうもん」
クスクスと笑うアリス。
「だからボク自身も、キミたちを嫌ってない。むしろ応援したいぐらいさ」
「それは有難いな。じゃあ仕事の依頼をしてもいいか?」
「ボクに会いに来た目的だね」
「カトレアから紹介された」
「彼女、また……ボクは何でも屋じゃないって言ってるのにさあ」
「それとこれを渡せって」
ぶつぶつと文句を言う彼女に、俺はカトレアから預かった酒場で使えるお酒飲み放題の無料券を渡した。
「なるほど、これでボクに依頼を受けろってことか……」
ウサギの耳がピクピクと反応している。
兎人族は感情によって耳を反応させると聞いたことがあるが、今は喜んでいるのだろうか?
アリスはチケットを受け取ると、席に座った。
「前までだったら二つ返事でいいよって言ってたんだけどねえ。残念、キミたちの依頼は受けられないんだ」
「……理由を聞いていいか?」
長々と耳障りのいいことを言っていたが、結局この女も長い物には巻かれろということなのか。だがそれは仕方ない。彼女も兎人族の運送屋。俺たちの依頼を受ければ人間から依頼がこなくなり、敵視もされるのだから。
やはり無駄足だったか。
そう思ったが、
「あっ、勘違いしないで、ボクは周りがうっさいから受けないわけじゃない。こ、れ、さ!」
彼女は目の前の大量のチップを俺たちに見せる。
「最初に言っておくけど、ボクが運送屋として仕事をする目的はこれなの!」
「……チップ?」
「そう、このお金に化けるチップ! ボクはここで、このカジノで、大金持ちになるんだよ!」
……目がキラキラとしている。
「そ、し、てっ! 今日は朝から調子がいいのさ! 見てよこれ! さっきのルーレットで赤の15に入って24倍! 1万枚のチップが目の前に!」
今はっきりとわかった。
彼女はおそらく他種族だからとか、周りの目がとか、そういうのを気にするタイプじゃないだろう。
もし気にするタイプであれば、周りから大勢の視線を受けながら俺たちにこんな熱弁なんてしない。
俺たちの依頼を受けないのは──。
「ボクは今日──運送屋を引退する! この1万枚のチップを増やして、南国のリゾートに家を建てて優雅に暮らすんだ!」
そういうことか。
俺とエリザが呆れているのにも気付かず、アリスは夢の世界に行ってしまった。
そしてカトレアから受け取ったチケットも返却された。
「だからこれ、彼女に返しといてよ。あと伝えて、今度はちゃんとお金を払うって。それにツケも払うってね!」
こいつ、カトレアに借金してたのか……。
「キミたちのことは陰ながら応援してるよ。何か困ったことがあったら……ボクがまだこの都市にいたら相談してよ」
「はあ……」
「そうそう、二人の名前は?」
俺とエリザが名乗ると、彼女は再びルーレットに興じる。
アリスから離れる。
「……なんか凄い子ね」
「ああ。だが誰よりも人生を楽しんでいる気がする」
「うむ。だけどどうするの?」
「どうするか」
カトレアが言っていたが、運送屋は全て兎人族が行っているらしい。そして、アリスの今の話を聞くかぎり他の兎人族は俺たちの依頼を受けてくれない。
じゃあ、他の街や都市からこれから来る奴に賭けるか?
それも難しい。前にドーゴンが「この都市は他種族を門前払いしている」と言っていたから。
どうするか、そんなことを考えていると。
「あんたら、あのウサギに仕事を依頼したいのか?」
ふと、声をかけられた。
飲み物を運ぶ黒服で、人間がだ俺たちへの敵意は感じられない。
「ああ、だが断られた。運送屋は今日で店じまいだそうだ」
「そうか、それは残念だったな。だがあのウサギ、このカジノに来るとき毎回それ言ってるぞ」
「「え?」」
驚くと、黒服はニヤリと笑みを浮かべて飲み物を俺たちに差し出す。