カジノには、ギャンブルで全財産を失い暴れ出す者もいる。
そういった厄介な客を無力化する為、カジノには必ず黒服がいる。
目を光らせる黒服。ただ明らかに監視されていたら客も楽しめない。だからこうして、飲み物を持ちながらカジノ内を徘徊している。
差し出されたこの飲み物は無料ではなく有料だ。
知りたいなら情報量を払え、ということだろう。
「いくらだ?」
「金貨二枚だ」
「ずいぶんとぼったくりな飲み物だな」
とはいえ、情報付きなら安いだろう。
二人分の夕食代くらいにはなる金貨二枚を黒服に渡す。
「どうも。それで、あのウサギはここの常連だ。運送屋として稼いだ金を、全てここで使い果たしていく」
「……中毒者だな」
「俺はここの黒服で、探索者の情報には疎い。だがあのウサギのことはよく知っている。中層にも足を踏み入れた経験がある実力者だそうだ」
「えっ、中層にも……?」
驚くエリザ。
この都市で中層に足を踏み入れたことのある探索者は全体の四割ほどと少ないそうだ。
エリザ自身もまだ未到達らしい。
だからこそ、探索者ではなく運送屋だが、アリスが中層経験者というのは素直に驚きだ。
「上層より中層の方が稼げるからな。それで、あのウサギの口癖は「大勝ちしてバカンスを満喫するんだ!」だ。だがギャンブルなんて勝った額よりも負けた額の方が多くなる仕組みだ」
「それをここの黒服が言っていいのか?」
「まあ、細かいことは気にすんな。んで、あのウサギは”勝てる確率の低い賭けが好き”らしい。ほら、見てみろ」
指を差されてアリスの方を見る。
今まさにルーレットが始まろうとしていた。
くるくると回るルーレットには赤と黒の二種類の色があり、数字がそれぞれ1から30まである。
ルーレットの玉がまず赤に入るか黒に入るかを選ぶ。そして色を決めたら次に偶数か奇数かを選び、最後に数字を決める。
「ルーレットで得られる倍数は三種類だ。まず赤か黒か選んで、その色に入れば2倍。そして色を選び偶数か奇数かを当てれば4倍。そして──色と数字をピッタリ当てれば24倍。あんたならどう賭ける?」
「……色を当てて2倍を繰り返す、だな」
「まあ、手堅い買い方だ。だが」
「黒の13だ!」
アリスは迷うことなく、色と数字を選択した。この買い方は最高配当の24倍。最も当てるのが難しい買い方だ。
「さっき当たったから今回も当たるだろう、という考えか?」
「いや、あのウサギは毎回あの買い方だ」
「毎回って……そんなことしていたらすぐに有り金無くなるだろ」
「だが、それが好きらしい」
やれやれと首を左右に振る黒服。
「なんて無茶な」
「生粋のギャンブラーなんだろ。当たる確率が低い買い方だが、当たったときの興奮がたまらない。脳汁がこう、ぶしゃーってな!」
興奮気味に話す黒服。
もしかしたらこいつもなんじゃないかと思ってしまった。
「だが、色も数字もピッタリ当てるなんて奇跡、一日に一回あるかないかって程度だ。そんなラッキーが続くわけがない」
「なるほど……つまり」
「ここで待っていればあのウサギは無一文になって、次のギャンブルをする為にお前たちからの仕事を受けようとするだろう。まっ、ここら辺で一時間ぐらい時間を潰してきな。これはサービスだ」
黒服は俺たちに4枚のチップを渡すと、どこかへ消えていった。
「これで遊べってか、たった4枚ならすぐに無くなるぞ」
「そうなの? 私はこういうところ初めてだから」
「まあ、お試しならちょうどいいか。それよりもう耳は大丈夫か?」
「ああ、さっき別の黒服にこれを渡されたんだ」
尖ったエルフの耳、その耳穴にすっぽり埋まる耳栓。
どうやら耳栓のお陰で騒がしい音を緩和できているようだ。
「じゃあ、適当に時間を潰すか」
「たまには、こういうのもいいかもしれないね。へえ、色々なのがあるんだ」
ルーレットの他にもポーカーやブラックジャックなど、様々なゲームが存在する。エリザは物珍しそうにしながら辺りを見渡していた。
「アリスみたいにハマるなよ?」
「ハマらない。それよりこれは何?」
「これか……」
たった4枚のチップで遊べるゲームなんて限られている。そしてエリザが興味を示したのは、その中で最も少量のチップで遊べないゲームだった。
「これはスロットっていって、三つのリールに同じ図柄を合わせたら当たりってやつだ」
「なんだか簡単そう。これやってみてもいい?」
「まあ、いいが……」
スロットは一回転1チップだ。
なので4チップだと、四回転しかできない。
まあ、当たらないだろうが、やりたいならこれでいいだろう。
「まずここにチップを入れて」
「ここ……?」
「そう。それでこのレバーを引くんだ」
「こう、ね」
ガコッ、と音が鳴ってリールが回転する。
そして一つずつリールが止まり、
「これは……スイカか? スイカが揃った!」
「そうだな。これで当たりだ」
スイカの払い出しはチップ15枚。
少し増えたが、これもすぐに消えるだろう。
「じゃあ、もう一回」
だが、
7、7……。
「え……?」
7!
ピロロンピロロン!
「あっ、今度は7が揃った! クレス、なんだか騒がしくなったよ」
「嘘、だろ……?」
「なんかいっぱいチップが出てきた! もしかして故障!? 私、なんかやっちゃった!?」
騒がしい音が鳴り響くと同時に、凄い量のチップが払い出された。
たった二回転で一番の高配当の777が揃う確率はいくつだ? もしかして、エリザには才能が……。