「おいおい、嘘だろ……」
「クレス、こんなに大量のチップが出て来た!」
両手では持ちきれないほどの大量のチップ。
果たしてこれを換金すればいくらの金になるのだろうか。
「続行か、換金か……」
ギャンブルでの勝ちなんて続かない。
これは偶然。ビギナーズラックに違いない。だが、
「エリザ、これを換金したらたぶん……一週間分の宿代には困らないかもしれない」
「えっ、そんなに?」
「ああ、ただこれを元手に増やせば、夢の一軒家を見えてくる」
エリザの今の運に賭ければ夢のマイホームも十分に狙えるかもしれない。と思っていたが、エリザは首を左右に振った。
「いや、換金しよう。今回のは偶然。このまま続けていたらきっと、彼女のように抜け出せなくなってしまいそう」
エリザに言われなければ、俺もアリス同様にギャンブルの沼に片足を突っ込むところだった。
危ない危ない。
「そうだな」
さっきの黒服に声をかけ換金所の場所を聞く。
めちゃくちゃ驚いていた彼に少しだけチップを渡して換金所へ。
「儲かった分のほとんどは宿屋代にまわすとして、少しだけ……美味しいお酒を呑むぐらいいかな」
「エリザが当てたんだ、自分の好きに使っていいんじゃないか?」
「好きにか。じゃあ、クレスにお酒を奢ってあげよう。今度はちゃんと奢られてね?」
「好きに使っていいのに……まあ、エリザがそう言うなら、ありがたく奢ってもらうとするか」
「ふふん、そうして」
服とか化粧品とか、そういうのに使っても良かったのに。そう思うが、今の彼女がしたいのは、前回のリベンジなのかもしれない。
そして換金を終えた俺たちを待っていたのは、
「……あ、あのさ」
決して目を合わせようとしないアリスだった。
「どうかしたのか?」
「えっと、その……さっきの話しなんだけど」
どうやら黒服の話しは本当だったらしい。
一時間経たずに無一文になったであろう彼女に、エリザは問いかける。
「さっきって、仕事の話だよな?」
「そ、そう!」
「受けてくれるの?」
すると、アリスは小さく頷いた。
さっきまでの威勢は消え、まるで子供のようにしょんぼりとしていた。
そんな彼女に、俺はカトレアから預かっていたチケットを渡す。
「じゃあ仕事の話ついでに一緒にどうだ?」
「うん、行く!」
パアッと明るくなったアリス。
ギャンブルをしなければ童顔で、普通の可愛い子だ。
♦
夕方になり、ギルド協会の仕事が終わって酒場に変わったと同時に、俺たちはカトレアの店にやってきた。
「無事に彼女を勧誘できたようね」
お酒を運んでくれたカトレアは、クスッと笑いながらアリスを見る。
ギルド商会で着ていたYシャツに黒ズボンというピシッとした格好とは違い、一切の色気を隠さないドレスを着た彼女。
店に来ていた男客たちも、彼女の姿を目で追っていた。
「ふふっ、あんまり人の身体をジロジロ見ていると、隣の彼女が嫉妬しちゃうわよ?」
隣を見ると、エリザがムスッとしていた。
俺は誤魔化すように話題を変える。
「そうそう、エリザがスロットで当てたんだ」
「えっ、ほんとに? 凄いわね。もしかして才能あるんじゃない?」
「ふんっ、こんな才能、あっても嬉しくない!」
「あらそう? どっかの誰かさんは欲しそうだけど。そうよ! アリス、エリザから当て方を教えてもらったらどう? そしたらうちも、ツケを払ってもらえて──」
「──あーあー! カトレア、その話はここまで! そ、それより、ほら乾杯!」
慌てて話を流すアリス。
カトレアは仕事中ということもあって、手をひらひらさせて戻っていった。
そんな彼女の後ろ姿を眺めていると、他の客──人間の探索者たちからの視線を感じる。
「エリザ、本当にここで良かったのか?」
「もう、こういう視線には慣れた。それにこのお店で吞むのも初めてじゃないから別に平気」
「大丈夫だって二人とも、どうせここの連中はカトレアがいる前では変なことしてこないんだから」
お酒を片手にお肉をばくばく食べるアリス。
確かに視線は感じるが話しかけてくることはない。
これも、カトレアという女性がどれほどここで力を持っているかを意味しており、どれほどの男たちをあの美貌で虜にしてきたかがわかる。
エリザが言うのであれば、彼女については気にする必要はないか。
俺はアリスを見る。
「誘ってから言うのもなんだが、本当に俺たちの仕事を受けて良かったのか? 俺たちから仕事を受ければ」
「あー、まあ、そこは気にしなくていいよ。だって別にボク、周りにどんな目で見られても気にしないから。それに、嫌われても仕事が全く来ないとは思ってないもん」
「それはつまり、私たちと仕事をしても人間からの依頼が来るってことか……?」
「そうそう」
随分と自信満々な発言だ。
だがその自信を、彼女ははっきりと説明できた。
「ボクはこの迷宮都市の地上にいる運送屋でも珍しい、中層に何度も行ったことがある運送屋だからね」
自信満々に話すアリス。
「だからまあ、ボクのことは気にしないでいいから。それより二人の実力ってどうなのさ。まさか、非戦闘員のボクに戦えとか言わないよね!?」
「私は上層だが、一人で何度も言ったことあるぐらいだな」
「へえ、じゃあクレスは? あっ、二人のことクレスとエリザって呼んでいい? いいよね、ボクのこともアリスでいいから」
「俺は地下迷宮には一度しか行ったことはない。何処まで行ったとか何しに行ったとかは、あの噂と一緒に少しぐらい聞いただろ?」
「へえ、あれが初めてで……デスマッドの群れって厄介だって聞くけど、よく生きて帰ってこれたね」
「クレスは初めてだが、実力は確かだ。私が保証する」
「保証って、エリザが……あっ、もしかして二人って!」
エール酒を勢いよく三杯ぐらい呑んだ辺りから、アリスの顔が赤くなっているように見えた。
「もしかして、二人ってそういう関係?」
「そ、そういうって……その」
こちらも顔を赤くさせるエリザ。
まだ酔っていないが、たぶんいい感じに酒が入っているのだろう。
「まあ、想像通りだな」
「ク、クレス!」
「へえ、そうなんだあ。いやまあ、そうだとは思ってたけどね。でもクレスが地下迷宮に行ったの昨日が初めてなら、二人ってまだ会ってそんなに経ってないよね?」
「ああ、昨日が初めてだな。そして昨日、初めて身体を重ねた」
「クレス、なにをッ!?」
「身体を……って、ええ!? なになに、そんなに早くって、エルフの女性は性に奥手だって聞いたけど、エリザって意外と肉食系だったり!?」
「ち、ちがっ!」
「ああ、エリザは凄いぞ。昨夜も俺がへとへとになっても──」
「──ちょ、クレス!」
「あははっ、なになに聞かせてよ! あたしそういう話し大好きだからさ!」
お酒を呑み始めてすぐはこういう話で盛り上がった。
エリザの違う一面も見れたし、アリスとも……というか、彼女は明るい性格で打ち解けるのに時間がかからなかった。
だが時間が経つにつれ、話題は地下迷宮へと変わっていった。
「──とりあえず当面の目標は上層で生活費の確保だ。だがなるべく早く中層、下層と下に行きたい」
俺の目的は、地下迷宮にあるであろう13のカギに合う扉を見つけることだ。
もちろん上層にあればそれにこしたことはないが、おそらくないだろう。もしあるのなら噂を俺でなくともエリザが耳にしているはずだ。
だからあるとすれば、中層──いや、もっと下だろう。
「なるべく早く中層に、ねえ……」
エリザは疲れたのか、テーブルに突っ伏して目を閉じている。
そして今は俺とアリス、それに暇になったカトレアがここにいる。
「んー、今の状況で中層に行くのはあまりオススメしないかな」
「どうしてだ? それは実力不足ということか?」
「いや、実力というか……」
アリスは困り顔をカトレアに向ける。
そしてカトレアも難しい表情を浮かべていた。