「……また、人間絡みか?」
そう問いかけると、アリスが苦笑いを浮かべる。
「まあ、そんなとこかな」
「はあ……なんとなくそんな気はした。それについてはもう飽きるほど説明されたから驚かないが、目的は変わらない」
誰が邪魔してこようと関係ない。
俺の目的は中層より下だ。それにこうして酒を呑んでいても、店内で呑んでる奴らからちょっかいをかけてくることはない。
そんな連中に、脅える必要はないだろう。
「とりあえず明日の予定は、上層で依頼をこなすでいいか?」
「うんいいよ、ボクもお金稼いでカジノ行きたいし」
「もちろん取り分はアリスの好きにしてくれ。それじゃあ、このままエリザをずっとここで寝かせておくわけにはいかないから、俺たちはこれで」
「はーい、おやすみ!」
体をゆすっても起きないエリザを抱える。
アリスとカトレアに別れを告げ、俺は店の外へ出た。
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「……そりゃまあ、探索者になったんだから中層よりも下、そこからもっと下へ行きたいよね」
「そうね」
クレスとエリザが帰ってからも、アリスとカトレアは酒場で吞み続けた。
「何回か行ったことあるけど、ほんと上層と中層って全然違うよね。高値で取引される鉱石も薬草もいっぱいあって、武器や防具の素材になる魔物もたくさん生息してる。古代遺物の見つかる確率も上層と中層じゃあ段違い。そんな大違いの、言ってしまえば最高の狩場、みんな行ってみたくなるよね」
「でしょうね」
「だけどここ、迷宮都市ウォレスイトの厄介な部分をクレスは知らない。エリザは知っているの?」
「どうかしらね。ただ彼女は元々一人だったから、一人で中層へ行くのは無謀だってわかっていたから、元より行く気はなかったんだと思うわ」
「ふーん、だけど今は一人じゃない。彼が行きたいって言ったら付いて行くんじゃない?」
「でしょうね。そしてクレスは、どんな障害があっても地下を行き続ける。彼はきっと、そういう人だろ思うから」
「怖い者知らずだねえ」
グッと勢いよくエール酒を呑むアリス。
「他人事みたいに言ってるけど、あなた、これから二人と一緒に行動するのよ?」
「まあ、そうなんだけどねえ」
「そうなんだけどねえ、って……」
「なんとかなるんじゃないかなって。こういう時のボクの勘ってさ、ほら、冴えてるから」
「カジノでは負け続けてるくせに、どこからそんな自信が──」
「──姐さん!」
二人の会話に割り込んで、男が話しかけてくる。
装具は外しているが、鍛え方からして人間の探索者だろう。
「もう私の仕事は終わったけど、どうかしたの?」
「えっと、その……」
少し言いずらそうにする男。
だが意を決して男はカトレアに伝えた。
「……ウェルダーさんが、近々地上に戻ってくるって」
その名前を聞いた瞬間、カトレアの酔いが一気に冷める。
「中層に行った奴らが会って、それで……そのことを、カトレアさんに伝えろって」
「……そう、ありがとう」
「それとウェルダーさんから、人間の探索者たちに指示がありました。”暗黙の了解を破った邪魔者を排除しろ”って」
その言葉を聞いて、カトレアの表情が一瞬だけピクリと反応した。
「じゃあ私からもみんなに伝えてちょうだい。”地上での争いは私が許さない”って」
「で、ですが……」
「伝えてね?」
何か言いたげな男に、カトレアは「教えてくれてありがとう」ともう一度伝える。
男はそれ以上は何も言わず去っていく。
「はあ……”旦那さん”が久しぶりに帰ってくるっていうのにそんな表情するなんて、きっと世界中探してもカトレアぐらいだよ」
茶化すように、カトレアに向けてアリスが言う。
カトレアの視線が一瞬だけ鋭くアリスを睨んだが、すぐに元に戻る。
「世界中にもっといるわよ、そんな奥さん」
「どうかな。……会うのはいつぶり?」
「半年、ぐらいかしらね。聞くに堪えない伝言はよく聞かされるけど」
カトレアは大きくため息をつくと、お互いのお酒が無くなったことに気づく。
「そろそろお開きにしましょうか」
「はーい。それじゃあ、片付けよろしくね、店員さん」
「まったく、ツケを払わない厄介な客のくせに」
クスクス笑うアリス。
だが不意に、真剣な表情をカトレアに向ける。
「変なこと、考えないようにね」
「……変なこと?」
「旦那さんが帰ってきて、変なこと。嫌な予感がする。あたしのこういう勘って──」
「──当たらないから安心しなさい。それじゃあ、おやすみなさい」
今度はアリスがため息をつく。
そして彼女が帰るのを見届けたカトレアは、一人店の奥へ行く。
その表情には、一切の明るさはなかった。
♦
次の日の朝。
俺たちは予定通り地下迷宮への入口にやってきた。
「ちゃんと来てくれたんだな」
「なにそれ、ひっどーい! クレスはボクが約束を破るように見える?」
頬を膨らませてブーブー言うアリスを見て、エリザが呆れた様子で「残念だが、そうとしか見えないな」と。
「もー、エリザまで!」
「それよりもだ。──二人とも、お客さんだ」
受付に向かおうとする俺たちの前を、大勢の人間の探索者たちが塞ぐ。
その表情には、同じ探索者への挨拶をしようという好意的な感じはなく、はっきりとした敵意を向けられているのがわかった。