「俺たちに何か用か?」
受付の周りには二十人ほどの人間の探索者がいた。
連中に囲まれる形になっている受付のメアは困り顔を浮かべ、この場にいる他の連中は、はっきりとした敵意は向けていないものの目線だけは俺たちに向いている。
「いいや、我々は仲間を待っているだけだ」
「そうか。だったら先に受付していいか?」
連中は受付の前にいるが、受付の最中というわけではない。
俺と話していた男は受付からどけると、他の連中も受付を譲るように離れる。
意外と素直だな。
俺たちは警戒を続けながらメアに話しかけた。
「メア、連中に何か言われたか?」
「いえ、まだ何も」
「そうか。こいつらはずっとここに?」
「……いつもはもっと朝早くに地下迷宮に行く探索者さんたちですが、今日はずっといます。理由は……」
メアがジッと俺を見る。
理由は俺たち。だが受付が終わっても、連中が何かしてくる気配はない。
「行くぞ」
「あ、ああ」
「はーい」
エリザは不安を顔には出さないように歩き、アリスは意外と余裕そうに後ろを歩く。
螺旋階段へと続く扉を開ける。
振り返るが、やっぱり連中はその場から動かず、ただこちらを見ているだけだった。
「連中、結局は俺たちに何もしてこなかったな」
「ああ、だがあの気持ち悪い視線だけはずっと向けられていた……。何が目的だったのだろう」
「大丈夫大丈夫、あいつらは地上では絶対に何もしてこないはずだから」
「なに?」
螺旋階段を降りながらアリスは言う。
「クレスはさ、この迷宮都市ウォレスイトで、ギルド協会のボスみたいな存在のカトレアの言うことは絶対だってことは知ってるよね?」
「絶対かどうかは知らないが、屈強な探索者たちから姐さんとか呼ばれて慕われているのは知ってる」
「そんなカトレアは地上で争うことを嫌ってるの。それは人間同士でも、他種族でも同じ。それなのに連中がさ、あの場でボクたちに襲い掛かったら、たぶんここで暮らせなくなっちゃうわけなのよ」
「だから襲い掛かってこなかったわけか。そんなにカトレアってここで影響力あるんだな」
ギルド協会の女主人の立場なんて、王都や城下町なんかでいうところの商会のボスと同じぐらいだろう。
そんなに強い発言権を持っているようには見えない。
「カトレア、っていうか……」
アリスは何かを言いかけて止めた。
エリザも何かを知っているようだが、口を開くつもりはなさそうだった。
「何か事情があるというわけか。まあいい、人の秘密を他の奴から聞く気はないから話さなくて大丈夫だ」
「おっ、男だね! さすがクレス、人間嫌いのエリザが身体を許すわけだ!」
「ちょ、なんでそこで私の話しになる!」
「いやー、空気が重たかったから明るくさせようかなって」
「だ、だからって」
アリスとエリザの会話のお陰で、暗くなりかけていた空気は明るくなった。
だが螺旋階段の中間まで降りたところで、上の方から騒々しい物音が聞こえた。
「なるほど。地上で争うのは禁止されているけど、地下迷宮では禁止されていないと」
「そういうことー」
「クレス、どうする……?」
自然と階段を降りる速度が上げる。
だが上から聞こえてくる大勢の足音は、どんどん近く、そして走っているのがわかるほど大きくなっていく。
「面倒だが、連中が戦うことをお望みなら相手してやる。どうせ今日は逃げ切れても、明日明後日と先延ばしするだけだからな」
「そうだが……」
「エリザ、心配するな。何も問題ない」
死を招くあの声は聞こえない。
つまりこの先で俺が連中に殺されることはないということだ。
「悪いな、アリス」
「ん?」
「いきなり面倒事に巻き込んで」
「ああ、そういうこと。ううん、ボクのことは気にしないでいいよ。ただ、一緒に戦う術はないから戦力には数えないでね」
「わかってる。ここは俺と……」
エリザに視線を送ると、彼女は「もちろん」と頷く。
「そういえば、エリザが戦うところを見るのは初めてだな」
「そうだな。デスマッドの時は何もできなかったから」
「武器はそのレイピアでいいんだよな?」
「ああ。だが、エルフ族の戦いの基本は力技じゃない」
「魔法か?」
地水火風、四属性の精霊に力を借りて使う術──魔法。
魔法はエルフ族にしか扱えない力というわけではない。
草原で踊る精霊。湖で泳ぐ精霊。火山に、地面に、世界中のあらゆる地で暮らす精霊たち。
精霊の姿が見えた者は、精霊に力を借りて魔法の力を授かるのだとか。
そんな世界中に暮らす精霊たちだが、中でもエルフの里には多く暮らしているらしい。
幼い頃から精霊たちと共に暮らしていたエルフ族は全員が魔法を使える為、魔法といえばエルフ族というのが世界の認識といっても過言ではない。
「期待してるぞ、エリザ」
「ああ、任せてくれ」
階段を降りて螺旋階段の部屋を出ると、すぐそこまで連中が迫っていた。
戦いやすい広々とした空洞地帯まで移動すると、すぐに連中はこの場所まで来た。
「なんだ、一緒に探索したいのか?」
「……そう見えるか?」
「見えないな。じゃあ、戦闘訓練か?」
「……」
「生憎だが俺は教えるのが下手なんだ、他をあたってくれ。それに男に優しくするタイプでもない」
「──ッ! 調子に乗るなよ、新人の分際でぇ……ッ!」
挑発に乗った男が鞘から短剣を抜き駆け出す。
俺は大太刀を構え、大太刀の範囲内に来るまで待った。
だが、
「──黒き雷よ、無法者に裁きを下せ!」
まるで指揮するようにレイピアで魔法陣を描く。
そして完成した魔法陣が金色に輝きを放つと、
「ライトニング、ボルト……ッ!」
レイピアの先端から、黒い雷が放たれた。