エリザが放った雷撃が男を捉える。
ただ間一髪のところで短剣で防いだ男。
それでも体が後方へ吹き飛び、背中から土壁に激突する。
「雷の、魔法……」
誰かが声を発した。
魔法は地水火風の四つの精霊に力を借りて使う術だ。
それはエルフであっても、人間であっても獣人であっても、どの種族でも一緒だ。
だが一種族だけ違う。
禁忌を犯してエルフの里を追われたダークエルフのみ、雷と闇、この二属性の魔法が使える。
代わりに地水火風の精霊に嫌われ、もう二度と使えないが。
「ダークエルフの分際で、調子に乗りやがってえええええ……ッ!」
男の仲間たちが一斉に走り出す。
アリスは一歩下がり、エリザは次の魔法の詠唱を始める。
「いや、もう十分だ。二人は下がっていろ」
二人にそう伝え、鞘から大太刀を抜いて駆け出す。
連中は探索者としてそこそこのレベルにいるのだろう。
けれどそれは探索者としてのレベルだ。今こうして俺と相対して戦うのに必要な対人戦のレベルとは違う。
二十人はいる探索者を軽く見渡す。
その多くが怒りに満ちた、戦う覚悟を決めた表情だった。
けれど数人だけ、臆した表情を浮かべる者がいた。
俺はそいつに標的を絞る。そいつとの間合いを一瞬で詰めると、男は慌てて剣を振り上げる。
だが、いざ振り下ろす瞬間、剣を持つ両手に加わっていた力が弱まった。
躊躇いだろう。
それを見逃さず、俺は男の懐に潜り込む。
「……対人戦は不慣れか?」
「──なにッ!?」
男が剣を振り下ろす前に大太刀の柄で男の腹部を勢いよく突く。
そして次々に、戦うことを躊躇った連中だけをなぎ倒していく。
「さて、だいぶ人数が減ったな」
とはいえまだ十人ほどいる。
それでも一瞬にして行ったことが、覚悟を決めていた連中にも動揺を生ませる。
「まだやるか?」
「当たり前だ……」
「そうか。まあ、こっちは傭兵上がりだ。人間を殺すことには慣れている」
大太刀を勢いよく振ると、連中の表情が強張る。
そして少しの沈黙が生まれる。
先頭に立つ男は額から汗を流すものの、後には引けないといった感じで右足を前に出して戦う覚悟を見せた。
だが他の連中は同じ覚悟を持っていない。
「……ム、ムリだ」
連中の誰かがそう言った。
先頭に立つ男が「おい」と後ろを振り向こうとした瞬間、大太刀の柄で突いて倒れていた男が一目散に逃げ去った。
そうなったら、連中の心が崩れるのもあっという間だ。
一人、また一人と逃げ出し、気付くと先頭に立つ男一人だけになった。
「仲間は逃げたぞ、お前はどうするんだ?」
「……クソが!」
背中は見せず、ゆっくりと後退する男。
去り際、男は俺を睨む。
「このままで済むと思うなよ……。ウェルダーさんの指示がある限り、お前らが安心して暮らせる日々は来ない。明日も、明後日も、なんなら毎日でも──」
「──わかったから、さっさとお仲間たちと一緒に逃げろよ。それと、明日以降も来るならそれ相応の覚悟を決めて来い。次は全員じゃなくても、何人かは殺すぞ?」
そう伝えると、男は何も言い返さず走り去った。
「クレス、無事か……?」
「攻撃させてないからな、大丈夫だ。それより、あのまま逃がした方が良かっただろ?」
アリスに向けて聞くと、彼女は苦笑いを浮かべる。
「いやー、クレスが殺っちゃわないかひやひやしたよ」
「別に殺すのが好きなわけじゃない。平和的解決ができるなら、それにこしたことはない」
「なるほどなるほど。まっ、クレスの考え通り、あそこで何人か怪我なりさせてたら、それこそ連中はもっと問題を大きくさせて、今度はもっと大勢で襲ってきてただろうね」
「なるほどな。だが、これで終わりってわけにはいかないだろうな」
大太刀を鞘に戻すと、エリザもため息をつきながらレイピアを収める。
「そうだな。今回みたいなことはこれからも続くだろう。すまない、私の──」
「──エリザ、謝るのは無しだ。お前が悪いんじゃない、連中が偏屈なだけだ」
「そうそう、少し意地っ張りなんだよねー。で、クレス。どうするの?」
アリスはニヤニヤと楽し気だ。
まるで俺がこれから話すことがわかっているようだった。
「ウェルダーとかいう奴に話をつける。そいつが迷宮都市ウォレスイトの、人間たちの親玉なんだろ?」
「ふふーん、正解。クレスならそういうと思ったよ」
「まったく。それで、そいつに会うには何処に行けばいいんだ?」
「うーん、ウェルダーの居場所なら、ボクじゃなくてカトレアに聞いてみてよ」
「カトレアか……」
まあ、そうだろうなとは思っていた。
「カトレアの旦那が、この迷宮都市を仕切っているウェルダーって奴か」
♦
夕暮れ時になって、俺たちは地下迷宮から地上へと戻ってきた。
またロビーで待ち伏せされているんじゃないかと思ったがそんなことはなく、すんなり帰してくれた。
「それじゃ、カジノが呼んでるから!」
アリスは今日の地下迷宮で得た取り分を手にカジノへ行った。
「私は先に部屋に戻って、少し休んでるな」
エリザは一人宿屋に戻っていった。
というよりも、俺がこれから向かう場所を知っているから一人で宿屋に戻ったのかもしれない。
「いらっしゃい。あら、クレス。今日は一人?」
「ああ、誰も一緒に呑みに行ってくれなくてな。付き合ってくれるか?」
「ふふっ、仕事が落ち着いたらね」
俺はカトレアのいるギルド協会へやってきた。